知らされた真実〜それぞれの選択〜

maruko

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アンソニー編

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「ナーチェ、すまない。君の婚約を決めてきた」

「えっ?すまないってどういう事ですかお父様」

友人の葬儀に行くと言って王都に出かけた父が3週間ぶりに領地へと帰ってきた。その開口一番がこの言葉でナーチェは面食らってしまった。
それに父には自分の気持ちを伝えていたから、てっきり決まった婚約というのもユースティオの事だと一瞬喜んだが、それならばすまないという文言が出るはずがない。
引き攣る顔を何とか抑えながらナーチェは父に問う。
すると父からは思いもよらない名前が上がって驚愕した。

「ハヴィの息子のアンソニーを助けようと思うんだ、その為に必要な婚約なんだ。ナーチェ分かって欲しい」

残酷に紡がれた言葉にナーチェは打ちのめされる。
貴族の家にましてや国の上位に数えられる公爵家に生を受けたならば、政略結婚は避けては通れない。数年前にはそう思っていたし、そうなるとナーチェは覚悟も出来ていた。だがカールトン公爵家の少し変わった環境のせいでナーチェは幼い頃から殆ど社交をしていない。
その事もあり他家からナーチェ宛に届く釣書は今までも数えるほどしか来てはいなかった。
だからナーチェの知る貴族の令息は8歳の頃から一年に一度だけ会うユースティオだけだった。
そのユースティオが先日ナーチェに直接婚約したいと言ってくれて、知らない人と婚約するくらいなら初恋の相手のユースティオがいいと夢見てしまった。そしてその事を思い切って父に話したらとても喜んでくれたから、その夢は現実になるのだと嬉しく思っていた。
それが今ガラガラと音を立てて崩れてゆく。
せめてもう少し早ければ夢など見なかったのにと父の言葉にナーチェは虚しさが込み上げて来るのを感じた。

それでも決まったものを何時までも嘆いていても始まらない。ナーチェは一度も会ったことがないアンソニーとの婚約を前向きに考えるように努力することにした。

婚約の申し出を断られたユースティオが散々ナーチェを詰っても、ナーチェはそれを甘んじて受けた。彼にしてみれば了承したあとにひっくり返したのだから、怒って当然なのだと悲しい気持ちもナーチェなりの貴族の矜持で乗り切った。

そうして父から聞かされた婚約から3ヶ月後にアンソニーに会いに王都へ向けて出発した2日後の朝、ナーチェは父とともに拘束されてしまった。

始めは何が起きたか分からなかった。

休憩の時なのか、御者がいつの間にか変わっていたのを知ったのは、馬車を降ろされてからだった。

降ろされた場所が見覚えのあるカールトン公爵領であるのにも驚いたが、猿轡をされ手を後ろ手に縛られたまま連れて行かれた邸は、ナーチェの家だったのにも驚いた。

(どうして家に戻ってきたのに拘束されているの?)

馬車は父とともに降ろされたのに、父は直ぐにハンカチを顔に押し当てられて意識を失わされたあと、どこかに連れて行かれた。
ナーチェは自分の邸の使用人が住んでいた部屋に放り込まれて、そこでハンカチを顔に押し当てられた。
その時に、顔半分を隠していた賊がいつも優しくナーチェに接していた執事だったのに驚きながらナーチェは意識を手放した。




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