魔法使いと戦士

星野ねむ

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小さな争い ④

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 ロークは今までまともに風邪を引いたことがなかったらしく、治るのに数日を要した。
 というかまずその日は朝から視界はぐるぐるするし頭は痛むしでまともに動けなかったらしい。風邪のことを知らなかったのでただの不調だと思い放置したとのことだ。
 この脳筋、動いていれば治ると思ったらしい。やはり脳筋、馬鹿だった。
 人型になったコウとご立腹だったリェットにしこたま怒られ、不調の際にはすぐ報告がロークに義務付けられる。ロークの場合、不調を不調と感じない危険性もあったので彼のことをちゃんと見ていてくれる精霊を監視役としてつけた。
 納得がいかない、そうむっすりしているロークの肩にはちょこんと精霊が座っている。ちりん、ちりんと音を立てながら揺れるピアスに興味を示し、ちょんちょんとつついて遊んでいるようだ。

「もうあんなヘマはしねぇよ」
「うるさい、一応だ一応。あとお前、アチェーツって誰のことだ?」

 ロークはきょとんとしたあと、うーん、と首を捻る。少し考えたあと「あっ」と声を漏らして答えようとした。だが、その声は精霊が先に言葉を零したことによりそちらに注意が向いて、有耶無耶になってしまう。

『この石、不思議だね』
「「石?」」
『うん。すごく安心する。紅い殺戮者さんと同じ気配がするの』
「ほえ…なんでだろうな?つうか殺戮者ってなんだ。紅いのはピアスから来てるのがわかるけど」
「俺もなんで蒼い守護者なんだ?そりゃ目の色だと俺は緑眼、お前は碧眼だから翠と碧になるし俺じゃなくてお前が碧になる」
『守護者さんはそのまま。私たちを慈しみ、守り、信頼してくれる。殺戮者さんはそんな守護者さんを守る存在。そのためにあなたは剣を振るう。彼を害する何もかもであり全てから。それがあなたと彼と交わした制約であり誓約』
「誓約?」
「最初に俺とお前で繋いだやつのことだ」
「あれか。つうか守るって言ったってこいつ普通に強えじゃん」
「例えだ。感覚的に言えば互いの背中を守り合う、ぐらいが丁度いいだろ」
「だなー」
「それは良い案だな。余も欲しいぞ」

 いきなり降ってきた声に二人が上を見上げると、ばさりと大きな翼を広げながら大きな鳥が舞い降りてきた。
 大きな鷹が四足歩行に進化したような姿をしている鳥はグリフォンと呼ばれる魔物である。成体になると数十メートルの翼を持ち、体の大きささえも数メートル。人間なんてちっぽけに見える大きさだ。

「元気になってよかったではないか紅い殺戮者殿。あまり蒼い守護者殿に心配かけるでないぞ」
「こいつはグリフォン。俺はグリと呼んでいる」
「うぬ。子供もいるのだが、そちらはグラと呼んでくれ。今度連れてこよう」
「りょかい。つうかお前もその呼び方か?」
「ふふ、なに、ただの出来心だ。余は名前で呼ぶぞ?ローク殿。お主はやばい匂いしかせんからのぉ、ちゃんと手網を握っておるのだぞリェット殿」
「あぁ。それは数日で理解した。常識もわからない馬鹿だとな」
「うっせ。戦闘以外能無しで悪かったな」
「そうは言ってない」
「喧嘩するでない」

 目を離した間にいつの間にか人型になっていたグリに止められる。
 コウもそうだがみんなしてイケメン。なんだ顔面偏差値が高いのか総じて。
 グリは金色の髪にアンバーグレーの目をしている。右手首に翠色のブレスレットをつけていた。そういえばコウはブラウン色のやつをつけていたような…。

「疑問だったんだけどよ」
「?」
「お前ら魔物ってみんな人型になれんの?」
「幼子は無理だな。グラは今練習中で人型にはなれるが見た目の年齢が変えられないようだ」
「まず俺の周りにいる奴らはみんな特殊だということと、俺の魔力に当てられた結果できるようになってしまったようだ」
「つまりお前がやばいと」
「いえすあんさー」
「どちらにせよ、お主たちは二人とも規格外だということを自覚せよ」
「「ないない」」
「はぁ…」

 首を振りながらグリの言葉を否定する二人。呆れるようにグリにため息をつかれ、今日も習慣のように鬼ごっこを始めるのでした。ちゃんちゃん。


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「ううむ。やはりというべきか…」
「どうしたのですか?」
「うん?おお、空の覇者の嫁ではないか」
「やめてくださいな。私はそんな大層なものではありません。して、なにを考えていたのです?」
「いやな、最近我々の愛し子に寄り添ってくれる者が現れたのだ。我々みたく獣の類ではなく、人型のな」
「ええっ、初めて知りましたわ。でも、あの子は大丈夫なのです?」
「うむ。傍にいても差し支えないようだ。だが、その男不思議なのだよ。人族かと思えば、そういう訳でもないらしい。あの子に内緒で聞いてみたのだが、自分が人間ではなく他の亜人と同じ時を生きていると本人がいっていた」
「100年が寿命ではないということですね。なら、私も今度遊びに行きましょう。その時に記憶を覗けるといいのですが」
「やるときはちゃんと聞いてからやるのだぞ。あの者は強い。そなたであろうと切り伏せるだろう」
「ご忠告感謝致します。それでは」
「…あやつも面倒ごとに巻き込まれやすい質なのかもしれぬ。余自身は気に入っておるがの」
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