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アンソニー編
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チェルシー・ターミルド子爵令嬢は、数年前まではその名で隣国で他家の貴族達に馬鹿にされ続けて生きていた。
それもこれも無能な祖父のせいだった。少なくともチェルシーはそう思っていたが、両親はそう思ってはいなかった。
祖父が亡くなったのはチェルシーが5歳のときだった。死んだ時は幼いながらも可愛がってくれた祖父の死を悲しんだ。だが成長するに従って少しずつ周りからターミルド子爵家がどう見られているかわかってきて祖父に失望していった。
この国の貴族達の間ではターミルド子爵家と書いて伯爵家の財布と読むらしい。初めて聞かされた時は憤り、そう言って揶揄った子息達の髪を掴んで引きずり回した。
あとで慰謝料を払う羽目になって、文字通り財布の役目をまんまとさせられた事にチェルシーは気付いた。悔しくて悔しくて、そんな中でもチェルシーが一番嫌いな貴族令嬢がいた。
ターミルド子爵家の元家、ファルド公爵家の孫娘ミラージュだ、チェルシーと同い年のその娘は事あるごとにチェルシーを蔑んだ。
下位貴族しか招待されていないにも関わらずチェルシーと母がいると言う情報が入れば、態々呼ばれてもいないのに現れ、チェルシー達を孤立させる。毎回毎回格上の公爵家が現れる為、お茶会にもそのうち呼ばれなくなっていく。祖父の財産を食い潰す日々ではいつか立ちいかなくなるからと、事業に入り込むために社交をしなければならないのに、ミラージュのせいでそれもままならない。
そんなある日父が突然爵位を返上すると言い出した。
「貴方、爵位を返上して平民になって仕事はあるの?」
斜陽男爵家出身の母は真っ先にそれを心配した。
「いや今のままならないだろう、だが爵位を国に返納すればその分返納金が渡される。それを持って隣国に行くぞ」
「「えっ隣国?」」
チェルシーが母と驚いていると、初めて隠されていた父の出自を聞かされた。
(何だそれ)チェルシーが始めに聞いた感想がそれだった。
伯爵家の財布だなんだと散々馬鹿にされたが、元を正せば父は公爵家の出自、それなら自分は公爵令嬢だったかもしれないのだ、いや公爵令嬢だ。ミラージュと何ら変わりない身分だったのに、どうしてここまで蔑まれなければならなかったのか!
理不尽に虐められたのだとチェルシーは憤り、父の大胆な計画に自分から率先して協力することにした。思いだけならば何故かチェルシーの方が父よりも重かった。
「私が公爵令嬢よ!全部奪ってやる!」
その思いを胸に隣国へとオルト親子は移住した。
最初はコツコツと公爵家周辺を調べ始めた。
父と母は近年にない働きぶりを発揮した、二人は意外と人の懐に入り込むのが上手かったのだ。どうして自国では発揮できなかったのだろうとチェルシーは不思議に思った、そして改めて結論付ける。ターミルド子爵家を伯爵家の財布にしたのは祖父だったと。
そうして集めた調査の結果、カールトン公爵家はこの国の貴族達から幻の存在として認識されていたことを知る。
オルトは高笑いだった。
「なんて都合がいいんだ!」
チェルシーは後々供述した。
「カールトン公爵が娘に社交をさせてなかったのが悪いんじゃないの?」
全く反省などしていなかった。
それもこれも無能な祖父のせいだった。少なくともチェルシーはそう思っていたが、両親はそう思ってはいなかった。
祖父が亡くなったのはチェルシーが5歳のときだった。死んだ時は幼いながらも可愛がってくれた祖父の死を悲しんだ。だが成長するに従って少しずつ周りからターミルド子爵家がどう見られているかわかってきて祖父に失望していった。
この国の貴族達の間ではターミルド子爵家と書いて伯爵家の財布と読むらしい。初めて聞かされた時は憤り、そう言って揶揄った子息達の髪を掴んで引きずり回した。
あとで慰謝料を払う羽目になって、文字通り財布の役目をまんまとさせられた事にチェルシーは気付いた。悔しくて悔しくて、そんな中でもチェルシーが一番嫌いな貴族令嬢がいた。
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そんなある日父が突然爵位を返上すると言い出した。
「貴方、爵位を返上して平民になって仕事はあるの?」
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「いや今のままならないだろう、だが爵位を国に返納すればその分返納金が渡される。それを持って隣国に行くぞ」
「「えっ隣国?」」
チェルシーが母と驚いていると、初めて隠されていた父の出自を聞かされた。
(何だそれ)チェルシーが始めに聞いた感想がそれだった。
伯爵家の財布だなんだと散々馬鹿にされたが、元を正せば父は公爵家の出自、それなら自分は公爵令嬢だったかもしれないのだ、いや公爵令嬢だ。ミラージュと何ら変わりない身分だったのに、どうしてここまで蔑まれなければならなかったのか!
理不尽に虐められたのだとチェルシーは憤り、父の大胆な計画に自分から率先して協力することにした。思いだけならば何故かチェルシーの方が父よりも重かった。
「私が公爵令嬢よ!全部奪ってやる!」
その思いを胸に隣国へとオルト親子は移住した。
最初はコツコツと公爵家周辺を調べ始めた。
父と母は近年にない働きぶりを発揮した、二人は意外と人の懐に入り込むのが上手かったのだ。どうして自国では発揮できなかったのだろうとチェルシーは不思議に思った、そして改めて結論付ける。ターミルド子爵家を伯爵家の財布にしたのは祖父だったと。
そうして集めた調査の結果、カールトン公爵家はこの国の貴族達から幻の存在として認識されていたことを知る。
オルトは高笑いだった。
「なんて都合がいいんだ!」
チェルシーは後々供述した。
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全く反省などしていなかった。
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