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ウヅキ(18才)×エトウ(28才)篇

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「ウ、ウヅキ、もう、もう、いいから、い、挿れてっ」
「まだですよ、エトウ先生。もっと、もっと、トロトロに、解してから……」
 遠くで吹奏楽のホーンの音が鳴り響いている。サッカー部の掛け声も、テニス部がボールを打つ音も微かに聴こえる。
「ウ、ウヅキっ、あっ、やっ、そこ、あっ」
 芸術校舎の端にある美術準備室の窓は、白いカーテンが閉じられているけれど、夕陽のせいで部屋がオレンジ色に照っていた。
「先生、そんな顔も、するんですね。エロいですよ。いつも、もっと澄ました顔、してたくせに。最後の最後にそんな顔、見せてくれるなんて、卑怯だ……」
 ウヅキの声は、泣いているように、震えていた。
 最後の最後に、ようやく気持ちを露わにしたのは、俺だけでなく、ウヅキも同じだ。



 放課後、ウヅキとこの部屋でセックスするとき、俺はいつも、自分の指で準備をしていた。
 美術準備室の鍵をガチャリと掛けて、事務的なデザインのソファにウヅキに押し倒し、唇を押し付ける。
 ウヅキはただただ俺にされるまま、舌を受け入れ、「シたいの?先生」と呟く。
「あぁもちろん」
「いいですよ。そのかわり提出した課題、「優」以上にしてくださいね」
 俺は唇の端をキュっと上げて「取引成立だ」と微笑み、ネクタイを緩ませる。
 美術が得意で、そんな取引をせずとも「秀」を取れると思っているくせに。
 流れ作業のように、手の届く引き出しからローションとゴムを取り出し、ローテーブルに置く。俺がスラックスと下着を脱ぎ捨てる間、ウヅキはじっとそれを見ている。
 ウヅキに跨り、ローションを手のひらに出し指にまとわりつけてから、自分で後孔に指を入れ解す。
 ウヅキはつまらなそうな顔を作りながら目線をよこし、俺はその視線に興奮する。
 必死に冷静を装って、ただ身体を貸すだけなのだと、自分に言い聞かせているのが、バレバレで可愛い。
 目の周りは赤く上気して、胸が大きく上下する程、呼吸が荒くなって、制服のズボンがテントを張っているくせに。
 必死に我慢してクールを装い、俺を好きだと隠しているウヅキが好きだ。

 ウヅキはときどき「先生、気持ちいい?」と聞いてきた。そんなときは、シャツを捲り「乳首も触って。そしたら俺、もっと、気持ちよくなれるかも」とふざけたフリして誘導もした。
 ぎこちない手つきでサワサワと乳首を触られれば、「んっ」と小さな声が漏れてしまうが、俺だって、冷静を装って、先生が気まぐれに生徒に抱かれているフリを続けた。
 ウヅキのベルトを外し、チャックを下ろし、下着をめくる。もう先走りが溢れるウヅキの陰茎に、俺がゴムをつけてやる。
 そしてその上に俺がゆっくりと息を吐きながら腰を落し、ズブズブとウヅキのモノを挿入させれば、異物感が襲う。それはすぐに馴染み、腰を揺すれば振動で指先まで痺れる程の快楽が駆け巡るから「あっ、あっ」と甘い声が出てしまう。
「動いて」と伝えれば「せんせ、せんせ」と言いながら、突き上げるように何度も何度も腰を振るウヅキが、本当に愛おしかった。

 事後、俺は必ず確認する。
「ウヅキ、大丈夫?俺を好きになったりしてないか?好きになったら、そこでゲームオーバーだからな」と。
「先生こそ」
 そう笑うウヅキと、視線が合えば、惹かれ合うように触れるだけのキスを繰り返した。



 初めてウヅキと行為に及んだのは、彼が高一のときだ。中高一貫校で、ウヅキは中二の頃からこの美術準備室に、何かと理由をつけては顔を出し、入り浸るようになっていたり
 俺に好意を抱いていることは、すぐに分かったし、そんなウヅキが可愛かったが、さすがに中学生に手は出せない。
 彼が高校生になったある日、この部屋で生徒から提出された水彩画一つ一つに講評を書いている俺の横顔を、ウヅキがじっと眺めていた。
 俺はジリジリとしたその熱量に浮かされ、振り向きざまにウヅキにキスをしてしまった。
 そして驚いた顔をしたいるウヅキに、可笑しな取り引きを持ちかけた。
「ウズキ、オマエ、部活にも入っていないし、退屈だろ?先生とゲームをしないか?」
「ゲーム?」
「そう。放課後、この部屋の中では、俺とウズキは恋人みたいに触れ合うことができる」
「えっ?恋人!」
「いや、最後までちゃんと聞け。身体は恋人みたいに触れ合うけれど、互いに好きになってはいけない。好きになってしまったら負け。ゲームオーバー」
 その時点でウヅキは確実に俺のことが好きだった。
 俺だってたぶん……。生徒にこんな気持ちも持つのは初めてだった。
 熟考した後、ウヅキは答える。
「いいよ、せんせ。面白そう。そのゲーム乗った」

 その頃のウヅキはまだ少し幼く、男の子を揶揄っているような気分だった。
 それでも長く綺麗な指を見ては、この指で触られたい、と思っていたのだから、俺はどうしようもない教師だ。

 そんなことを二年ほど続けていた。けれど高三になり、ウヅキもいよいよ大学受験だ。俺はもうこの愛しい生徒を手放すべきだろう。
 だから今日は鍵をガチャリと掛けた後、ウヅキに笑顔で告げた。
「すまないウヅキ。ゲームオーバー、俺の負けだ」と。
 そしてぎゅっと抱きしめて「ウヅキが好きだよ」と耳元で囁いた。

 ソファに押し倒されたのは、俺のほうだった。こんなことは、初めてだ。唇を押し付けられ、舌が入ってくる。ずっと受け身だったくせに。
 俺の髪を撫でながら、息継ぎのように「せんせ」と囁きながら、口内を舐めてくる。
 いつの間にか、ウヅキはキスが上手くなっていて、俺は蕩けるように全身の力が抜けてしまう。
 脱力した俺は、ベルトを外され、スラックスも下着も脱がされ、下半身を露わにされる。
 ウヅキとのセックスも、もう最後なのだと思えば欲深くなり「上も、上も脱がせて」と、甘えてしまった。
 ウヅキは俺のネクタイをシュルリと外し、シャツのボタンを一つ一つ外してくれた。

 前がはだければ、乳首を甘噛みされる。それだけで「んぁっ」と上擦った声を出してしまう。
 いつも見下ろしていたウヅキを、今日は見上げている。その顔は、もうすっかり大人の男で手を伸ばし頬を触れば、愛おしさで胸が締め付けられた。
「ウヅキ、最後だから、好きにしていいから。我慢しないで」
 そう伝えればコクリと頷いて、一旦俺から離れ、自分で全てを脱いだ。そしていつも俺がする様に手を伸ばし、引き出しからローションとゴムを取り出した。

 ローションを纏った中指が後孔の入り口をクルクルと撫でたあと、中に入り込んでくる。
「せんせの中、こんなに、熱いんだね」
 指は奥へ奥へと進む。ウヅキはじっと俺の顔を見て、その反応を探る。
 イイ箇所を触られれば、ビクンと反応してしまい、「ここ?せんせ」と、その箇所を執拗に擦られた。
 もう冷静さを装うなんてことは、できなくて、快楽をむさぼる感情が溢れ出し、ウズキに挿れて欲しいと懇願するも、しつこくしつこく触ってくる。
 ウズキは声を震わせ泣いている。
 だから言ってしまう。「好きだよ、ウヅキ」と何度も何度も。
 ウヅキも「俺も好き、せんせが」と言ってくれた。
「んぁっ。……じゃ、やっぱり、ゲームオーバー、だな。あっ」
「ルールだから、約束だから、しょうがないよね、せんせ……」
ウヅキの指は増やされて、イイ箇所を攻められ続けて「ウ、ウヅキ、ダメっ。イ、イクっ」とまだ挿れられてないのに、自分の腹の上に白濁を吐いてしまった。

 ウヅキはゴムをつけて、奥へと一息に挿れてきた。
イッたばかりの俺の「まっ、まって、あっ」という制止などお構いなしに、腰を振る。
「あっ、あっ、んぁっ、やっ、あっ、いい、あっ」
 嬌声が溢れ、俺はウヅキの首に手を巻きつけた。
「ウ、ウヅキ、いい、あっ、ウヅキ」
「せんせ、せんせ、好き、せんせっ」
「ウ、ウヅキ」
 初めから心は繋がっていた。それでも、こうして互いの気持ちを表に出しながらセックスに、感度がさらに上がっている。
「ウヅキ、もう、もうダメ、また、またイクっ、あっ、イッちゃう。あぁぁぁっ」
 奥を大きく強く突かれ、俺はまた吐精し自分の腹を汚した。
 いつまでも奥の奥が気持ちがよくて、頭の中がふわふわして、ウヅキを抱きしめて、その頬を撫でる。
 ウヅキは「まだ終われないよ、せんせ」と口にし、ゴムを付け替え、また俺に挿れてきた。
 窓の外は夕陽も沈み、電気が付いていない部屋の中は暗く、ウヅキの顔もよく見えなくなってしまった。

 だから俺の涙だって、ウヅキには見えなかったはずだ。
 再び俺の中で果てたウヅキは、しばらく俺を抱きしめたままだったけれど、校内に下校を促すチャイムが鳴り、俺から離れた。
 暗くなった部屋で黙って制服を着る姿を、ソファに寝転んだまま朧げに見ていた。
「ウヅキ、ごめんな」
 何に謝ったのか分からないが、謝罪の言葉を口にしてしまった。
 ウヅキは「安心して。大学受かるまでは、もうここには来ないから」そう言って、振り向きもせずドアを開けて出て行った。

 きっとウヅキは、大学に受かったら、俺とまたセックスできると思って、必死に勉強を頑張るだろう。難関大学を目指していると聞くが、もちろん無事に合格するだろう。
 そしてこの美術準備室へ報告に来て、このドアを開けて知るのだ。
 俺が教師を辞めて地元に帰ったことを。本当にゲームオーバーだったことを。
 そのときまた、ウヅキは泣いてくれるだろうか。
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