王太子に婚約破棄されたと思ったら、国王陛下に溺愛されました!

万和彁了

文字の大きさ
15 / 18
第3章 略奪溺愛とか重すぎるので、逃げ出させていただきます!しかし回り込まれてしまった!

第15話 同じ夢を見れますように

しおりを挟む
 視線を虹色に輝く雲海に向ける。これ以上ないほどに輝いているのに、空は真っ暗だった。

「ジョゼーファ。聞いて欲しいことがある」

「なんですか?」

 私はフェンサリルの優しい声を聞いて頭を少し上げる。そこにはフェンサリルの淡く煌めく紫の瞳があった。国王陛下はこんな瞳を私には向けてくれない。この紫の瞳には凍えたこの身を包んで温めてくれる暖かさがあった。

「大君民選論は聞いたことがあるか?」

「ええ。過激派が語る夢想ですよね。諸国を束ねる幕府のトップを人民の選挙でもって選ぶことで腐敗した封建制度は打破され、新しい黄金時代がやってくるという」

「そう。夢想だ。馬鹿馬鹿しい夢想だ。だけど。美しいと思ったんだ」

 一瞬ドキッとした。私たちの視線は絡み合ってる。だから美しいって言葉が私に向けられたのかと思った。

「お前が政治を志したのも、腐敗を打破したかったからだろう?」

「ええ。汚いモノ何もかもが許せませんでした。今もそうです」

 腐ったシステムが作り出す汚辱の中にマギーは放り込まれた。そしてその中で身を汚して人に尽くして搾取され。なのに最後はとても悲惨なものでしかなかった。

「俺もそうだ。これでも貴族の生まれだ。いくつもの戦争に出兵してきた。戦争をしている国は大抵すべてが破綻してる。だからどこもかしこもどうしようもない世の中の仕組みって奴が人々を貧困の中で擂り潰していくのを見てきたよ。見たくなかった。見なければ能天気なままでいられたのに」

 そう。見てしまった。すれ違ってしまった。あちら側は人々を犯し壊し擂り潰していく肉挽き機の世界。こちら側は絞りだされた血を啜って醜く肥え太り続ける豚の世界。断絶の狭間に落ちたものは正気ではいられない。私もフェンサリルも目を閉じては生きていけないのだ。

「だから俺は幕府に行くことにしたんだ。最も大きい政治システム。その中に参画できれば世の中を変えることができるかも知れない。そう思った。大君民選論はその一つの答えだ。幕府の改革に俺は尽くしたい」

「そうですか。立派な夢ですね。わたくしとは大違いです」

 政治がやりたいなんて言っても、私なんて所詮は政略結婚を利用した腰抜けだ。やってることのスケールが違うだけで、場末の酒場で男に一杯の酒をねだる娼婦のようなものでしかない。それさえも結局は失敗した。

「違わないよ。俺はお前が政治をやるために必死になっていたのを隣で見てたよ。気に入らないけど、ああ、本当は嫌だったけど。お前が王室に嫁いでまでことを成そうとしたことは、本当に立派だと思ったんだ。だから俺も幕府を目指した。お前に少しでも恥じぬようにと」

「フェンサリル。あなたは…そう思っていてくれたのですか…」

 私だってそこまで鈍感ではない。フェンサリルだって私を憎からず思って居たことくらいわかってる。私が王家に嫁ぐことにした時、私は彼を裏切ったと思った。それがずっと心残りで。だけど動機を。私のどうしようもない裏切りの動機をフェンサリルはちゃんとわかってくれていたんだ。

「っぐす。わたくしは…あなたにずっと謝りたかった!ごめんなさいフェンサリル!何も言わずに結婚を決めてごめんね!王太子より先にあなたがわたくしにプロポーズしてくれていたのに!それに返事さえしなかった!ごめんなさい!ごめんなさい!」

 涙がとまらなかった。女の涙はズルいから。だから誰の前でも泣かないってそう思ってたのに。フェンサリルの手が私の頭をそっと撫でてくれた。

「いいんだ、ジョゼーファ。いいんだよ。俺はお前の思いを知ってる。エゴではなく崇高な使命の為に自分の身を投げうったんだ。それは立派なことだ。謝らなくていいよ」

 フェンサリルは私をそっと抱き寄せた。たくましい腕。私の体をそっと包み込む彼の体の大きさ。ここにいてもいいと思える嬉しさ。暖かさがとても愛おしい。

「ジョゼーファ。俺と同じ夢を見てくれないか?」

「え?それはどういうこと?」

「幕府の士官は自由に副官を揃えられる権限がある。ジョゼーファをそれに任命する。いっしょだ。いつでも一緒にいられる。一緒に同じ夢を目指せる」

 いっしょだと言ってくれる。感じていた寂しさが吹き飛ぶようだった。たった今。この瞬間、甘くきつく抱きしめられて頭は痺れてるのに、未来さえも用意してくれるという。

「俺の力は及ばなかった。だから残念だけどお前の夢はもう叶わない。だけど俺はお前に新しい夢を見せてあげられる」

「フェンサリルぅ。わたくしはぁ…ああっ…!」

 私は彼の背中をぎゅっと抱きしめた。言葉なんかいらない。これでもう十分に伝わる。きっとこの人と過ごす未来は輝かしいものだ。共に世界を変える悦び。フェンサリルの器と私のサポートさえあれば初代の民選大君さえ夢想ではないかも知れない。

「ジョゼーファ…」

 彼の指が私の顎に触れた。ああ、もう無理だ。嫌なんて言えない。だからもう仕方がない・・・・・

「フェンサリル…」

 私は目を瞑る。言葉になんかしたくない。これでもう十分伝わってしまった。なによりフェンサリルが私の事を望んでる。だからもう仕方がない・・・・・

『本当にもう仕方がない?』

 そう。すべてはもう仕方がない。彼の唇が近づいてくる感覚を感じる。それはあまりにも甘美な予感で、抗う気力を奪うズルいテクニック。もうすぐ私たちの唇は重なる。だから、だからもう仕方がない・・・・・過去に流されていく。

『そう仕方がない・・・・・子ね。あなたって。でもね。もう忘れたの?あなたが世界を放っておいても、世界があなたを放ってはおいてくれないってことを!だからこれから先の出来事は!』

 どぅうううぅうううぅううううううん、と突然大きな音が響いて、地面が揺れた。地震かと思ったがここが船の上であることを思い出して一瞬にして体は臨戦態勢になってしまった。すぐに袴の下からコンパクトライフルを取りだして、スリングを肩にかけて構える。フェンサリルも剣帯から剣を抜いて私を守るように傍に立ってくれた。

「フェンサリル。今の音と振動。間違いなく」

「ああ、爆弾の類だ。これは事故じゃない。悪意を持った襲撃だ!!」

 そしてすぐに船のあちらこちらから爆発音や剣戟の音、あるいは魔法の炸裂音が響き渡り始める。そして人々の悲鳴。甘い逃避の旅は一瞬にして、いつもの地獄に逆戻りした。そして私はキスさえ知らずにまた戦場に戻ったのだ。

『全部全部全部!仕方がない・・・・・事になってしまうのよ!』

 そして何処か遠くで誰かがニヤリと悍ましく笑ったような気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

処理中です...