絶対無敵のアホウ

昆布海胆

文字の大きさ
9 / 25

第9話 エロスと前屈み

しおりを挟む
「オーマイコーンブ!!!」

初めて食べるピザを口に含んだ瞬間頬に両手を当てて飛び上がるクリス。
部屋に設置された加湿器に水ではなくエリクサーを入れたのは正解だったなと納得しながらクリスが元気になったのを喜ぶヒロシ。

「ま、まるで味の宝石箱やー!!!」

再びピザを口にしたクリスの叫び声が響き渡るのであった。






翌朝・・・

「ひ・・・ヒロシさん、この衣装は?」
「俺の国に伝わる格闘家の衣装ですよ」

ヒロシに用意された衣類を手に取り見た事も無いそれに固まるクリス。
それはそうだろう、クリスの一族は山の中で暮らしていたので衣類は動物の毛皮や布を加工して作った物が基本である。
そんな彼が手にしているのは麦わら帽子に赤いシャツ、青い短パンである。
しかも靴まで藁草履と来たもんだ。

「やっぱり変装して向かわないと何かあった時に不味いからね」

そう言ってヒロシも着替えて出てきた。
白いズボンに腰には紫の帯を巻いて上半身裸で背中に髭の付いたドクロの描かれたマントを羽織っていた。
顔には立派な白い髭を付けて仁王立ちをする。

「グラララララララ!」
「なんですかその笑い方は・・・」
「おい小僧!お前の力を見せてみろ!」

海賊王を目指す少年と世界最強の男はそのまま町へ繰り出すのであった。






「っで?詳しく事情を聞かせてもらおうか?」
「いや、あの・・・コスプレ的な?」
「ふーん、でもね街中で上半身裸ってのはやっぱりご近所の皆さんの迷惑にね」
「は・・・はい・・・」

町に入ってすぐ巡回していた警官に止められ職務質問を受けるヒロシ。
上半身裸はやっぱり不味かったようだ。
どんな相手が襲ってきても無敵のアホウ使いであるヒロシでも国家権力には弱かった。
そんなヒロシを少し離れた所で見詰めるクリス。

(この人に付いていって大丈夫なのか?)

「とりあえず直ぐに着替えるようにな」
「はい、すみませんでした」

道の片隅で渋々着ていた衣装を脱いでいつもの服装に着替えるヒロシ。
やっぱり彼には野球帽みたいな帽子と酒井酒店の前掛けが似合っている。

「ヒロシサン・・・ワタシモキガエテイイデスカ?」
「クリス、なんで片言やねん・・・」

そんなヒロシを白い目で見つめるクリスであった。
そして、クリスも服を着替えて普通の旅人風の衣装に変わった所でヒロシの目つきが変わった。

「よし、それじゃあ行くぞ!」

今の今までふざけていたヒロシの余りの変化に驚くクリスは気を引き締めなおし後を付いて行く。
その向かう先は・・・

「まさか・・・ヒロシさん?!」
「グララッ、おっとフフフ・・・別にふざけてあの格好をしていた訳じゃないのさ」

そう、先程職務質問を行なった警官の跡を着け始めたのだ。
幾ら町の治安を守る為の巡回と言っても、たった一人で路地裏の奥へと向かうその警官に不自然さに流石にクリスも気が付いた。
そして、その警官が一つの建物の中へと入るのを確認しヒロシとクリスも近付く。

「ヒロシさん・・・アイツです!」

声に怒りの篭もった感じで小声で話すクリスの視線の先には全身黒で染まった金髪の男が見張りと話していた。
片手をポケットに突っ込んで話す態度からその身分が見張りの男よりも高いことを表している。
そう、彼こそがクリスの村を襲撃した犯人の1人であった。
その顔を見て怒りに体を震わすクリスにヒロシは少し焦る。
男を一目見ただけでその強さを感じ取ったヒロシはクリスから漏れる殺意にアイツが気付くのを恐れたのだ。

「んんっ?」

直後、ヒロシの予想通り男は視線をこちらへやって近付いてくる。
慌ててヒロシはクリスの背を押して路地の奥へと進む。
だがそこは袋小路であった。

「ヒロシさん、アイツをやらせてくれ!」
「いや、ここでやり合うと他のヤツが来てしまうからな・・・こっちだ!」

そう言ってヒロシはリング状のワッカを取り出す。
一見フラフープにも見えるそれをヒロシは横の壁に貼り付ける。
するとその輪の中が真っ暗になりヒロシはクリスの手を取ってその中へ体を滑り込ませる。

「んん?んん~気のせいか?」
「どうしましたリュージさん?」
「いやな、殺気を感じたんだがなぁ~」

通り抜けられるフープを使って壁を通り抜けて逃げた二人、青いロボットありがとうである。
リュージと呼ばれた全身黒尽くめの男は首を傾げながら周囲を見て回るのであった。






「ふぅ、とりあえずアイツは後回しだな・・・」
「もう何が遭っても驚かないと思ってましたが・・・」
「おぉっ?兄ちゃん達どっから入ったんだ?」
「ここが何処か分かってんのか?こらぁ!」

リュージから逃げる為に壁を抜けて建物の中へ入った2人は複数の男達に包囲されていた。
だが慌てる事無く落ち着いて会話する2人に苛立ちを覚える数名が殴りかかろうとした時であった。
男の拳が届く前にクリスが目にも留まらぬ速さで反撃し殴りかかろうとした体勢のまま崩れる。

「俺・・・こんなに強くなってる?」
「まぁ昨日のレベリングで軽くスライムに苦労する勇者から魔王単独撃破出来るくらいには強くなってる筈だからね」

そんな2人の全く動揺の無い会話を聞いて怖気づく周囲の男達。
ふざけた会話に聞こえなくも無いのだが殴りかかった数名が一瞬で無力化されたのをその目で見ているのだ。

「それでもさっきの黒い金髪男とは互角って所だな」
「マジですか・・・」
「黒い金髪男だって?」

2人の会話内容に声を上げたのは一人の女。
その声に周囲を包囲していた男達は道を開ける。

「シエル姉さん、こいつ等突然現れて・・・」
「みたいだね、この建物に裏口なんて無いんだからね」

そこに歩いてきたのはピンクのミニスカートにピンクの肌着を着た1人の女。
まさにボンキュッボンと言うナイスバディな髪の長い茶髪の女であった。
胸の谷間を強調するためなのかひし形に首の下が開いており谷間が丸見えなその姿に思わず前屈みになるクリス。

「あんた達、リュージの野郎から逃げてきたのかい?」

少し前屈みになっているクリスに合わせたのかシエルと呼ばれた女は同じように前屈みになり問いかける。
姿勢のせいでクリスは更に谷間を直視する事になり更に腰を曲げて前屈みになる。

「ふふふっ可愛いねぇ」

そう言いながら耳に髪の毛を掛ける仕草をするシエル。
不思議な事に前髪が目を隠しておりシエルの目が見えないのだ。
だがシエルからはこちらの事がハッキリと見えているようでその視線をビンビンとヒロシは感じ取っていた。

「ふぅ~ん・・・あんた何者だい?少なくともあんたみたいな不思議な男を見たのは初めてだよ」
「俺もあんたみたいな美人を見たのは(この世界では)初めてだよ」
「ははっお世辞でも嬉しいねぇ~。お前達、この2人はお前達が全員で襲い掛かっても秒殺されるくらい強いからもう止めときな」

シエルのその言葉に騒然とする周囲。

「さて、それじゃあちょっと話でもそっちでしようか・・・と言うかそっちのは大丈夫かい?」

未だ前屈みのままのクリスは今度は立ち上がったシエルのミニスカートの絶対領域が視界に入り真っ直ぐ立ち上がれない状態が続くのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...