ピアノを弾いてたらなんか、色々寄ってくるのですが、どうしたらいいと思います?〜悪役令嬢はもう何も考えたくない〜

序盤の村の村人

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第5話 もう入試試験とか聞いてないんだが? 3

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♪♪♪♪♪♪♪



「ついに、この日が来たわね」
「待ちくたびれましたわ!」


 ふふん。と今にも聞こえてきそうなマリア嬢が誇らしげに王都鳳凰音楽学校の校舎を見上げる。


 キラキラと太陽の光を反射する噴水に、色鮮やかな花が咲き誇る花壇。白を基調とした宮殿のようなデザインの校舎は、ざっと見ただけで、50部屋はありそうだ。


 うーん。これだけ、学校が広いってことは……。ピアノが何台あるんだろう? 100? それとも300?


「フィーネ、ほらぼーとしてないでさっさといくわよ」
「今行きますわ」


 色鮮やかなドレスを纏った令嬢や、正装をしているご子息に紛れて受験会場であろう校舎に向かう。


 そう、今日は記念すべき、第104回王都鳳凰音楽学校の入学試験である。


 この日のために練習をしたのだ、そう、めっちゃ下手に聞こえるような練習を......。


 思い出すだけでも震えるなあ。紗綾によるスペシャルレッスン。気を抜いて普通にピアノを弾こうとするものなら拳が飛んでくるというオプション付きだった。


「どうせ、桜のことだからどれくらい弾けば標準なのか分からないわよね、しょうがないから見てあげるわ」


  お陰で、音を弾き間違えるという、素晴らしい能力がついたけど......。本当に紗綾には感謝をしているよ。


 ありがとう紗綾。


 と心の中で呟く。


  「あれ、あそこなんか人集りが出来てるわ」
  「本当ですわね、あ、あそこに張り紙が張ってありますわ」


 よく見ると、学校の案内図が扉に張られているようだ。私たちも扉の案内図を見るために扉の方へ進む。


「あら、受験番号の後半は、こっちの教室みたいね」


 入り口の扉に張られた案内図と受験票を見比べたがら残念そうに紗綾がそう呟く。


「レガート嬢は、学科が違うから教室が違うのかもね」


 紗綾ことレガート嬢は、中学校の時合唱部だったこともあって、声楽科を志望している。何度か一緒にカラオケに言ったことがあるが、本当に綺麗な声だった。


「そういえばフィーネ様は、何番ですの? 私は58番でしてよ!」
「57番ですわね」


 ちなみにマリア嬢は、私と同じピアノ科を志望している。受験番号も近いようだ。案内図には、30~59番が1-Aクラスと書かれてあった。


「フィーネ様と私は同じクラスのようですわね、レガート、私たちから離れたから落ちたなんてことないですわよね?」
「もちろんよ、全力で叩きのめしてやるわ」
「フィーネ様も、1人だけ落ちるなんて許しませんからね」
「が、頑張りますわ(主に力を出しすぎない方向で)」


 特に、王都鳳凰音楽学校には自由にグランドピアノで練習できる個室が沢山あるらしい。ぜひ行かねばならない。うんうん。


    紗綾と分かれた後、私とマリア嬢は、受験会場がある2階まで行くために、 木で出来た階段を1つ1つ上っていく。途中にある、大きな窓からは、眩しさを感じるぐらい多くの日の光が踊場に差し込んでいた。

    教室に入ると、もう何人かの受験生が席についていた。楽譜を何度も読む者。指を動かす者。友人と談笑する者。平民と貴族で必死さが違うようだ。


 そういえば、ヒロインもここにいるはずだよなあ。もしかしたらあの演奏が聞けるかもしれない。つい、「奏でる音色と恋」のヒロインの演奏を思い浮かべるとにやけてしまう。


 ピアノを弾くシーン、後ろからのアングルしか覚えていないが、確かヒロインは、茶色の絹のような髪だったはず。辺りを見渡してヒロインを探すが、まだ来ていないようだった。


「それにしても、フィーネ様。やっぱりルイ様、レント王子は推薦なのかしら? お姿をお見かけしませんわね」
「本当ですわね」


 確かに、言われてみれば、ロベルト·ルイ、レント王子の姿がなかった。

 レント王子、必要最低限しか話さないからなあ。もはや、会話をするのが面倒だと思われている気がする。推薦なら推薦と教えてくれればいいのに......。

 あの胡散臭い笑顔を思い出すと身震いする。私は、今思い浮かべたものを振り払うように左右に大きく首を振った。


「フィーネ様! 見てください、私たちの席、近いですわ」

 そして、なぜだろう、マリア嬢を見ているとかわいい付き合いたての年下彼女を眺めているような気持ちになる。いたことは断じてないが。マリア嬢のおかげで、レント王子に対して感じていた嫌な気持ちが浄化されたように感じた。


 マリア嬢と私は、各々受験番号と一致する番号のシールが張られた机に座った。番号から薄々感じていたが、マリア嬢と席が前後になっていた。私が窓側の後ろから2番目、マリア嬢が後ろから3番目の席だ。


 やっぱり知ってる人が近くにいると、安心するなあ。


 マリア嬢と席が近かった事実にほっと一息つく。窓から外を見ると、ここにたどり着く前に見た花壇や、噴水、さっきは気づかなかったが、学生が外で昼食を食べれるようにベンチが所々置かれていた。もう時間が近づいているからだろうか、移動する人も疎らになっている。


 私も、楽譜を見て復習しようかな。紗綾(スペシャルコーチ)による指導も見直さなきゃいけないし。


 紗綾は、私のピアノを見てくれたと同時に、どこでどう間違えたら自然なのか細かく楽譜に書き込んでくれた。


 私は、革製の四角い手持ち鞄から手探りに楽譜を取り出す。楽譜の他にはハンカチと財布ぐらいしか入れてなかったので、すぐに楽譜は見つかった。


 やっぱり、楽譜を見たら安心するなあ。


 私は、愛おしそうにじっくりと5列の線をなぞる。頭の中で、試験で弾く予定のエ○ーゼのためにを流していると、プツリと頭の中演奏が途絶えた。後ろから来た受験生によって楽譜が飛ばされていく。


 さらさらと揺れる茶色の髪が視界に広がる。音を立てず、ゆらゆらとゆっくりと時間をかけ、楽譜は、床に落ちた。


 そして、その楽譜は、後ろから来ていた見知らぬ受験生に踏まれた。


「げ、悪役令嬢?」



    あ、あ、あ、私の楽譜......。
 
 私は、椅子から立ち上がり、急いで楽譜を回収する。少し汚れてしまったが、まだ読めそうだ。一応意味はないだろうが、ふーふーと楽譜に息を吹き掛けておく。


「はっ、いいわよね、あなたはコネがあるから簡単に受かって」
  

    うん?


「まぁ、いいか。雑草があるから花が輝くってものよね。 せいぜい引き立て役頑張ってね」


   そう言って、茶髪の少女は、上機嫌で私の1つ前の席についた。


 あれ、茶髪......。ヒロイン??  


 私の中の大好きなピアニスト髙橋 露木の演奏を聞くという夢がパリンッと音を立てて崩れていく音がした。


 まさかのヒロイン転生者?


 うん。いや待て落ち着こう自分。希望を捨てたらだめだ。今の感じからして決して性格がいいとは感じないが、もしかしたらピアノは上手いのかもしれない。すごく自信満々だし。もしかしから髙橋 露木が転生した可能だってある。うん。きっとそうだ。きっと......。
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