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【覇道・新国家編】
北の星、永遠に
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西暦二〇二五年。
北海共和国・首都ハコダテ(旧・宇須岸)。
オホーツク海を見下ろす丘の上に、世界中から観光客が訪れる場所がある。
「建国の父記念公園」。
そこには、近未来的な摩天楼を背にして、二体の巨大なブロンズ像が立っている。
一人は、マントを翻し、水平線の彼方を指差す小柄な男。
もう一人は、その男を守るように背後に仁王立ちする、金砕棒を持った巨漢。
初代執政・源義経と、その忠臣・武蔵坊弁慶だ。
***
「……見てください。彼らが指差しているのは、南の日本(ジャパン)ではなく、北の大陸です」
公園のガイドが、修学旅行生たちに説明している。
生徒たちの制服は、和装と洋装が融合した独自のデザインだ。彼らの顔立ちも、和人、アイヌ、スラブ、そして中東系の血が混ざり合い、この国が「多民族の共生」によって成り立っていることを証明している。
「八百年前、義経公はここから旅立ち、二度と戻りませんでした。歴史の教科書には『行方不明』とありますが、近年の研究で驚くべき事実が判明しました」
ガイドは、空中にホログラム映像を投影した。
それは、モンゴル高原の奥地で発見された、ある洞窟の映像だった。
「昨年、モンゴルとの共同調査隊が、伝説の『ハン・ガンの隠れ家』を発見しました。……洞窟の入り口には、風化してなお立ち続ける巨人の骨が。そしてその奥には、一振りの太刀を抱いて眠る主人の骨がありました」
生徒たちが息を呑む。
「太刀の銘は『薄緑(うすみどり)』。科学鑑定の結果、それは間違いなく源義経公の愛刀でした。……彼らは、本当に大陸へ渡り、そこで生涯を終えるまで、モンゴルの背後を脅かす『抑止力』として戦い続けていたのです」
***
公園のベンチ。
一人の老人が、その説明を聞きながら缶コーヒーを飲んでいた。
彼は、この国の首相だ。公務の合間に、ふらりとここへ来るのが日課だった。
「……聞こえますか、父上」
首相は、義経像に向かって心の中で語りかけた。
今の北海共和国は、G7の一角を占める経済大国だ。
資源大国であり、高度な技術力を持ち、そして何より、世界で最も長い歴史を持つ「立憲共和制」の国。
鎌倉幕府が作った「法治主義」と、北海国が作った「民主主義」が融合し、日本列島は世界に先駆けて近代化を成し遂げた。
元寇も、黒船来航も、世界大戦も、この北の盾と南の矛が連携することで乗り越えてきた。
「あなたが作った『王のいない国』は、今も健在です。……多少、議会はうるさいですがね」
老人は苦笑し、空を見上げた。
今日のハコダテの空は、抜けるように青い。
空を飛ぶのは、最新鋭の航空機。その翼には、源氏の「笹竜胆(ささりんどう)」を意匠化した国章が輝いている。
***
――風が吹いた。
八百年前と同じ、少し塩辛く、冷たい風。
その風の中に、懐かしい声が混じった気がした。
『……悪くない景色だ』
ブロンズ像の視線の先。
時空を超えた場所に、二つの影が並んで立っていた。
三十代の姿のままの義経と、弁慶だ。
『見ろよ、弁慶。あれが俺たちの蒔いた種だ』
義経が笑う。
『ビルが建ち、車が走り、誰も飢えていない。……兄上が見たら、腰を抜かすだろうな』
『フン。派手好きな殿には、お似合いの国ですな』
弁慶が呆れたように、しかし誇らしげに鼻を鳴らす。
『そろそろ行くか』
義経が背伸びをした。
『この国の未来は、もうあいつらのものだ。俺たちが口出しすることじゃない』
『何処へ参りますか?』
『さあな。……だが、世界のどこかで、また面白いことが起きている気がする。新しい技術、見たことのない文化。……冒険の匂いがするぞ』
義経はニヤリと笑い、愛刀を腰に差した。
その瞳は、八百年前、鞍馬山を駆け下りたあの日のまま。
好奇心と、野心と、そして無限の自由に満ちていた。
『行くぞ、弁慶! 遅れるなよ!』
『やれやれ……。地獄の果てまで、お供仕る』
二つの影は、光の中に溶け込んでいった。
彼らは死んだのではない。
ただ、次の時代へ旅立ったのだ。
北の星が輝く限り、その伝説は終わらない。
天才・源義経。
彼は、歴史という名の広大な海を、今も自由に泳ぎ続けている。
完
北海共和国・首都ハコダテ(旧・宇須岸)。
オホーツク海を見下ろす丘の上に、世界中から観光客が訪れる場所がある。
「建国の父記念公園」。
そこには、近未来的な摩天楼を背にして、二体の巨大なブロンズ像が立っている。
一人は、マントを翻し、水平線の彼方を指差す小柄な男。
もう一人は、その男を守るように背後に仁王立ちする、金砕棒を持った巨漢。
初代執政・源義経と、その忠臣・武蔵坊弁慶だ。
***
「……見てください。彼らが指差しているのは、南の日本(ジャパン)ではなく、北の大陸です」
公園のガイドが、修学旅行生たちに説明している。
生徒たちの制服は、和装と洋装が融合した独自のデザインだ。彼らの顔立ちも、和人、アイヌ、スラブ、そして中東系の血が混ざり合い、この国が「多民族の共生」によって成り立っていることを証明している。
「八百年前、義経公はここから旅立ち、二度と戻りませんでした。歴史の教科書には『行方不明』とありますが、近年の研究で驚くべき事実が判明しました」
ガイドは、空中にホログラム映像を投影した。
それは、モンゴル高原の奥地で発見された、ある洞窟の映像だった。
「昨年、モンゴルとの共同調査隊が、伝説の『ハン・ガンの隠れ家』を発見しました。……洞窟の入り口には、風化してなお立ち続ける巨人の骨が。そしてその奥には、一振りの太刀を抱いて眠る主人の骨がありました」
生徒たちが息を呑む。
「太刀の銘は『薄緑(うすみどり)』。科学鑑定の結果、それは間違いなく源義経公の愛刀でした。……彼らは、本当に大陸へ渡り、そこで生涯を終えるまで、モンゴルの背後を脅かす『抑止力』として戦い続けていたのです」
***
公園のベンチ。
一人の老人が、その説明を聞きながら缶コーヒーを飲んでいた。
彼は、この国の首相だ。公務の合間に、ふらりとここへ来るのが日課だった。
「……聞こえますか、父上」
首相は、義経像に向かって心の中で語りかけた。
今の北海共和国は、G7の一角を占める経済大国だ。
資源大国であり、高度な技術力を持ち、そして何より、世界で最も長い歴史を持つ「立憲共和制」の国。
鎌倉幕府が作った「法治主義」と、北海国が作った「民主主義」が融合し、日本列島は世界に先駆けて近代化を成し遂げた。
元寇も、黒船来航も、世界大戦も、この北の盾と南の矛が連携することで乗り越えてきた。
「あなたが作った『王のいない国』は、今も健在です。……多少、議会はうるさいですがね」
老人は苦笑し、空を見上げた。
今日のハコダテの空は、抜けるように青い。
空を飛ぶのは、最新鋭の航空機。その翼には、源氏の「笹竜胆(ささりんどう)」を意匠化した国章が輝いている。
***
――風が吹いた。
八百年前と同じ、少し塩辛く、冷たい風。
その風の中に、懐かしい声が混じった気がした。
『……悪くない景色だ』
ブロンズ像の視線の先。
時空を超えた場所に、二つの影が並んで立っていた。
三十代の姿のままの義経と、弁慶だ。
『見ろよ、弁慶。あれが俺たちの蒔いた種だ』
義経が笑う。
『ビルが建ち、車が走り、誰も飢えていない。……兄上が見たら、腰を抜かすだろうな』
『フン。派手好きな殿には、お似合いの国ですな』
弁慶が呆れたように、しかし誇らしげに鼻を鳴らす。
『そろそろ行くか』
義経が背伸びをした。
『この国の未来は、もうあいつらのものだ。俺たちが口出しすることじゃない』
『何処へ参りますか?』
『さあな。……だが、世界のどこかで、また面白いことが起きている気がする。新しい技術、見たことのない文化。……冒険の匂いがするぞ』
義経はニヤリと笑い、愛刀を腰に差した。
その瞳は、八百年前、鞍馬山を駆け下りたあの日のまま。
好奇心と、野心と、そして無限の自由に満ちていた。
『行くぞ、弁慶! 遅れるなよ!』
『やれやれ……。地獄の果てまで、お供仕る』
二つの影は、光の中に溶け込んでいった。
彼らは死んだのではない。
ただ、次の時代へ旅立ったのだ。
北の星が輝く限り、その伝説は終わらない。
天才・源義経。
彼は、歴史という名の広大な海を、今も自由に泳ぎ続けている。
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