支配するなにか

第一章

麻衣の葛藤

ーーーーー麻衣の家・リビングーーーーー

ほとんど灯りの付いていないリビング。
ソファーに座っている。
携帯を見ながら、泣いている麻衣。

麻衣「(鼻をすすりながら)堀ちゃん、ごめんね！私が、私じゃなくなるかもしれない・・・  村尾さん、みんな、ごめんなさい！」

立ち上がり、キッチンへ行く麻衣。
シンク下に閉まってあった果物ナイフを取り出す。
ナイフの刃先をを自分の首に向ける。
麻衣「いつから、私の心にいたのよ！私を苦しめないでよ！」

手を震わしながら首へ近づける。

麻衣「お願いだから！」

さらに、刃先を近づける麻衣。

麻衣「お前ごと、死んでやる！」

意を決して、喉元を刺そうとした時、耳元で喋る声が聞こえた。

カイ「死なせねぇよ！」

喉元に向けていたナイフが、麻衣の意志とは関係なく、離されていく。

手からナイフが落ちる。
すかさず左手が自分の首を締め付け、壁際に押されていく。
麻衣「離して・・・」
カイ「何勝手なことしてくれてるんだよ！」
麻衣「アンタなんかに・・・」
カイ「俺がなんだって？  次、変なマネしてみろ、お前の大事なヤツらをぶっ殺してやる」
麻衣「それだけは、やめて！」
カイ「だったら、俺に従え！良いな！」
麻衣「・・・」

左手が首から離れると、麻衣は大きく咳き込む
麻衣「ゴホッ！ゴホッ！」

床に崩れ落ちる麻衣
麻衣Ｎ《私は、もう1人の自分に恐怖を感じた》

ーーーーー次の日ーーーーー

インターホンが鳴る
ドアチェーンをかけたまま、扉を開ける麻衣

麻衣「はい・・・」
〇〇「突然すみませんね！私、湾岸署の西田です」
田頭「同じく田頭です」
〇〇 「ご存知だと思うんですが、先日お宅のマネージャーさんが殺害されましてね。何者かに。今、捜査してるんですがね」
麻衣「私を疑っているということですか？」
〇〇「いやいや、まだ何も言ってないじゃないですか！  一応、私達もね、現場周辺の聞き込みもしていますが、あなた方の所属会社全員と、出入りしている人それぞれに聞いてるんです」

ドアを一旦閉め、チェーンを外し再度開ける

麻衣「立ち話もなんで、どうぞ中へ」
〇〇「いや、すぐ終わりますから！」
麻衣「近所の目もあるので」

辺りを見回す〇〇
コソコソと話す3人の主婦
渋々中へ入る2人

ーーーーーリビングーーーーー
殆ど物が置かれていない部屋。
一通り辺りを見ていく〇〇

麻衣「良かったらソファーにでも」
〇〇「失礼します」
麻衣「お茶入れますね」
田頭「お気遣いなく」

テーブルにお茶を運ぶ麻衣
まだ、辺りを見回している〇〇

麻衣「あのー、何か気になるところでも？」
〇〇「妻以外女性と付き合った事が無くて、女性の部屋ってある意味初めて入るんですよ」
麻衣「さっきからキョロキョロしてたのはそういう理由だったんですね」
〇〇「えぇ。しかし、随分とすっきりした部屋ですね」
麻衣「あまり物を置きたくなくて。  で、話というのは？」
田頭「事件のことはご存知だと思いますが」
麻衣「えぇ、ニュースで観て、かなりショックでした」
田頭「寝込んだとか」
麻衣「今でも、立ち直れません」
〇〇「単刀直入に、事件当時は、あなたどこにいましたか？」
麻衣「家で、村尾さんとスケジュール確認をしてました」
〇〇「直接会ってですか？」
麻衣「いえ、電話でです。」
〇〇「履歴ありますか？」
麻衣「ないです」
〇〇「私自身、1日毎に履歴を消すんです。仕事が終わったって思うために」
〇〇「それは、変わってますね」
麻衣「よく言われます」
〇〇「では、村尾さんとあったのはいつですか？」
麻衣「その日のお昼すぎです。」
〇〇「どこで？」
麻衣「テレビ局です」
〇〇「分かりました、今日は引き上げます。  また、聞きたいことがあればお伺いします」

玄関へ向かう二人
ふと、洗面所に目が行く〇〇
洗濯機の縁に無造作に掛けられた黒い服が目に入る
何かしらの疑問を持ちながら家を出る〇〇

田頭「麻衣さんもシロなんですかね？」
〇〇「いや、俺の感覚はグレーだな。アイツも何か隠してる。堀みたいに」
田頭「刑事の勘ってやつですか？」
〇〇「あぁ」