知らされた真実〜それぞれの選択〜

maruko

文字の大きさ
36 / 46
ユースティオ編

35

しおりを挟む
「えっ?⋯⋯⋯ナーチェ?」

ユースティオは始め何を言われたかよく分からなかった。聞こえた言葉をまるで全身が拒否するように体が震えユースティオの耳に到達する前に弾けたようだった。

「ティオごめんなさい」

ナーチェは今まで見たことのないような顔で謝罪を繰り返すばかりだった。
父がなかなか重い腰を上げてくれなかったユースティオはナーチェを得る為に、カールトン公爵に直談判を繰り返した。
決めてはナーチェの気持ちという後押しも有り到頭正式に今日はプロポーズするのだと、どんな花がナーチェに似合うだろうか?と考えに考え抜いて花束を用意してやってきた日、ナーチェの言葉は信じられない言葉を紡いだ。

カールトン公爵の親友が亡くなってその息子とナーチェが婚約をするという、ユースティオには青天の霹靂だった。

(誰だ?ルーディスト?いやそんな事よりどうしてあったこともない男となんて婚約するんだよ!)

確かにまだユースティオとナーチェとの間に書面の手続きはしていない段階ではあった。

それでもカールトン公爵から色良い返事をもらったのは間違いなかったのに、父も喜んでくれてやっと認めてもらえたのに。

「どうして?どうしてナーチェ!どうしてだよ!」

ユースティオはナーチェに当たるしかなかった。聞けばカールトン公爵はユースティオの父に会いに王都に出かけているという。
正式に婚約していたわけではないが、婚約の打診に“諾”の返事をしたから、それを断りに行ったのだとナーチェは言う。

それを聞いたユースティオは全身の力が抜けた。

膝から床に足を付いてナーチェを見上げる。

ナーチェがずっと下を向いているからそうするしかナーチェの顔を確かめられなかった。

ナーチェは泣いていた、顔をくしゃくしゃにしてその紫の瞳からはいくつも涙が溢れていて頬を伝っていた。

ポタリ⋯⋯ポタリ⋯⋯。

ユースティオの膝の前にナーチェの涙の雫が落ちてくる。
膝をついたままユースティオはまるで懇願するようにナーチェの足にドレスごと纏わり付き縋った。

「ナーチェ!ナーチェ!本当に?もうだめなの?」

「ごめんなさい⋯⋯⋯ティオ」

ユースティオの頭をギュッと抱きしめてナーチェは謝罪すると、身を捩ってユースティオの手から離れた。そして走って公爵邸に帰って行った。

あとに残されたユースティオは出逢った頃のように湖畔に座り込んでいた。どれくらいそこに居たのか気づいた時は辺りは夕刻だった。空はオレンジに染まりユースティオの顔を同じ色に変える。
ユースティオは立ち上がりトボトボと歩いてそこに向かう。ナーチェに用意した大きな花束をラウスの墓前に手向けた。

「ラウス⋯俺⋯もう⋯苦しい」

再び込み上げる嗚咽をユースティオは止めることなくラウスの墓前に縋って泣き崩れた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

たのしい わたしの おそうしき

syarin
恋愛
ふわふわのシフォンと綺羅綺羅のビジュー。 彩りあざやかな花をたくさん。 髪は人生で一番のふわふわにして、綺羅綺羅の小さな髪飾りを沢山付けるの。 きっと、仄昏い水底で、月光浴びて天の川の様に見えるのだわ。 辛い日々が報われたと思った私は、挙式の直後に幸せの絶頂から地獄へと叩き落とされる。 けれど、こんな幸せを知ってしまってから元の辛い日々には戻れない。 だから、私は幸せの内に死ぬことを選んだ。 沢山の花と光る硝子珠を周囲に散らし、自由を満喫して幸せなお葬式を自ら執り行いながら……。 ーーーーーーーーーーーー 物語が始まらなかった物語。 ざまぁもハッピーエンドも無いです。 唐突に書きたくなって(*ノ▽ノ*) こーゆー話が山程あって、その内の幾つかに奇跡が起きて転生令嬢とか、主人公が逞しく乗り越えたり、とかするんだなぁ……と思うような話です(  ̄ー ̄) 19日13時に最終話です。 ホトラン48位((((;゜Д゜)))ありがとうございます*。・+(人*´∀`)+・。*

婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。 婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。 排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。 今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。 前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。

【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る

甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。 家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。 国王の政務の怠慢。 母と妹の浪費。 兄の女癖の悪さによる乱行。 王家の汚点の全てを押し付けられてきた。 そんな彼女はついに望むのだった。 「どうか死なせて」 応える者は確かにあった。 「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」 幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。 公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。 そして、3日後。 彼女は処刑された。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

【完結】婚約者を奪われましたが、彼が愛していたのは私でした

珊瑚
恋愛
全てが完璧なアイリーン。だが、転落して頭を強く打ってしまったことが原因で意識を失ってしまう。その間に婚約者は妹に奪われてしまっていたが彼の様子は少し変で……? 基本的には、0.6.12.18時の何れかに更新します。どうぞ宜しくお願いいたします。

(完結)私が貴方から卒業する時

青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。 だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・ ※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。

どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~

クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。 同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。 ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した… 誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。

処理中です...