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お城妖精のお仕事日報及び雑記
棺が開くとき
しおりを挟む「わ、わっ!!」
リアムは鍵のついた鎖を自分の首から外して、火を消そうと振り回した。
「ルビーが!! ダイヤが!!」
鍵に施された装飾の紅玉までが、青い炎に包まれあっという間に消えてしまう。
「くっそ、お宝のダイヤが消えるなんて、なんだよ、これ!!」
鎖を伝い這い上がってくる炎がリアムの指先に迫った。リアムはすぐに鎖を放り投げた。
鍵は床に落ちる前に跡形もなく消えてしまった。
「棺の鍵が……」
リアムは把手に手をかけ扉を開けようと試みた。
ガチャり、手応えがあった。
鍵が開いている……? そんな馬鹿な。
半信半疑で扉を押してみる。
するとやはり鉄の板はなんの抵抗もなく開いたのだ。
今朝、自分はちゃんと鍵をかけたはずだ。
何度思い返しても、その記憶は確実にある。
「嘘だろ……」
リアムは部屋に入るなり立ち竦んだ。
目に入ってきたその光景が、リアムの頭をひどく混乱させた。
リアムはパチっと指を鳴らし、室内全部の蝋燭に火を入れた。
暗闇でも見えてはいるが、やはり明るくした方がよく見渡せる。
シリシアンの棺の蓋が開いている。
蓋は棺の傍らに落ちて、裏側は天井を向いている。リアムはそれを初めて見た。
棺の裏もまた表側と同じように漆が塗られ艶々に仕上げられていた。まるで鏡のように曇りがない。
棺を縛っていたはずの鎖が切れている。
鎖は粉々に飛び散ったようで、絢爛な絨毯の上、あちらこちらに無意味な欠片になり落ちていた。
「?!」
リアムはその異常な状況をうまく飲み込めず、暫く無言で棺を眺める。
「あ、あれ?」
ようやく棺のなかに主の姿がないことに気づく。
「シリシアン?」
棺の傍に転がっているクマのぬいぐるみを拾いあげその黒い目と、からっぽの棺を交互に見つめる。
「おい、おまえの兄さんは……いったい、どこへ行ったんだ?」
そう訊ねたところで、テディベアが答えるわけもない。
誰かが侵入した?? もしかして、シリシアンは何者かに連れ去られたのか??
「誰かって誰だよ。そんなわけない……」
この場所へ来るには、この真上にあるシリシアンの部屋を通らないと来られないのだ。
あの部屋には主よりもずっと長いこと住んでいるウソラが、万が一にも侵入者に気付かない筈がない。
不可能だ。
だと、すれば……この部屋の鍵を壊し、シリシアンの棺を開けた何者かがまだこの部屋のなかにいるのではないか?
リアムはようやくやっと、そこまでの思考にたどり着き、その何者かの気配を探した。
ゆらり。
リアムは視界の端でなにかが動くのを見た。
「シリシアン?」
反射的にそこへ視線を移した。
黒い鏡のような棺の裏側。
床に寝ているその鏡面に、蝋燭の灯りが映りこみ、それが揺らいでいたのだとわかる。
なんだ天井の灯りか。
リアムは天井からぶら下がる沢山の蝋燭の灯る環を見上げた。
「ん?」
天井の角に何かある。
蝋燭の灯りの届かない薄暗い部屋の角だ。
大きな黒いもの。燭の火を恐れた小さな影たちが寄り集まっているように見えた。
いつもは暗い室内が急に明るくなり、それで戸惑いかたまっているのだろう、と。
「おい、お前ら、主様がどこへ行ったか知らないか?」
リアムはその黒い塊へ向かって声をかけた。
「いったい、何があったんだ?」
塊が少しだけ動いたように見えた。
「いつもは煩いくらい話すくせに」
リアムは浮かれていて気付いていなかったが、この部屋から逃げるように出ていく影の住人達とはついさっき階段ですれ違っている。
「おい、なんとか言えよ!」
リアムは部屋の角へ数歩向かった。
四歩進んだところで足がとまる。
最初に見えたのは天鵞絨のような黒い布だった。
なにかを覆っているようだ。
あんな高いところになにかあっただろうか。
竜の頭とか、そういうものなら、この城のあちらこちらに飾られているしな。
それで、影に潜むやつらでないことだけはリアムにもわかった。
リアムはさらに近寄ってそれを見上げた。
黒い幕は卵型をしていた。
天井とも壁とも、どこにもその接点はなくぷかりと浮いている。
翼だ、いや皮膜か。
黒く薄い皮膜の内側に綺麗に並ぶ細い骨、そこから血管のようなものが幾筋か伸びているのが見て取れた。それはまるで半分折りたたまれた傘のような、鉤爪のある……
「怪物
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本当に、ありがとうございます。
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