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アンソニー編
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『アンソニー・ルーディスト様
初めましてナーチェ・カールトンです。
お元気でお過ごしですか?
10年前のお約束を果たしに参りました。
侯爵様も諸々ご準備をよろしくお願いします。
チェルシー・ターミルド 』
◇◇◇
アンソニー・ルーディストは、突然受け取った手紙に困惑していた。その内容のイタズラ具合も理解し難いが何より彼にはチェルシー・ターミルドという人物に心当たりがなかったからだ。
手紙の封蝋はカールトン公爵家の物だったので、義父からだと躊躇いもせず開けるとこの手紙が入っていたのだ。
「ナーチェに聞いてみよう」
アンソニーは控えていた従者に妻のナーチェを呼ぶ様に伝えた。ナーチェ・カールトンはアンソニーの愛する妻だ。妻から初めましての手紙など⋯イタズラにしては不気味さが手紙から漂ってくる。
執務室の机の一番下には学園生の時に貰っていた手紙が投げ込んである。読むつもりのない手紙たちだったが日々の忙しさに捨てるのを忘れていた物たちだった。もしやこの人物から過去に手紙を貰ったことがあったのかもしれないと思いつき抽斗を開いた。
「えっ?」
抽斗を開けたアンソニーは驚いた。投げ込んだだけだったから乱雑に入れていた筈の手紙が、きれいにいくつかの束になって整理されていたからだ。
不思議に思ったアンソニーは束をひとつ取り出した。
尚も驚いたのは、その束の送り主は同じ人物だった。もう一つ取り出すと其方も同じ人物で纏めてある。同じ人物縛りで纏めているようだ。
「誰がこんな事を⋯」
アンソニーはその束を一つずつ取り出し机の上に並べ始めた。そこへノックの音がしたのだが叩き方が忙しなく感じる。先程妻を呼ぶ様に言った従者だろうと辺りを付け入室の許可を出した。
「旦那様、奥様がいらっしゃいません」
「どういう事だ?外出するとは聞いていなかったが⋯庭にも?」
「どうやら1時間ほど前に出かけたらしいのですが、誰も伴っていないようなんです」
「何だと!」
結婚してから妻のナーチェが誰にも知らせずに出かけることなど一度もなかったし、ましてや護衛もついていないなどあり得ない事だった。
それにこの手紙。
アンソニーは得体のしれない不安が押し寄せ妻の部屋へと向かった。
アンソニーは14歳で両親を事故で亡くした。その際爵位を継ぐには成人前だった事とルーディスト侯爵家の財政が苦しかった事で、有象無象の親戚達がアンソニーを後継から引き摺り下ろそうと画策した。それを助けてくれたのが父の友人だったカールトン公爵だった。
その時にアンソニーとカールトン公爵の一人娘のナーチェとの婚約も結ばれた。
アンソニーとナーチェ共に15歳だった。
それからはルーディスト侯爵家の若き当主として必死に学び、苦しかった財政も立て直した、それには後ろ盾になってくれたカールトン公爵の援助の力も大きかった。
ナーチェとの仲も睦まじく、同い年の二人は共に学園を卒業した1年後の19歳の時に婚姻し、一人息子のランディも4年前に産まれている。
今アンソニーは25歳、この10年は順風満帆な人生を送っていたと思っている。
だからこそナーチェのこの行動がアンソニーにとっては初めて駆られる不安な出来事だった。
アンソニーは妻の部屋に入ると少しの違和感を感じた。寝室に繋がる扉が開け放たれていたからだ。普段のナーチェは扉を開けっ放しにするような事はしない。
ナーチェの部屋の呼び鈴を鳴らす。
直ぐにやってきたのはナーチェの専属侍女でカールトン公爵家から連れてきていたトーニャだ。
「えっ?旦那様⋯お呼びでしょうか?」
「ナーチェは何処へ行った」
「奥様は、あの、お休みになっておられませんか?」
トーニャは不思議そうに訊ねる、ナーチェの部屋でアンソニーが呼び鈴を鳴らしたのが初めての事で戸惑っていた所に、少しゆっくり眠りたいとトーニャに退出するようにナーチェは先刻命じた為、そう答えたのだ。
「居ない、何処かへ出かけたと聞いたがお前は何をしていたんだ!」
自然に苛立ちアンソニーはトーニャを厳しく問い詰めた。
アンソニーの叱責に慌てたトーニャはナーチェに命じられたとそのままを告げる。
それから二人で部屋を捜索する事にした。
そしてベッドヘッドの小さな抽斗にアンソニー宛の手紙を発見する。
そこに書かれていたのはナーチェの字で
『ごめんなさい』
だった。
初めましてナーチェ・カールトンです。
お元気でお過ごしですか?
10年前のお約束を果たしに参りました。
侯爵様も諸々ご準備をよろしくお願いします。
チェルシー・ターミルド 』
◇◇◇
アンソニー・ルーディストは、突然受け取った手紙に困惑していた。その内容のイタズラ具合も理解し難いが何より彼にはチェルシー・ターミルドという人物に心当たりがなかったからだ。
手紙の封蝋はカールトン公爵家の物だったので、義父からだと躊躇いもせず開けるとこの手紙が入っていたのだ。
「ナーチェに聞いてみよう」
アンソニーは控えていた従者に妻のナーチェを呼ぶ様に伝えた。ナーチェ・カールトンはアンソニーの愛する妻だ。妻から初めましての手紙など⋯イタズラにしては不気味さが手紙から漂ってくる。
執務室の机の一番下には学園生の時に貰っていた手紙が投げ込んである。読むつもりのない手紙たちだったが日々の忙しさに捨てるのを忘れていた物たちだった。もしやこの人物から過去に手紙を貰ったことがあったのかもしれないと思いつき抽斗を開いた。
「えっ?」
抽斗を開けたアンソニーは驚いた。投げ込んだだけだったから乱雑に入れていた筈の手紙が、きれいにいくつかの束になって整理されていたからだ。
不思議に思ったアンソニーは束をひとつ取り出した。
尚も驚いたのは、その束の送り主は同じ人物だった。もう一つ取り出すと其方も同じ人物で纏めてある。同じ人物縛りで纏めているようだ。
「誰がこんな事を⋯」
アンソニーはその束を一つずつ取り出し机の上に並べ始めた。そこへノックの音がしたのだが叩き方が忙しなく感じる。先程妻を呼ぶ様に言った従者だろうと辺りを付け入室の許可を出した。
「旦那様、奥様がいらっしゃいません」
「どういう事だ?外出するとは聞いていなかったが⋯庭にも?」
「どうやら1時間ほど前に出かけたらしいのですが、誰も伴っていないようなんです」
「何だと!」
結婚してから妻のナーチェが誰にも知らせずに出かけることなど一度もなかったし、ましてや護衛もついていないなどあり得ない事だった。
それにこの手紙。
アンソニーは得体のしれない不安が押し寄せ妻の部屋へと向かった。
アンソニーは14歳で両親を事故で亡くした。その際爵位を継ぐには成人前だった事とルーディスト侯爵家の財政が苦しかった事で、有象無象の親戚達がアンソニーを後継から引き摺り下ろそうと画策した。それを助けてくれたのが父の友人だったカールトン公爵だった。
その時にアンソニーとカールトン公爵の一人娘のナーチェとの婚約も結ばれた。
アンソニーとナーチェ共に15歳だった。
それからはルーディスト侯爵家の若き当主として必死に学び、苦しかった財政も立て直した、それには後ろ盾になってくれたカールトン公爵の援助の力も大きかった。
ナーチェとの仲も睦まじく、同い年の二人は共に学園を卒業した1年後の19歳の時に婚姻し、一人息子のランディも4年前に産まれている。
今アンソニーは25歳、この10年は順風満帆な人生を送っていたと思っている。
だからこそナーチェのこの行動がアンソニーにとっては初めて駆られる不安な出来事だった。
アンソニーは妻の部屋に入ると少しの違和感を感じた。寝室に繋がる扉が開け放たれていたからだ。普段のナーチェは扉を開けっ放しにするような事はしない。
ナーチェの部屋の呼び鈴を鳴らす。
直ぐにやってきたのはナーチェの専属侍女でカールトン公爵家から連れてきていたトーニャだ。
「えっ?旦那様⋯お呼びでしょうか?」
「ナーチェは何処へ行った」
「奥様は、あの、お休みになっておられませんか?」
トーニャは不思議そうに訊ねる、ナーチェの部屋でアンソニーが呼び鈴を鳴らしたのが初めての事で戸惑っていた所に、少しゆっくり眠りたいとトーニャに退出するようにナーチェは先刻命じた為、そう答えたのだ。
「居ない、何処かへ出かけたと聞いたがお前は何をしていたんだ!」
自然に苛立ちアンソニーはトーニャを厳しく問い詰めた。
アンソニーの叱責に慌てたトーニャはナーチェに命じられたとそのままを告げる。
それから二人で部屋を捜索する事にした。
そしてベッドヘッドの小さな抽斗にアンソニー宛の手紙を発見する。
そこに書かれていたのはナーチェの字で
『ごめんなさい』
だった。
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