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浮上2
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「ここ、好きに使ってね♪」
蕾紗さんに手を引かれたまま、俺は久志の部屋を背に向かい側の斜め左奥の部屋に連れて来られた。
広さは昨日寝かされていた部屋と同じ位。
しかし、室内の左側には引き戸とそして洗面所とトイレ。その奥にはシャワールーム……。
「ごめんね~、本当は彰ちゃんの部屋にもユニットバスを置く予定だったんだけど、久志が反対するもんだから、シャワールームになっちゃったのよ」
この部屋は俺の部屋と決まっている事にも疑問だが、何故久志はこの部屋に湯船を置く事に反対したんだろうか?
それにしても、木根家は家族それぞれの部屋に風呂が付いているそうだ。
蕾紗さんが洗面所内の備品の置き場所を説明してくれながらそう話す。
『正にセレブなお宅……』
以前の久志の部屋にも俺が使わせて貰う部屋に付いている位の広さの浴室とユニットバスがあったそうだ。
幼い頃に何度か泊まったが、いつも1階の浴室(今思えば一般家庭の風呂にしては広い)を久志と一緒に入っていたので全く気付かなかった。
「さて、と。スーツケースの中身は後で整理するとして、着替えたら朝ご飯食べに行こうか、ね。久志」
久志の名を言われて振り返ると、部屋の入り口に寄り掛かるように立っていた。
既に着替えを済まし、タオル地で濃い緑のVカットのTシャツと焦げ茶色のスラックス姿。引き締まった身体にとても良く似合っている。改めて格好良い奴なんだなぁ、と思った。
「今日からの彰ちゃんの服はそこのクローゼットに入っているから、着替えたら下のダイニングに来てね♪」
『今日からの……?』
蕾紗さんの言い回しにふと疑問も覚えだが、2人が部屋を出て下へ向かう気配がしたので、俺も急いで着替えをする事にした。
『え?コレ?』
クローゼットには淡い水色のTシャツと灰色のコットンパンツがハンガーにかかっている。
しかも着てみるとTシャツが若干大きい。
普段もゆったり目の服を着るので、そこは気にはならなかったがデザインが妙に女性っぽい。
「!?」
着替えて部屋の姿見を覗くと、一瞬華奢な少女が写っている気がして驚き鏡を見直してまった。だけど、そこに映るのはいつもの自分だった。
『服の所為で錯覚か?』
身体を触っても胸もケツもペッタンコで硬い。先程トイレで分身にも会ったし、何故少女に見えたのか疑問だ。
でも、一瞬だったとは言え見たあの少女の姿は俺だ。
俺の顔は母親似で親父に似た弟の様に精悍な男らしさは無いが、鏡や写真に写る自分が少女の様に見えた事は此まで無い。
やはり、今着ている服のデザインの所為と思い、俺は部屋を後にした。
※※※※※※※※※※※※※※※※
「お早うございます」
ダイニングに入ると、雅鷹さんと蕾紗さんはコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
「おはよう、彰くん。昨夜は良く眠れたかい?」
「はい。良く寝ました。昨夜はご挨拶せず、すみませんでした」
新聞から顔を上げ、優しく微笑む雅鷹さんに俺も笑顔で答える。
昨夜はだいぶ帰宅が遅かったから気にしないでくれ、と微笑まれた。
久志は雅鷹さん似の顔だが、久志よりもずっと物腰が柔らかく欧米の紳士の様な雰囲気に思わず見惚れてしまう。
「彰は俺の隣に座れ」
同性なのに雅鷹さんから醸し出される大人の色気に少し頬が暑い気がしている俺に、キッチンから出てきた久志はマグカップに並々と牛乳を注ぎながら俺に席を案内しつつマグカップを差し出す。
「ありがとう」
マグカップを受け取り俺と久志が席に着くと、キッチンから朝食が運ばれてきた。
「お早うございます、お久しぶりでございます。彰様」
笑顔でそう挨拶をしながら前に朝食を並べてくれたのは、昔から木根家で働いている家政婦の都子さんだった。
「お久しぶりです、都子さん。お元気でしたか?」
貴美恵さんと共に次々とテーブルに配膳していく姿は変わらず有能家政婦さんっぷりだ。
木根家の昔からのスタイルで家政婦だけど家族の一員の都子さんも席に着き、揃って食事を始める。
今日は土曜日で皆予定は無いらしく、全員が他愛ない話をしながらゆっくり時間をかけて食事を済ませた。
その後、片付けの為都子さんだけがキッチンへ下がり食後の飲み物を銘々好きに飲んでいると、向かい側に座る雅鷹さんが俺を見て口を開く。
「さて、彰くん。昨日は貴美恵と蕾紗が無理矢理君を拐って来てしまって悪かったね。かなり強く鳩尾を殴ったと聞いているが、具合はどうかね?」
「あ、いえ。塗って頂いた薬のおかげでもう殆んど大丈夫です。俺の方こそ、貴美恵さんに怪我を負わせてしまって本当に申し訳ありませんでした」
大変すまなかった。とやや眉間にシワを寄せ俺に頭を下げて、貴美恵さんを軽く睨む雅鷹さんにむしろ申し訳なく感じて俺も頭を下げる。
「いや、彰信やリリーさんから許可を得ていたんだから、拐わず普通にうちに来て貰えば良かったのに、過激な対応だったのだから貴美恵のは自業自得だ」
「あら、だって実力を知りたかったから仕方がないじゃない?」
私の背中なら何ともないから気にしないでね♪と笑顔で言う貴美恵さんは、俺の危機回避能力が知りたかったらしい。
そして、人間は油断している時に危険が及んだ際どれ程本能で瞬時に身体が動き対応出来るかで生き残れる率が変わる。と力説してきた。
何故、その様な事を力説してくるのか?そして、俺が木根家に来る事は雅鷹さんも解っている。
『そう言えば、昨夜久志は妙な言い回しをしていなかったか?』
と言う事は………?
つい久志の顔を見てしまうと、久志はニヤッと悪い笑顔を見せる。
「そうだ。彰が考えている通り、俺の家族全員が怪盗・怜悧だ」
蕾紗さんに手を引かれたまま、俺は久志の部屋を背に向かい側の斜め左奥の部屋に連れて来られた。
広さは昨日寝かされていた部屋と同じ位。
しかし、室内の左側には引き戸とそして洗面所とトイレ。その奥にはシャワールーム……。
「ごめんね~、本当は彰ちゃんの部屋にもユニットバスを置く予定だったんだけど、久志が反対するもんだから、シャワールームになっちゃったのよ」
この部屋は俺の部屋と決まっている事にも疑問だが、何故久志はこの部屋に湯船を置く事に反対したんだろうか?
それにしても、木根家は家族それぞれの部屋に風呂が付いているそうだ。
蕾紗さんが洗面所内の備品の置き場所を説明してくれながらそう話す。
『正にセレブなお宅……』
以前の久志の部屋にも俺が使わせて貰う部屋に付いている位の広さの浴室とユニットバスがあったそうだ。
幼い頃に何度か泊まったが、いつも1階の浴室(今思えば一般家庭の風呂にしては広い)を久志と一緒に入っていたので全く気付かなかった。
「さて、と。スーツケースの中身は後で整理するとして、着替えたら朝ご飯食べに行こうか、ね。久志」
久志の名を言われて振り返ると、部屋の入り口に寄り掛かるように立っていた。
既に着替えを済まし、タオル地で濃い緑のVカットのTシャツと焦げ茶色のスラックス姿。引き締まった身体にとても良く似合っている。改めて格好良い奴なんだなぁ、と思った。
「今日からの彰ちゃんの服はそこのクローゼットに入っているから、着替えたら下のダイニングに来てね♪」
『今日からの……?』
蕾紗さんの言い回しにふと疑問も覚えだが、2人が部屋を出て下へ向かう気配がしたので、俺も急いで着替えをする事にした。
『え?コレ?』
クローゼットには淡い水色のTシャツと灰色のコットンパンツがハンガーにかかっている。
しかも着てみるとTシャツが若干大きい。
普段もゆったり目の服を着るので、そこは気にはならなかったがデザインが妙に女性っぽい。
「!?」
着替えて部屋の姿見を覗くと、一瞬華奢な少女が写っている気がして驚き鏡を見直してまった。だけど、そこに映るのはいつもの自分だった。
『服の所為で錯覚か?』
身体を触っても胸もケツもペッタンコで硬い。先程トイレで分身にも会ったし、何故少女に見えたのか疑問だ。
でも、一瞬だったとは言え見たあの少女の姿は俺だ。
俺の顔は母親似で親父に似た弟の様に精悍な男らしさは無いが、鏡や写真に写る自分が少女の様に見えた事は此まで無い。
やはり、今着ている服のデザインの所為と思い、俺は部屋を後にした。
※※※※※※※※※※※※※※※※
「お早うございます」
ダイニングに入ると、雅鷹さんと蕾紗さんはコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
「おはよう、彰くん。昨夜は良く眠れたかい?」
「はい。良く寝ました。昨夜はご挨拶せず、すみませんでした」
新聞から顔を上げ、優しく微笑む雅鷹さんに俺も笑顔で答える。
昨夜はだいぶ帰宅が遅かったから気にしないでくれ、と微笑まれた。
久志は雅鷹さん似の顔だが、久志よりもずっと物腰が柔らかく欧米の紳士の様な雰囲気に思わず見惚れてしまう。
「彰は俺の隣に座れ」
同性なのに雅鷹さんから醸し出される大人の色気に少し頬が暑い気がしている俺に、キッチンから出てきた久志はマグカップに並々と牛乳を注ぎながら俺に席を案内しつつマグカップを差し出す。
「ありがとう」
マグカップを受け取り俺と久志が席に着くと、キッチンから朝食が運ばれてきた。
「お早うございます、お久しぶりでございます。彰様」
笑顔でそう挨拶をしながら前に朝食を並べてくれたのは、昔から木根家で働いている家政婦の都子さんだった。
「お久しぶりです、都子さん。お元気でしたか?」
貴美恵さんと共に次々とテーブルに配膳していく姿は変わらず有能家政婦さんっぷりだ。
木根家の昔からのスタイルで家政婦だけど家族の一員の都子さんも席に着き、揃って食事を始める。
今日は土曜日で皆予定は無いらしく、全員が他愛ない話をしながらゆっくり時間をかけて食事を済ませた。
その後、片付けの為都子さんだけがキッチンへ下がり食後の飲み物を銘々好きに飲んでいると、向かい側に座る雅鷹さんが俺を見て口を開く。
「さて、彰くん。昨日は貴美恵と蕾紗が無理矢理君を拐って来てしまって悪かったね。かなり強く鳩尾を殴ったと聞いているが、具合はどうかね?」
「あ、いえ。塗って頂いた薬のおかげでもう殆んど大丈夫です。俺の方こそ、貴美恵さんに怪我を負わせてしまって本当に申し訳ありませんでした」
大変すまなかった。とやや眉間にシワを寄せ俺に頭を下げて、貴美恵さんを軽く睨む雅鷹さんにむしろ申し訳なく感じて俺も頭を下げる。
「いや、彰信やリリーさんから許可を得ていたんだから、拐わず普通にうちに来て貰えば良かったのに、過激な対応だったのだから貴美恵のは自業自得だ」
「あら、だって実力を知りたかったから仕方がないじゃない?」
私の背中なら何ともないから気にしないでね♪と笑顔で言う貴美恵さんは、俺の危機回避能力が知りたかったらしい。
そして、人間は油断している時に危険が及んだ際どれ程本能で瞬時に身体が動き対応出来るかで生き残れる率が変わる。と力説してきた。
何故、その様な事を力説してくるのか?そして、俺が木根家に来る事は雅鷹さんも解っている。
『そう言えば、昨夜久志は妙な言い回しをしていなかったか?』
と言う事は………?
つい久志の顔を見てしまうと、久志はニヤッと悪い笑顔を見せる。
「そうだ。彰が考えている通り、俺の家族全員が怪盗・怜悧だ」
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