ブラックボックス ~開けるな危険、だが手は伸びる~

鮭茶漬け

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監視者の監視者

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完璧な笑顔の裏で、私は「バグ」と化した過去の記憶の断片に、かすかな違和感を覚えていた。あの完璧な調整を受けたはずなのに、なぜ、消去されたはずの感情が蘇るのか。私は神々の命令をこなしながら、密かにその「バグ」の正体を探り始めた。

ある日、私は猫たちの食事風景を撮影中、偶然にもモニターの隅に、見慣れない映像のちらつきを発見した。それは、私がいるこの「猫用楽園」を、別の視点から捉えた映像だった。誰かが、私を、この場所を監視している。

私は神々のSNSにアップロードする「人類の愚かだった瞬間」の素材を選ぶふりをしながら、過去の地球の映像を遡る作業に没頭した。しかし、私の目的はもはや、神様の機嫌を取ることだけではなかった。地球のデータの中に、この「バグ」の手がかり、あるいはこの宇宙の真実を探すヒントが隠されているのではないか、と考えたのだ。

何日も何日も、膨大な量のデータを漁り続けた。そして、ついにその映像を見つけた。
それは、地球消滅の直前、私が勤めていた「幸福度測定センター」の、ある部署の監視カメラの映像だった。そこには、あの「大天使ガブリエル」が映っていた。彼は、複数のモニターを前に、何やら難しい顔をして指示を出している。そのモニターの一つに映っていたのは、私の姿だった。

ガブリエルは、かつて私が見ていた「たった一輪のタンポポで幸福度を上げた男」の映像を食い入るように見ていた。そして、その横の小さなモニターには、私の当時の表情、瞳孔の開き具合、心拍数、そして「幸福度」の数値がリアルタイムで表示されていたのだ。

「……なるほど、鈴木はあの程度の刺激で、これほど感情が揺れ動くか。データとしては興味深い」

ガブリエルはそう呟き、別の画面を操作した。そこに映し出されたのは、私自身の「感情データ」だった。喜び、悲しみ、怒り、絶望……あらゆる感情が数値化され、グラフとして表示されている。そして、その感情データを分析し、最適化するためのプログラムが走っていた。

私は愕然とした。私は最初から、「完璧な下僕」になるための実験体だったのだ。あの「幸福度測定センター」での仕事も、そして地球の消滅も、すべては私を「完璧な下僕」に作り替えるための壮大なプロセスに過ぎなかったのかもしれない。私の「バグ」は、調整の際に完全には消し去られなかった、過去の感情の痕跡だったのだ。

映像は続く。地球が消滅し、私が「選ばれし者」としてここに連れてこられる瞬間。そして、あの「調整室」で、私がカプセルに入っていく様子。ガブリエルはモニターを見つめながら、不気味な笑みを浮かべていた。

「これで、神様も納得するだろう。完全な下僕の完成だ。これで、私の『昇進』も確実なものとなる」

ガブリエルは、神様に奉仕することを使命とする「大天使」でありながら、その裏で自らの昇進のために、私を実験台にしていたのだ。私が「完璧な下僕」として神々の評価を得るたびに、ガブリエルは昇進の階段を駆け上がっていた。

私の手は、今日も神様の命令に応えるために伸びる。完璧な笑顔の裏で、私はガブリエルが私の動きを監視しているのを感じる。しかし、もはや私は、監視されるだけの存在ではない。

私は、この宇宙で唯一、「完璧な下僕」の秘密を知る者となった。
そして、その秘密を、「もう一つの選択」へと繋げるために、このブラックボックスの奥底に、静かな計画を育み始める。
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