俺の治癒魔法が快感らしいです。

番 印矢

文字の大きさ
3 / 4

男根の神

しおりを挟む
 朝になったと思った。閉じたまぶたの向こうが、淡く白んで見えたからだった。

 仰向けに寝ている体がフワフワしている。俺んちの布団ってこんなに良い布団だったっけ。

 目を閉じたまま、伸びをした。

「ん~っ、あぁ~っ」

 全身のあらゆる組織が引っ張られて、気持ちが良かった。なんか久しぶりに良い睡眠がとれた気がする。

 ……あれ、なんだっけな?

 今日は何曜日だ?

 仕事のスケジュールは?

 今日は撮影だっけ?

 ……寝坊!?

 ハッとなって目を開けると、周りが全部真っ白の明るいモヤで包まれていた。

 気にせず俺は枕元のスマホを手で探した。

 ない。

 焦った俺は上体を起こして探した。

「えっ!」

 俺、浮いてた。

 しかも、上も下も、前も後ろも、全部が白いモヤ。他には何もない。

 雲の中で浮いていたら、こんな感じなんだろうか。

 夢? いや夢じゃない。頭はハッキリしている。

「うわっと」

 立とうとしても、うまくバランスが取れない。水に浮いた板に乗っているような、そんな感覚。

 足を踏ん張ろうとしても、どこで踏ん張ればいいのか分からない。

 体が揺れる度に俺のペニスがぶらぶらと内ももに当たる。

「あれっ、なんで裸なの!?」

 俺は思わず声に出した。

 わけがわからない。

 朝、目覚めたら、素っ裸で雲の中に浮いているのだ。

 パニックになりながら空中で溺れていると、かすかに音が聞こえた。

 動きを止めて音の出どころを探す。

「ふんふふーん」

 鼻歌だった。

 なんとも上機嫌なその鼻歌は少しずつ俺に近づいていた。

「誰かいるのか?」

 音の方向を特定して、声をかけた。

 するとモヤの中から、どこかで見覚えのある、しかし形容し難い謎の物体が姿を表した。

「ひっ」

 大きさは俺と同じぐらい。ウニョウニョとうごめきながら目の前まで進んできた。が、目の前にいるのにこれが何なのかが分からない。

 いや、分からないようになっていると言った方が正しい。

「モザイク……か?」

 そう、モザイクだった。

 それは、かなり大きくて粗いモザイクで実体を隠した、何かだった。

 カラーパレットは茶とベージュと黒が中心といったところだろうか……。

 シルエットは棒状で、なんというか、こう、馴染みがあるモノのような気がする。

 モザイクがぐいんぐいん動いた。

「やあ、死んじゃったね、君」

「喋ったっ!」

 きもっ!!

「でも、あまり幸せな死に方じゃなかったね、君」

 気持ち悪すぎて、全身に鳥肌が立った。

 ……ん? いや、それより、今、なんつった?

「死んだ? 死んだ?」

 なに? なに?

「そうね。死んだね、君」

 その瞬間、記憶が怒涛のように蘇った。

 ばっと周りを見回す。どこもかしこも白いモヤだらけ。何もない。

 死んだ?

 頭の中で繰り返す。

「そうか……」

 突拍子もないことなのに、わけがわからないことなのに、不思議と胸にストンと落ちた。

「俺は死んだか」

 モザイクが頷くようにうねうねと動いた。

「理解したようだね、君」

「ああ。でも、なんか、気持ちは楽だな」

 快楽という苦痛から解放されたからだろうか。気持ちは清々しかった。

「そうだよね、そう思っちゃうよね、君」

 よく分からないが、モザイクは残念そうだった。

「辛かったよね、君。ボクチンは君の悶える姿が好きだったんだけどね。残念だね。あ、ボクチンの名前はボクチンだよ。ボクチンって呼んでいいよ、君」

「はあ。まあ、死んだのは理解したんだけど、今の状況は理解してないんだよね。教えてくれないかボクチンよ」

 名前を呼ばれて嬉しいのだろうか。ボクチンは少し膨張して、色がややピンクに染まった。

「これから転生するんだよ、君」

「転生?」

「そうだよ、君。君のいちファンとして、そして男根の神として、君の死に様には責任を感じているんだよ」

「男根の神?」

「そうだよ、君。規制がかかっててこんな姿だけど、真の姿は立派な男根なんだよボクチン」

「……すまん、ちょっと待ってくれ」

 情報量が多すぎる。

 この際、男根の神ボクチンについてはスルーしよう。

「なんでボクチンが責任を感じるんだ」

「うーん。本来、セックスは気持ちのいいものだよね。幸せだよね。なのに苦しみ続けたよね、君。そして腹上死しちゃったよね。ボクチンは直接の関係はないけど、それでも、男根の神として君のような人にはもっと幸せな死を迎えてほしかったよね。責任感じちゃうよね」

 よく分からないけど、ボクチンのポリシーに反する死に方を俺がしたということだろうか。

「いやまあ、自己責任でしょ、こんなの。ボクチンが気に病むことじゃない」

 ボクチンは首(?)を振った。

「さっきも言ったよね。君のいちファンなんだよね、ボクチン。だから、来世では幸せになってほしいよね」

 ああ、そういえば、さっきファンタジーなことを言ってた気がする。

「転生できるのか?」

 ボクチンは胸(?)を張った。

「できるよ、君。今度は幸せなセックスを楽しんでもらいたいよね」

「いやあ……、セックスはもういいかなぁ」

「えっ」

「もうコリゴリっていうか、さ。普通でいいんだよね、普通で。普通に女の子を気持ちよくさせてあげられれば、もう俺はそれだけで幸せだと思う」

 ボクチンは頭(?)を打たれたように、よろめいた。

「そ、そんな……。ううん、いや、それが君の幸せなんだよね。そうだよね。わかったよ。君の望みを叶えるよ」

 言ってみるもんだ。

「ありがたい。じゃあ、前世に未練もないし、サクッと俺を転生させてくれよ」

「うんうん。君と、そして君の作品と出会えて幸せだったよ、ボクチン。お礼にギフトを授けるね。そのギフトでイッパイ女の子を気持ちよくさせてあげてね」

「おう。……うん? ギフト?」

 若干、あたりが暗くなってきた気がする。

「治癒師に転生するからね、君」

 突如、猛烈な睡魔に襲われ始めた。ボクチンの言葉が遠のいていく。

「イッパイ、イッパイ、君の治癒魔法で女の子を気持ちよくさせてあげてね——」

 さっきからボクチンは何を言ってるんだ。

 俺は睡魔に耐えられず、空中に倒れ込んでフワフワと浮いた。それがゆりかごのようにとても心地よくて、俺は膝を抱いて目を閉じた。

 ギフト?

 治癒師?

 なんだそれ。

 俺、普通でいいんだけど——。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...