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8 家族
意外にも王妃の茶会での出来事は王宮でのソフィアの評判を落とした。
イシュエルは興味がなかったが、茶会のあとも今まで通りと思っていたから少しだけ驚いた。
専属侍女のリノ、ソフィア、キャロルの3人はどうやら常からソフィアに何かしらの不満があったようで溜飲が下がったと喜んでいた。
特にソフィアは同じ名であることから、かなり辛い思いもしていたようだった。名が同じだけで気の毒だとイシュエルの宮では皆から同情されていたようだった。
イシュエルの宮にソフィアが訪れることなど今までに一度もないのに、専属侍女たちとソフィアのどこに接点があるのかとイシュエルは不思議に思ったが、別に特に興味があるわけでは無いので聞くこともしなかった。
ソフィアの王子妃教育はある程度のところで王妃から教わる事になっていたが、今回のことで王妃が拒否したと聞いた。
それに対して国王も王妃を諫めることもなかった為、ラゼオート公爵家は事態を重く見てソフィアをしばらく謹慎させるとイシュエルに書簡にて謝罪と報告があった。
物々しいその書簡を見せられてもイシュエルにはどうでも良かった。
今謹慎したところで結局彼女と兄の婚約が解消されるわけではない。
反省してもしなくともいつか彼女の謹慎は解かれて終わるのだ。
だからイシュエルはその件に関しては心は動かなかった。
彼女の心を僅かでも動かしたのは両陛下のその後の行動だった。
今まで殆ど顔を合わせなかった親子だったが、あのあとは頻繁にイシュエルの宮にそれぞれが訪れるようになっていた。
リヒトールとのお茶の時間にも二人は一緒に過ごすようになり、少しずつ増える公務の合間に時間が合えばそこにカリムトロも参加する。
今回の騒動では奇しくも心が離れていた国王一家の結束を強めることになった。
きっとソフィアは地団駄を踏んでいることだろうと、侍女のソフィアは嬉しそうに無表情のイシュエルに、公爵令嬢のソフィアの悪口を言ってキャロルに叱責されていた。
◇◇◇
お茶会から月日は流れる。
イシュエルは12歳になった。
あの日から恒例になったイシュエルの宮でのお茶会の時、国王が突然言い出した。
「そうそう、イシュエルの婚約が決まったぞ」
イシュエル以外の誰もがその言葉に驚き、リヒトールに至ってはカップをソーサーの上にガシャンと落として割った。
「ち、父上いくら何でも唐突過ぎます」
カリムトロは冷たい眼差しで国王に向かって意見した。王妃は前もって聞いていたようだったが、話した場所がお茶会の序の様に言ったので怒っているようだった。リヒトールは落としたカップを片付けるリノに申し訳ないと気遣っていた。
ただ父王をジッと見つめて次の言葉を待つイシュエルの瞳だけは、いつもと変わらず動くことはなかった。
「カイラスクの王太子だ」
『カイラスク』その言葉にイシュエルの片眉が動いたのを、その場にいた全員が気付いた。イシュエルが反応したのが嬉しかったのか国王は上機嫌で続けた。
「イシュエル、この婚姻はかの国との国交の蟠りをなくす事が目的でもある。だが、王太子はこの国に特に友好的な人物だと聞いている。決してお前を蔑ろになどしないはずだ。今は王太子教育で色々と忙しいらしく、こちらに来ることは叶わなかったが学園はイシュエルに合わせて留学してきてくれる。そこで交友を深めて仲良くするんだぞ」
無表情のイシュエルに国王は話しながら頭を優しく撫でる。その掌は母よりも大きく安心できるとイシュエルは表情に出さずとも感じていた。
今世のイシュエルは番の兄の動向に丈目を向けないように、これ以上兄の気持ちを欲さないように心がけながら生きている。
だが決して心が空洞だらけではなかった。生きる事は惰性だとは今でも思っているが、家族の愛は感じていた。
だがそれを出すことがなかったのは、その感情を表に出す事が怖かったからだ。
それは家族の中に“番の兄”がいるからだ。
歯止めが効かなくなりそうで、前の人生のように自分が壊れるまで兄を希う事が怖かった。
イシュエルは興味がなかったが、茶会のあとも今まで通りと思っていたから少しだけ驚いた。
専属侍女のリノ、ソフィア、キャロルの3人はどうやら常からソフィアに何かしらの不満があったようで溜飲が下がったと喜んでいた。
特にソフィアは同じ名であることから、かなり辛い思いもしていたようだった。名が同じだけで気の毒だとイシュエルの宮では皆から同情されていたようだった。
イシュエルの宮にソフィアが訪れることなど今までに一度もないのに、専属侍女たちとソフィアのどこに接点があるのかとイシュエルは不思議に思ったが、別に特に興味があるわけでは無いので聞くこともしなかった。
ソフィアの王子妃教育はある程度のところで王妃から教わる事になっていたが、今回のことで王妃が拒否したと聞いた。
それに対して国王も王妃を諫めることもなかった為、ラゼオート公爵家は事態を重く見てソフィアをしばらく謹慎させるとイシュエルに書簡にて謝罪と報告があった。
物々しいその書簡を見せられてもイシュエルにはどうでも良かった。
今謹慎したところで結局彼女と兄の婚約が解消されるわけではない。
反省してもしなくともいつか彼女の謹慎は解かれて終わるのだ。
だからイシュエルはその件に関しては心は動かなかった。
彼女の心を僅かでも動かしたのは両陛下のその後の行動だった。
今まで殆ど顔を合わせなかった親子だったが、あのあとは頻繁にイシュエルの宮にそれぞれが訪れるようになっていた。
リヒトールとのお茶の時間にも二人は一緒に過ごすようになり、少しずつ増える公務の合間に時間が合えばそこにカリムトロも参加する。
今回の騒動では奇しくも心が離れていた国王一家の結束を強めることになった。
きっとソフィアは地団駄を踏んでいることだろうと、侍女のソフィアは嬉しそうに無表情のイシュエルに、公爵令嬢のソフィアの悪口を言ってキャロルに叱責されていた。
◇◇◇
お茶会から月日は流れる。
イシュエルは12歳になった。
あの日から恒例になったイシュエルの宮でのお茶会の時、国王が突然言い出した。
「そうそう、イシュエルの婚約が決まったぞ」
イシュエル以外の誰もがその言葉に驚き、リヒトールに至ってはカップをソーサーの上にガシャンと落として割った。
「ち、父上いくら何でも唐突過ぎます」
カリムトロは冷たい眼差しで国王に向かって意見した。王妃は前もって聞いていたようだったが、話した場所がお茶会の序の様に言ったので怒っているようだった。リヒトールは落としたカップを片付けるリノに申し訳ないと気遣っていた。
ただ父王をジッと見つめて次の言葉を待つイシュエルの瞳だけは、いつもと変わらず動くことはなかった。
「カイラスクの王太子だ」
『カイラスク』その言葉にイシュエルの片眉が動いたのを、その場にいた全員が気付いた。イシュエルが反応したのが嬉しかったのか国王は上機嫌で続けた。
「イシュエル、この婚姻はかの国との国交の蟠りをなくす事が目的でもある。だが、王太子はこの国に特に友好的な人物だと聞いている。決してお前を蔑ろになどしないはずだ。今は王太子教育で色々と忙しいらしく、こちらに来ることは叶わなかったが学園はイシュエルに合わせて留学してきてくれる。そこで交友を深めて仲良くするんだぞ」
無表情のイシュエルに国王は話しながら頭を優しく撫でる。その掌は母よりも大きく安心できるとイシュエルは表情に出さずとも感じていた。
今世のイシュエルは番の兄の動向に丈目を向けないように、これ以上兄の気持ちを欲さないように心がけながら生きている。
だが決して心が空洞だらけではなかった。生きる事は惰性だとは今でも思っているが、家族の愛は感じていた。
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