絶対無敵のアホウ

昆布海胆

文字の大きさ
4 / 25

第4話 世界最高の絶望へ・・・

しおりを挟む
カランカラン・・・

ここはスナック大田、ヒロシの行きつけの酒場である。
真昼間から開いているこの店に入ると店内は薄暗くまだ開店していないのが直ぐに分かる。

「太田君、居るかい?」

酒井ヒロシはいつもの野球帽の様な帽子を取り胸元に当てて姿勢を正す。
少しして慌てているのにどこかゆっくりとした動きで1人の男が現れた。
そして、男は壁際のスイッチを入れて店内を明るくする。

「おおっ酒井さんじゃないですか?!」
「やぁ、また来たよ」

明るくなった店内には壁一面に帽子が掛けられここはいったい何の店なのか疑問を抱くほどである。
カウンター前の椅子に座り帽子を被り直したヒロシはフト気が付く。

「あれ?今日はいつものじゃないんだね?」
「あぁ、陰干し中なんですよ」

勿論それはこの店のマスターである大田の被っている帽子のことである。
彼とヒロシは古い知り合いで俗に言う帽子仲間と言うやつである。

「この時間に来たって事はいつものかい?」
「分かってるねぇ~」

大田の言葉に嬉しそうに笑みを浮かべヒロシは太田を指差す。
座っているのにまるでジョジョ立ちをしているような姿勢に背中を丸めたヒロシの仕草にフッと笑って大田は準備をする。
取り出したのはシェイカーと呼ばれるスナックでお酒を混ぜる時に使われるやつである。
それに素早い手さばきで次々と粉末状の物が入れられ最後に袋を取り出し中身を注ぎ込む。
慣れた手付きで鮮やかにそれを両手でしっかりと持ってシャカシャカ振り出したその仕草をウットリと見詰めるヒロシ。
一見適当に振っている様にも見える仕草だが大田が行なっているのは、シェイカー内の物を全て均等に混ぜる為に動きに強弱をつけながら角度や手から伝わる温度の変化にも気を使った神業である。
それを理解しているヒロシはその動きに見とれていた。

「相変わらずいい動きしているね」
「酒井さんはやっぱり見えてるんですね」
「当たり前だよ~」

並みの一般人なら見逃すテクニックもヒロシの動体視力であれば簡単に見抜けるのである。
そして、シェイクが終わったシェイカーを透明のカクテルグラスの中へ流し込む大田。
店内に独特の香りが漂いヒロシの口内に唾液があふれ出す。

「はい、お待ち!」
「やっぱこれだよね~」

グラスを受け取ったヒロシは口を大きく開けて一気に口内へ流し込む。
そして、口を閉じてゆっくりと口内でそれを全て味わう。
たった一口で全て口に収まるくらいの量では在るがそれが逆にこのカクテルを最も美味しく味わう量なのだ。

「ん~!!!」

目を閉じてその味をゆっくりと満喫してゆっくりと飲み込むヒロシ。
はぁ~と再度開いた口からゆっくりと息が吐かれ自らの口から上がる香りに再度酔いしける。
そんなヒロシに口直しに小さな更に1粒の何かが出される。
表情が蕩けているヒロシはまるで子供の様にそれを手に取って口の中に入れる。
そして、またまた目を瞑ってそれを口の中でゆっくりと味わう。
至福!まさに至福である!
コロコロとそれが口の中で舌と共に踊り先程のカクテルの味を上書きしていく。
暫し堪能してすっかり満足したヒロシは最後に口直しに出された紅い液体を飲み干す。

「ぷはぁ~~~マジ最高だわ!」
「満足していただいた様で」

嬉しそうに子供の様にはしゃぐヒロシに大田は含み笑いしながら話しかける。
満喫したヒロシは今日の味わったモノの詳細を告げる。

「今日の『デュワカレー』に『深田飴』に『トメェイトジュース』美味しかったよ!」
「良く分かりましたね」

そう、最初に出されたのはかの有名なレトルトのデュワカレー、それに各種調味料と乾燥ラッキョを粉末にしたもの、次に出したのは薬局で買えるのど飴、最後に自販機限定で売っているのに中々見かけないトマトジュースであった。
普段はちゃんとした酒場なのだがヒロシは酒ではなくこれを好んで飲んでいた。
特にカレーは店内に匂いが広がってしまうので他のお客さんの迷惑になってしまうのを避ける為に営業時間外にやって来ていたのだ。
そして、ヒロシがここでカレーを味わうと言う事は・・・

「それで今から行くんですか?」
「あぁ、大田君には詳しく伝えられないけどこれから行って来るよ」
「では次回来た時はこちらの『バーニングカレー』を用意しておきますね」
「マジカー、これは無事に帰ってこないとな」

そんな会話をしてヒロシはカウンターの上に手を翳してそこに金貨を1枚置く。
これは異世界でヒロシが手に入れた異世界通貨の金貨で純金である、日本で売れば間違い無く数十万円はする物だ。
だが異世界ではこれは1万円程の価値しかなくちょっと強い魔物を狩るだけで手に入る。

「美味しかったよ大田君」
「いつもありがとうございます酒井さん」

立ち上がってアホウによって取り出した酒井酒店の前掛けを腰に巻いてヒロシは店を出て行く。
金貨1枚の支払いは高いと思われるかもしれないが酒場で普段扱わない物を提供してくれた上に匂いなどの後始末までしてもらうのでいつも奮発しているのだ。
その為、大田も文句一つ言う事無くヒロシを笑顔で出迎える。
まさにWINWINというやつであった。

「さて、んじゃ行くか!」

スナック大田から出たヒロシはいつもの路地裏の袋小路に入り、壁に得意のアホウ(亜空間連結次元魔法)を使って光の扉を設置する。
そして、そこを潜った場所に立ちヒロシは空を見上げる。
まるで月の様な植物が一切生えていない大地に地平線の上は宇宙が広がるこの世界、空に浮かぶそれを見上げる。
ヒロシが別の世界で倒した大きな魔物達が首からしただけで空中に何体もぶら下がっている。
ヒロシが様々な異世界を旅して巨大な魔物をアホウにより胴体だけ沈めて倒した残りが浮かんでいるのだ。

「よし、まだのようだな」

そう言ってヒロシは地面にレジャーシートの様な物を敷いて枕を置いてそこに寝転がる。
目の前に広がる星空と巨大な魔物の姿だけがヒロシの目に入るその姿勢のまま数時間ヒロシは仮眠を取る。
これもいつもの事でヒロシはソレが来るのを待つのである。











2時間ほどが経過してヒロシは何かを感じ取ったのか目を開いた。
空に浮かぶ魔物の体がまだ残っているのを確認して立ち上がり気配のする方向を見つめる。

「来たな・・・」

最初は小さな黒い点がこちらへ向かって飛んでくるのが見えた。
それが徐々に大きくなりやがてその姿が現れる!
全身真っ黒で寄生虫の様な物が全身を駆け巡っている巨大な龍である。
そいつはその巨大な口を大きく開いて空に浮かぶ魔物達を一気に喰らった!

「待ちくたびれたぜ、今日こそは狩らせて貰う!」

ヒロシが両手を左右に広げる、すると空中の物凄い数の光の扉が出現しそこから次々と竜が飛び出してくる!
だが全長10メートルはあるヒロシが呼び出した竜達であるが前に立つ真っ黒の巨大な龍のサイズは規格外である。
まるで星よりも巨大なその巨大な龍相手に竜達が一斉に口内にエネルギーを溜めて一斉に放つ!
そう、この竜達はヒロシが様々な異世界で手懐けた各々の世界の最強種であるバハムートである。
一斉に数千のバハムートから放たれるメガフレア!
それが黒い巨大な龍の体に着弾するがまるでそれを動じない黒い巨大な龍はそれを無視してヒロシの方へ顔を向ける。

『小さき強き者よ、我に再度挑むとは面白い。少しは楽しませて貰うとしよう』
「あぁ、今日こそはお前を狩る!覚悟しろデビルバハムート!」

念話でそうヒロシに告げたデビルバハムートは両翼を広げた。
翼だけで星よりも巨大な翼が広げられ近くに在った星に激突しその星の軌道が変わっていく。
それも互いに気にする事無く見合うヒロシとデビルバハムート。
そして、広げた翼に緑の光が流れ込みデビルバハムートの背中が光りだす!
この間も次々とヒロシの出したバハムートはメガフレアで攻撃を繰り返すがまるで効果が無いように思えた。

「くそっこの程度の火力じゃだめか!」
『小さき強き者よ、これに耐えて見せよ!』

そう念話で告げたデビルバハムートの口が広げられヒロシの方を向く!
そして・・・

『ギガフレア!』

デビルバハムートの口から放たれた巨大なビームがヒロシの立つ地上を掠めるように数千のバハムートを飲み込んで放たれる!
そのビームは止まる事無く後方の星々を飲み込んで遥か彼方まで飛んでいく。
この一撃で百以上の星がこの瞬間消滅するのであった・・・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...