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ユースティオ編
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「それから僕達はどうしていいか分からなくて3人で途方にくれてたんだ。思いついたのは孤児院だったけど場所がよくわからなくて、とりあえず見つけた汚い小屋で暫く過ごしたんだけど」
生き残ったのはナーチェの専属侍女の一人のマジェルノ、庭師の息子のドウン(ラオス)、同じく庭師の娘でナーチェのメイド見習いのジョインの3人だった。
先ず3人は公爵の人が変わってしまったような冷酷な行いに絶望していた。そんな人を慕っていたのだとラオスは涙が止まらなかった。
ただマジェルノだけは何か可怪しいと言っていたが、何がどうおかしいのかはラオスにもマジェルノにもましてや幼いジョインにも分からずじまいだった。
取り敢えずラオス達が考えたのは騎士団に訴えても信じてもらえないだろうということだった。
「平民のしかも子供が公爵を訴えても信じてもらえるはずないんだ、それにそんな事をして公爵に僕等が生きてる事を知られる方が不味いと思ったんだ」
「どうしてその時に父に知らせなかったんだ」
「兄様、僕が誰に命を狙われていたか忘れたの?」
「あっ⋯⋯すまん」
「ううん、でも僕もそれはマジェルノに提案もしたんだ。マジェルノ達だけでも行けばと思ったけど、僕らは甘かった。貴族って伝がないとお屋敷にも入れないんだね」
ユースティオはそれはそうだと思った。平民が単独で貴族に近づくのはかなり難しいといえる。一人雇うのもギルドや知り合いからの紹介の中から選んでいるし、そうなれば身元を明かさなければいけない。生きてる事を知られる訳にはいかないラオス達にはかなりハードルが高かった事だろう。
「それでもやっぱり仕事や隠れ住むなら都会がいいと思って3人で王都を目指したよ。1年以上かかってやっと王都に着けたんだ」
「1年?そんなにかかったのか?」
時間がかかり過ぎてることに戸惑ってユースティオが問うと、またもやラオスは事も無げに言った。
「あぁ僕らお金持ってなかったから、途中途中で働きながら進んだんだ。ジョインはまだ小さすぎて働けないし、どっちかが見てなきゃいけないから働けるのは1人ずつでさ」
「働くってラオスはその時成人していたのか?」
「何で兄様、何言ってるの。その時僕は15歳、ナーチェ様の一つ上だよ」
「ちょっと待てラオス、それはナーチェが14歳の時の話か?」
「そうだよ」
ユースティオは頭を抱えた。ラオスの言ってる事は、時系列的にも最後にナーチェに会った頃の話だ。あの時ナーチェはまだ学園に入る前の14歳だ。
「マジェルノが兄様と同じ歳だったけど体が大きくなかったから子供と間違われたんだよね。それが僕らには助かったよ、だってマジェルノがいなかったら王都を目指そうとも思えなかったし、僕とジョインだけならとっくに野垂れ死んでたかもしれなかったしさ」
「⋯⋯⋯」
「王都に着いてからはそれ迄に少しずつ予備で貯めてたお金で小さくて汚かったけど貧民街に部屋を借りたんだ、そこからは生きるのに夢中でさ。カールトン公爵家で起こった事も日々を生きる僕らには省みる余裕はなかったんだ。そんなある日マジェルノが真っ青な顔をして帰ってきて僕を呼んだんだ」
ラオス達は3人で肩寄せあって生活していた。マジェルノとラオスはギルドに登録して日々働いていた。その日はマジェルノが、刺繍の腕を活かして洋装店から請負った仕事のハンカチを卸に行った日だった。
彼女は貰った賃金で帰り道にあるマルシェで夕飯の買い物をしている時だった。
道を歩く人の声をマジェルノの耳が拾ったのは、懐かしく思う名前だった。
「アレってルーディスト侯爵様と婚約者のナーチェ様でしょう。お二人ともお綺麗ねぇ」
「駄目よ、きっとお忍びなのよ。大きな声を出したらご迷惑になるわ」
マジェルノはナーチェと聞いて自分が嘗て仕えていたカールトン公爵家のナーチェだと思った。何故ならルーディスト侯爵という名に聞き覚えがあったからだ。ナーチェが公爵と出かけると行っていた前夜、マジェルノは同行させられなくてごめんね、とナーチェから謝罪を受けていた。
その時にナーチェが口にした婚約者になる名がユースティオではなかった事に驚いたからマジェルノは覚えていた。
「⋯⋯⋯お嬢様」
マジェルノは懐かしさに一目ナーチェに会いたくて、物陰からでも遠目からでもいいからと、その人達が指差した方へ向かった。
そうして見つめた先にいたのはマジェルノが知るナーチェとは似ても似つかない人だった。
生き残ったのはナーチェの専属侍女の一人のマジェルノ、庭師の息子のドウン(ラオス)、同じく庭師の娘でナーチェのメイド見習いのジョインの3人だった。
先ず3人は公爵の人が変わってしまったような冷酷な行いに絶望していた。そんな人を慕っていたのだとラオスは涙が止まらなかった。
ただマジェルノだけは何か可怪しいと言っていたが、何がどうおかしいのかはラオスにもマジェルノにもましてや幼いジョインにも分からずじまいだった。
取り敢えずラオス達が考えたのは騎士団に訴えても信じてもらえないだろうということだった。
「平民のしかも子供が公爵を訴えても信じてもらえるはずないんだ、それにそんな事をして公爵に僕等が生きてる事を知られる方が不味いと思ったんだ」
「どうしてその時に父に知らせなかったんだ」
「兄様、僕が誰に命を狙われていたか忘れたの?」
「あっ⋯⋯すまん」
「ううん、でも僕もそれはマジェルノに提案もしたんだ。マジェルノ達だけでも行けばと思ったけど、僕らは甘かった。貴族って伝がないとお屋敷にも入れないんだね」
ユースティオはそれはそうだと思った。平民が単独で貴族に近づくのはかなり難しいといえる。一人雇うのもギルドや知り合いからの紹介の中から選んでいるし、そうなれば身元を明かさなければいけない。生きてる事を知られる訳にはいかないラオス達にはかなりハードルが高かった事だろう。
「それでもやっぱり仕事や隠れ住むなら都会がいいと思って3人で王都を目指したよ。1年以上かかってやっと王都に着けたんだ」
「1年?そんなにかかったのか?」
時間がかかり過ぎてることに戸惑ってユースティオが問うと、またもやラオスは事も無げに言った。
「あぁ僕らお金持ってなかったから、途中途中で働きながら進んだんだ。ジョインはまだ小さすぎて働けないし、どっちかが見てなきゃいけないから働けるのは1人ずつでさ」
「働くってラオスはその時成人していたのか?」
「何で兄様、何言ってるの。その時僕は15歳、ナーチェ様の一つ上だよ」
「ちょっと待てラオス、それはナーチェが14歳の時の話か?」
「そうだよ」
ユースティオは頭を抱えた。ラオスの言ってる事は、時系列的にも最後にナーチェに会った頃の話だ。あの時ナーチェはまだ学園に入る前の14歳だ。
「マジェルノが兄様と同じ歳だったけど体が大きくなかったから子供と間違われたんだよね。それが僕らには助かったよ、だってマジェルノがいなかったら王都を目指そうとも思えなかったし、僕とジョインだけならとっくに野垂れ死んでたかもしれなかったしさ」
「⋯⋯⋯」
「王都に着いてからはそれ迄に少しずつ予備で貯めてたお金で小さくて汚かったけど貧民街に部屋を借りたんだ、そこからは生きるのに夢中でさ。カールトン公爵家で起こった事も日々を生きる僕らには省みる余裕はなかったんだ。そんなある日マジェルノが真っ青な顔をして帰ってきて僕を呼んだんだ」
ラオス達は3人で肩寄せあって生活していた。マジェルノとラオスはギルドに登録して日々働いていた。その日はマジェルノが、刺繍の腕を活かして洋装店から請負った仕事のハンカチを卸に行った日だった。
彼女は貰った賃金で帰り道にあるマルシェで夕飯の買い物をしている時だった。
道を歩く人の声をマジェルノの耳が拾ったのは、懐かしく思う名前だった。
「アレってルーディスト侯爵様と婚約者のナーチェ様でしょう。お二人ともお綺麗ねぇ」
「駄目よ、きっとお忍びなのよ。大きな声を出したらご迷惑になるわ」
マジェルノはナーチェと聞いて自分が嘗て仕えていたカールトン公爵家のナーチェだと思った。何故ならルーディスト侯爵という名に聞き覚えがあったからだ。ナーチェが公爵と出かけると行っていた前夜、マジェルノは同行させられなくてごめんね、とナーチェから謝罪を受けていた。
その時にナーチェが口にした婚約者になる名がユースティオではなかった事に驚いたからマジェルノは覚えていた。
「⋯⋯⋯お嬢様」
マジェルノは懐かしさに一目ナーチェに会いたくて、物陰からでも遠目からでもいいからと、その人達が指差した方へ向かった。
そうして見つめた先にいたのはマジェルノが知るナーチェとは似ても似つかない人だった。
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