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ユースティオ編
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ユースティオはラウスを結局守れなかったと自己嫌悪に陥った。せめてもの救いは報せを受けた父がラウスの墓を公爵領に建ててくれていたことだけだった。
それでもユースティオの心の隙間はちょっぴりしか埋まらずに、泣きながら墓に花を手向けた。
ラウスの形見といえば、何度もせがまれて見せていた馬の姿を描いたブローチだけだった。
それはユースティオが生まれた時に祖父が記念にとユースティオに贈ってくれた物で、ラウスの物ではなかったけれど、今回の訪問で彼に贈ろうと密かに思って持参していた物だった。
ユースティオはラウスの墓前でブローチを握りしめて蹲って泣いた。
その時のユースティオはラウスの生まれた事情や孤児院に送られた理由、ラウスの死の真相など何一つ正確に把握する事など出来なかった。
ただ悲しくて悔しくて自分が不甲斐なく、何も守る事の出来ない自分はちっぽけな存在なのだと何度も自己嫌悪に陥っていた。
ラウスが亡くなった次の年も彼に会いに領地へと訪ったユースティオは10歳になっていた。
その時にカントリーハウスでラウスの事をメイドが噂していたのを聞いた。
「シンディ死んだそうよ、可哀想に。冤罪かけられた上に子供を取り上げられて。しかも取り上げられた子供は奥様の折檻で⋯」
「しっ!滅多な事言うもんじゃないわよ!こんな事聞かれたら貴方も無事では済まないわよ」
「だって!冤罪で服役して戻ったら子供が殺されてたのよ!シンディが不憫すぎる!大体旦那様が勝手にシンディに懸想しただけでシンディは拒めなかったのに。奥様本当に酷い人だわ」
「あの奥様は昔から変だったもの」
「貴方奥様の事何か知ってるの?」
「それがね⋯あの方昔隣の領地の⋯⋯⋯」
その後はメイドが声を潜めた為ユースティオにはここまでしか聞こえなかった。
ただ分かったのはラウスが死んだのは自分の両親のせいだという事だった。
ユースティオはそれからラウスの墓のある湖まで走った。ラウスの墓前に蹲り泣いて詫た。
「ラウスごめん、母上がごめんなさい」
只管謝罪することしかユースティオには出来なかった。そして自分にはラウスに詫びる資格もないのではないかと思った。
ラウスを死なせたのは自分の両親なのだからと。
それから湖畔をトボトボと歩いて周り、疲れて座り込んだ。
やるせない思いを湖に石を投げ込むことでぶつけていた。
「なにしてるの?」
その時突然声をかけられた。
驚いて見るとラウスと同じくらいの女の子がトコトコと此方へ近づいて来るのが見えて、泣いている自分が途端に恥ずかしくなって「来るな!」と怒鳴ったけれどその子は怯まず側に来た。
そしてユースティオの顔を、下から首を傾げながら覗き込むその姿がラウスを彷彿させた。
だからユースティオはその子の顔を何時までも見ていたかったけれど、彼女はハンカチを差し出してそのまま走って行ってしまった。
その後ろ姿をユースティオは追いかけられなかった。
だけど彼女が走っていった方向を何時までも見つめていた。
長い時間湖畔に居た為、その日から2日間ユースティオは熱が出てカントリーハウスの滞在日が延長されていた。
体が回復してその子に借りたハンカチを洗ったけれど乾かしてもシワが依るばかりで真っ直ぐにはならなかった。メイドに聞けば教えてもらえるかもしれなかったが、ユースティオは恥ずかしくて聞けなかった。
領都の雑貨屋で何かプレゼントをとハンカチを買った。馬にするかウサギにするか迷ってウサギを選んだ。
その時のユースティオは女の子とラウスを混同していた。また会いたくて会えるまでタウンハウスに帰るのを拒んでいた。
毎日湖に通いつめやっと会えたナーチェはやっぱりラウスに仕草がソックリだった。
ユースティオは行動が制限されているというナーチェに面白可笑しく王都の話を聞かせた。
楽しそうにユースティオの話を聞くナーチェの姿がラウスと重なって見える。
ユースティオは広がっていた心の隙間がナーチェの笑顔で埋まっていくように感じた。
とてもとても幸せな時間だった。
ラウスの死に責任を感じて自己嫌悪に陥っていたユースティオに再び光を齎してくれた。
「また来年もナーチェに会いに来る」
その日ナーチェはユースティオの生きる希望の光になった。
それでもユースティオの心の隙間はちょっぴりしか埋まらずに、泣きながら墓に花を手向けた。
ラウスの形見といえば、何度もせがまれて見せていた馬の姿を描いたブローチだけだった。
それはユースティオが生まれた時に祖父が記念にとユースティオに贈ってくれた物で、ラウスの物ではなかったけれど、今回の訪問で彼に贈ろうと密かに思って持参していた物だった。
ユースティオはラウスの墓前でブローチを握りしめて蹲って泣いた。
その時のユースティオはラウスの生まれた事情や孤児院に送られた理由、ラウスの死の真相など何一つ正確に把握する事など出来なかった。
ただ悲しくて悔しくて自分が不甲斐なく、何も守る事の出来ない自分はちっぽけな存在なのだと何度も自己嫌悪に陥っていた。
ラウスが亡くなった次の年も彼に会いに領地へと訪ったユースティオは10歳になっていた。
その時にカントリーハウスでラウスの事をメイドが噂していたのを聞いた。
「シンディ死んだそうよ、可哀想に。冤罪かけられた上に子供を取り上げられて。しかも取り上げられた子供は奥様の折檻で⋯」
「しっ!滅多な事言うもんじゃないわよ!こんな事聞かれたら貴方も無事では済まないわよ」
「だって!冤罪で服役して戻ったら子供が殺されてたのよ!シンディが不憫すぎる!大体旦那様が勝手にシンディに懸想しただけでシンディは拒めなかったのに。奥様本当に酷い人だわ」
「あの奥様は昔から変だったもの」
「貴方奥様の事何か知ってるの?」
「それがね⋯あの方昔隣の領地の⋯⋯⋯」
その後はメイドが声を潜めた為ユースティオにはここまでしか聞こえなかった。
ただ分かったのはラウスが死んだのは自分の両親のせいだという事だった。
ユースティオはそれからラウスの墓のある湖まで走った。ラウスの墓前に蹲り泣いて詫た。
「ラウスごめん、母上がごめんなさい」
只管謝罪することしかユースティオには出来なかった。そして自分にはラウスに詫びる資格もないのではないかと思った。
ラウスを死なせたのは自分の両親なのだからと。
それから湖畔をトボトボと歩いて周り、疲れて座り込んだ。
やるせない思いを湖に石を投げ込むことでぶつけていた。
「なにしてるの?」
その時突然声をかけられた。
驚いて見るとラウスと同じくらいの女の子がトコトコと此方へ近づいて来るのが見えて、泣いている自分が途端に恥ずかしくなって「来るな!」と怒鳴ったけれどその子は怯まず側に来た。
そしてユースティオの顔を、下から首を傾げながら覗き込むその姿がラウスを彷彿させた。
だからユースティオはその子の顔を何時までも見ていたかったけれど、彼女はハンカチを差し出してそのまま走って行ってしまった。
その後ろ姿をユースティオは追いかけられなかった。
だけど彼女が走っていった方向を何時までも見つめていた。
長い時間湖畔に居た為、その日から2日間ユースティオは熱が出てカントリーハウスの滞在日が延長されていた。
体が回復してその子に借りたハンカチを洗ったけれど乾かしてもシワが依るばかりで真っ直ぐにはならなかった。メイドに聞けば教えてもらえるかもしれなかったが、ユースティオは恥ずかしくて聞けなかった。
領都の雑貨屋で何かプレゼントをとハンカチを買った。馬にするかウサギにするか迷ってウサギを選んだ。
その時のユースティオは女の子とラウスを混同していた。また会いたくて会えるまでタウンハウスに帰るのを拒んでいた。
毎日湖に通いつめやっと会えたナーチェはやっぱりラウスに仕草がソックリだった。
ユースティオは行動が制限されているというナーチェに面白可笑しく王都の話を聞かせた。
楽しそうにユースティオの話を聞くナーチェの姿がラウスと重なって見える。
ユースティオは広がっていた心の隙間がナーチェの笑顔で埋まっていくように感じた。
とてもとても幸せな時間だった。
ラウスの死に責任を感じて自己嫌悪に陥っていたユースティオに再び光を齎してくれた。
「また来年もナーチェに会いに来る」
その日ナーチェはユースティオの生きる希望の光になった。
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