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峯森誠司
14話 約束をかわした仲だからな(2)
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「おはよう」
「おっす」
駅のホームで見つけた姿につい頬がゆるむ。まっすぐ俺に向かって笑顔で手を振ったのだ。逃げるでもなく、驚くでも戸惑うでもなく、俺が来るのをわかってて迎えてくれたやつである。それはもちろん、一緒に登下校するという約束をしている仲だからに、ほかならない。
そして鬼の門番、もとい筧の誤解も無事解け、変な邪魔が入ることもないこの平和感。こんなに朝の空気が清々しいものだったとは。
「もう来る感じ?」
「ううん。まだあと15分ある」
確かにホームはまだ人影がまばらだ。田舎な駅なのでそんなに本数がない。だとしても発車の15分も前に到着した俺。いつもギリギリ駆け込みするくせに、今日ときたら俺、まじ浮かれてんな。
「羽馬、早いんだな」
「あ、うん」
いつも駆け込み乗車ばっかりしていたから気付かなかったのか、そういえば朝の通学で羽馬とタイミングが合うことがなかった。入学してもう三ヶ月が来ようとしているのに。
車両は五両しかない。一本早い便か遅い便を使っていたのだろうか? いやでもこれから乗る便が一番登校時間に適しているし、今日だって時間の確認しなくてもこうやって会えたのだ。
「そういえば、この便って約束してなかったけど、いつもこの時間のに乗ってたのか?」
「へ? ……あ、うーん……うん」
なんとも歯切れが悪い。羽馬らしくない。
いや待て。まさか、今まで朝出会ったことないのは、羽馬のほうが俺を回避してきていたってことじゃねーのか? よく考えたら、今まで駅で出会ったのだって、筧と一緒な帰宅時の数回だけだった。おいおいおい。
「誠司くん、なんか顔色悪くない? 大丈夫?」
「お、おい、羽馬」
「ん?」
「今までホームや電車内で、ほとんど会ったことない、よな」
「……そうだっけ?」
「まさか、俺を、避けてた?」
ますます自分という生き物が畜生でならない。どんだけ俺は、羽馬に誠意がない言動を重ねてきていたんだろうか。自分が傷付かないように逃げてきたことで、ずっと羽馬を傷付つけてきていたのかもしれない。最悪だ。
「ち、違うよ? 誠司くん!」
羽馬はワタワタしながら両手をブンブンと目の前で振った。
「あのね、あのね、えーっと、ひ、引かないでね? こ、こっそり見てたのっ」
「……なるほど、先に見つけて姿をくらます作戦か」
俺がやってきた厄災がしっぺ返しで戻ってきたらしい。
「ちがうちがう! 見たくって! えっと、誠司くんを見たくってこっそり……あーん極秘だったのに!」
羽馬は振りまくっていた両手を今度は頬を挟むようにして真っ赤になっている。
「いっぱい、か、観察、見てたくて、いつも誠司くんのうしろをついてまわって、ました!」
「……え」
まもなくホームに列車が入ります、とアナウンスが流れて、列車が滑り込んで、扉が開いて。
なんとなくお互い無言で目も合わせられずに、鈍くなった体を無理矢理車両内へ動かした。
扉が閉まり列車が動き出すまで、それなりの時間があったはずなのに一瞬で。
なんだかたまらなくて羽馬の手のひらを取り繋いでみれば、俺よりも熱を持った小さな手が、わずかにキュッと握り返してきた。
……最高かよ。
「おっす」
駅のホームで見つけた姿につい頬がゆるむ。まっすぐ俺に向かって笑顔で手を振ったのだ。逃げるでもなく、驚くでも戸惑うでもなく、俺が来るのをわかってて迎えてくれたやつである。それはもちろん、一緒に登下校するという約束をしている仲だからに、ほかならない。
そして鬼の門番、もとい筧の誤解も無事解け、変な邪魔が入ることもないこの平和感。こんなに朝の空気が清々しいものだったとは。
「もう来る感じ?」
「ううん。まだあと15分ある」
確かにホームはまだ人影がまばらだ。田舎な駅なのでそんなに本数がない。だとしても発車の15分も前に到着した俺。いつもギリギリ駆け込みするくせに、今日ときたら俺、まじ浮かれてんな。
「羽馬、早いんだな」
「あ、うん」
いつも駆け込み乗車ばっかりしていたから気付かなかったのか、そういえば朝の通学で羽馬とタイミングが合うことがなかった。入学してもう三ヶ月が来ようとしているのに。
車両は五両しかない。一本早い便か遅い便を使っていたのだろうか? いやでもこれから乗る便が一番登校時間に適しているし、今日だって時間の確認しなくてもこうやって会えたのだ。
「そういえば、この便って約束してなかったけど、いつもこの時間のに乗ってたのか?」
「へ? ……あ、うーん……うん」
なんとも歯切れが悪い。羽馬らしくない。
いや待て。まさか、今まで朝出会ったことないのは、羽馬のほうが俺を回避してきていたってことじゃねーのか? よく考えたら、今まで駅で出会ったのだって、筧と一緒な帰宅時の数回だけだった。おいおいおい。
「誠司くん、なんか顔色悪くない? 大丈夫?」
「お、おい、羽馬」
「ん?」
「今までホームや電車内で、ほとんど会ったことない、よな」
「……そうだっけ?」
「まさか、俺を、避けてた?」
ますます自分という生き物が畜生でならない。どんだけ俺は、羽馬に誠意がない言動を重ねてきていたんだろうか。自分が傷付かないように逃げてきたことで、ずっと羽馬を傷付つけてきていたのかもしれない。最悪だ。
「ち、違うよ? 誠司くん!」
羽馬はワタワタしながら両手をブンブンと目の前で振った。
「あのね、あのね、えーっと、ひ、引かないでね? こ、こっそり見てたのっ」
「……なるほど、先に見つけて姿をくらます作戦か」
俺がやってきた厄災がしっぺ返しで戻ってきたらしい。
「ちがうちがう! 見たくって! えっと、誠司くんを見たくってこっそり……あーん極秘だったのに!」
羽馬は振りまくっていた両手を今度は頬を挟むようにして真っ赤になっている。
「いっぱい、か、観察、見てたくて、いつも誠司くんのうしろをついてまわって、ました!」
「……え」
まもなくホームに列車が入ります、とアナウンスが流れて、列車が滑り込んで、扉が開いて。
なんとなくお互い無言で目も合わせられずに、鈍くなった体を無理矢理車両内へ動かした。
扉が閉まり列車が動き出すまで、それなりの時間があったはずなのに一瞬で。
なんだかたまらなくて羽馬の手のひらを取り繋いでみれば、俺よりも熱を持った小さな手が、わずかにキュッと握り返してきた。
……最高かよ。
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