🐱山猫ヨル先生の妖(あやかし)薬学医術之覚書~外伝は椿と半妖の初恋

蟻の背中

文字の大きさ
42 / 51
初恋と命運

触穢(しょくえ)

しおりを挟む

 工務店の主人が鎮石にドリルをあてながら何かを叫んでいる。

「この下にあるんだ、この下にぃぃい!!きんが、あるんだ!!」

「やめろ!!」

 黒い山猫に変化したヨルが工務店の主人に飛びかかった。
 主人は吹っ飛ばされて地面に落ち、気を失ったか、その場に倒れた。

「ヨル先生……こ、これは本気でヤバそう!!」

 梵天が暴れるドリルを取り押さえ電源を切った。そして鎮石から流れ出る泥水を避けるように跳びはねながら叫ぶ。

「いったいナンでこんなことにっ!!!」

 倒れたと思っていた主人が置き上がり、梵天を後ろから蹴り飛ばした。

「うわぁっ!!」

 梵天からドリルを奪った主人は、また電源を入れ石に突き刺す。

 実央がその様子を見てオロオロする。

「まずい、下に封じ込めてある穢れが!!」

 鎮石にあいた穴から黒い泥のような液体がジワジワと流れ出て、やがて石に亀裂が入り泥はそこから噴水のように高く吹き上がった。

 庭に出てきた実央は吹き上がる黒い泥水を呆然と仰ぎ見ている。

「実央君!触穢しょくえするぞ!!!」

「しょ、くえ?!」

 ヨルもそれを避けながらピョンピョンと飛んでいる。

「あれに触るなってこと!!」

 梵天が実央の手を引いてひさしの下へと引っ張った。

「ヨル先生!!もう無理ですって、どうにも出来ない!!」

「でも、なんとかしないと!!」

 そのとき、グラグラと地面が揺れた。

「地震?!」

 足元からドンっと突き上げるような揺れがあり、その後に大きく横に揺れている。

「ダメだ、もう、もたない!!彼を家の中へ!!」

 ヨルに言われ、梵天は実央を連れて出窓から家の中へ入った。

 ヨルは工務店の主人を石から引き離そうとするが、主人はドリルを振り回し激しく抵抗している。

 再び地が揺れる。
 突き上げるような縦揺れが何度も起こる。

「家全体に結界が張ってある、ここは大丈夫」

 梵天は窓を閉じ実央を見て言う。

「あれが、ヨル先生のアヤカシの姿なのか……て、眺めてる場合か?!それより早く助けないと!」

 主人は鬼気迫る勢いでヨルにドリルの先を向けている。

「鈴木君はここにいて、物凄く危険だから。それにしても……あの石の周りにも結界が張ってあったはずなのに」

 梵天が忌々しそうに言う。

「あの人様子がおかしいよ。変化したヨル先生が見えているのはどういうこと?普通の人には姿現化していないと見えないんじゃないの?」

 地震のせいかそうこうしている間に鎮石が完全に割れた。
 中からニュルりと黒く細長い物が顔を出した。
 頭に角が二本、耳の辺りにはヒレのようなモノがあり、大きな口の下には長く尖ったヒゲが生えていた。

「あれは……龍?」

 続けて黒い頭の下が出てくる。
 細長い身体には手足がついていて、更に石を割り無理矢理這い出してくる。

 実央はそれの禍々しさに身震いする。

「終わった……喰われる、みんな穢れに飲み込まれる」

 梵天は獣の姿に戻り頭を抱え小さくなって震えた。

 ヨルは主人と格闘しながら、その姿に目を見開いた。

楽鬼ラキさん……」



 ちょうど昼休みだった。

 午前中の試験を終え、椿は弁当を出そうとリュックのファスナーに手をかけていた。

 そこに、大きな地震が起こった。

 足元から突き上げるような揺れが二回続けてあり、その後横に大きく揺れた。

 高いビルの上は地上よりもさらに大きく揺れる。
 まるで、船に乗っているかのように右へ左へぐるりと回り酔いそうだ。

 あまりに大きな揺れのため、あちこちから小さな悲鳴が上がった。

 机の下に隠れる者、呆然と天井を眺める者、携帯で情報を探す者。

 そんな中で、椿は窓の外を見ていた。

 椿がいる試験会場は大学の最上階の講堂で18階。

 地上は遥かに下、人や車が小さく見えるような高さだ。

 その高さを悠々と駆けるように飛んでいく白い獣がいた。

 大きな翼を時折羽ばたかせ、その余力で滑空する。

 背中には手に長い棒を握った人が乗っている。

「臥鐵さん、顛さん……?」

 二人は建物のすぐ近くを飛んでいった。椿と同じ18階の高さと水平に飛行していく。

 椿はその行方を目で追った。

「みなさん、落ち着いて。その場に待機してください!この建物は安全です!!」

 試験のスタッフや職員が叫び、放送が入った。

「只今、関東地方を中心に震度6弱の地震がありました、受験生の皆さんは落ち着いてその場に待機するように、この建物は安全です、教室の外へは出ないようにお願いします」

 みんな不安そうに辺りを見回して携帯を見始める。
 関東地方に震度6弱、そんな見出しのニュースが並び始めた。


☆☆☆
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

迦国あやかし後宮譚

シアノ
キャラ文芸
旧題 「茉莉花の蕾は後宮で花開く 〜妃に選ばれた理由なんて私が一番知りたい〜 」 第13回恋愛大賞編集部賞受賞作 タイトルを変更し、「迦国あやかし後宮譚」として5巻まで刊行。大団円で完結となりました。 コミカライズもアルファノルンコミックスより全3巻発売中です! 妾腹の生まれのため義母から疎まれ、厳しい生活を強いられている莉珠。なんとかこの状況から抜け出したいと考えた彼女は、後宮の宮女になろうと決意をし、家を出る。だが宮女試験の場で、謎の美丈夫から「見つけた」と詰め寄られたかと思ったら、そのまま宮女を飛び越して、皇帝の妃に選ばれてしまった! わけもわからぬままに煌びやかな後宮で暮らすことになった莉珠。しかも後宮には妖たちが驚くほどたくさんいて……!?

翡翠の歌姫と2人の王子〜エスカレートする中傷と罠が孤児の少女を襲う【中華×サスペンス×切ない恋】

雪城 冴 (ゆきしろ さえ)
キャラ文芸
 次は一体何が起きるの!? 孤児の少女はエスカレートする誹謗中傷や妨害に耐えられるのか?  約束の記憶を失った翠蓮(スイレン)は、歌だけを頼りに宮廷歌姫のオーディションへ挑む。  しかしその才能は早くも権力の目に留まり、後宮の派閥争いにまで発展する。    一方、真逆なタイプの2人の王子・蒼瑛と炎辰は、熾烈な皇位争いを繰り広げる。その中心にはいつも翠蓮がいた。  彼に対する気持ちは、尊敬? 憧れ? それとも――忘れてしまった " あの約束 " なのか。  すれ違いながら惹かれ合う二人。はらはらドキドキの【中華×サスペンス×切ない恋】

白苑後宮の薬膳女官

絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。 ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。 薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。 静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫(299)
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/  香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。  ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……  その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。  香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。  彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。  テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。  後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。  シリアス成分が少し多めとなっています。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

処理中です...