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14.昔話

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「このまま続きするけど…いいよな?」
「待って…お願いっ…」
ハーラルトが私に口付けしようとして来た所で、私が止めた。

さすがにこれ以上進むのはまずいと思った。
私はハーラルトの恋人でもなければ、婚約者でもない。
ハーラルトは私の事を好きだと言ってくれてはいるけど、本当にそれを信じていいのかな。

また信じて…裏切られたら?
そう思うと簡単には信じる事なんて出来なかった。

ハーラルトの事、きっと私は好きになりかけている。
一緒にいて楽しいし、いつも私の傍に居てくれる。
傍にいてくれると安心するし、強引だけど優しくて…。

だけど、ハーラルトはこの国の王子で私なんかとは住む世界が違う。
これ以上好きになる前に、離れた方がいいのかもしれない。

もう同じことを繰り返したくない…!


「……どうして泣いているのか聞いてもいいか?」
ハーラルトは私を宥める様に優しい口調で問いかけ、私の涙を指で拭ってくれた。
だけど涙は拭っても拭っても溢れてくる。

「……私、信じるのが怖いんです…だから…もう私に優しくしないでください」
「僕が信じられないか?」

「ハーラルト様は私の事、本当に…好きなんですか?」
「好きだよ、前にも伝えたけど君の事はずっと前から好きだった。もちろん今はもっと好きになったけどな」
その言葉を聞くと胸の奥が熱くなる。
嬉しいけど、苦しい。
そんな感情が私の中で渦巻いていた。

「そんなの…信じられないです。言葉ならなんとでも言えるじゃないですかっ…」
「それなら今すぐ結婚するか?リリーが望むなら僕はいつだってリリーと結婚出来るよ。リリーは知らないかもしれないけど…ずっと好きだったんだ。君に婚約者がいると知った時は本当にショックだったよ。そもそも生まれた時点で婚約者が決まってるなんて反則過ぎるだろ。こんな事言ったらリリーに軽蔑されるかもしれないけど、リリーの婚約が無くなって僕はチャンスだと思った。どんな手を使ってでもリリーの事を手に入れたいと思っていたからね。だからリリーの心の傷に付け込んで近づいた。君を手に入れるために…」
ハーラルトは真っすぐに私を視界に捕らえながら淡々とした口調で話した。
その表情からは嘘を付いている様には見えなかった。

「だから…このまま無理矢理にでも君を犯して孕ませて僕のモノにしてしまいたいと思ってる」
「……っ…」
鋭い視線で見つめられ体が震えた。
その表情からハーラルトが本気であることは伝わって来た。

「僕はこういう酷い人間なんだ。引いてくれても構わない。だけど僕の気持ちは本物だ。『本当に好きなのか』とまた聞くのであれば…このまま強引に抱かせてもらう」
「……ごめん…なさいっ…」
私は泣きながらハーラルトに抱き着いた。
ハーラルトの事を疑ってしまう自分が嫌で仕方なかった。

「もう泣くな。今日はこれ以上はしないから…」
ハーラルトは優しい声で静かに言うと、私の事を抱きしめ返してくれた。

「とりあえず、このままだと僕が我慢出来なくなるから…服、着ようか」
「……っ!!!」
私はその言葉で自分の今の格好を思い出し赤面してしまう。
そんな反応をみてハーラルトは可笑しそうに笑っていた。

「やっぱり、リリーは可愛いな。僕が脱がしたんだから着させてあげるよ」
「……ありがとう…」

ハーラルトは私の脱いだ服を着せなおしてくれた。
人に着替えを手伝ってもらうのが恥ずかしすぎて、断れば良かったと後になって後悔した。



「あの…いつから私の事知っていたんですか?」
「5歳の頃かな、リリーは覚えてないかも知れないけどね。君の祖母であるグレイス・アーレンスは僕の師匠なんだ。勝手に師匠って呼ばせてもらっていただけだけどな…」
ハーラルトは思い出す様に話し始めた。

「僕は幼い頃はあまり魔法が得意では無かったんだ。大魔術師である君の祖母、グレイス師匠は当時王家に仕えていたから仕事の合間に僕は良く魔法の使い方を教えてもらっていたんだ。彼女は魔法の面白さを僕に沢山教えてくれた。彼女に出会わなければきっと今の僕はいなかっただろうな。当時の僕は魔法は大嫌いだったからな」
「祖母と知り合いだったんですね…」
ハーラルトにそんな過去があったなんて思いもしなかった。
そして祖母とそんな関係だったという事も。

「その言い方じゃ僕の事覚えてなさそうだな」
「え…?」

「僕は君とも出会ってるんだよ。君と出会ったのは僕がグレイス師匠に魔法を教えてもらって暫くしてから。魔法の楽しさを知り始めた頃だったかな。リリーは幼い頃から魔法が大好きだったよな、楽しそうに魔法を使ってはしゃいでる姿を見て僕もリリーみたいになりたいって思った。リリーは僕にとって憧れで、初恋だったんだ」
「もしかして……ハ…ル…?」


昔祖母に会いに王城に行った時、私と同い年位の子がいたことを思い出した。
私は幼い頃から祖母に憧れてたから良く王城には行ってた。

そこで出会ったのはハルだった。
ハルはあまり魔法は得意では無くて、自分にもあまり自信を持っていない内気な子だった。
その頃の私はやたらと魔法を人に自慢するのが好きだったから良くハルに魔法を見せてた気がする。


「思い出してくれたのか…嬉しいな」
「嘘…でしょ…」
信じられなかった。
あの時の男の子がハーラルトだったなんて。

「嘘じゃないよ。信じられないなら君の両親に聞いてみればいい」
その言葉から嘘では無いんだろうと分かった。
それでも信じられなかった。


「リリー、思い出してくれたならもう僕は君に遠慮はしないから。また僕の事ハルって呼んで…?」
「え…無理ですっ…そんなの…」
突然そんなことを言われて私は戸惑ってしまう。
あの頃はまだ幼かったし、思い出したのは今さっきの事ですぐ対応なんて出来る訳がない。

「どうして?…それなら、これは僕からの命令だよ」
「……そんなっ…こんな所でそんな権力使うなんてずるいですっ!」
ハーラルトは不敵に笑った。

「こういう時だからこそ使えるんだよ。ほら、呼んで?」
「……ハル…」
私は恥ずかしそうに小さく呼ぶと、少し不満そうだったけど納得してくれた。



「これからは絶対にそう呼んで。もし違う呼び方をしたら…お仕置きだからな」
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