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第一章 勇者奇譚の始まり
#8 こうして、勇者になった
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「警保局が来る前に全部済ませたいから、さっさと死んでね」
メンヘルが瞳をひときわ強く輝かせる。さっきと同様、わたしの足元に空気が震えるような感覚がやってくる。
また、火柱が来る。
そう直感し、わたしはその場から転がるように横に避ける。瞬間、わたしの横すれすれに火が上がった。炎の熱が肌を刺し、焼けた土の匂いが鼻を突く。
「熱いじゃねえか……」
体勢を立て直し、わたしは手にした棒をぎゅっと握り直す。
メンヘルを見据えて、攻め手を考える。ごろつき相手なら何度もしてきたけれど、魔法を使ってくる魔物と戦うのは初めてだ。下手に突っ込んで、秒殺されたら笑えない。再び、メンヘルの瞳が光った。同時に足元が震える。わたしは飛び退いてその場を離れ、火柱を回避した。
それを何度か繰り返して、なんとなくわかった。
どうやら、火柱を呼ぶ魔法の前には予備動作があるみたいだ。注意深くメンヘルを見ていれば、この魔法は避けられそうだ。
そして、もう一つ。
てっきり、その巨躯と二本角を利用した突進攻撃とかもしてくると考えていたけれど、メンヘルは気だるそうに魔法を放つばかりで直接こちらに突っ込んでくる気配がまったくない。
つまり、魔法に気を付けていれば、信子が逃げる時間と警保局を呼ぶ時間は充分に稼げると考えてよさそうだ。
「ああもう! なんで当たらないんだよ! 病む病む!」
メンヘルのイラついた声。何度も火柱の魔法を放ってくるが、炎があがる瞬間が分かってしまえば、避けるのは簡単だった。もはや、当たる気がしない。
「火柱が起きる瞬間が分かりやすすぎて、避けるのが簡単過ぎんだよ。バカの一つ覚えみたいにこの魔法ばっか使ってないで、他の魔法も使ってくれば?」
「くそっ! 魔法も使えなさそうな人間のくせに舐めやがって! 病む! 病む病む! 病む!」
怒り狂いながら、それでもメンヘルは火柱の魔法しか使ってこない。
他の魔法攻撃の手段はないと見て良さそうだ。それなら、このまま、炎から逃げ回って、時間を稼いでいれば……。
「てかさ、おまえ、ぼくに偉そうなこと言うわりには、おまえもバカの一つ覚えみたいに逃げ回ってるだけじゃん」
メンヘルがどこか悔しそうな声で挑発してきた。声の感じから、負け惜しみのようなものだと察する。ムカつくけれど実際メンヘルの言う通りではあるし、今の状況だと逃げに専念するのが最善手だと思うので、ここは何も言わず我慢する。
「まあ、でも、仕方ないか。見たところ、おまえはろくに魔法を使えない能無しみたいだし。自分でぼくを倒せないから、時間を稼いで、警保局が来るのを待つことしかできないもんね」
「あ?」
「え? 何? 怒ってんの? 人間って、怒ると我を忘れるんでしょ? ふーん。そっか。それなら……かかってきなよ、虫けら! ボンクラ! のろまの腑抜け! 役立たず! 手に持ってる棒は飾り?」
「……上等だ! やってやるよ、このクソウマ女!」
わたしは棒を握りしめて、メンヘルに向かって駆け出す。
途中から負け惜しみではなく、意図があってこちらを怒らせようとしているのは、なんとなく察せた。何か狙いがあるのだろう。けれど、そんなことはもはやどうでもいい。あいつは一発ぶん殴る。
メンヘルが発生させる火柱を搔い潜りながら、わたしはメンヘルに接近した。棒を上段に振りかぶり、一気に振り下ろす。相手はこちらを殺す気で来ている魔物だ。躊躇は一切しない。持てる力すべてを込め、頭を叩き割るつもりで殴りつけた。
「うわ、こわっ」
わたしの打撃に合わせてメンヘルが首を振り、角で棒を受け止めた。
骨に響くような硬い音がした。棒へ受けた衝撃が手に伝わり、じんじんと痺れる。
「硬っ……!」
「この角はぼくの数少ない自慢の一つだからね」
メンヘルが言いながら、再び首を振るう。棒がはじき飛ばされ、わたしは後ろに重心が寄るような形で体勢を崩す。
その隙をつくように、メンヘルが突進してきた。
「うぐぅっ!」
一瞬、呼吸が止まる。跳ね飛ばされて地面に転がる。今まで一切直接攻撃を仕掛けてこなかったから完全に油断していた。全身の骨が軋むような痛みに耐えながら、どうにか立ち上がる。
「ちっ……いいの、持ってんじゃねえか……」
「もっと褒めてくれてもいいんだよ? というか、褒めて?」
蹄の音をコツコツと鳴らしながら、メンヘルがゆっくりと近づいてくる。さっきまでのように、わたしが素早く動けそうにないと判断したのか、メンヘルはどこか勝ち誇ったように言う。
「さて、せっかくだからおまえは特別な方法で殺してあげる」
「……それは光栄だな。何する気だ?」
「ぼくが使えるもう一つの魔法で吹き飛ばしてあげる。この魔法は射程も短いし、使うと疲れるからほとんど使わないんだけど、威力は段違いなんだ。おまえにはずいぶん病まされたし、ぼくの最大の力を叩き込んでやらないと気が済まないから」
「この後、警保局が来るっていうのに、そんな魔法使ってもいいのか?」
「いいんだよ。最初から、警保局が来たら戦わずに逃げるつもりだったし」
メンヘルは自分の顔をわたしの眼前に伸ばすと、口を大きく開けた。わたしとメンヘルの間の空気がビリビリと震えだす。何が起きるのかはわからないけれど、これを諸に喰らったら絶対ヤバイ。それだけはわかる。
「くそっ!」
少しでも身を守るべく、わたしは身体の前で腕を交差させる。そして、メンヘルの眼がカッと輝いた瞬間――魔法が放たれる瞬間だと思った時――に合わせて、できる限り後ろへ飛びのいた。
直後、わたしの身体は、メンヘルの口から放たれた凄まじい衝撃波を浴び、そのまま、燃え盛る神社の社殿まで吹っ飛ばされ――。
そこでわたしは光る結晶を見つけた。這って近づき、手を伸ばす。
触れた瞬間、光が溢れだした。
その光に包まれると、力が満ち、傷が癒え――。
わたしは赤いマントを身に纏い、胸当てと手甲、ブーツを身につけた勇者のような姿に変化した。
「はあああああっ!」
漲る力を解き放つ。その余波で、社殿を燃やしていた炎がすべて消えた。
わたしは社殿の焼け跡から出て、少女の姿で境内に立ち尽くしていたメンヘルの前に姿を見せた。
「な、何が起きたの? ぼくが何もしていないのに社殿の火が消えるなんて……それにおまえ、なんで元気になってんの? その恰好は何? は? 意味わかんなすぎて。病みそう。病む。病む病む病む……」
メンヘルは混乱した顔で髪の毛を掻きむしり始める。
「わたしにもよくわかんねえ。でも」
言いながら、わたしは手を天に掲げる。瞬間、どこからともなくわたしの手元に剣が現れた。こうすると武器が現れると、なぜかわかっていた。
「あんたを自力で倒す力を手に入れられたってことはわかる。もしかして、これがあんたの探していた神器ってやつなのか?」
わたしは胸当ての装飾になっている青白い結晶を指し示す。すると、メンヘルが髪を掻きむしるのをやめ、頭を抱えて絶叫した。
「はあ? 何? おまえごときがぼくの探していた神器を……クリスタルを手に入れるなんて、病むどころじゃない……寄こせ! それを! ぼくに!」
怒りの形相で、再びバイコーンの姿に戻ったメンヘルが、我を忘れたようにわたしに突っ込んできた。
「敵に寄こせと言われて、渡す奴がいると思うか?」
わたしは剣を構え、そこに魔力を込めた。剣の刀身が業火を纏う。
「神器の代わりにこいつをくれてやる!」
そう叫ぶと同時に、わたしは突進してくるメンヘルに向かって駆け出した。そして、すれ違い様にメンヘルを切り裂く。
「ぎにゃあああああっ!」
苦悶の嘶きがメンヘルの口から溢れだし、傷口から激しい炎が吹き上がって紫の巨躯を焼き尽くしていく。
「ああ! 嫌だ嫌だ! 嫌だ! ぼくはただ、あの人の……フィジクの一番になりたかっただけなのに! 病む病む病む病む……病むーっ!」
断末魔と共に、メンヘルの身体は光の粒子となって消えていった。その身を焼いていた炎諸共に。
「はぁ……はぁ……」
荒い息をついて、わたしは地面に立て膝をついた。心臓が激しく鼓動している。
どうにか勝てた。
というか、何なんだ? この力は。メンヘルは、神器とかクリスタルとか呼んでいたけれど。
今考えても答えが出るわけないか。
呼吸を整えながら、わたしは周囲を見回した。
社殿はほぼ燃え尽きて黒く炭化しているし、境内も一面焦げている。ひどい有様だった。
「やるやん」
突然、背後から声がした。
振り返ると、そこに二人の少女が立っていた。
一人は、少し珍しい髪型――頭頂部あたりは短く、襟足や耳周りは肩に届くくらいの長さで、全体的にギザギザしており……確かオニロガルドでウルフカットと呼ばれる髪型――にしている黒髪で長身の少女。
もう一人は、オニロガルドの魔導士がよく被っているフード付きのローブを身に纏った銀髪で小柄な少女。
普通じゃない神社の惨状に大して動じていないし、もしかして、信子が呼んでくれた警保局員なのだろうか。
「あんたら誰だ? 警保局員か?」
「いや、ウチらは……」
「警保局の連中なんかと一緒にするんじゃあないよ」
ウルフカットの少女の言葉を遮って、ローブの少女が不機嫌そうに言う。
警保局員じゃないなら、いったい何者なんだ。今のところ、敵意のようなものは感じられないけれど……。
警戒心を露わに二人を見据える。
「ほら、オサさんが開口一番そないなこと言うさけ、めっちゃ警戒されてもたやん」
「そうは言うが、小唄。こやつはわらわ達を警保局のバカ共と……」
なおも不満を漏らすオサと呼ばれていた少女の言葉を、小唄と呼ばれていた少女が遮る。
「はいはい。そういう話はあとで聞いたるから。早よしな、その警保局がここに来るで」
警保局を避けようとしてるってことは、ろくな奴らではないのか?
結局、あんたらは何者なんだ?
二人にそう尋ねようとした時、急に視界がぼやけた。
瞬く間に力が抜け、身につけていた装備一式が光となって弾け、わたしは元々着ていた継ぎ接ぎだらけの着物姿に戻った。
身体がずっしりと重い。意識がどんどん遠のいていく。
これは、クリスタルの力を使った代償なのか? わたしはこの後どうなるんだ?
そんなことをふわふわと考えているうちに、やがて、わたしは気を失った。
メンヘルが瞳をひときわ強く輝かせる。さっきと同様、わたしの足元に空気が震えるような感覚がやってくる。
また、火柱が来る。
そう直感し、わたしはその場から転がるように横に避ける。瞬間、わたしの横すれすれに火が上がった。炎の熱が肌を刺し、焼けた土の匂いが鼻を突く。
「熱いじゃねえか……」
体勢を立て直し、わたしは手にした棒をぎゅっと握り直す。
メンヘルを見据えて、攻め手を考える。ごろつき相手なら何度もしてきたけれど、魔法を使ってくる魔物と戦うのは初めてだ。下手に突っ込んで、秒殺されたら笑えない。再び、メンヘルの瞳が光った。同時に足元が震える。わたしは飛び退いてその場を離れ、火柱を回避した。
それを何度か繰り返して、なんとなくわかった。
どうやら、火柱を呼ぶ魔法の前には予備動作があるみたいだ。注意深くメンヘルを見ていれば、この魔法は避けられそうだ。
そして、もう一つ。
てっきり、その巨躯と二本角を利用した突進攻撃とかもしてくると考えていたけれど、メンヘルは気だるそうに魔法を放つばかりで直接こちらに突っ込んでくる気配がまったくない。
つまり、魔法に気を付けていれば、信子が逃げる時間と警保局を呼ぶ時間は充分に稼げると考えてよさそうだ。
「ああもう! なんで当たらないんだよ! 病む病む!」
メンヘルのイラついた声。何度も火柱の魔法を放ってくるが、炎があがる瞬間が分かってしまえば、避けるのは簡単だった。もはや、当たる気がしない。
「火柱が起きる瞬間が分かりやすすぎて、避けるのが簡単過ぎんだよ。バカの一つ覚えみたいにこの魔法ばっか使ってないで、他の魔法も使ってくれば?」
「くそっ! 魔法も使えなさそうな人間のくせに舐めやがって! 病む! 病む病む! 病む!」
怒り狂いながら、それでもメンヘルは火柱の魔法しか使ってこない。
他の魔法攻撃の手段はないと見て良さそうだ。それなら、このまま、炎から逃げ回って、時間を稼いでいれば……。
「てかさ、おまえ、ぼくに偉そうなこと言うわりには、おまえもバカの一つ覚えみたいに逃げ回ってるだけじゃん」
メンヘルがどこか悔しそうな声で挑発してきた。声の感じから、負け惜しみのようなものだと察する。ムカつくけれど実際メンヘルの言う通りではあるし、今の状況だと逃げに専念するのが最善手だと思うので、ここは何も言わず我慢する。
「まあ、でも、仕方ないか。見たところ、おまえはろくに魔法を使えない能無しみたいだし。自分でぼくを倒せないから、時間を稼いで、警保局が来るのを待つことしかできないもんね」
「あ?」
「え? 何? 怒ってんの? 人間って、怒ると我を忘れるんでしょ? ふーん。そっか。それなら……かかってきなよ、虫けら! ボンクラ! のろまの腑抜け! 役立たず! 手に持ってる棒は飾り?」
「……上等だ! やってやるよ、このクソウマ女!」
わたしは棒を握りしめて、メンヘルに向かって駆け出す。
途中から負け惜しみではなく、意図があってこちらを怒らせようとしているのは、なんとなく察せた。何か狙いがあるのだろう。けれど、そんなことはもはやどうでもいい。あいつは一発ぶん殴る。
メンヘルが発生させる火柱を搔い潜りながら、わたしはメンヘルに接近した。棒を上段に振りかぶり、一気に振り下ろす。相手はこちらを殺す気で来ている魔物だ。躊躇は一切しない。持てる力すべてを込め、頭を叩き割るつもりで殴りつけた。
「うわ、こわっ」
わたしの打撃に合わせてメンヘルが首を振り、角で棒を受け止めた。
骨に響くような硬い音がした。棒へ受けた衝撃が手に伝わり、じんじんと痺れる。
「硬っ……!」
「この角はぼくの数少ない自慢の一つだからね」
メンヘルが言いながら、再び首を振るう。棒がはじき飛ばされ、わたしは後ろに重心が寄るような形で体勢を崩す。
その隙をつくように、メンヘルが突進してきた。
「うぐぅっ!」
一瞬、呼吸が止まる。跳ね飛ばされて地面に転がる。今まで一切直接攻撃を仕掛けてこなかったから完全に油断していた。全身の骨が軋むような痛みに耐えながら、どうにか立ち上がる。
「ちっ……いいの、持ってんじゃねえか……」
「もっと褒めてくれてもいいんだよ? というか、褒めて?」
蹄の音をコツコツと鳴らしながら、メンヘルがゆっくりと近づいてくる。さっきまでのように、わたしが素早く動けそうにないと判断したのか、メンヘルはどこか勝ち誇ったように言う。
「さて、せっかくだからおまえは特別な方法で殺してあげる」
「……それは光栄だな。何する気だ?」
「ぼくが使えるもう一つの魔法で吹き飛ばしてあげる。この魔法は射程も短いし、使うと疲れるからほとんど使わないんだけど、威力は段違いなんだ。おまえにはずいぶん病まされたし、ぼくの最大の力を叩き込んでやらないと気が済まないから」
「この後、警保局が来るっていうのに、そんな魔法使ってもいいのか?」
「いいんだよ。最初から、警保局が来たら戦わずに逃げるつもりだったし」
メンヘルは自分の顔をわたしの眼前に伸ばすと、口を大きく開けた。わたしとメンヘルの間の空気がビリビリと震えだす。何が起きるのかはわからないけれど、これを諸に喰らったら絶対ヤバイ。それだけはわかる。
「くそっ!」
少しでも身を守るべく、わたしは身体の前で腕を交差させる。そして、メンヘルの眼がカッと輝いた瞬間――魔法が放たれる瞬間だと思った時――に合わせて、できる限り後ろへ飛びのいた。
直後、わたしの身体は、メンヘルの口から放たれた凄まじい衝撃波を浴び、そのまま、燃え盛る神社の社殿まで吹っ飛ばされ――。
そこでわたしは光る結晶を見つけた。這って近づき、手を伸ばす。
触れた瞬間、光が溢れだした。
その光に包まれると、力が満ち、傷が癒え――。
わたしは赤いマントを身に纏い、胸当てと手甲、ブーツを身につけた勇者のような姿に変化した。
「はあああああっ!」
漲る力を解き放つ。その余波で、社殿を燃やしていた炎がすべて消えた。
わたしは社殿の焼け跡から出て、少女の姿で境内に立ち尽くしていたメンヘルの前に姿を見せた。
「な、何が起きたの? ぼくが何もしていないのに社殿の火が消えるなんて……それにおまえ、なんで元気になってんの? その恰好は何? は? 意味わかんなすぎて。病みそう。病む。病む病む病む……」
メンヘルは混乱した顔で髪の毛を掻きむしり始める。
「わたしにもよくわかんねえ。でも」
言いながら、わたしは手を天に掲げる。瞬間、どこからともなくわたしの手元に剣が現れた。こうすると武器が現れると、なぜかわかっていた。
「あんたを自力で倒す力を手に入れられたってことはわかる。もしかして、これがあんたの探していた神器ってやつなのか?」
わたしは胸当ての装飾になっている青白い結晶を指し示す。すると、メンヘルが髪を掻きむしるのをやめ、頭を抱えて絶叫した。
「はあ? 何? おまえごときがぼくの探していた神器を……クリスタルを手に入れるなんて、病むどころじゃない……寄こせ! それを! ぼくに!」
怒りの形相で、再びバイコーンの姿に戻ったメンヘルが、我を忘れたようにわたしに突っ込んできた。
「敵に寄こせと言われて、渡す奴がいると思うか?」
わたしは剣を構え、そこに魔力を込めた。剣の刀身が業火を纏う。
「神器の代わりにこいつをくれてやる!」
そう叫ぶと同時に、わたしは突進してくるメンヘルに向かって駆け出した。そして、すれ違い様にメンヘルを切り裂く。
「ぎにゃあああああっ!」
苦悶の嘶きがメンヘルの口から溢れだし、傷口から激しい炎が吹き上がって紫の巨躯を焼き尽くしていく。
「ああ! 嫌だ嫌だ! 嫌だ! ぼくはただ、あの人の……フィジクの一番になりたかっただけなのに! 病む病む病む病む……病むーっ!」
断末魔と共に、メンヘルの身体は光の粒子となって消えていった。その身を焼いていた炎諸共に。
「はぁ……はぁ……」
荒い息をついて、わたしは地面に立て膝をついた。心臓が激しく鼓動している。
どうにか勝てた。
というか、何なんだ? この力は。メンヘルは、神器とかクリスタルとか呼んでいたけれど。
今考えても答えが出るわけないか。
呼吸を整えながら、わたしは周囲を見回した。
社殿はほぼ燃え尽きて黒く炭化しているし、境内も一面焦げている。ひどい有様だった。
「やるやん」
突然、背後から声がした。
振り返ると、そこに二人の少女が立っていた。
一人は、少し珍しい髪型――頭頂部あたりは短く、襟足や耳周りは肩に届くくらいの長さで、全体的にギザギザしており……確かオニロガルドでウルフカットと呼ばれる髪型――にしている黒髪で長身の少女。
もう一人は、オニロガルドの魔導士がよく被っているフード付きのローブを身に纏った銀髪で小柄な少女。
普通じゃない神社の惨状に大して動じていないし、もしかして、信子が呼んでくれた警保局員なのだろうか。
「あんたら誰だ? 警保局員か?」
「いや、ウチらは……」
「警保局の連中なんかと一緒にするんじゃあないよ」
ウルフカットの少女の言葉を遮って、ローブの少女が不機嫌そうに言う。
警保局員じゃないなら、いったい何者なんだ。今のところ、敵意のようなものは感じられないけれど……。
警戒心を露わに二人を見据える。
「ほら、オサさんが開口一番そないなこと言うさけ、めっちゃ警戒されてもたやん」
「そうは言うが、小唄。こやつはわらわ達を警保局のバカ共と……」
なおも不満を漏らすオサと呼ばれていた少女の言葉を、小唄と呼ばれていた少女が遮る。
「はいはい。そういう話はあとで聞いたるから。早よしな、その警保局がここに来るで」
警保局を避けようとしてるってことは、ろくな奴らではないのか?
結局、あんたらは何者なんだ?
二人にそう尋ねようとした時、急に視界がぼやけた。
瞬く間に力が抜け、身につけていた装備一式が光となって弾け、わたしは元々着ていた継ぎ接ぎだらけの着物姿に戻った。
身体がずっしりと重い。意識がどんどん遠のいていく。
これは、クリスタルの力を使った代償なのか? わたしはこの後どうなるんだ?
そんなことをふわふわと考えているうちに、やがて、わたしは気を失った。
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