知らされた真実〜それぞれの選択〜

maruko

文字の大きさ
15 / 46
アンソニー編

閑話

しおりを挟む
45年前カールトン公爵家に待望の子が誕生した。
だがお祝いムードに湧く中で、当時の専属医師が躊躇いながら報告した。

「まだ、です。まだお子が残っております」

場は一転暗いムードに包まれた。
双子は忌むべき者という風習は根拠がないと言う理由から廃れていたにも関わらず、このカールトン公爵家ではその黴の生えた言い伝えが信じられていた。
先に産まれた子は弟、後に生まれるのが兄。
そう伝えられていた一同はもう一人の子が産まれるのを固唾を飲んで見守る。
元気な産声を上げて先に誕生した子のことを公爵家の面々は既に興味を失ってしまった。彼を構っていたのは若き公爵の侍従だけで、慣れぬ手つきで産湯を使って体を丁寧に洗って上げていたのだった。

そして数分後、弱々しい産声を上げて産まれた子は一同に大歓迎されるのだった。

若き公爵は此度の出産の双子という事実を隠す為、大して悩みもせず、ただ一人先に産まれた子に構っていた侍従に、充分な金と隣国の身分を与えて家から放出した。

先に産まれた双子の弟はそのまま侍従の戸籍に入った、名はオルトと名付けられる。
公爵の母は隣国の出身で子爵位を持ったまま嫁いで来ていた為、その爵位を公爵は侍従に与えたのだ。
オルト・ターミルドはカールトン公爵家とは無関係に育ってそのまま隣国で生涯を終える筈だった。

だがそれが覆されたのは侍従の親心からだった。

侍従は隣国に渡りターミルド子爵として過ごす事になる。彼は元々男爵家の三男だった為、子爵位を授かるという幸運に突如恵まれて、嬉しい反面どう振る舞っていいのか困惑した。
しかも言葉は共通の大陸語で通じるが、子爵になった詳細の事実を言えるのは隣国王家と元公爵夫人の生家にのみ、貴族達には秘匿とされた為、突如現れた得体の知れない人物と認定されてしまった。
立ち位置の不安定な子爵は、欲深い面々から格好の餌食にされ財産を徐々に奪われていった。
それでもターミルド子爵は養子のオルトを目に入れても痛くない程に可愛がっていた。

徐々に減らされる財産、元々隣国に嫁ぐ娘の為の僅かなお小遣い程度のつもりで分けた領地の収入は、減らされる財産を補填できるものではなかった。
元より領地運営を学んだ事もない元男爵家の三男は為す術無く、年数だけが過ぎて行った。

そんな時、ターミルド子爵は病に倒れる。

自分が亡くなったあとの最愛の息子とその家族の行く末を心配して、彼は墓場まで持っていくはずの秘密をオルトに打ち明けた。
如何しても立ちいかなくなったらカールトン公爵家を頼れと遺言した。

真実を知ったあと子爵が亡くなってもオルトは数年は何も動かなかった。
まだターミルド子爵家の財産は底を付いていなかったからだ。
だがいよいよ底が見え始めたと感じたオルトは子爵位を勝手に王家に返上して、返納金を受け取ると妻子と共に祖国に帰って来た。

追い出された経緯を知る彼は、義父の遺言通りに直接公爵家に行くことはしなかった。先ずはカールトン公爵家を調べ始めた。

オルトのこの時の心境は、たった数分先に生まれたというだけの違いで身分でさえも差をつけられた、その理不尽に憤っていた。

全てを手中にする、それがオルトの目的だった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

たのしい わたしの おそうしき

syarin
恋愛
ふわふわのシフォンと綺羅綺羅のビジュー。 彩りあざやかな花をたくさん。 髪は人生で一番のふわふわにして、綺羅綺羅の小さな髪飾りを沢山付けるの。 きっと、仄昏い水底で、月光浴びて天の川の様に見えるのだわ。 辛い日々が報われたと思った私は、挙式の直後に幸せの絶頂から地獄へと叩き落とされる。 けれど、こんな幸せを知ってしまってから元の辛い日々には戻れない。 だから、私は幸せの内に死ぬことを選んだ。 沢山の花と光る硝子珠を周囲に散らし、自由を満喫して幸せなお葬式を自ら執り行いながら……。 ーーーーーーーーーーーー 物語が始まらなかった物語。 ざまぁもハッピーエンドも無いです。 唐突に書きたくなって(*ノ▽ノ*) こーゆー話が山程あって、その内の幾つかに奇跡が起きて転生令嬢とか、主人公が逞しく乗り越えたり、とかするんだなぁ……と思うような話です(  ̄ー ̄) 19日13時に最終話です。 ホトラン48位((((;゜Д゜)))ありがとうございます*。・+(人*´∀`)+・。*

婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。 婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。 排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。 今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。 前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る

甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。 家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。 国王の政務の怠慢。 母と妹の浪費。 兄の女癖の悪さによる乱行。 王家の汚点の全てを押し付けられてきた。 そんな彼女はついに望むのだった。 「どうか死なせて」 応える者は確かにあった。 「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」 幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。 公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。 そして、3日後。 彼女は処刑された。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

(完結)私が貴方から卒業する時

青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。 だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・ ※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。

心の中にあなたはいない

ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。 一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。

夫は家族を捨てたのです。

クロユキ
恋愛
私達家族は幸せだった…夫が出稼ぎに行かなければ…行くのを止めなかった私の後悔……今何処で何をしているのかも生きているのかも分からない…… 夫の帰りを待っ家族の話しです。 誤字脱字があります。更新が不定期ですがよろしくお願いします。

処理中です...