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第1章 その翼は何色に染まるのか
8話 上司来訪
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「ごめんなさい。思ったより時間がかかって」
電話をしてから2時間。灯真の家にやってきたのは、ポニーテールにまとめられた長く艶のある栗毛と、母親似だというエメラルドグリーンのキリッとしたつり目を持ったスーツ姿の女性であった。幼少期より優れた才能を発揮し、16歳という若さでありながら調査機関日本支部長に任命された優秀な魔法使い、あきら・ノーブル・君島その人である。灯真も年齢を聞いたときに驚いたが、大人びた顔立ちは化粧と相まって何度見ても年相応には見えない。
「まずは彼女に会わせてちょうだい」
「こっちです」
部屋の前まで案内し扉をノックするが反応がない。契約の恩恵もあってエルフが部屋の中にいることは灯真の方で把握しているが、眠ってしまったのかもしれない。そう思いゆっくりと扉を開けると、彼女は上半身を起こして窓の外、空をじっと眺めていた。何かあるわけではない。ゆっくりと動く小さな雲の様子を、時折現れる鳥や飛行機の姿を興味深く見ていてノックに気がつかなかったようだ。
「どういうこと?どうしたらこんなことに……」
エルフの姿を見て、君島は少し驚いた様子を見せた。彼女をそうさせたのは、エルフの体から感じ取れる魔力だ。
(やはり君島さんにはわかるんだな)
通常他人の魔力を感知するには、相手の肌に直接触れることが必要である。そうすることで初めて、魂と肉体を繋げている糸を流れる魔力を感じ取ることができる。
しかし極稀に、離れた位置からでも他人の魔力を完全に感知できる者がいる。世界でも10人程度しか確認されていないのだが、その一人である君島にはエルフの体から溢れ続けている魔力が見えていた。
「原因はわからないんですが、魔力がずっと体から少量溢れてしまってるようで」
「東洋の『仙術』に、魔力を使って肉体を活性化させる技があるわ。その訓練の時になる状態と、とてもよく似てる。でもそれがずっとなんて……1日中このままなの?」
「調べた限りでは、起きてる間も寝てる間もこの状態のままですね」
『仙術』とは魔法と違い、魔力の特性そのものを研究し発展させた東洋独自の学問である。灯真の使った探知もこの仙術の一つだ。彼女が言ったのは仙術の中でも『活性』と呼ぶ技のことで、魔法使いたちの言葉では『ヴァナティシオ』と呼ぶ。
これは魂とつながる糸を通じて肉体に魔力を注ぐと細胞が活性化するという特性を利用した技で、肉体の自然治癒力を高めて怪我や病気を治したり、力を増幅させたり、老化を抑えられるとも言われている。ただし、魔力の永続消費というリスクが非常に大きく、繊細な魔力操作ができる人でなければ有効活用は難しい。君島のいう通り、極めた者だけができる技である。
「そういえば如月さん、彼女の状態がわかるの?」
目の前の女性に集中して聞き逃すところだったが、灯真の発言は明らかに彼女の体の状態を理解しているかのようだった。彼が他人の魔力を感知できる能力者であるという情報はない。
「君島さんみたいに直接感じ取ってるわけじゃないです。探知を使って……」
肉体と同じく魔力にも抵抗が存在し、自分の魔力を広げる探知を用いることで他人の魔力の存在も知ることできる。そうやって灯真はエルフの体に起こっている状態を把握しているのだが、君島の驚いた表情を見て彼は職場の人間に探知が使えることを伏せていたのだと思い出した。
「如月さんって仙術を学んだことあったのね」
「いいえ……その……昔、知り合いにこれだけ教えてもらってて……仙術っていうのは勉強したことないです」
この技は理論は分かっていても、調べたい範囲が広ければそれだけ多く魔力を消費するという点、そして魔力抵抗のあるもの(生物の肉体、他人の魔力や使われている魔法)しか感知できないという点で評判が悪く、習得する者は限られている。そういった技術を持っていると知られて目立つのを避けるために隠していたのだが、こんなところで自分から白状してしまうとは思ってもみず、内心やってしまったと灯真は思った。
「そう……でも、確かにそれなら彼女の状態を把握できても不思議じゃないか」
その単語自体耳にするのも数年振りで一瞬驚いた君島であったが、彼女のような特殊な能力を持っていない灯真がエルフの状態を細かく把握する手段としては、最善だっただろうと感心した。土屋主任からの評価が高かったのも肯ける。
「あっ……あの……」
二人のやりとりを耳にして、エルフは灯真たちが部屋に入ってきたことに気付いていたが、声をかけるタイミングを見失っていた。ようやく話がひと段落したところを見計らって彼女が声を出すと、君島は振り返りエルフをまじまじと見つめた。耳は長くないし肌は白くないし、見た目は普通の人間のようだ。
「声もかけずにごめんなさいね」
持っていたカバンを床に置くと、君島はベットサイドに置かれていた椅子に腰掛けた。エルフは緊張からか、手元にある布団を強く握りしめている。
「君島あきらと言います。体の調子はどう?」
先ほどまで灯真に見せていたのとは一変して、君島は優しい眼差しをエルフに向けた。それは灯真が見たことのある、仕事での営業スマイルともまた少し違う雰囲気であった。
「大丈夫……です。もう動けます」
君島に怯えているのか、エルフは目線を下に逸らして答えた。
「よかった。でも、いつまた同じ状態になるかわからないわ。だからしばらくは安静にしてもらって……」
「あっ、それについては大丈夫だと思います」
後ろから聞こえた灯真の言葉に君島は耳を疑った。
「彼女の状態は明らかに異常よ。もしかしたら魔法暴走になってる可能性だって」
「これを使って俺の魔力を彼女にシェアできるようにしました。今以上の消費をしなければ何とかなります」
そういって彼が見せたのは、エルフを救うために使った魔道具であった。
「これは?」
「契約を記録した魔道具です」
「契約って……如月さんどこで……」
彼の言葉が本当だとすれば、今見せられているのは協会にも保管されていない非常に貴重な魔道具である。どうしてそんなものを彼が持っているのか……質問を続けようとした君島だったが、上司から言われたことを思い出した。
『彼のプライベートについて余計な詮索をしないでくれ。これは調査機関の長としての命令だ。日本支部のみんなにも共有しておいてくれ』
灯真が一体何者なのかは君島にも知らされていない。魔法の能力が高いわけではないし、他人の魔力を感知できる君島のような能力を有しているわけでもない。余程珍しい魔法を使えるのかと言われればそうでもない。灯真の仕事ぶりは評価できるが、職場のトップからの指示には未だ疑念を抱いている。
「それを……使ったの?」
「はい。それ以外に彼女の状態を救う手段が浮かばなかったもので」
灯真はここで、君島に「エルフを名乗る女性を保護した」ということしか伝えていないことを思い出し、改めて彼女を助けた時の状況を詳しく伝えた。
「如月さんは大丈夫なの? 彼女の不足分を自分の魔力を分け与えて乗り切ったってことでしょ。そんなことしたら意識を失ってもおかしくないのに」
「他に手段がなかったので……当日は家に帰るのがやっとでしたけど、もう日常生活に支障ないですし、彼女の魔力生産量が追い付いたんでしょうか」
魂は肉体と違って加齢によって衰えることはなく、鍛錬を積めば成長を続けて作り出せる魔力の量も増える。しかし、魔法使いとして目覚めたのが20歳を過ぎてからと比較的遅咲きであったことや、今の職に就くまで魔法とは無関係の仕事をしていた灯真の経歴を考えると、二人分の生命維持を可能にするほど魔力を作れるとは考えにくかった。
(たとえ生まれつき高い能力があっても、ちゃんと訓練してこなければ平均的なレベルを超えるはずがない。何をしたらそんなことに……)
わからないことは多いがこれ以上考えても無駄だと感じた君島は、それ以上の追求を諦めた。
「……見つけてくれたのが如月さんでよかったわ。他の人だったらどうにもできなかったもの」
君島はため息を吐きつつ調査機関にいる全ての従業員を想像してみるが、おそらく灯真以外が見つけていたら彼女は助からなかっただろうと思った。
「見つけたのが自分じゃなくても、彼女は助かったと思います。紅野さんとか」
「そんなわけないでしょう」
紅野幸路という男の能力は、君島も高く評価している。魔法使いとしても調査員としても優秀な人材だ。
「彼女が助かったのは、その超レア物魔道具のおかげよ。それがなければどうにもならなかったわ。それに、仮に持っていたとしてもあなたと同じことを紅野さんがしたら、この人を助けるどころか彼が倒れてしまってるわ」
「そんなはずは……だって現に俺は無事ですし、魔法使いとしてのキャリアを考えれば魔力量は他の人の方が多いと思うんですが……」
灯真は自分の持っている道具の希少価値も、自身の魔力量の異常さもイマイチ理解していない様子だ。そんな彼の様子に目を細めて呆れる君島だったが、咳払いをしてエルフの少女の方を向く。
「ごめんなさい。私たちだけで話してしまって。少し聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」
「……はい」
「如月さんからあなたがエルフだと聞いたのだけど、間違いない?」
「はい……」
「エルフを生むための母体だという話も?」
「そう……です。そのために私は作られました」
「なるほど……如月さんはどう思ってるの?」
君島の言わんとすることは灯真も理解していた。身元不明の女性に突然エルフだと言われて信じる人は普通いない。さっさと警察に引き渡して終わりである。
「彼女は嘘を言っていないと思います。契約で繋がっているからだと思うんですが……」
「私も禁止魔法の資料でしか知らないんだけど、本当にわかるものなの?」
「感覚的な話でしかないんですが、彼女の心というか感情というか、そういうのが伝わってくるんですよ。どう表現するのが的確か俺にもわからないんですが…」
契約を使用した場合に相手と心をつなげるという情報はあるのだが、禁止されているがゆえに実際にどういった効果があるかまではわかっていない。
「如月さんを疑うわけじゃないけど、今すぐ断定するのは早い気がする。ちょっと上の判断を仰ぎましょう。彼女を警察に渡しても、結局私たちの方に依頼が来そうだし」
「わかりました」
灯真も君島の言い分は理解できた。彼女が嘘をついていないとしても、思い込みの可能性だって考えられるからだ。
電話をしてから2時間。灯真の家にやってきたのは、ポニーテールにまとめられた長く艶のある栗毛と、母親似だというエメラルドグリーンのキリッとしたつり目を持ったスーツ姿の女性であった。幼少期より優れた才能を発揮し、16歳という若さでありながら調査機関日本支部長に任命された優秀な魔法使い、あきら・ノーブル・君島その人である。灯真も年齢を聞いたときに驚いたが、大人びた顔立ちは化粧と相まって何度見ても年相応には見えない。
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「どういうこと?どうしたらこんなことに……」
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(やはり君島さんにはわかるんだな)
通常他人の魔力を感知するには、相手の肌に直接触れることが必要である。そうすることで初めて、魂と肉体を繋げている糸を流れる魔力を感じ取ることができる。
しかし極稀に、離れた位置からでも他人の魔力を完全に感知できる者がいる。世界でも10人程度しか確認されていないのだが、その一人である君島にはエルフの体から溢れ続けている魔力が見えていた。
「原因はわからないんですが、魔力がずっと体から少量溢れてしまってるようで」
「東洋の『仙術』に、魔力を使って肉体を活性化させる技があるわ。その訓練の時になる状態と、とてもよく似てる。でもそれがずっとなんて……1日中このままなの?」
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これは魂とつながる糸を通じて肉体に魔力を注ぐと細胞が活性化するという特性を利用した技で、肉体の自然治癒力を高めて怪我や病気を治したり、力を増幅させたり、老化を抑えられるとも言われている。ただし、魔力の永続消費というリスクが非常に大きく、繊細な魔力操作ができる人でなければ有効活用は難しい。君島のいう通り、極めた者だけができる技である。
「そういえば如月さん、彼女の状態がわかるの?」
目の前の女性に集中して聞き逃すところだったが、灯真の発言は明らかに彼女の体の状態を理解しているかのようだった。彼が他人の魔力を感知できる能力者であるという情報はない。
「君島さんみたいに直接感じ取ってるわけじゃないです。探知を使って……」
肉体と同じく魔力にも抵抗が存在し、自分の魔力を広げる探知を用いることで他人の魔力の存在も知ることできる。そうやって灯真はエルフの体に起こっている状態を把握しているのだが、君島の驚いた表情を見て彼は職場の人間に探知が使えることを伏せていたのだと思い出した。
「如月さんって仙術を学んだことあったのね」
「いいえ……その……昔、知り合いにこれだけ教えてもらってて……仙術っていうのは勉強したことないです」
この技は理論は分かっていても、調べたい範囲が広ければそれだけ多く魔力を消費するという点、そして魔力抵抗のあるもの(生物の肉体、他人の魔力や使われている魔法)しか感知できないという点で評判が悪く、習得する者は限られている。そういった技術を持っていると知られて目立つのを避けるために隠していたのだが、こんなところで自分から白状してしまうとは思ってもみず、内心やってしまったと灯真は思った。
「そう……でも、確かにそれなら彼女の状態を把握できても不思議じゃないか」
その単語自体耳にするのも数年振りで一瞬驚いた君島であったが、彼女のような特殊な能力を持っていない灯真がエルフの状態を細かく把握する手段としては、最善だっただろうと感心した。土屋主任からの評価が高かったのも肯ける。
「あっ……あの……」
二人のやりとりを耳にして、エルフは灯真たちが部屋に入ってきたことに気付いていたが、声をかけるタイミングを見失っていた。ようやく話がひと段落したところを見計らって彼女が声を出すと、君島は振り返りエルフをまじまじと見つめた。耳は長くないし肌は白くないし、見た目は普通の人間のようだ。
「声もかけずにごめんなさいね」
持っていたカバンを床に置くと、君島はベットサイドに置かれていた椅子に腰掛けた。エルフは緊張からか、手元にある布団を強く握りしめている。
「君島あきらと言います。体の調子はどう?」
先ほどまで灯真に見せていたのとは一変して、君島は優しい眼差しをエルフに向けた。それは灯真が見たことのある、仕事での営業スマイルともまた少し違う雰囲気であった。
「大丈夫……です。もう動けます」
君島に怯えているのか、エルフは目線を下に逸らして答えた。
「よかった。でも、いつまた同じ状態になるかわからないわ。だからしばらくは安静にしてもらって……」
「あっ、それについては大丈夫だと思います」
後ろから聞こえた灯真の言葉に君島は耳を疑った。
「彼女の状態は明らかに異常よ。もしかしたら魔法暴走になってる可能性だって」
「これを使って俺の魔力を彼女にシェアできるようにしました。今以上の消費をしなければ何とかなります」
そういって彼が見せたのは、エルフを救うために使った魔道具であった。
「これは?」
「契約を記録した魔道具です」
「契約って……如月さんどこで……」
彼の言葉が本当だとすれば、今見せられているのは協会にも保管されていない非常に貴重な魔道具である。どうしてそんなものを彼が持っているのか……質問を続けようとした君島だったが、上司から言われたことを思い出した。
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灯真が一体何者なのかは君島にも知らされていない。魔法の能力が高いわけではないし、他人の魔力を感知できる君島のような能力を有しているわけでもない。余程珍しい魔法を使えるのかと言われればそうでもない。灯真の仕事ぶりは評価できるが、職場のトップからの指示には未だ疑念を抱いている。
「それを……使ったの?」
「はい。それ以外に彼女の状態を救う手段が浮かばなかったもので」
灯真はここで、君島に「エルフを名乗る女性を保護した」ということしか伝えていないことを思い出し、改めて彼女を助けた時の状況を詳しく伝えた。
「如月さんは大丈夫なの? 彼女の不足分を自分の魔力を分け与えて乗り切ったってことでしょ。そんなことしたら意識を失ってもおかしくないのに」
「他に手段がなかったので……当日は家に帰るのがやっとでしたけど、もう日常生活に支障ないですし、彼女の魔力生産量が追い付いたんでしょうか」
魂は肉体と違って加齢によって衰えることはなく、鍛錬を積めば成長を続けて作り出せる魔力の量も増える。しかし、魔法使いとして目覚めたのが20歳を過ぎてからと比較的遅咲きであったことや、今の職に就くまで魔法とは無関係の仕事をしていた灯真の経歴を考えると、二人分の生命維持を可能にするほど魔力を作れるとは考えにくかった。
(たとえ生まれつき高い能力があっても、ちゃんと訓練してこなければ平均的なレベルを超えるはずがない。何をしたらそんなことに……)
わからないことは多いがこれ以上考えても無駄だと感じた君島は、それ以上の追求を諦めた。
「……見つけてくれたのが如月さんでよかったわ。他の人だったらどうにもできなかったもの」
君島はため息を吐きつつ調査機関にいる全ての従業員を想像してみるが、おそらく灯真以外が見つけていたら彼女は助からなかっただろうと思った。
「見つけたのが自分じゃなくても、彼女は助かったと思います。紅野さんとか」
「そんなわけないでしょう」
紅野幸路という男の能力は、君島も高く評価している。魔法使いとしても調査員としても優秀な人材だ。
「彼女が助かったのは、その超レア物魔道具のおかげよ。それがなければどうにもならなかったわ。それに、仮に持っていたとしてもあなたと同じことを紅野さんがしたら、この人を助けるどころか彼が倒れてしまってるわ」
「そんなはずは……だって現に俺は無事ですし、魔法使いとしてのキャリアを考えれば魔力量は他の人の方が多いと思うんですが……」
灯真は自分の持っている道具の希少価値も、自身の魔力量の異常さもイマイチ理解していない様子だ。そんな彼の様子に目を細めて呆れる君島だったが、咳払いをしてエルフの少女の方を向く。
「ごめんなさい。私たちだけで話してしまって。少し聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」
「……はい」
「如月さんからあなたがエルフだと聞いたのだけど、間違いない?」
「はい……」
「エルフを生むための母体だという話も?」
「そう……です。そのために私は作られました」
「なるほど……如月さんはどう思ってるの?」
君島の言わんとすることは灯真も理解していた。身元不明の女性に突然エルフだと言われて信じる人は普通いない。さっさと警察に引き渡して終わりである。
「彼女は嘘を言っていないと思います。契約で繋がっているからだと思うんですが……」
「私も禁止魔法の資料でしか知らないんだけど、本当にわかるものなの?」
「感覚的な話でしかないんですが、彼女の心というか感情というか、そういうのが伝わってくるんですよ。どう表現するのが的確か俺にもわからないんですが…」
契約を使用した場合に相手と心をつなげるという情報はあるのだが、禁止されているがゆえに実際にどういった効果があるかまではわかっていない。
「如月さんを疑うわけじゃないけど、今すぐ断定するのは早い気がする。ちょっと上の判断を仰ぎましょう。彼女を警察に渡しても、結局私たちの方に依頼が来そうだし」
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