54 / 62
峯森誠司
14話 約束をかわした仲だからな(2)
しおりを挟む
「おはよう」
「おっす」
駅のホームで見つけた姿につい頬がゆるむ。まっすぐ俺に向かって笑顔で手を振ったのだ。逃げるでもなく、驚くでも戸惑うでもなく、俺が来るのをわかってて迎えてくれたやつである。それはもちろん、一緒に登下校するという約束をしている仲だからに、ほかならない。
そして鬼の門番、もとい筧の誤解も無事解け、変な邪魔が入ることもないこの平和感。こんなに朝の空気が清々しいものだったとは。
「もう来る感じ?」
「ううん。まだあと15分ある」
確かにホームはまだ人影がまばらだ。田舎な駅なのでそんなに本数がない。だとしても発車の15分も前に到着した俺。いつもギリギリ駆け込みするくせに、今日ときたら俺、まじ浮かれてんな。
「羽馬、早いんだな」
「あ、うん」
いつも駆け込み乗車ばっかりしていたから気付かなかったのか、そういえば朝の通学で羽馬とタイミングが合うことがなかった。入学してもう三ヶ月が来ようとしているのに。
車両は五両しかない。一本早い便か遅い便を使っていたのだろうか? いやでもこれから乗る便が一番登校時間に適しているし、今日だって時間の確認しなくてもこうやって会えたのだ。
「そういえば、この便って約束してなかったけど、いつもこの時間のに乗ってたのか?」
「へ? ……あ、うーん……うん」
なんとも歯切れが悪い。羽馬らしくない。
いや待て。まさか、今まで朝出会ったことないのは、羽馬のほうが俺を回避してきていたってことじゃねーのか? よく考えたら、今まで駅で出会ったのだって、筧と一緒な帰宅時の数回だけだった。おいおいおい。
「誠司くん、なんか顔色悪くない? 大丈夫?」
「お、おい、羽馬」
「ん?」
「今までホームや電車内で、ほとんど会ったことない、よな」
「……そうだっけ?」
「まさか、俺を、避けてた?」
ますます自分という生き物が畜生でならない。どんだけ俺は、羽馬に誠意がない言動を重ねてきていたんだろうか。自分が傷付かないように逃げてきたことで、ずっと羽馬を傷付つけてきていたのかもしれない。最悪だ。
「ち、違うよ? 誠司くん!」
羽馬はワタワタしながら両手をブンブンと目の前で振った。
「あのね、あのね、えーっと、ひ、引かないでね? こ、こっそり見てたのっ」
「……なるほど、先に見つけて姿をくらます作戦か」
俺がやってきた厄災がしっぺ返しで戻ってきたらしい。
「ちがうちがう! 見たくって! えっと、誠司くんを見たくってこっそり……あーん極秘だったのに!」
羽馬は振りまくっていた両手を今度は頬を挟むようにして真っ赤になっている。
「いっぱい、か、観察、見てたくて、いつも誠司くんのうしろをついてまわって、ました!」
「……え」
まもなくホームに列車が入ります、とアナウンスが流れて、列車が滑り込んで、扉が開いて。
なんとなくお互い無言で目も合わせられずに、鈍くなった体を無理矢理車両内へ動かした。
扉が閉まり列車が動き出すまで、それなりの時間があったはずなのに一瞬で。
なんだかたまらなくて羽馬の手のひらを取り繋いでみれば、俺よりも熱を持った小さな手が、わずかにキュッと握り返してきた。
……最高かよ。
「おっす」
駅のホームで見つけた姿につい頬がゆるむ。まっすぐ俺に向かって笑顔で手を振ったのだ。逃げるでもなく、驚くでも戸惑うでもなく、俺が来るのをわかってて迎えてくれたやつである。それはもちろん、一緒に登下校するという約束をしている仲だからに、ほかならない。
そして鬼の門番、もとい筧の誤解も無事解け、変な邪魔が入ることもないこの平和感。こんなに朝の空気が清々しいものだったとは。
「もう来る感じ?」
「ううん。まだあと15分ある」
確かにホームはまだ人影がまばらだ。田舎な駅なのでそんなに本数がない。だとしても発車の15分も前に到着した俺。いつもギリギリ駆け込みするくせに、今日ときたら俺、まじ浮かれてんな。
「羽馬、早いんだな」
「あ、うん」
いつも駆け込み乗車ばっかりしていたから気付かなかったのか、そういえば朝の通学で羽馬とタイミングが合うことがなかった。入学してもう三ヶ月が来ようとしているのに。
車両は五両しかない。一本早い便か遅い便を使っていたのだろうか? いやでもこれから乗る便が一番登校時間に適しているし、今日だって時間の確認しなくてもこうやって会えたのだ。
「そういえば、この便って約束してなかったけど、いつもこの時間のに乗ってたのか?」
「へ? ……あ、うーん……うん」
なんとも歯切れが悪い。羽馬らしくない。
いや待て。まさか、今まで朝出会ったことないのは、羽馬のほうが俺を回避してきていたってことじゃねーのか? よく考えたら、今まで駅で出会ったのだって、筧と一緒な帰宅時の数回だけだった。おいおいおい。
「誠司くん、なんか顔色悪くない? 大丈夫?」
「お、おい、羽馬」
「ん?」
「今までホームや電車内で、ほとんど会ったことない、よな」
「……そうだっけ?」
「まさか、俺を、避けてた?」
ますます自分という生き物が畜生でならない。どんだけ俺は、羽馬に誠意がない言動を重ねてきていたんだろうか。自分が傷付かないように逃げてきたことで、ずっと羽馬を傷付つけてきていたのかもしれない。最悪だ。
「ち、違うよ? 誠司くん!」
羽馬はワタワタしながら両手をブンブンと目の前で振った。
「あのね、あのね、えーっと、ひ、引かないでね? こ、こっそり見てたのっ」
「……なるほど、先に見つけて姿をくらます作戦か」
俺がやってきた厄災がしっぺ返しで戻ってきたらしい。
「ちがうちがう! 見たくって! えっと、誠司くんを見たくってこっそり……あーん極秘だったのに!」
羽馬は振りまくっていた両手を今度は頬を挟むようにして真っ赤になっている。
「いっぱい、か、観察、見てたくて、いつも誠司くんのうしろをついてまわって、ました!」
「……え」
まもなくホームに列車が入ります、とアナウンスが流れて、列車が滑り込んで、扉が開いて。
なんとなくお互い無言で目も合わせられずに、鈍くなった体を無理矢理車両内へ動かした。
扉が閉まり列車が動き出すまで、それなりの時間があったはずなのに一瞬で。
なんだかたまらなくて羽馬の手のひらを取り繋いでみれば、俺よりも熱を持った小さな手が、わずかにキュッと握り返してきた。
……最高かよ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】指先が触れる距離
山田森湖
恋愛
オフィスの隣の席に座る彼女、田中美咲。
必要最低限の会話しか交わさない同僚――そのはずなのに、いつしか彼女の小さな仕草や変化に心を奪われていく。
「おはようございます」の一言、資料を受け渡すときの指先の触れ合い、ふと香るシャンプーの匂い……。
手を伸ばせば届く距離なのに、簡単には踏み込めない関係。
近いようで遠い「隣の席」から始まる、ささやかで切ないオフィスラブストーリー。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
声(ボイス)で、君を溺れさせてもいいですか
月下花音
恋愛
不眠症の女子大生・リナの唯一の救いは、正体不明のASMR配信者「Nocturne(ノクターン)」の甘い声。
現実の隣の席には、無口で根暗な「陰キャ男子」律がいるだけ。
……だと思っていたのに。
ある日、律が落としたペンを拾った時、彼が漏らした「……あ」という吐息が、昨夜の配信の吐息と完全に一致して!?
「……バレてないと思った? リナ」
現実では塩対応、イヤホン越しでは砂糖対応。
二つの顔を持つ彼に、耳の奥から溺れさせられる、極上の聴覚ラブコメディ!
〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー
i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆
最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡
バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。
数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
傷痕~想い出に変わるまで~
櫻井音衣
恋愛
あの人との未来を手放したのはもうずっと前。
私たちは確かに愛し合っていたはずなのに
いつの頃からか
視線の先にあるものが違い始めた。
だからさよなら。
私の愛した人。
今もまだ私は
あなたと過ごした幸せだった日々と
あなたを傷付け裏切られた日の
悲しみの狭間でさまよっている。
篠宮 瑞希は32歳バツイチ独身。
勝山 光との
5年間の結婚生活に終止符を打って5年。
同じくバツイチ独身の同期
門倉 凌平 32歳。
3年間の結婚生活に終止符を打って3年。
なぜ離婚したのか。
あの時どうすれば離婚を回避できたのか。
『禊』と称して
後悔と反省を繰り返す二人に
本当の幸せは訪れるのか?
~その傷痕が癒える頃には
すべてが想い出に変わっているだろう~
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる