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初めて行く街 ①
しおりを挟むうううう…と情けない声を上げて床に大の字のまま寝こけている男がいた。
一見気持ち良さそうに寝られる状況だがそれは数十分前の話。今は少し苦しそうな声を出しながらも寝ている。寝ることに執着しすぎているのだ。気道を少し妨げられながら寝ていることもあり、若干顔が青くなっていた。どんだけ寝たいんだこいつ。
その上にはそんな男の気道を確実に潰すように寝ているもう一人の男。寝ることを邪魔しにきた悪m…大魔王様だ。
こちらはすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てている。この前強引に切られ短くなった赤髪のあいだから覗く、片耳につけている蒼い石のついたピアスは窓から差し込んでくる光を反射し輝いていた。
そんな二人の横にはふわふわした羽毛を持っている四足歩行の鷹のような鳥が丸まって眠っている。彼女はこの間出会ったグリの娘であるグラだ。
一人の男が風邪で倒れるほどのバカだということは親から聞いていたようで、ここに来てから大抵の時間はその男と共に活動している。
風邪を風邪だと気が付かずに倒れた男がローク、ロークの上で(悪意しかない)雑魚寝を始めたのがリェットという。
今日も平和な世界を謳歌するように彼らは自分のやりたいことをやりたいだけしていた。つまり昼寝である。
脳筋とよく呼ばれるロークは戦いに身を置きがちではあるが、それは脳筋が考えなしに進んだ結果要らない戦闘を生むだけで本来普通の生活をしていたいだけの平和ボケな青年だ。本人が言うには「動物愛でて、食べもん作って、昼寝したい」らしい。つまりスローライフがしたかったという。
ロークの生活を聞いていたリェットは(こいつに普通の生活とか無理だろうな)と既に悟っていた。
それはリェットが心の底からなんでこいつ今まで生きてこられたんだろうと疑ってしまうぐらいに生活力がなかったのだ。今ではしんゆう?というやつのおかげで家事全般できるようになったようだが、最初のほうは酷かったらしい。今でもちゃんと出来ているとは言い難いが…。
人間と呼べる生活をしていなかった。聞いているだけで反吐が出そうだ、と自分の過去を鑑みても最悪だと言える。
こいつが今でもちゃんと笑っていられるのは親友だと教えて貰ったそいつのおかげだろう。なぜかモヤッとしたものを感じる自分がいたが、その感情を思い出す前にロークがまた目の前でやらかしたので結局忘れてしまった。
過去の記憶のせいで人間不信になっていたリェットだったが、ロークが底抜けのバカすぎて気にすることすらバカらしく思えてくる、ということもあり、彼なら普通に話せるし触ることもできる。今のところ嫌悪感もないので正直自分自身にほっとしていた。
なぜかと言われても、自分を受け入れてくれた彼に申し訳ない気持ちが募るからだ。自分を受け入れる者など、もういないと諦めていた自分のことを認識してくれる。気にかけてくれる。そんな小さなことであり、当たり前なことであるその行為でリェットは満足だった。
最近はロークのことを少し理解したのかイタズラ、というか扱いがぞんざいになってきているが、それも彼らなりのコミュニケーションのひとつだろう。
互いのことを何一つ知らない。だからこそ仲良く出来る。知りたいのならば聞けばいいのだから。
彼らはまだ、自分たちの運命に気づいていない。
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