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第3章 略奪溺愛とか重すぎるので、逃げ出させていただきます!しかし回り込まれてしまった!
第17話 大抵の場合、王太子の傍にいるぶりっ子清楚系ビッチは、『恋』に足元を掬われる。
しおりを挟むフェンサリルは特殊部隊員たち相手にまだ戦っている最中だ。挑発して時間を稼ぐしかないな。
「あなたのことを見誤っていました。てっきり戦いなんて野蛮なことは殿方にまかせて銃後で蝶や花を楽しむようなレディーだと思ってましたからね」
「はっ!あんたもしかしてあたしのことをぐずかなんかだと思ってた?いつもニコニコして馴れ馴れしく男たちを惑わして媚びうることしか考えてないおバカな女の子だって思ってた?舐めるなジョゼーファ!!それこそお前が女のくせに女を舐めてる証拠なのよ!!」
怒鳴り声で一瞬体が怯んでしまった。
「あんたはあたしみたいな女を心底馬鹿にしてるんでしょうね?違う?いっとくけどあんたの方がずっと馬鹿よ。なんであんた自分で戦場を駆け抜けるの?男にできる仕事は男にやらせればいいのよ。わざわざ女がやる必要なんてない。男が勝ち取ってきた物の上前を撥ねれば良いだけなのにね。それができるのが女なのに」
「わたくしは自分のなすべきことを他人の手に委ねたくないだけです」
「違うわね。あんたは男に頼るのが下手なんでしょ。だって意志薄弱だから」
「違います」
「違わないわ。あんたは意志が弱いわ。他人の意志に流されやすい弱い女。よくいるわよね。誘われると断れない女。自覚あるんでしょ?」
「全然違います」
「図星ね。ねぇジョゼーファ?フェンサリルの奥さんになる妄想は愉しかったんじゃない?」
クスクスとミュレルは笑った。それが酷く私を苛立たせた。
「いい男よねフェンサリル。顔もいいし腕っぷしもある頭も切れる。幕府へ行っても出世街道に乗るんでしょうね。素敵ね。同期一番の出世頭。家庭想いのいい夫。あなたはそんな彼を健気に支える可愛い可愛い奥様!あなたは糟糠の妻でありながら、誰よりも美しい人に誇れる妻として君臨し続ける。あなたたちは誰もが羨むカップルで、いずれはこの社会の上にまで上り詰める。子共たちは可愛く、孫たちは栄えるでしょう。そんな退屈な幸せ。ああ、素敵よね」
別に誰だって傍にいる男と結婚したらどうなるんだろうと想像することくらいある。咎められるようなことじゃない。
「くだらない妄想はやめてください。それはわたくしの夢ではない。あなたの願望だ」
「いいえ。女の子すべてが望む野望よ。目を背けないでよジョゼーファ。あたしはあんたにチャンスを持ってきてあげたのよ」
この女になぜ女の代弁者を名乗る資格があろうというのか、だけど私はそう言葉にできなかった。私はこの女の言うことを認めたくないのに。
「チャンス?」
「そう。チャンス。あれを見て」
彼女が指さす先は雲海だった。そこに一隻の船が浮いていた。
「あんたにはあれをあげる。フェンサリルと一緒にあれに乗ってあたしから逃げなさい」
「へぇわざわざ逃げ道を用意してくれると?」
「ええ、あたしは寛大なの。あんたが悔い改めて普通の女の子っぽく生きていくならここで殺さないで許してあげる。そしてあたしたちはあんたの前に二度と姿を見せたりしない。結婚して幸せに生きて退屈な女になってちょうだい」
「退屈な女?退屈?」
「そうよ。退屈でありふれていてテンプレートでありきたりな幸せを掴んでよジョゼーファ。いいじゃない別に。仕方ないでしょ?だってあんたよりあたしの方が強いし、フェンサリルよりあたしの男の方がずっと強いんだもの!諦めていいのよジョゼーファ!仕方ないの!仕方ないんだからね!あはは!あはははは!!」
状況は私に圧倒的に不利だった。この船はすでに敵の制圧下に等しい。フェンサリルもラファティもファビオも足止めを喰らってる。そう仕方がない。だけど、私は我がままなんだ。だからこの選択は仕方がない!私はミュレルに向かってライフルの引き金を弾いた。銃声が甲板に広がる。
「なっ?!あんたバカなの?!あたしの!あたしの顔を狙うなんて!!」
銃弾はミュレルの頬を掠めた。スパっと切れた傷口から血がつつーっと流れて頬を赤く汚す。だが傷は聖女の特性で一瞬にして綺麗に治ってしまった。攻撃としてはあんまり意味がない。
「あら?せっかくお化粧のお手伝いをしてあげたのに。似合ってますよ!その頬紅!!」
「ふざけんな!!彼が傍にいるのよ!あたしの化粧を崩しやがって!!あの人にブスって思われたらどうしてくれるのよ!!」
ミュレルは鏡で自分の顔を見ながら必死にオペラグローブで血を拭っていた。
「あの人、あなたの彼。国王陛下ですね」
「そうよ。あたしはララミー様の女」
薄々そう思って居たけど、実際そう言われるとなかなかきつい。国王陛下はこの女にキスするのか。その先も…。その時彼はどんな顔をするんだろう。だけど。
「そんな奴がその息子に品つくっていたのかは今となってはどうでもいいですけどね。一つお忘れですかね?」
この女は目を背けてる。私は敵の心をいつもへし折る戦い方を心掛けている。私自身は暴力にそこまで優れているわけじゃないからだ。思い出させてやる。
「なに?!何が言いたいの?!」
「あなたの男はわたくしに夢中なんですよ。このわたくしにね!!あは!」
ミュレルが唇を噛んで私を睨む。酷く怖い顔。だけど同時に憐れな顔でもある。あんなに可愛くて皆に愛されるマルルーチェちゃんはこの私に嫉妬しているのだ。
「ああ…。彼はわたくしにこう言いましたね。面白い女と。ねぇマルルーチェ・ミュレル?あなたは面白い女って彼に言われたことありますか?」
「ぐぅぁっ…あ…っ」
声にならない苦悶の息が彼女の可愛らしい唇から漏れる。大変遺憾ながら国王陛下は私に夢中なのだ。理由はよくわからない。わからないなりに気持ち悪い部分もあるが、同時にどこか女として誇らしい気持ちになる部分もあるのは否定しない。もっともこのような残虐な虐殺まで引き起こすのだから国王陛下の気持ちを受け入れるつもりにはなれそうにない。だけど彼女は違う。とても惚れ込んでいる。普段はどんな男にも肩入れせず、ひらひらと男たちの間を優雅に飛び回るような女だったのに、たった一人の男の愛を欲しがって悶えてる。人は恋に狂う。それはとても恐ろしく、なによりも漬け込みやすい隙だった。
「銃剣突貫!!」
その隙を逃すほど私は子供じゃない。私は再び銃剣突撃を実行する。
「っ?!しまった?!」
私の銃剣は今度こそミュレルの心臓を捉え貫いた。駄目押しで引き金を弾いて心臓を銃弾でさらにグチャグチャにしてやる。
「ぎゃあああああああああああああああ!!!」
そして突撃の勢いそのままくらった彼女の体は吹っ飛んでいき、欄干に激突してその場に倒れ伏した。
「あまり優雅ではありませんが、わたくしの勝ちです。あなたがわたくしに負けたのは、女であることに拘り過ぎたことですね。はっ!」
敵の親玉は排除した。ここからが私たちの逆転の時だ!
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