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初めて行く街 ⑤
しおりを挟む執務室から出てきたリェットはすぐにロークの姿を探す。彼は掲示板を見て、どういう系統の依頼があるかチェックしていた。今は受けないと言っていたが、それでも興味はあったのだろう。
普通に歩いている時でも足音がほとんどしないリェットだが、喧騒の中その音に気づいたのか気配を察知したのかロークはリェットが声をかける前に振り向き、きょとんも首を傾げる。
「どうした。機嫌悪いぞ。さっきからすごく不機嫌なのが伝わってくる」
「あぁ…そういえば意識を繋いでいたんだっけな。悪いが内容は言えん、が俺にとっては胸糞悪かった」
「そうか。まぁ、話せる時に話してくれ」
「そうする。さっさと宿を探すぞ」
「あ、それならさっき決めた。違う受付の人がおすすめを教えてくれたんだ」
「うん?決まってるならそこにしよう」
ん。と先ほどと同じようにリェットは手を差し出す。ロークはまさかリェットからしてくれると思っていなかったようで、照れくさそうに笑いながらその手を握った。
そこまできてリェットはあっ、と気づいたらしくすぐさま顔を真っ赤にし手を振り払おうとする。だが繋いでしまったものはしょうがないと自分に言い聞かせ、二人は宿へと向かった。
「なーなーリェット」
「なんだ」
「お前、本当の名前なんなの?」
「ザプリェット。長いからリェットだ」
「っ…。…そっか。まだいいや」
「?」
「ううん。こっちの話だ、おやすみ」
「おやすみ」
少しの布ズレの音がしたあと、音がしなくなる。隣に寝ているリェットの方を向き、ロークは少しだけ考えた。
「(…誤魔化された、な。ヴァイスが呼んでたフォルってなんなんだろ。気長に待つか。それに、ザプリェットって確か…)」
流石に疲れが溜まっていたのか思考を緩やかになった途端に眠気が襲ってくる。ふぁ…と一つ欠伸をこぼし、ストンと眠りに落ちた。
「…お前は、なにも知らなくていい。俺のことなど、調べないでくれ…」
リェットに似た声が聞こえた気がした。
帰宅後、ロークは高所に慣れるためにシュヴァイツァーに乗っていた。
彼はスパルタのようでいきなり地上が離れたと思った時には既に目の前に地上が迫ってきている。なにかの拷問かと思えるほどの速度で上げ下げを何度もしたことにより、毎回ロークは気持ち悪くなり顔を青くしていた。
今回もロークの魂が飛びかけていることを気づいたシュヴァイツァーが彼を揺らさないよう静かに地上に降り立つと、下でその様子を見ていたリェットが死にかけているロークを引きずり下ろす。うえぇ…と死にそうな声を出しているロークに安静の魔法をかけて、顔色がまた元に戻ったら空の旅へ送り出すのだ。なにこいつら、怖い。
リェットは送り出す時、とびきりの笑顔で「行ってこい」と言う。ロークには別の意味にしか聞こえず「はい」と泣きそうになりながらも旅立っていくのだった。よかったね、ローク。あってるよ。だって「逝ってこい」だもの(震え声)。
そんなことをし続けて数日。やっと慣れたのか数時間飛行し続けても体調が悪くなることはなくなった。流石に揺れがひどすぎると少し酔いかけるようだ。
そんなこんなで今日も平和に過ごしている二人でした。
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