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誘因4
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「佳夜!今日は俺とデートしよう!」
昨日で一応魔術の基礎は覚え終える事が出来たので、今日からは改めて思い出した現実と向き合い、部屋で夏休みの宿題と格闘をしていた。そんな中で弟がノックも無しに部屋に入って来て第一声に「デートしよう!」とのたまわった。
「……煌夜、あんた宿題は?」
私はまだまだ終わる目処が立たない山の様な宿題に心からげんなりしていた。
仕方がなかった事とは言え、丸々1週間宿題を進められなかった事が悔やまれる。
「まだ全然手を付けてない♪」
樹海に行ったり私が目覚めなかったり拐われたり異世界人との初遭遇(母も異世界人のはずだけど?)があったりして忙しかったのでやっていない!と堂々と言い切った。
「あと4週間しか無いのに終わるの?」
「俺、やる気になったら早いから♪」
確かに弟は要領も良くて集中し出したら凄い。逆に私は集中力があまり持続しないので毎日ちまちまと進めないと終わらせる自信が無い。
「明日久志兄ちゃんが帰ってくるから、佳夜は兄ちゃんと2人でやれば直ぐ終わるって!……ってか、絶ッ対、兄ちゃん帰ってきたら佳夜を独り占めするから今日しか俺一緒に遊べねぇもん」
「……え?」
なんか最後の方は声が小さくて聞き取れなかった。
「と~に~か~く~!今日は俺とデートしよ~!」
姉弟でデートって表現がおかしい気もするけど、後ろから抱き付かれ頭に顎を乗せたまま張り付いた弟は、私が「いいよ」って言わないと離れてくれなさそう……。
「…もうっ、しょうがないなぁ。いいよ。どこに連れて行ってくれるの?」
「やった♪……じゃあさ、コレとコレ着てね!髪は俺がいじりたいから着替え終わったら呼んで!行き先はお楽しみ!」
嬉しそうに喋りながら、あっという間にクローゼットからミントカラーでギンガムチェックのワンピースと白いニットのボレロを出した。そして「廊下で待ってるから♪」と言ってさっさと部屋を出ていった。
「早ッ!ってか、既に決めていたの?」
私が目覚めなかった間にクローゼットの中は一新されていて、すっかり女の子な世界が繰り広げられていた。家から持って来ていた服類も何処かに片付けられてしまい行方不明だ。
『……それにしても、見事にワンピースしか掛かっていない。一体誰の趣味?』
苦笑しつつ着ていたワンピースを脱ぎ、弟チョイスに袖を通した。
「着替えたよ~」
部屋から声を掛けると、直ぐに入って来た弟は私を椅子に座らせ、髪をブラシで解かし始めた。
そして髪を左右対象に分け、こめかみから耳の下まで編み込みおさげを作り、そのおさげを輪にしてヘアゴムで止め、最後にワンピースと同じ布で作られたリボンを結んだ。
「器用ね~!」
姿見で髪型を見て本当に感心した。
「蕾紗姉ちゃんが佳夜の髪をいじっているのを見て、俺もやってみたくなったんだ♪」
「その身に付けたスキルを使って将来ヘアスタイリストでも目指すの?」
私がそう冗談めかして言うと、弟は首を横に振った。
「佳夜の髪だからいじりたいんだ」
「……は?」
「だってさ、彰だった時も焦げ茶色で綺麗だなって思っていたけど、佳夜の髪って俺のと違って柔らかいし日の下だと琥珀色になって凄く綺麗じゃん。人工的に染めた色じゃないから余計そう思っちゃうのもあるけど、傷んでもいないから気持ち良くてず~っと触っていたくなるんだよね」
一瞬、シスコン宣言!?かと心配したけど、どちらかと言えば猫とかウサギを撫でている気持ちに近いらしい。
………どっちにせよ姉とは認識されていない私なのね。
※※※※※※※※※※※※※※※
その後、下に降りるとリビングにいた貴美恵さん、母、蕾紗さんの3人に捕まり、日焼け止めや保湿クリームやら色々と顔や肌が露出している場所に塗りたくられた。
やっと解放され、玄関で待っていた弟に追い付くと手に紺色の日傘を手渡された。
「外、日差しが強いからコレ使って♪」
何処までも気が利く弟だ。
聞いても行き先は教えてくれないけど、歩いて駅に向かい電車に乗るよ♪とだけ言ってくれた。
駅に着くと、偶然弟の同級生達に会った。普段女の子と一緒にいる所なんて全く見かけた事が無い煌夜が女の子連れでいる!と驚かれ、途端に囲まれ質問責めにあった。すると、弟は私を母方の従妹と紹介した。私を見て妙に色めき立った男の子達から名前や住んでいる所を聞かれた。
『どう答えれば良いのよ!?』と戸惑っていたら、弟が代わりに答えた。
私はカナダ在住で、今回の煌夜家族のカナダ旅行を機に一緒に日本に来て、少しだけ滞在して遊んで帰る。言葉は彰と煌夜から日本語を学んでいるので少しは聞き取れるがあまり話せない子と伝えていた。
「……一体どういう事?」
一緒に行きたがった彼等に、これから両親と合流して食事に行くからと弟は言って別れ電車に乗った。車内で従妹ってどう言う事?と問うと、弟は片眼を軽く瞑りウィンクをした。
……弟もイケメンの部類に入るので、ウィンクしてもキザに見えず様になる。
「佳夜の見た目は母さん似だから日本人に見えないし、親父似の俺とあまり似ていない上に俺より小さいから従姉って言うより従妹の方がしっくり来るでしょ?」
『わざわざ、いとこの言い方を小難しく変えんでよろしい!』
「小さいって……。煌夜の背が伸びたから私が小さく見えるんじゃない?」
「俺が伸びたんじゃなくて、佳夜が少し縮んだんだよ」
「……うそ」
「嘘じゃないよ。佳夜に戻った後て目覚めなかった間に、母さんや蕾紗姉ちゃんが服や下着を用意する為に身体のサイズを細かく計ってて、身長は162㎝だって言ってたよ」
「!?」
『◯㎝も縮んだの~!?』
「そんな、涙目にならなくても。……女の子なら低くない方じゃないかな?あ、なんだったら彰の姿の時に魔術で身長変えれば良いんじゃない?」
あっちは仮の姿だから、いくらでも変えられるよ。と教えてくれた。
『本当!?じゃあ、煌夜並の身長にも成れるって事よね!?』
思わず目が輝く。
「何を考えたのか手に取る様に判っちゃうんだけど。……あんまり身長を伸ばすと今の制服が着れなくなって買い直しになるよ?」
「う"っ」
「今のままで支障は無いんだから、良いじゃん」
そう言って弟はまた頭を撫でてきた。
「……ねぇ」
「うん?」
「私ってお姉さんよね?」
「……うん(一応?)」
「どうして頭を撫でるのかしら?」
「え?そりゃあ………(ちっちゃくて可愛いから触れたくなるって言ったら怒るだろうなぁ)」
「そりゃあ?」
「あ!降りる駅に着いたよ♪行こう!」
タイミング良く(?)目的地の駅に着き、弟に手を引かれ電車を降りた。
弟と私が着いた先は、同世代に人気の服やグッズの店が数多く構える有名な街だった。私が彰だった時にも弟と来た事があった所だ。
「なぁ~んだ!ここだったのね!」
何で行き先を言わなかったの?と聞けば、弟は電車に乗ったら言うつもりだったが、同級生達に見付かり車内での私との会話の流れから言うタイミングを逃したのだそうだ。
人が多いから、と言う理由から手を繋いだまま街中を歩き、私に着てみて欲しい!と言う弟が色々なお店に入っては私に試着をさせた。
流行りの物から少しアンティークっぽい感じの物等様々な種類を試着し、弟は一番気に入った物を何点も購入して行った。
すっかり試着し疲れた私は、煌夜に言って近くのファーストフード店に入り休憩を取る事にした。
「………はぁ。疲れた。煌夜って服見るの好きだよね~」
彰の頃に付き合った時も、弟は自分のを買う予定がこちらの服まで選び出して、何時間も付き合わされた事があったのを思い出した。
『凄く疲れたからあれ以降煌夜の買い物に付き合うのを止めたんだった』
「そうだね~。服や小物を見るのは割りと好きかな。でも今日は佳夜に似合う服を色々買って来て欲しい。って母さんから言われたからなんだよ」
クローゼット内の服は母や貴美恵さん達が好みに走り過ぎてお嬢様風な物ばかりになってしまったので、センスの良い煌夜に普段着を揃えて来る様に言ったのだそうだ。
……確かに私には女性服のセンスは皆無だし、服にこだわりが無いので何でも良いと思ってしまっている。しかし、弟は男の子なのに女性物を良く解っていて、入る店入る店の店員と意気投合して次々と2人で選んでは私に試着させるから本当に凄いなぁと思った。
「ホント、次から次へとよく服を選び出せるよね~」
冷たくて甘いシェイクを飲んで疲れを癒しながら呟くと、弟は首を傾げてたいした事はしていないと言った。
「佳夜に似合うと思った服だけ試着してもらっただけだよ?」
「……それにしても、この量は買い過ぎじゃない?」
入ったお店で必ず最低1着は買ったから、今足元にはパンパンに膨らんだ大きな横長の紙袋(先程入ったお店の店員が気を利かせてくれて纏めてくれた)が3つも並んでいた。
「う~ん、そうかな?……あ、でもまだ靴を買ってないよ!この後は靴を見に行こうよ♪」
「えぇぇぇ!?」
『靴なんて今履いているサンダルとか久志の家に私用って用意されていたスニーカーとかで充分なんじゃ……?』
「まぁ、とりあえず荷物が多いから一旦駅に行こう♪」
駅に戻り地下鉄の改札の方へ降りて行くと、こんな所にもコインロッカーってあったのね!?と思う様な人混みから完全に死角で殆んど利用されていない場所に弟は着いた。直ぐにロッカーに荷物を入れてお金を入れて預けるのかと思っていたら、防犯カメラの死角になる位置のロッカーの一つを選び、中に荷物を入れ小さな声で魔方陣を構築し出したのだった。そして、魔方陣に包まれた荷物は跡形もなく消え去った。
「……(久志の)家に送ったの?」
「そう♪」
転移魔方陣の応用で、荷物が多い時に良く使っているのだそうだ。
流石幼い頃から魔術を使って来ただけはある。
「便利ねぇ…。そう言えば、煌夜は精霊とは仲良いの?」
「俺の場合は仲が良いって言うより、佳夜が愛されているからその弟って事で仲良くしてもらっている感じかな」
弟の魔力も複雑な色でとても綺麗なのだそうだが、奏でる旋律は弟が生まれ持った魔力のみなので魅了される程では無いらしい。精霊達も全種類召還出来て魔力の偏りも無く魔術を展開可能だけど、私に対する様な新密度は精霊は見せて来ないらしい。
「精霊達の言葉も俺は少ししか解らないしねぇ」
話しながら地上に戻ると、外は夕立が降っていた。
「あちゃ~。マジか~」
降り出したばかりの様で雨足も強く雷もかなり激しく鳴っていた。
スマホの時計を見れば、間もなく17時。止むのを待って買い物を続けたら夕食に遅くなってしまうだろう。
「帰ろっか?」
「……そうだね~。俺チョイスのトータルコーディネートされた佳夜を取っ替え引っ替え着替えさせて写真に収めて楽しみたかったけど、この雨じゃねぇ」
『そんな事を考えていたの!?』
弟からの駄々漏れた心の声に少々引きたくなったが、今日は何だかんだ言ってお世話になったし女性物の服の勉強にもなって楽しかったので、弟との距離は開けないでおいてあげよう。とそっと思った。
そのまま電車に乗り、駅に着くと丁度止みそうな感じだった。
このまま家に向かって歩き出すのかと思ったら、弟は私の手を引き人気の無い裏ビルに連れて行った。そして、私を優しく抱き締めると「酔うかも知れないから目を瞑ってて」と耳に唇を付けて小声で囁いてから足元に魔方陣を構築した。
「良いよ」とまた囁かれ、目を開けると久志の家の玄関前だった。
「本当は他人に見られたらマズイから使っちゃダメなんだけどね♪」
今日は私を濡らして汚したくないから使ったらしい。せっかくのワンピースとサンダルが汚れなくて有り難かったけど、弟のその紳士でチートな所は一体いつ身に付けたのか、そして私に発揮してどうするんだ!?と心配になった。
しかし、玄関を開けて入るとそこには鬼神の様な顔をした母が待っていた。
「こ~う~や~?」
「……ヤッベ!」
直ぐ様回れ右をして逃げ出そうとした弟だったが一瞬で母に捕まり、そのまま地下へ連行されて行った…。
『私も叱られた方が良いんじゃ?』
弟は私が汚れない為に魔術を使ってくれたのだから、弟だけが叱られるのは申し訳ないと思い、地下へ向かおうとした。
するとリビングから父が現れ、私に手招きをした。
「アレはあいつが悪い。庇わなくて良い」
「……そうなの?」
リビングに入るとソファで寛いでいた雅鷹さんと蕾紗さんが笑顔で「お帰り♪」と迎え入れてくれた。父と一緒にソファに腰掛けると、クスクス笑いながら貴美恵さんがダイニングからやって来た。
「煌君ったら佳夜ちゃんに格好付けたいからって私情で魔術使っちゃ駄目よね~」
私にアイスティーを渡してくれながら、貴美恵さんがそう言った。どうやら、一度目の魔術はまだ買い物を続ける予定だったしきちんと他人の目に付かない所で考えて使ったのでセーフらしいが、先程のは電話で父か母を呼び出して車を回して貰うとか傘を持ってきてもらえば済む事なのに、使用したのでアウトなのだそうだ。そしてどちらの魔術もこの家に向けて発動された時点で家に結界を張っている母にはバレているのだそうだ。
「リリーは常々私情で魔術は使ってはいけない。と口にしているんだ」
そう父は私に優しく言った。ファルリーアパファルでは魔術が生活の一部になっているので、自分の為に使うのは当たり前になってしまっている。だが、使い過ぎる事で様々な弊害が起きているのも実情。魔術や魔方陣に頼り過ぎて身体が衰えそれ無しでは生活が出来なくなってしまったり、中には精神が病む者も現れたりしてしまっているのだそうだ。
「……精神が病むの?」
「自分の許容範囲を無視した使い方をし続けた場合。らしいぞ」
「…怖いね」
「そうだな。だから、佳夜も気を付けてくれよ」
「はい」
漸くして母と煌夜が戻って来た。
母に叱られた煌夜なんて、幼い頃以来な感じがして懐かしいしちょっと珍しいな。なんて思ってしまったけど、煌夜がかなりしょげているので、ついよしよしと頭を撫でた。すると煌夜が私をぎゅうっと抱き締め頬擦りをしてきた。
「煌夜だけ怒られちゃって何だかごめんね」
「……ん~ん。佳夜は悪くないから良いんだ。俺、佳夜と2人っきりで出掛けられて嬉しくて調子乗っちゃったんだ」
でも、かなり凹んだから今暫くはこのまま佳夜を充電させて~。と意味不明な事を呟かれ、キッチンに入っていた貴美恵さんから「夕食よ~♪」と声が掛かる迄弟は私を抱き締め頬擦りをし続けた。
※※※※※※※※※※※※※※※
「え?明日の夕方には向こうの家に帰るの?」
食後全員でリビングへ戻り寛いでいると、昼頃には合宿先から戻る久志と共に昼食を食べたら家に帰ると父から言われた。確かにそんな話しを夏休み前に母ともした記憶がある。(カナダ旅行からの帰国後、お土産を渡すついでに一緒に食事しましょう♪って貴美ちゃんと決めたのよ♪って言っていたけど……)けど、帰るのは私も一緒に、ではなかっただろうか?
「どうして私は引き続きこちらでお世話になるの?」
首を傾げながら父に問うと、父は苦虫を潰した様な顔をして何か小さな声で呟いた。
「…………だからだ」
「…え?」
全然聞き取れなかったので聞き返すも、父は更に眉間のしわを深くして黙ってしまった。
「男親ってどこの世界も一緒ね!」と笑いながら言った母が、代わりに説明してくれた。
「佳夜が久志君の番だからよ♪前も言ったけど、番になると即結婚か即せ…「そこは繰り返さなくて良い!」(←By 父の声)……だから、もう佳夜は私達とではなく久志君と暮らすのが良いのよ」
そうしないと互いの心の均等が狂ってきてしまうのだそうだ。本当はルーも一緒に暮らす必要があるが、長い時間共にいる久志の方が番としての影響力が強いので離れるのは良くないらしい。勿論ルーが今度の非番でこちらに来た時に話し合う必要はあるけど。
「……えっと、もしかして久志の部屋の改装はこの為だった、とか?」
「「そうよ~♪」」
……息ピッタリの母~S。
母は自分の魔力から感じ取っていて、十中八九久志は私の番だろうと判っており、貴美恵さんは母から番文化(?)を聞いていたので番とは何たるかを知っており、久志の私への態度から絶対そうね!と確信していたそうだ。そして私が佳夜に戻ったら即番になり、籠るだろうと思っていたらしい……。(思わないで~!)
ただ流石にまさか番がもう1人現れるとは思っていなかったそうだ。
「日本の法律上、2人共まだ結婚は出来ないしいきなり2人暮らしを始めるなんて無理だし、この先グヴァイラヤーさんも共に生活するならどちらの世界で暮らすかとか色々話し合わなければならないから先ずは佳夜はここで久志君と暮らしなさいな♪」
「昔から佳夜ちゃんはうちの娘って私達の中では決まっていたから大歓迎だからね~❤」
「「ね~♪」」と微笑み合う貴美恵さんと雅鷹さんだった。
『どっかのドラマみたいに嫁姑問題の心配が無いのはとても安心出来るけど、明日久志が帰って来た後がなんか怖い……』
昨日で一応魔術の基礎は覚え終える事が出来たので、今日からは改めて思い出した現実と向き合い、部屋で夏休みの宿題と格闘をしていた。そんな中で弟がノックも無しに部屋に入って来て第一声に「デートしよう!」とのたまわった。
「……煌夜、あんた宿題は?」
私はまだまだ終わる目処が立たない山の様な宿題に心からげんなりしていた。
仕方がなかった事とは言え、丸々1週間宿題を進められなかった事が悔やまれる。
「まだ全然手を付けてない♪」
樹海に行ったり私が目覚めなかったり拐われたり異世界人との初遭遇(母も異世界人のはずだけど?)があったりして忙しかったのでやっていない!と堂々と言い切った。
「あと4週間しか無いのに終わるの?」
「俺、やる気になったら早いから♪」
確かに弟は要領も良くて集中し出したら凄い。逆に私は集中力があまり持続しないので毎日ちまちまと進めないと終わらせる自信が無い。
「明日久志兄ちゃんが帰ってくるから、佳夜は兄ちゃんと2人でやれば直ぐ終わるって!……ってか、絶ッ対、兄ちゃん帰ってきたら佳夜を独り占めするから今日しか俺一緒に遊べねぇもん」
「……え?」
なんか最後の方は声が小さくて聞き取れなかった。
「と~に~か~く~!今日は俺とデートしよ~!」
姉弟でデートって表現がおかしい気もするけど、後ろから抱き付かれ頭に顎を乗せたまま張り付いた弟は、私が「いいよ」って言わないと離れてくれなさそう……。
「…もうっ、しょうがないなぁ。いいよ。どこに連れて行ってくれるの?」
「やった♪……じゃあさ、コレとコレ着てね!髪は俺がいじりたいから着替え終わったら呼んで!行き先はお楽しみ!」
嬉しそうに喋りながら、あっという間にクローゼットからミントカラーでギンガムチェックのワンピースと白いニットのボレロを出した。そして「廊下で待ってるから♪」と言ってさっさと部屋を出ていった。
「早ッ!ってか、既に決めていたの?」
私が目覚めなかった間にクローゼットの中は一新されていて、すっかり女の子な世界が繰り広げられていた。家から持って来ていた服類も何処かに片付けられてしまい行方不明だ。
『……それにしても、見事にワンピースしか掛かっていない。一体誰の趣味?』
苦笑しつつ着ていたワンピースを脱ぎ、弟チョイスに袖を通した。
「着替えたよ~」
部屋から声を掛けると、直ぐに入って来た弟は私を椅子に座らせ、髪をブラシで解かし始めた。
そして髪を左右対象に分け、こめかみから耳の下まで編み込みおさげを作り、そのおさげを輪にしてヘアゴムで止め、最後にワンピースと同じ布で作られたリボンを結んだ。
「器用ね~!」
姿見で髪型を見て本当に感心した。
「蕾紗姉ちゃんが佳夜の髪をいじっているのを見て、俺もやってみたくなったんだ♪」
「その身に付けたスキルを使って将来ヘアスタイリストでも目指すの?」
私がそう冗談めかして言うと、弟は首を横に振った。
「佳夜の髪だからいじりたいんだ」
「……は?」
「だってさ、彰だった時も焦げ茶色で綺麗だなって思っていたけど、佳夜の髪って俺のと違って柔らかいし日の下だと琥珀色になって凄く綺麗じゃん。人工的に染めた色じゃないから余計そう思っちゃうのもあるけど、傷んでもいないから気持ち良くてず~っと触っていたくなるんだよね」
一瞬、シスコン宣言!?かと心配したけど、どちらかと言えば猫とかウサギを撫でている気持ちに近いらしい。
………どっちにせよ姉とは認識されていない私なのね。
※※※※※※※※※※※※※※※
その後、下に降りるとリビングにいた貴美恵さん、母、蕾紗さんの3人に捕まり、日焼け止めや保湿クリームやら色々と顔や肌が露出している場所に塗りたくられた。
やっと解放され、玄関で待っていた弟に追い付くと手に紺色の日傘を手渡された。
「外、日差しが強いからコレ使って♪」
何処までも気が利く弟だ。
聞いても行き先は教えてくれないけど、歩いて駅に向かい電車に乗るよ♪とだけ言ってくれた。
駅に着くと、偶然弟の同級生達に会った。普段女の子と一緒にいる所なんて全く見かけた事が無い煌夜が女の子連れでいる!と驚かれ、途端に囲まれ質問責めにあった。すると、弟は私を母方の従妹と紹介した。私を見て妙に色めき立った男の子達から名前や住んでいる所を聞かれた。
『どう答えれば良いのよ!?』と戸惑っていたら、弟が代わりに答えた。
私はカナダ在住で、今回の煌夜家族のカナダ旅行を機に一緒に日本に来て、少しだけ滞在して遊んで帰る。言葉は彰と煌夜から日本語を学んでいるので少しは聞き取れるがあまり話せない子と伝えていた。
「……一体どういう事?」
一緒に行きたがった彼等に、これから両親と合流して食事に行くからと弟は言って別れ電車に乗った。車内で従妹ってどう言う事?と問うと、弟は片眼を軽く瞑りウィンクをした。
……弟もイケメンの部類に入るので、ウィンクしてもキザに見えず様になる。
「佳夜の見た目は母さん似だから日本人に見えないし、親父似の俺とあまり似ていない上に俺より小さいから従姉って言うより従妹の方がしっくり来るでしょ?」
『わざわざ、いとこの言い方を小難しく変えんでよろしい!』
「小さいって……。煌夜の背が伸びたから私が小さく見えるんじゃない?」
「俺が伸びたんじゃなくて、佳夜が少し縮んだんだよ」
「……うそ」
「嘘じゃないよ。佳夜に戻った後て目覚めなかった間に、母さんや蕾紗姉ちゃんが服や下着を用意する為に身体のサイズを細かく計ってて、身長は162㎝だって言ってたよ」
「!?」
『◯㎝も縮んだの~!?』
「そんな、涙目にならなくても。……女の子なら低くない方じゃないかな?あ、なんだったら彰の姿の時に魔術で身長変えれば良いんじゃない?」
あっちは仮の姿だから、いくらでも変えられるよ。と教えてくれた。
『本当!?じゃあ、煌夜並の身長にも成れるって事よね!?』
思わず目が輝く。
「何を考えたのか手に取る様に判っちゃうんだけど。……あんまり身長を伸ばすと今の制服が着れなくなって買い直しになるよ?」
「う"っ」
「今のままで支障は無いんだから、良いじゃん」
そう言って弟はまた頭を撫でてきた。
「……ねぇ」
「うん?」
「私ってお姉さんよね?」
「……うん(一応?)」
「どうして頭を撫でるのかしら?」
「え?そりゃあ………(ちっちゃくて可愛いから触れたくなるって言ったら怒るだろうなぁ)」
「そりゃあ?」
「あ!降りる駅に着いたよ♪行こう!」
タイミング良く(?)目的地の駅に着き、弟に手を引かれ電車を降りた。
弟と私が着いた先は、同世代に人気の服やグッズの店が数多く構える有名な街だった。私が彰だった時にも弟と来た事があった所だ。
「なぁ~んだ!ここだったのね!」
何で行き先を言わなかったの?と聞けば、弟は電車に乗ったら言うつもりだったが、同級生達に見付かり車内での私との会話の流れから言うタイミングを逃したのだそうだ。
人が多いから、と言う理由から手を繋いだまま街中を歩き、私に着てみて欲しい!と言う弟が色々なお店に入っては私に試着をさせた。
流行りの物から少しアンティークっぽい感じの物等様々な種類を試着し、弟は一番気に入った物を何点も購入して行った。
すっかり試着し疲れた私は、煌夜に言って近くのファーストフード店に入り休憩を取る事にした。
「………はぁ。疲れた。煌夜って服見るの好きだよね~」
彰の頃に付き合った時も、弟は自分のを買う予定がこちらの服まで選び出して、何時間も付き合わされた事があったのを思い出した。
『凄く疲れたからあれ以降煌夜の買い物に付き合うのを止めたんだった』
「そうだね~。服や小物を見るのは割りと好きかな。でも今日は佳夜に似合う服を色々買って来て欲しい。って母さんから言われたからなんだよ」
クローゼット内の服は母や貴美恵さん達が好みに走り過ぎてお嬢様風な物ばかりになってしまったので、センスの良い煌夜に普段着を揃えて来る様に言ったのだそうだ。
……確かに私には女性服のセンスは皆無だし、服にこだわりが無いので何でも良いと思ってしまっている。しかし、弟は男の子なのに女性物を良く解っていて、入る店入る店の店員と意気投合して次々と2人で選んでは私に試着させるから本当に凄いなぁと思った。
「ホント、次から次へとよく服を選び出せるよね~」
冷たくて甘いシェイクを飲んで疲れを癒しながら呟くと、弟は首を傾げてたいした事はしていないと言った。
「佳夜に似合うと思った服だけ試着してもらっただけだよ?」
「……それにしても、この量は買い過ぎじゃない?」
入ったお店で必ず最低1着は買ったから、今足元にはパンパンに膨らんだ大きな横長の紙袋(先程入ったお店の店員が気を利かせてくれて纏めてくれた)が3つも並んでいた。
「う~ん、そうかな?……あ、でもまだ靴を買ってないよ!この後は靴を見に行こうよ♪」
「えぇぇぇ!?」
『靴なんて今履いているサンダルとか久志の家に私用って用意されていたスニーカーとかで充分なんじゃ……?』
「まぁ、とりあえず荷物が多いから一旦駅に行こう♪」
駅に戻り地下鉄の改札の方へ降りて行くと、こんな所にもコインロッカーってあったのね!?と思う様な人混みから完全に死角で殆んど利用されていない場所に弟は着いた。直ぐにロッカーに荷物を入れてお金を入れて預けるのかと思っていたら、防犯カメラの死角になる位置のロッカーの一つを選び、中に荷物を入れ小さな声で魔方陣を構築し出したのだった。そして、魔方陣に包まれた荷物は跡形もなく消え去った。
「……(久志の)家に送ったの?」
「そう♪」
転移魔方陣の応用で、荷物が多い時に良く使っているのだそうだ。
流石幼い頃から魔術を使って来ただけはある。
「便利ねぇ…。そう言えば、煌夜は精霊とは仲良いの?」
「俺の場合は仲が良いって言うより、佳夜が愛されているからその弟って事で仲良くしてもらっている感じかな」
弟の魔力も複雑な色でとても綺麗なのだそうだが、奏でる旋律は弟が生まれ持った魔力のみなので魅了される程では無いらしい。精霊達も全種類召還出来て魔力の偏りも無く魔術を展開可能だけど、私に対する様な新密度は精霊は見せて来ないらしい。
「精霊達の言葉も俺は少ししか解らないしねぇ」
話しながら地上に戻ると、外は夕立が降っていた。
「あちゃ~。マジか~」
降り出したばかりの様で雨足も強く雷もかなり激しく鳴っていた。
スマホの時計を見れば、間もなく17時。止むのを待って買い物を続けたら夕食に遅くなってしまうだろう。
「帰ろっか?」
「……そうだね~。俺チョイスのトータルコーディネートされた佳夜を取っ替え引っ替え着替えさせて写真に収めて楽しみたかったけど、この雨じゃねぇ」
『そんな事を考えていたの!?』
弟からの駄々漏れた心の声に少々引きたくなったが、今日は何だかんだ言ってお世話になったし女性物の服の勉強にもなって楽しかったので、弟との距離は開けないでおいてあげよう。とそっと思った。
そのまま電車に乗り、駅に着くと丁度止みそうな感じだった。
このまま家に向かって歩き出すのかと思ったら、弟は私の手を引き人気の無い裏ビルに連れて行った。そして、私を優しく抱き締めると「酔うかも知れないから目を瞑ってて」と耳に唇を付けて小声で囁いてから足元に魔方陣を構築した。
「良いよ」とまた囁かれ、目を開けると久志の家の玄関前だった。
「本当は他人に見られたらマズイから使っちゃダメなんだけどね♪」
今日は私を濡らして汚したくないから使ったらしい。せっかくのワンピースとサンダルが汚れなくて有り難かったけど、弟のその紳士でチートな所は一体いつ身に付けたのか、そして私に発揮してどうするんだ!?と心配になった。
しかし、玄関を開けて入るとそこには鬼神の様な顔をした母が待っていた。
「こ~う~や~?」
「……ヤッベ!」
直ぐ様回れ右をして逃げ出そうとした弟だったが一瞬で母に捕まり、そのまま地下へ連行されて行った…。
『私も叱られた方が良いんじゃ?』
弟は私が汚れない為に魔術を使ってくれたのだから、弟だけが叱られるのは申し訳ないと思い、地下へ向かおうとした。
するとリビングから父が現れ、私に手招きをした。
「アレはあいつが悪い。庇わなくて良い」
「……そうなの?」
リビングに入るとソファで寛いでいた雅鷹さんと蕾紗さんが笑顔で「お帰り♪」と迎え入れてくれた。父と一緒にソファに腰掛けると、クスクス笑いながら貴美恵さんがダイニングからやって来た。
「煌君ったら佳夜ちゃんに格好付けたいからって私情で魔術使っちゃ駄目よね~」
私にアイスティーを渡してくれながら、貴美恵さんがそう言った。どうやら、一度目の魔術はまだ買い物を続ける予定だったしきちんと他人の目に付かない所で考えて使ったのでセーフらしいが、先程のは電話で父か母を呼び出して車を回して貰うとか傘を持ってきてもらえば済む事なのに、使用したのでアウトなのだそうだ。そしてどちらの魔術もこの家に向けて発動された時点で家に結界を張っている母にはバレているのだそうだ。
「リリーは常々私情で魔術は使ってはいけない。と口にしているんだ」
そう父は私に優しく言った。ファルリーアパファルでは魔術が生活の一部になっているので、自分の為に使うのは当たり前になってしまっている。だが、使い過ぎる事で様々な弊害が起きているのも実情。魔術や魔方陣に頼り過ぎて身体が衰えそれ無しでは生活が出来なくなってしまったり、中には精神が病む者も現れたりしてしまっているのだそうだ。
「……精神が病むの?」
「自分の許容範囲を無視した使い方をし続けた場合。らしいぞ」
「…怖いね」
「そうだな。だから、佳夜も気を付けてくれよ」
「はい」
漸くして母と煌夜が戻って来た。
母に叱られた煌夜なんて、幼い頃以来な感じがして懐かしいしちょっと珍しいな。なんて思ってしまったけど、煌夜がかなりしょげているので、ついよしよしと頭を撫でた。すると煌夜が私をぎゅうっと抱き締め頬擦りをしてきた。
「煌夜だけ怒られちゃって何だかごめんね」
「……ん~ん。佳夜は悪くないから良いんだ。俺、佳夜と2人っきりで出掛けられて嬉しくて調子乗っちゃったんだ」
でも、かなり凹んだから今暫くはこのまま佳夜を充電させて~。と意味不明な事を呟かれ、キッチンに入っていた貴美恵さんから「夕食よ~♪」と声が掛かる迄弟は私を抱き締め頬擦りをし続けた。
※※※※※※※※※※※※※※※
「え?明日の夕方には向こうの家に帰るの?」
食後全員でリビングへ戻り寛いでいると、昼頃には合宿先から戻る久志と共に昼食を食べたら家に帰ると父から言われた。確かにそんな話しを夏休み前に母ともした記憶がある。(カナダ旅行からの帰国後、お土産を渡すついでに一緒に食事しましょう♪って貴美ちゃんと決めたのよ♪って言っていたけど……)けど、帰るのは私も一緒に、ではなかっただろうか?
「どうして私は引き続きこちらでお世話になるの?」
首を傾げながら父に問うと、父は苦虫を潰した様な顔をして何か小さな声で呟いた。
「…………だからだ」
「…え?」
全然聞き取れなかったので聞き返すも、父は更に眉間のしわを深くして黙ってしまった。
「男親ってどこの世界も一緒ね!」と笑いながら言った母が、代わりに説明してくれた。
「佳夜が久志君の番だからよ♪前も言ったけど、番になると即結婚か即せ…「そこは繰り返さなくて良い!」(←By 父の声)……だから、もう佳夜は私達とではなく久志君と暮らすのが良いのよ」
そうしないと互いの心の均等が狂ってきてしまうのだそうだ。本当はルーも一緒に暮らす必要があるが、長い時間共にいる久志の方が番としての影響力が強いので離れるのは良くないらしい。勿論ルーが今度の非番でこちらに来た時に話し合う必要はあるけど。
「……えっと、もしかして久志の部屋の改装はこの為だった、とか?」
「「そうよ~♪」」
……息ピッタリの母~S。
母は自分の魔力から感じ取っていて、十中八九久志は私の番だろうと判っており、貴美恵さんは母から番文化(?)を聞いていたので番とは何たるかを知っており、久志の私への態度から絶対そうね!と確信していたそうだ。そして私が佳夜に戻ったら即番になり、籠るだろうと思っていたらしい……。(思わないで~!)
ただ流石にまさか番がもう1人現れるとは思っていなかったそうだ。
「日本の法律上、2人共まだ結婚は出来ないしいきなり2人暮らしを始めるなんて無理だし、この先グヴァイラヤーさんも共に生活するならどちらの世界で暮らすかとか色々話し合わなければならないから先ずは佳夜はここで久志君と暮らしなさいな♪」
「昔から佳夜ちゃんはうちの娘って私達の中では決まっていたから大歓迎だからね~❤」
「「ね~♪」」と微笑み合う貴美恵さんと雅鷹さんだった。
『どっかのドラマみたいに嫁姑問題の心配が無いのはとても安心出来るけど、明日久志が帰って来た後がなんか怖い……』
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