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アンソニー編
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ナーチェが瞼を開いた時、真っ先にその目に飛び込んできたのは父の心配そうな顔だった。
「⋯⋯⋯⋯お父様」
普通に呼びかけたつもりが上手く声が出なくて掠れている事にナーチェは驚いた。
「ナーチェ大丈夫かい?何処か痛い所はないかい?」
優しく問いかける父の言葉に、暫く考えてから頭を振って大丈夫だと伝えようとした時、ズキリと痛みが襲った。「⋯⋯っ!」思わず痛みに声を上げてしまったナーチェに慌てた父は、背中に手を回して抱き起こした。
「ナーチェこれを飲むんだ」
言葉とともに口にカップを押し当てられてゴクリと飲み込むと、それは薬湯だったようで少し苦い味がした。
薬が強く作用したのか、ナーチェはそのまま再び眠りについた。
そして目を開く、どれくらいの時間が経ったのかはナーチェには分からない、でもやはり最初に見たのは父だった。
「ナーチェお腹空かないか?」
「食べ物があるの?」
ナーチェはなんとなくだが、自分と父は拉致されている事は理解していた、だから食事がある事を不思議に思って聞いてみたが、父の言葉で背筋に寒気が走った。
「暫くは生かして利用する気のようだよ」
「どうして?」
ナーチェは何故拉致されたのかという事と、それならどうして生かすのかという2つの意味を持って質問した。
「カールトン公爵家の事業も領地運営も何もかもを出来るなんて、トールも思えないのだろう」
「やっぱりトールだったのね」
意識を無くす寸前に見えた執事の顔が再びナーチェの脳裏に浮かんだ。だがどうして執事がそんな事をしたのかがナーチェには分からなかった。
「気づいていたのかい?」
「顔が少し見えたから」
「そうか。だがトールは主犯じゃない、抱き込まれたようだ」
「えっ?」
「ナーチェ、母上は本当の事を言っていたようだ。そのせいで狂わされたんだな」
「じゃあお祖母様が言っていたのは⋯私をその人だと思っていたの?」
「そうだな、私には双子の弟がいたよ。そっくりで気味が悪かった」
「お父様、私はいつまで生きられる?」
「ナーチェが死ぬのなら、私は公爵家など如何でもいいと伝えたから、私達は生かされると思う。ただ自由は望めない、もう少し社交をしておくんだった。あれほどそっくりなら偶にしか社交をしない私との区別など付かないだろう」
諦めきった父の言葉にナーチェは父を励ます。
「でもアンソニー様が不審に思うのじゃないかしら?ルーディスト侯爵を継いだばかりの彼の後ろ盾にお父様はなるつもりだったのでしょう?」
「だが、私と彼は⋯」
「でも私と同じ顔の人を探すのは難しいのではないかしら?身代わりを立ててもティオが気づくと思うわ。いくら婚約が駄目になっても別人が私を名乗ったらきっと彼ならどこかに進言してくれると思うの。半年後には学園が始まるのだもの、ティオは3学年だから学園に私がいなかったら気づかないかもしれないけれど、別人が名乗っていれば気づくと思うの」
「そうか、私達二人を知る者がハヴィの他にもいるから、きっと!」
ナーチェとカールトン公爵は、その願いが叶うのがまさか10年の時を要するとは思いもせずに、少しの希望を見出し瞳を輝かせた。
「⋯⋯⋯⋯お父様」
普通に呼びかけたつもりが上手く声が出なくて掠れている事にナーチェは驚いた。
「ナーチェ大丈夫かい?何処か痛い所はないかい?」
優しく問いかける父の言葉に、暫く考えてから頭を振って大丈夫だと伝えようとした時、ズキリと痛みが襲った。「⋯⋯っ!」思わず痛みに声を上げてしまったナーチェに慌てた父は、背中に手を回して抱き起こした。
「ナーチェこれを飲むんだ」
言葉とともに口にカップを押し当てられてゴクリと飲み込むと、それは薬湯だったようで少し苦い味がした。
薬が強く作用したのか、ナーチェはそのまま再び眠りについた。
そして目を開く、どれくらいの時間が経ったのかはナーチェには分からない、でもやはり最初に見たのは父だった。
「ナーチェお腹空かないか?」
「食べ物があるの?」
ナーチェはなんとなくだが、自分と父は拉致されている事は理解していた、だから食事がある事を不思議に思って聞いてみたが、父の言葉で背筋に寒気が走った。
「暫くは生かして利用する気のようだよ」
「どうして?」
ナーチェは何故拉致されたのかという事と、それならどうして生かすのかという2つの意味を持って質問した。
「カールトン公爵家の事業も領地運営も何もかもを出来るなんて、トールも思えないのだろう」
「やっぱりトールだったのね」
意識を無くす寸前に見えた執事の顔が再びナーチェの脳裏に浮かんだ。だがどうして執事がそんな事をしたのかがナーチェには分からなかった。
「気づいていたのかい?」
「顔が少し見えたから」
「そうか。だがトールは主犯じゃない、抱き込まれたようだ」
「えっ?」
「ナーチェ、母上は本当の事を言っていたようだ。そのせいで狂わされたんだな」
「じゃあお祖母様が言っていたのは⋯私をその人だと思っていたの?」
「そうだな、私には双子の弟がいたよ。そっくりで気味が悪かった」
「お父様、私はいつまで生きられる?」
「ナーチェが死ぬのなら、私は公爵家など如何でもいいと伝えたから、私達は生かされると思う。ただ自由は望めない、もう少し社交をしておくんだった。あれほどそっくりなら偶にしか社交をしない私との区別など付かないだろう」
諦めきった父の言葉にナーチェは父を励ます。
「でもアンソニー様が不審に思うのじゃないかしら?ルーディスト侯爵を継いだばかりの彼の後ろ盾にお父様はなるつもりだったのでしょう?」
「だが、私と彼は⋯」
「でも私と同じ顔の人を探すのは難しいのではないかしら?身代わりを立ててもティオが気づくと思うわ。いくら婚約が駄目になっても別人が私を名乗ったらきっと彼ならどこかに進言してくれると思うの。半年後には学園が始まるのだもの、ティオは3学年だから学園に私がいなかったら気づかないかもしれないけれど、別人が名乗っていれば気づくと思うの」
「そうか、私達二人を知る者がハヴィの他にもいるから、きっと!」
ナーチェとカールトン公爵は、その願いが叶うのがまさか10年の時を要するとは思いもせずに、少しの希望を見出し瞳を輝かせた。
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