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アンソニー編
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ジッと憎々しげにアンソニーを睨んでいたユースティオだったが、不意にスッとその表情が変わった。
そして悲しそうに俯く、その姿は国中の騎士達の憧れの的である王宮騎士団長とは思えない程、男性なのに儚げにアンソニーには見えた。
「君のせいじゃないのは分かっている、だけどカールトン公爵が良かれと思って君とナーチェの婚約を結んだのは、君に良かれと思っただけで決してナーチェの為だなんて事ではなかった。だから期間限定の契約婚約だったんだよ。君の後ろ盾を無関係な人間がするわけにはいかないっていう理由のみだった、それは君も知っていたんだろう?」
「あぁ始めに聞かされていた」
「私は知らなかった。ナーチェも知らなかった。それなのに私はナーチェを責めて、彼女を忘れるために留学したんだ。それが間違いだった、ナーチェをちゃんと知ってる俺が学園に入学してたら10年なんてそんな時間軟禁される事もなかったのに、あの女の顔を見た瞬間に捕まえられた。こんな後悔ばかりが毎日毎日、彼女を助けてからずっと続いているんだ」
アンソニーはユースティオを見つめると彼の目の下が薄っすらと黒くなってるのが見て取れた。おそらく化粧を施して隠しているのだろう、その周りが不自然に光って見える。
「私に如何しろと言うんだ」
「どうしてくれと言ってるわけじゃない、どうせ出来ないだろう?君が幸せだった10年の集大成があの子供だろ。ちゃんと子供の事を考えろよ」
ユースティオの放った言葉のランディの部分だけ何故か優しい響きがあるようにアンソニーは感じた。王宮では辛辣な現実を言葉でアンソニーに投げつけたのに、今の言葉にはそれが感じられなかったのが不思議だった。
「兎に角君のお父上の件、その辺は加味して今後の取り調べに活用させてもらう。ではそろそろいいかな?」
「あぁよろしく頼む。私はここにいた方がいいのか?」
「侯爵家の使用人がいれば問題ない」
ユースティオの言葉にアンソニーは控えていた執事に残るように告げ、侍従を伴って執務室へと向かった。
今からこの部屋は家宅捜索が入る。狡猾なチェルシーが何かを残しているとは思えないが、調べたいと言われたのだから協力は惜しまないと3人までと制限を付けさせてもらったが調べる事を了承していた。
執務室に戻ってからアンソニーは侍従と過去を調べるために資料庫から書類の山を運んでいた。
両手で抱えるほどの木箱が優に10個、全ての中身が箱いっぱいにある。
整理をしたのが10年も前で何があったのかアンソニーは殆ど覚えていない。10年前、直近の執務に関係ありそうな書類以外はここに押し込んでいた。騎士団とは別に自分でも調べられる事は調べようとアンソニーは考えていた。
「前の執事が処分しているとは考えられませんか?」
侍従の懸念は尤もだが、アンソニーは自分が今出来る事を選択した。
「分からないが、見てみない事には始まらない。執事ではなくあの女が処分しているかもしれないが、私の知る限り資料庫には近づいていなかったように思う」
昨日からナーチェがチェルシーに変わって今は『あの女』とそうアンソニーは呼び方を変えた。
自然とそうなったにも関わらず『あの女』と声に出す度に胸がまだツキリと痛むのを感じていた。
(いつか忘れることができるのだろうか?)
10年愛していた女の本音を見せつけられて憎んでもいるのに、嫌悪もしているのに。彼女の笑顔を思い出しては痛む胸をアンソニーは持て余している。
折りにつけ思い出すのはまだ彼方此方に『あの女』の痕跡が残っているからだ、とアンソニーはその思いを振り払うように古い書類の父の字をなぞりながら其方に没頭していった。
そして悲しそうに俯く、その姿は国中の騎士達の憧れの的である王宮騎士団長とは思えない程、男性なのに儚げにアンソニーには見えた。
「君のせいじゃないのは分かっている、だけどカールトン公爵が良かれと思って君とナーチェの婚約を結んだのは、君に良かれと思っただけで決してナーチェの為だなんて事ではなかった。だから期間限定の契約婚約だったんだよ。君の後ろ盾を無関係な人間がするわけにはいかないっていう理由のみだった、それは君も知っていたんだろう?」
「あぁ始めに聞かされていた」
「私は知らなかった。ナーチェも知らなかった。それなのに私はナーチェを責めて、彼女を忘れるために留学したんだ。それが間違いだった、ナーチェをちゃんと知ってる俺が学園に入学してたら10年なんてそんな時間軟禁される事もなかったのに、あの女の顔を見た瞬間に捕まえられた。こんな後悔ばかりが毎日毎日、彼女を助けてからずっと続いているんだ」
アンソニーはユースティオを見つめると彼の目の下が薄っすらと黒くなってるのが見て取れた。おそらく化粧を施して隠しているのだろう、その周りが不自然に光って見える。
「私に如何しろと言うんだ」
「どうしてくれと言ってるわけじゃない、どうせ出来ないだろう?君が幸せだった10年の集大成があの子供だろ。ちゃんと子供の事を考えろよ」
ユースティオの放った言葉のランディの部分だけ何故か優しい響きがあるようにアンソニーは感じた。王宮では辛辣な現実を言葉でアンソニーに投げつけたのに、今の言葉にはそれが感じられなかったのが不思議だった。
「兎に角君のお父上の件、その辺は加味して今後の取り調べに活用させてもらう。ではそろそろいいかな?」
「あぁよろしく頼む。私はここにいた方がいいのか?」
「侯爵家の使用人がいれば問題ない」
ユースティオの言葉にアンソニーは控えていた執事に残るように告げ、侍従を伴って執務室へと向かった。
今からこの部屋は家宅捜索が入る。狡猾なチェルシーが何かを残しているとは思えないが、調べたいと言われたのだから協力は惜しまないと3人までと制限を付けさせてもらったが調べる事を了承していた。
執務室に戻ってからアンソニーは侍従と過去を調べるために資料庫から書類の山を運んでいた。
両手で抱えるほどの木箱が優に10個、全ての中身が箱いっぱいにある。
整理をしたのが10年も前で何があったのかアンソニーは殆ど覚えていない。10年前、直近の執務に関係ありそうな書類以外はここに押し込んでいた。騎士団とは別に自分でも調べられる事は調べようとアンソニーは考えていた。
「前の執事が処分しているとは考えられませんか?」
侍従の懸念は尤もだが、アンソニーは自分が今出来る事を選択した。
「分からないが、見てみない事には始まらない。執事ではなくあの女が処分しているかもしれないが、私の知る限り資料庫には近づいていなかったように思う」
昨日からナーチェがチェルシーに変わって今は『あの女』とそうアンソニーは呼び方を変えた。
自然とそうなったにも関わらず『あの女』と声に出す度に胸がまだツキリと痛むのを感じていた。
(いつか忘れることができるのだろうか?)
10年愛していた女の本音を見せつけられて憎んでもいるのに、嫌悪もしているのに。彼女の笑顔を思い出しては痛む胸をアンソニーは持て余している。
折りにつけ思い出すのはまだ彼方此方に『あの女』の痕跡が残っているからだ、とアンソニーはその思いを振り払うように古い書類の父の字をなぞりながら其方に没頭していった。
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