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第3章 略奪溺愛とか重すぎるので、逃げ出させていただきます!しかし回り込まれてしまった!
第13話 駆け落ち万歳!
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私たちのバイクはアリアドネ恩賜公園に向かって道路を爆走していた。
「いやっはー!オラオラ!止まれや!」
「女置いてけおらぁ!!」
何ともガラの悪い兵隊たちがバイクやトラックで私たちに追いかけまわしていた。
「ちっ!不正規戦用特殊部隊員共か!手ごわい!!」
敵はどうやら王国軍の暗部所属のようだ。フェンサリルはさっきから左手で運転しながら、右手に持った剣で迫りくる暗部兵士たちをばさばさとバイクもろとも斬り捨てていた。私もサブマシンガンで車やバイクのタイヤを潰して牽制をしていた。だが多勢に無勢。状況は刻一刻と悪くなっていく。
「やはりマンホールに…」
「いやです。どんだけ下水道好きなんですか。スパイ映画の見過ぎでは?」
男の子ってどうして暗くて狭い所を探検したがるんだろう?あの性質は全く理解しかねる。
「ひゃはは!女おいてけやー!男はしねぇい!!」
「お願いしますから!早く女だけ降りてください!男は殺されてください!国王様めっちゃ怖いんです!まじで!俺らの顔を立てて投降してくれ!なぁ!」
暗部って言えば犯罪者気質だけど精鋭の集まりのはず。なのに上司は怖いのか。人間社会は何処へ行っても同じような悲劇しかないわけだ。
「キリがない!!やはりマンホールに飛び…」
『お嬢様ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』
フェンサリルが苛立たたしい声を上げたとき、私たちの頭の上の方から女の声が聞こえた。上を見ると道路に隣接するビルの屋上から青い髪に迷彩服着たハーフエルフの女の兵士が飛び降りているのが見えた。彼女はそのまま魔法の力を使って私たちの近くに滑空してきた。
「チェストオおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
凛としてなのにどすの効いた声で叫びながら青い髪の女は私たちのすぐ横につけていたバイクの上に剣を振るいながら飛び降りてきた。
「女が降っ?うぎゃああああああ!!」
そのままバイクの後部座席に着地しながら、運転席にいた兵士の首を剣で撥ね飛ばす。そして運転席に立ちながら、足でサドルを操作し、私たちの方に顔を向けた。
「カドメイア州海軍特務陸戦隊所属、辺境伯家令嬢護衛班ロイヤルガード1!ラファティ・マクリーシュ大尉!参上!!ぶいぶい!とう!」
やたらとかっこいい名乗りを上げて、ラファティはそのままバイクを運転して敵トラックに近づき飛び移る。
「な?!なんだその運動神経!?」
「お前本当に女かよ!」
「でも顔は超かわいい!」
「死にたくない子は飛び降りなさい!わたしは寛大だから見逃してあげる!!チェスト!!シャあああ!!」
ラファティは剣帯からもう一本のサーベルを抜き、トラックに乗った兵士たちを次々に二刀流で華麗に斬り捨てていく。宣言通りビビって逃げた奴は追いかけなかった。すぐにトラックを制圧すると、腰から信号弾発射装置を抜き取り、空に向けて撃った。すると。先に見える十字路の両側から、迷彩服を着た兵士たちが現れた。全員の顔は見知っている。カドメイア州海軍の特殊部隊である特務陸戦隊。私の子飼いの部隊で王都における私のボディーガードを務めてくれている。
「お嬢様!!今助けます!!くらえおら!!」
部隊の先頭をバイクで走っているのは、長身でロン毛の金髪眼鏡の美丈夫。名はメネラウス・ボルネーユ。この男だけ他と違い派手な柄のスリーピースの背広を着ていた。だけど手には長ドス。ヤクザみたいなスタイルだ。
「喰らえおら!」
「ぐはっげぶぅ!!」
メネラウスはすれ違う敵兵士の胸にドスを突き刺す。そして長い足でバイクから蹴り飛ばす。
「うわぁドン引き!ボルネーユ卿あんたほんとに大卒なの?!ヤクザだよね!?絶対そうだよね!」
よく見るとメネラウスの後部座席にに戦闘服を着た銀髪に狐耳の可愛い少年ファビオ・フェルヴァークが座っていた。彼は敵兵士が落ちたバイクに飛び移り、それを奪った。背中から短めの槍を抜き、華麗なバイク捌きで周囲の敵兵士を次々と仕留めていった。特務陸戦隊のメンバーは次々と王国暗部兵士をあっと言う間に仕留めていく。
「ちっ!総員!いったん引くぞ!!十手のマクリーシュと特陸相手じゃ今のままだと分が悪い!!」
敵の指揮官の判断は早かった。あっと言う間に混乱を収拾し、すぐに退却していった。敵を退けた私たちはバイクを止める。
「お嬢様!!よかった!無事でよかった!」
「ラファティ!!ええ!あなたたちが来てくれたからよ!ありがとう!!」
バイクから下りた私とラファティは互いに抱き合って喜び合う。危機的状況でも助けに来てくれる臣下を持って私は幸せ者だ。
「お嬢様、御無事でよかった。ところでどういう状況なのでしょうか?王国軍の暗部が出てくるということは本当に大逆人扱いされているってことですよね?いったい何があったというのですか?」
戦闘でボロボロになった私のドレス姿を見かねたのだろう。メネラウスは着ていた背広のジャケットを私の肩にかけてくれた。こいつは男のくせにいつも爽やかで甘い香水を使う。ジャケットから漂うその香りは私に日常を思い出させてくれて心に落ち着きを取り戻させてくれた。
「それがですね。…。………。…」
私はパーティー会場で起きた『王太子に婚約破棄されたと思ったら、彼の首が物理的に飛んで、大逆人になったったwww王様が私に執着してるので幼馴染と盗んだバイクで断固逃げ出します!』みたいなさっきの出来事を懇切丁寧にメネラウス達に説明した。
「すみません、お嬢様。…だめだ帝大卒の私でも状況が理解しがたい…」
ヤクザ染みていても貴重な大卒であり、インテリとして普段弁護士や官僚やっているメネラウスにはこの状況は馬鹿馬鹿しく見えるだろう。
「おいヤクザ!帝大関係ないでしょ!隙あらば学歴自慢するのやめてよ!!でもお嬢様…わたしもわけわかんないです…婚約破棄って漫画や小説とかお芝居とか映画とかで人気だけど…こんなにスプラッタなお話だったけ…?」
ラファティが引き笑いを浮かべている。この百戦錬磨の勇敢な女性兵士はありとあらゆる戦場で戦果を挙げてきた最強の戦闘員だ。そんな彼女も戸惑ってる。
「あっでもでも!女の子としてはそこのヘタレ幕臣くんがとうとうお嬢様を連れて駆け落ちしてきたのはめっちゃエモいです!…それをもっと早くやってくれたらなぁ…はぁ…ヘタレめ」
駆け落ち。その言葉を聞いた時、少しドキッとした。血なまぐさいとはいえ、フェンサリルは私の婚約者を倒し、私の手を引いて、愛のない結婚から救ってみせた。2人は何処までもどこまで駆け抜けていく。素敵かも知れない。
「駆け落ち?!違う!俺たちはそんな不道徳な行為はしてない!ただ謂れのない罪から逃げてきただけだ!」
フェンサリルは顔を真っ赤にして言い訳してる。可愛いなって思ってしまうが、同時に駆け落ちを否定されると、若干冷める自分もいるのを自覚する。
「そういうとこだよ!ヘタレ幕臣!せっかくかっこいいことやったのにすぐぅカッコつけて取り繕うんだから!!そういうのが一番ダサいよ!マジカッコ悪い!ぶーーー!!」
『『『『『『ブーーーー!!』』』』』』
うちのノリのいい兵士たちがフェンサリルに対してブーイングを飛ばす。フェンサリルめいい気味だ!
「でもこれからどうするんですか?カドメイア州への航路は間違いなくもう封鎖されてますよね?どこへ逃げればいいんですかね?」
ファビオが話の流れを元に戻してくれた。そのことだが私にはまったくアイディアがなかった。カドメイア州と王都は『海』で阻まれている。技術的限界から通信もできない。一応緊急時の船は用意してあるが、この調子だとすでに港は封鎖されているだろう。王都から脱出する手段が私たちにはないのだ。
「定期連絡が途絶えれば、カドメイア州のお館様がこちらにアクションを取ってはくれるでしょう。ですがそれも時間がかかります。幸い金もありますし、王都も広い。特陸の特殊戦スキルならこの街にバレずに潜伏は出来るでしょう。一応緊急時プランのおかげで潜伏地や蓄え、装備食料は十分かくほしてありますしね」
メネラウスがそう言った。能力的に潜伏は可能。実家から救援が来るまで耐え忍ぶのも手だ。だけどそれも国王陛下次第だ。今回の事件をどう取り扱うのか、隠蔽するのか?公表するのか?どんな手を打ってくるのか想像もできない。私は悩んでしまった。今までの私は実家でも基本的にはオラオラと攻めていく側の人間だ。こうやって防戦に追い込まれるなんて思ってなかった。そんな時だ。
「ジョゼーファ。提案がある」
「何ですかフェンサリル?何かいい手でも?」
「このまま王都に潜伏しても、待っているのはカドメイア州と王国の内戦だろう」
「…ええそうでしょうね。婚約破棄くらいなら何とか踏みとどまれますが、領主の娘を大逆人扱いされた以上、カドメイアは戦うしかありません」
私が無辜の罪で大逆人扱いされるとはすなわちカドメイアにとって国辱なのだ。戦争まったなしである。国家のメンツは人の命よりもはるかに重い。
「だからこそだ。ジョゼーファ。俺と一緒に幕府に逃げよう。明日幕府直轄領行きの船が出る。それに俺と一緒に乗ろう!」
「幕府に、わたくしとあなたが?一緒に逃げる?」
一緒に逃げる。その提案は何処か甘く響いて聞こえた。さっきの逃避行の続きのような高揚を覚える。
「そうだ。俺は幕臣としての身分がすでにある。本来ならばあのような罪を被せられる謂れはない。幕府としても辺境で士官が地方勢力に侮辱されれば、幕府トップの大君陛下は必ず口を挟むに決まっている」
確かにそうだった。幕府。世界各国の上にたつ人類統合政体。圧倒的な武力と経済力を誇りこの世界の秩序を守っている。バッコス王国も幕府の参画国家の一つだ。幕府が主ならば、王国は従の関係。
「なるほど。お嬢様。私はフェンサリル君の提案に賛成します。大逆の罪は法学から見れば無理筋もいい所ですが、そんな無茶を通すところならば幕府をぶつけるのが得策でしょう。幕府はいつも辺境諸国に口を挟む機会を探しているんです。彼らに口実を与えることが出来れば、この問題をスムーズに解消できます。もしかしたらララミー・パラシオスを退位に追い込めるかもしれない。チャレンジする価値は大いにあります」
うちのメネラウスは学歴厨ヤクザだが、博識であり確かな教養と政治行政司法の各業務の経験も豊富であるスーパーテクノクラートだ。彼がいいというならばこの作戦は期待ができる。即決する価値がありそうだ。
「わたくしはフェンサリルの提案に乗ります。フェンサリル。エスコートをよろしくお願いします」
「ああ、まかせてくれ!俺は必ずお前を守り切って見せる!!」
フェンサリルの笑顔に頼もしさを感じる。このまま2人で遠くの国に逃げ出す。それはきっと楽しい旅になるだろう。
『ほんとうにそれでいいのか?』
そうだよ。だって仕方がない。このまま潜伏すれば、戦争になって多くの人間が傷つくだろう。そんな悲惨な未来は避けなければいけない。
『未来はいつも悲惨だ。今日より世界が良くなることは決してない。よくなったと納得できるかだけ。お前はその結論に納得できるのか?』
できる。私はできる。だって仕方がないから。フェンサリルが提案してくれた。私の手を引っ張ってくれると言っている。守ってくれる。素敵じゃないか。甘くてとても気持ちいいのに。
「心に築いた安全は、お前の未来の可能性を閉ざすだろう。それでも他人の手を取るのかな?それで満足できるのかい?」
仕方ないでしょ?私はもう一生懸命やった。十分やった。
『まあいいだろう。だが忘れるな。王道とは荒野にしかないのだ。王が歩いたところに豊穣の種が蒔かれるのだ。再び選択できる時が来ることを祈ってるよ』
私は…もう…選んで「お嬢様!」る。金の枝は震えて。「お嬢様ったら!!」
「っ!あ、ああ。ごめんなさいぼーっとしてました」
ラファティが私の肩に手を置いてい顔を覗き込んでいた。とても心配そうに眉が歪んでいる。
「お嬢様もお疲れなんでしょう。いったんアジトにお連れします。今日はもうごゆっくり休んでください」
どこか母性的な笑みを浮かべている。普段は快活な女の子なのに、こういうとても優しい所があるからこの子ことは大好きだった。そしてラファティに手を引かれて、車にのり私たちはアジトへ向かった。明日にはこの国を発つ。だから窓から見える王都の風景を目に焼き付けておこうと思った。暫くこの風景を見ることは叶わないはずだから。そしてぼーっとしているとスラム街の電気のない風景が見えてきた。魔石ライトの細々とした明かりだけが灯っている。車はスラム街に入って行く。アジトはこの中にある。その風景を焼き付ける。ここが私の始まりの地。マギーと出会って。■■になるって彼女に誓った。だがその誓いはもう果たせそうにない。だけど仕方がないよ。国王陛下は私が欲しいから馬鹿なことを始めた。フェンサリルは私を守るために身を挺してくれている。臣下たちも私の身を案じているんだ。私はもう何もしなくていい。
「マギー。情けないわたくしを許して」
誰にも聞こえないように小声で呟く。私にできることはもうない。私のために何かをしてくれる人たちに身を委ねればいい。そうすれば万事は治まるべきところに治まる。私は目を瞑る。もうこれ以上かつての自分の罪を見たくなかったから。そして意識はすっと闇に堕ちていった。
「いやっはー!オラオラ!止まれや!」
「女置いてけおらぁ!!」
何ともガラの悪い兵隊たちがバイクやトラックで私たちに追いかけまわしていた。
「ちっ!不正規戦用特殊部隊員共か!手ごわい!!」
敵はどうやら王国軍の暗部所属のようだ。フェンサリルはさっきから左手で運転しながら、右手に持った剣で迫りくる暗部兵士たちをばさばさとバイクもろとも斬り捨てていた。私もサブマシンガンで車やバイクのタイヤを潰して牽制をしていた。だが多勢に無勢。状況は刻一刻と悪くなっていく。
「やはりマンホールに…」
「いやです。どんだけ下水道好きなんですか。スパイ映画の見過ぎでは?」
男の子ってどうして暗くて狭い所を探検したがるんだろう?あの性質は全く理解しかねる。
「ひゃはは!女おいてけやー!男はしねぇい!!」
「お願いしますから!早く女だけ降りてください!男は殺されてください!国王様めっちゃ怖いんです!まじで!俺らの顔を立てて投降してくれ!なぁ!」
暗部って言えば犯罪者気質だけど精鋭の集まりのはず。なのに上司は怖いのか。人間社会は何処へ行っても同じような悲劇しかないわけだ。
「キリがない!!やはりマンホールに飛び…」
『お嬢様ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』
フェンサリルが苛立たたしい声を上げたとき、私たちの頭の上の方から女の声が聞こえた。上を見ると道路に隣接するビルの屋上から青い髪に迷彩服着たハーフエルフの女の兵士が飛び降りているのが見えた。彼女はそのまま魔法の力を使って私たちの近くに滑空してきた。
「チェストオおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
凛としてなのにどすの効いた声で叫びながら青い髪の女は私たちのすぐ横につけていたバイクの上に剣を振るいながら飛び降りてきた。
「女が降っ?うぎゃああああああ!!」
そのままバイクの後部座席に着地しながら、運転席にいた兵士の首を剣で撥ね飛ばす。そして運転席に立ちながら、足でサドルを操作し、私たちの方に顔を向けた。
「カドメイア州海軍特務陸戦隊所属、辺境伯家令嬢護衛班ロイヤルガード1!ラファティ・マクリーシュ大尉!参上!!ぶいぶい!とう!」
やたらとかっこいい名乗りを上げて、ラファティはそのままバイクを運転して敵トラックに近づき飛び移る。
「な?!なんだその運動神経!?」
「お前本当に女かよ!」
「でも顔は超かわいい!」
「死にたくない子は飛び降りなさい!わたしは寛大だから見逃してあげる!!チェスト!!シャあああ!!」
ラファティは剣帯からもう一本のサーベルを抜き、トラックに乗った兵士たちを次々に二刀流で華麗に斬り捨てていく。宣言通りビビって逃げた奴は追いかけなかった。すぐにトラックを制圧すると、腰から信号弾発射装置を抜き取り、空に向けて撃った。すると。先に見える十字路の両側から、迷彩服を着た兵士たちが現れた。全員の顔は見知っている。カドメイア州海軍の特殊部隊である特務陸戦隊。私の子飼いの部隊で王都における私のボディーガードを務めてくれている。
「お嬢様!!今助けます!!くらえおら!!」
部隊の先頭をバイクで走っているのは、長身でロン毛の金髪眼鏡の美丈夫。名はメネラウス・ボルネーユ。この男だけ他と違い派手な柄のスリーピースの背広を着ていた。だけど手には長ドス。ヤクザみたいなスタイルだ。
「喰らえおら!」
「ぐはっげぶぅ!!」
メネラウスはすれ違う敵兵士の胸にドスを突き刺す。そして長い足でバイクから蹴り飛ばす。
「うわぁドン引き!ボルネーユ卿あんたほんとに大卒なの?!ヤクザだよね!?絶対そうだよね!」
よく見るとメネラウスの後部座席にに戦闘服を着た銀髪に狐耳の可愛い少年ファビオ・フェルヴァークが座っていた。彼は敵兵士が落ちたバイクに飛び移り、それを奪った。背中から短めの槍を抜き、華麗なバイク捌きで周囲の敵兵士を次々と仕留めていった。特務陸戦隊のメンバーは次々と王国暗部兵士をあっと言う間に仕留めていく。
「ちっ!総員!いったん引くぞ!!十手のマクリーシュと特陸相手じゃ今のままだと分が悪い!!」
敵の指揮官の判断は早かった。あっと言う間に混乱を収拾し、すぐに退却していった。敵を退けた私たちはバイクを止める。
「お嬢様!!よかった!無事でよかった!」
「ラファティ!!ええ!あなたたちが来てくれたからよ!ありがとう!!」
バイクから下りた私とラファティは互いに抱き合って喜び合う。危機的状況でも助けに来てくれる臣下を持って私は幸せ者だ。
「お嬢様、御無事でよかった。ところでどういう状況なのでしょうか?王国軍の暗部が出てくるということは本当に大逆人扱いされているってことですよね?いったい何があったというのですか?」
戦闘でボロボロになった私のドレス姿を見かねたのだろう。メネラウスは着ていた背広のジャケットを私の肩にかけてくれた。こいつは男のくせにいつも爽やかで甘い香水を使う。ジャケットから漂うその香りは私に日常を思い出させてくれて心に落ち着きを取り戻させてくれた。
「それがですね。…。………。…」
私はパーティー会場で起きた『王太子に婚約破棄されたと思ったら、彼の首が物理的に飛んで、大逆人になったったwww王様が私に執着してるので幼馴染と盗んだバイクで断固逃げ出します!』みたいなさっきの出来事を懇切丁寧にメネラウス達に説明した。
「すみません、お嬢様。…だめだ帝大卒の私でも状況が理解しがたい…」
ヤクザ染みていても貴重な大卒であり、インテリとして普段弁護士や官僚やっているメネラウスにはこの状況は馬鹿馬鹿しく見えるだろう。
「おいヤクザ!帝大関係ないでしょ!隙あらば学歴自慢するのやめてよ!!でもお嬢様…わたしもわけわかんないです…婚約破棄って漫画や小説とかお芝居とか映画とかで人気だけど…こんなにスプラッタなお話だったけ…?」
ラファティが引き笑いを浮かべている。この百戦錬磨の勇敢な女性兵士はありとあらゆる戦場で戦果を挙げてきた最強の戦闘員だ。そんな彼女も戸惑ってる。
「あっでもでも!女の子としてはそこのヘタレ幕臣くんがとうとうお嬢様を連れて駆け落ちしてきたのはめっちゃエモいです!…それをもっと早くやってくれたらなぁ…はぁ…ヘタレめ」
駆け落ち。その言葉を聞いた時、少しドキッとした。血なまぐさいとはいえ、フェンサリルは私の婚約者を倒し、私の手を引いて、愛のない結婚から救ってみせた。2人は何処までもどこまで駆け抜けていく。素敵かも知れない。
「駆け落ち?!違う!俺たちはそんな不道徳な行為はしてない!ただ謂れのない罪から逃げてきただけだ!」
フェンサリルは顔を真っ赤にして言い訳してる。可愛いなって思ってしまうが、同時に駆け落ちを否定されると、若干冷める自分もいるのを自覚する。
「そういうとこだよ!ヘタレ幕臣!せっかくかっこいいことやったのにすぐぅカッコつけて取り繕うんだから!!そういうのが一番ダサいよ!マジカッコ悪い!ぶーーー!!」
『『『『『『ブーーーー!!』』』』』』
うちのノリのいい兵士たちがフェンサリルに対してブーイングを飛ばす。フェンサリルめいい気味だ!
「でもこれからどうするんですか?カドメイア州への航路は間違いなくもう封鎖されてますよね?どこへ逃げればいいんですかね?」
ファビオが話の流れを元に戻してくれた。そのことだが私にはまったくアイディアがなかった。カドメイア州と王都は『海』で阻まれている。技術的限界から通信もできない。一応緊急時の船は用意してあるが、この調子だとすでに港は封鎖されているだろう。王都から脱出する手段が私たちにはないのだ。
「定期連絡が途絶えれば、カドメイア州のお館様がこちらにアクションを取ってはくれるでしょう。ですがそれも時間がかかります。幸い金もありますし、王都も広い。特陸の特殊戦スキルならこの街にバレずに潜伏は出来るでしょう。一応緊急時プランのおかげで潜伏地や蓄え、装備食料は十分かくほしてありますしね」
メネラウスがそう言った。能力的に潜伏は可能。実家から救援が来るまで耐え忍ぶのも手だ。だけどそれも国王陛下次第だ。今回の事件をどう取り扱うのか、隠蔽するのか?公表するのか?どんな手を打ってくるのか想像もできない。私は悩んでしまった。今までの私は実家でも基本的にはオラオラと攻めていく側の人間だ。こうやって防戦に追い込まれるなんて思ってなかった。そんな時だ。
「ジョゼーファ。提案がある」
「何ですかフェンサリル?何かいい手でも?」
「このまま王都に潜伏しても、待っているのはカドメイア州と王国の内戦だろう」
「…ええそうでしょうね。婚約破棄くらいなら何とか踏みとどまれますが、領主の娘を大逆人扱いされた以上、カドメイアは戦うしかありません」
私が無辜の罪で大逆人扱いされるとはすなわちカドメイアにとって国辱なのだ。戦争まったなしである。国家のメンツは人の命よりもはるかに重い。
「だからこそだ。ジョゼーファ。俺と一緒に幕府に逃げよう。明日幕府直轄領行きの船が出る。それに俺と一緒に乗ろう!」
「幕府に、わたくしとあなたが?一緒に逃げる?」
一緒に逃げる。その提案は何処か甘く響いて聞こえた。さっきの逃避行の続きのような高揚を覚える。
「そうだ。俺は幕臣としての身分がすでにある。本来ならばあのような罪を被せられる謂れはない。幕府としても辺境で士官が地方勢力に侮辱されれば、幕府トップの大君陛下は必ず口を挟むに決まっている」
確かにそうだった。幕府。世界各国の上にたつ人類統合政体。圧倒的な武力と経済力を誇りこの世界の秩序を守っている。バッコス王国も幕府の参画国家の一つだ。幕府が主ならば、王国は従の関係。
「なるほど。お嬢様。私はフェンサリル君の提案に賛成します。大逆の罪は法学から見れば無理筋もいい所ですが、そんな無茶を通すところならば幕府をぶつけるのが得策でしょう。幕府はいつも辺境諸国に口を挟む機会を探しているんです。彼らに口実を与えることが出来れば、この問題をスムーズに解消できます。もしかしたらララミー・パラシオスを退位に追い込めるかもしれない。チャレンジする価値は大いにあります」
うちのメネラウスは学歴厨ヤクザだが、博識であり確かな教養と政治行政司法の各業務の経験も豊富であるスーパーテクノクラートだ。彼がいいというならばこの作戦は期待ができる。即決する価値がありそうだ。
「わたくしはフェンサリルの提案に乗ります。フェンサリル。エスコートをよろしくお願いします」
「ああ、まかせてくれ!俺は必ずお前を守り切って見せる!!」
フェンサリルの笑顔に頼もしさを感じる。このまま2人で遠くの国に逃げ出す。それはきっと楽しい旅になるだろう。
『ほんとうにそれでいいのか?』
そうだよ。だって仕方がない。このまま潜伏すれば、戦争になって多くの人間が傷つくだろう。そんな悲惨な未来は避けなければいけない。
『未来はいつも悲惨だ。今日より世界が良くなることは決してない。よくなったと納得できるかだけ。お前はその結論に納得できるのか?』
できる。私はできる。だって仕方がないから。フェンサリルが提案してくれた。私の手を引っ張ってくれると言っている。守ってくれる。素敵じゃないか。甘くてとても気持ちいいのに。
「心に築いた安全は、お前の未来の可能性を閉ざすだろう。それでも他人の手を取るのかな?それで満足できるのかい?」
仕方ないでしょ?私はもう一生懸命やった。十分やった。
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「っ!あ、ああ。ごめんなさいぼーっとしてました」
ラファティが私の肩に手を置いてい顔を覗き込んでいた。とても心配そうに眉が歪んでいる。
「お嬢様もお疲れなんでしょう。いったんアジトにお連れします。今日はもうごゆっくり休んでください」
どこか母性的な笑みを浮かべている。普段は快活な女の子なのに、こういうとても優しい所があるからこの子ことは大好きだった。そしてラファティに手を引かれて、車にのり私たちはアジトへ向かった。明日にはこの国を発つ。だから窓から見える王都の風景を目に焼き付けておこうと思った。暫くこの風景を見ることは叶わないはずだから。そしてぼーっとしているとスラム街の電気のない風景が見えてきた。魔石ライトの細々とした明かりだけが灯っている。車はスラム街に入って行く。アジトはこの中にある。その風景を焼き付ける。ここが私の始まりの地。マギーと出会って。■■になるって彼女に誓った。だがその誓いはもう果たせそうにない。だけど仕方がないよ。国王陛下は私が欲しいから馬鹿なことを始めた。フェンサリルは私を守るために身を挺してくれている。臣下たちも私の身を案じているんだ。私はもう何もしなくていい。
「マギー。情けないわたくしを許して」
誰にも聞こえないように小声で呟く。私にできることはもうない。私のために何かをしてくれる人たちに身を委ねればいい。そうすれば万事は治まるべきところに治まる。私は目を瞑る。もうこれ以上かつての自分の罪を見たくなかったから。そして意識はすっと闇に堕ちていった。
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