34 / 46
ユースティオ編
33
しおりを挟む
ユースティオはラウスを結局守れなかったと自己嫌悪に陥った。せめてもの救いは報せを受けた父がラウスの墓を公爵領に建ててくれていたことだけだった。
それでもユースティオの心の隙間はちょっぴりしか埋まらずに、泣きながら墓に花を手向けた。
ラウスの形見といえば、何度もせがまれて見せていた馬の姿を描いたブローチだけだった。
それはユースティオが生まれた時に祖父が記念にとユースティオに贈ってくれた物で、ラウスの物ではなかったけれど、今回の訪問で彼に贈ろうと密かに思って持参していた物だった。
ユースティオはラウスの墓前でブローチを握りしめて蹲って泣いた。
その時のユースティオはラウスの生まれた事情や孤児院に送られた理由、ラウスの死の真相など何一つ正確に把握する事など出来なかった。
ただ悲しくて悔しくて自分が不甲斐なく、何も守る事の出来ない自分はちっぽけな存在なのだと何度も自己嫌悪に陥っていた。
ラウスが亡くなった次の年も彼に会いに領地へと訪ったユースティオは10歳になっていた。
その時にカントリーハウスでラウスの事をメイドが噂していたのを聞いた。
「シンディ死んだそうよ、可哀想に。冤罪かけられた上に子供を取り上げられて。しかも取り上げられた子供は奥様の折檻で⋯」
「しっ!滅多な事言うもんじゃないわよ!こんな事聞かれたら貴方も無事では済まないわよ」
「だって!冤罪で服役して戻ったら子供が殺されてたのよ!シンディが不憫すぎる!大体旦那様が勝手にシンディに懸想しただけでシンディは拒めなかったのに。奥様本当に酷い人だわ」
「あの奥様は昔から変だったもの」
「貴方奥様の事何か知ってるの?」
「それがね⋯あの方昔隣の領地の⋯⋯⋯」
その後はメイドが声を潜めた為ユースティオにはここまでしか聞こえなかった。
ただ分かったのはラウスが死んだのは自分の両親のせいだという事だった。
ユースティオはそれからラウスの墓のある湖まで走った。ラウスの墓前に蹲り泣いて詫た。
「ラウスごめん、母上がごめんなさい」
只管謝罪することしかユースティオには出来なかった。そして自分にはラウスに詫びる資格もないのではないかと思った。
ラウスを死なせたのは自分の両親なのだからと。
それから湖畔をトボトボと歩いて周り、疲れて座り込んだ。
やるせない思いを湖に石を投げ込むことでぶつけていた。
「なにしてるの?」
その時突然声をかけられた。
驚いて見るとラウスと同じくらいの女の子がトコトコと此方へ近づいて来るのが見えて、泣いている自分が途端に恥ずかしくなって「来るな!」と怒鳴ったけれどその子は怯まず側に来た。
そしてユースティオの顔を、下から首を傾げながら覗き込むその姿がラウスを彷彿させた。
だからユースティオはその子の顔を何時までも見ていたかったけれど、彼女はハンカチを差し出してそのまま走って行ってしまった。
その後ろ姿をユースティオは追いかけられなかった。
だけど彼女が走っていった方向を何時までも見つめていた。
長い時間湖畔に居た為、その日から2日間ユースティオは熱が出てカントリーハウスの滞在日が延長されていた。
体が回復してその子に借りたハンカチを洗ったけれど乾かしてもシワが依るばかりで真っ直ぐにはならなかった。メイドに聞けば教えてもらえるかもしれなかったが、ユースティオは恥ずかしくて聞けなかった。
領都の雑貨屋で何かプレゼントをとハンカチを買った。馬にするかウサギにするか迷ってウサギを選んだ。
その時のユースティオは女の子とラウスを混同していた。また会いたくて会えるまでタウンハウスに帰るのを拒んでいた。
毎日湖に通いつめやっと会えたナーチェはやっぱりラウスに仕草がソックリだった。
ユースティオは行動が制限されているというナーチェに面白可笑しく王都の話を聞かせた。
楽しそうにユースティオの話を聞くナーチェの姿がラウスと重なって見える。
ユースティオは広がっていた心の隙間がナーチェの笑顔で埋まっていくように感じた。
とてもとても幸せな時間だった。
ラウスの死に責任を感じて自己嫌悪に陥っていたユースティオに再び光を齎してくれた。
「また来年もナーチェに会いに来る」
その日ナーチェはユースティオの生きる希望の光になった。
それでもユースティオの心の隙間はちょっぴりしか埋まらずに、泣きながら墓に花を手向けた。
ラウスの形見といえば、何度もせがまれて見せていた馬の姿を描いたブローチだけだった。
それはユースティオが生まれた時に祖父が記念にとユースティオに贈ってくれた物で、ラウスの物ではなかったけれど、今回の訪問で彼に贈ろうと密かに思って持参していた物だった。
ユースティオはラウスの墓前でブローチを握りしめて蹲って泣いた。
その時のユースティオはラウスの生まれた事情や孤児院に送られた理由、ラウスの死の真相など何一つ正確に把握する事など出来なかった。
ただ悲しくて悔しくて自分が不甲斐なく、何も守る事の出来ない自分はちっぽけな存在なのだと何度も自己嫌悪に陥っていた。
ラウスが亡くなった次の年も彼に会いに領地へと訪ったユースティオは10歳になっていた。
その時にカントリーハウスでラウスの事をメイドが噂していたのを聞いた。
「シンディ死んだそうよ、可哀想に。冤罪かけられた上に子供を取り上げられて。しかも取り上げられた子供は奥様の折檻で⋯」
「しっ!滅多な事言うもんじゃないわよ!こんな事聞かれたら貴方も無事では済まないわよ」
「だって!冤罪で服役して戻ったら子供が殺されてたのよ!シンディが不憫すぎる!大体旦那様が勝手にシンディに懸想しただけでシンディは拒めなかったのに。奥様本当に酷い人だわ」
「あの奥様は昔から変だったもの」
「貴方奥様の事何か知ってるの?」
「それがね⋯あの方昔隣の領地の⋯⋯⋯」
その後はメイドが声を潜めた為ユースティオにはここまでしか聞こえなかった。
ただ分かったのはラウスが死んだのは自分の両親のせいだという事だった。
ユースティオはそれからラウスの墓のある湖まで走った。ラウスの墓前に蹲り泣いて詫た。
「ラウスごめん、母上がごめんなさい」
只管謝罪することしかユースティオには出来なかった。そして自分にはラウスに詫びる資格もないのではないかと思った。
ラウスを死なせたのは自分の両親なのだからと。
それから湖畔をトボトボと歩いて周り、疲れて座り込んだ。
やるせない思いを湖に石を投げ込むことでぶつけていた。
「なにしてるの?」
その時突然声をかけられた。
驚いて見るとラウスと同じくらいの女の子がトコトコと此方へ近づいて来るのが見えて、泣いている自分が途端に恥ずかしくなって「来るな!」と怒鳴ったけれどその子は怯まず側に来た。
そしてユースティオの顔を、下から首を傾げながら覗き込むその姿がラウスを彷彿させた。
だからユースティオはその子の顔を何時までも見ていたかったけれど、彼女はハンカチを差し出してそのまま走って行ってしまった。
その後ろ姿をユースティオは追いかけられなかった。
だけど彼女が走っていった方向を何時までも見つめていた。
長い時間湖畔に居た為、その日から2日間ユースティオは熱が出てカントリーハウスの滞在日が延長されていた。
体が回復してその子に借りたハンカチを洗ったけれど乾かしてもシワが依るばかりで真っ直ぐにはならなかった。メイドに聞けば教えてもらえるかもしれなかったが、ユースティオは恥ずかしくて聞けなかった。
領都の雑貨屋で何かプレゼントをとハンカチを買った。馬にするかウサギにするか迷ってウサギを選んだ。
その時のユースティオは女の子とラウスを混同していた。また会いたくて会えるまでタウンハウスに帰るのを拒んでいた。
毎日湖に通いつめやっと会えたナーチェはやっぱりラウスに仕草がソックリだった。
ユースティオは行動が制限されているというナーチェに面白可笑しく王都の話を聞かせた。
楽しそうにユースティオの話を聞くナーチェの姿がラウスと重なって見える。
ユースティオは広がっていた心の隙間がナーチェの笑顔で埋まっていくように感じた。
とてもとても幸せな時間だった。
ラウスの死に責任を感じて自己嫌悪に陥っていたユースティオに再び光を齎してくれた。
「また来年もナーチェに会いに来る」
その日ナーチェはユースティオの生きる希望の光になった。
42
あなたにおすすめの小説
婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。
婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。
排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。
今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。
前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。
たのしい わたしの おそうしき
syarin
恋愛
ふわふわのシフォンと綺羅綺羅のビジュー。
彩りあざやかな花をたくさん。
髪は人生で一番のふわふわにして、綺羅綺羅の小さな髪飾りを沢山付けるの。
きっと、仄昏い水底で、月光浴びて天の川の様に見えるのだわ。
辛い日々が報われたと思った私は、挙式の直後に幸せの絶頂から地獄へと叩き落とされる。
けれど、こんな幸せを知ってしまってから元の辛い日々には戻れない。
だから、私は幸せの内に死ぬことを選んだ。
沢山の花と光る硝子珠を周囲に散らし、自由を満喫して幸せなお葬式を自ら執り行いながら……。
ーーーーーーーーーーーー
物語が始まらなかった物語。
ざまぁもハッピーエンドも無いです。
唐突に書きたくなって(*ノ▽ノ*)
こーゆー話が山程あって、その内の幾つかに奇跡が起きて転生令嬢とか、主人公が逞しく乗り越えたり、とかするんだなぁ……と思うような話です(  ̄ー ̄)
19日13時に最終話です。
ホトラン48位((((;゜Д゜)))ありがとうございます*。・+(人*´∀`)+・。*
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
(完結)私が貴方から卒業する時
青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。
だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・
※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。
夫は家族を捨てたのです。
クロユキ
恋愛
私達家族は幸せだった…夫が出稼ぎに行かなければ…行くのを止めなかった私の後悔……今何処で何をしているのかも生きているのかも分からない……
夫の帰りを待っ家族の話しです。
誤字脱字があります。更新が不定期ですがよろしくお願いします。
心の中にあなたはいない
ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。
一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。
【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る
甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。
家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。
国王の政務の怠慢。
母と妹の浪費。
兄の女癖の悪さによる乱行。
王家の汚点の全てを押し付けられてきた。
そんな彼女はついに望むのだった。
「どうか死なせて」
応える者は確かにあった。
「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」
幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。
公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。
そして、3日後。
彼女は処刑された。
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる