生贄令嬢の幸せ

maruko

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楽しみ!

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学園を休んで朝からタイオール伯爵邸に訪うと先触れなしにも関わらず伯爵は歓迎してくれた。
顔には焦燥が浮かんでいる。
自分の浅慮な行動が目の前の伯爵を苦しめてしまったのかと、アルシェリーナは自責の念に駆られた。

「伯爵、この度は⋯巻き込んでごめんなさい⋯はっ!」

親友の父とはあまり畏まらず常から会話をするので謝罪の言葉もついつい同じ様に申してしまって、謝罪しながらこれはいけないと両手で口を止めた。
その様子を苦笑交じりに見ながら、それでも伯爵は怒ってはいなかった。

「アルシェリーナ、いつものように。それでいいよ、君に畏まられても笑いしか出ない。それに此度の婚約は我が家でも喜んでいたのだから君のせいではない。ただ私にはわからない事もあるんだ。その辺は教えてくれると助かるな」

「はい、おじ様、父から手紙を預かっております。お読み頂ければ、私だけでは話してはいけないことなどわかりかねますので」

そう言ってラクサスから預かった手紙を渡すと

「そうか⋯ありがとう。セリナに会いに来てくれたんだろう?部屋に案内させるよ」

そう言って控えていた侍女に指示してアルシェリーナをセリナの部屋へと促した。
案内されながらアルシェリーナが振り返ると伯爵はタイオール家の執事と共に何処かへ移動していた。

セリナは部屋でクッションに顔を埋めていた。
気安いアルシェリーナの訪いだからセリナも態々取り繕ったりしていない、していないが⋯気安すぎない?アルシェリーナの胸の内は複雑だった。

「シェリ~~~~」

「はい?」

クッションに顔を埋めたまま話すので多分だが、名を呼んだ気がしてアルシェリーナは返事をした、多分だったので疑問形で。

「⋯⋯⋯」

その後の言葉はくぐもり過ぎてよく聞こえない。
痺れを切らしてアルシェリーナはセリナの頭をポンと軽くはたいた。

「いったぁい!」

「嘘よ、そんなに強く叩いてはいないわよ!」

渋々というようにセリナはやっと顔を上げたが何故彼女が顔を隠していたのか、アルシェリーナはやっと理解した。
目は真っ赤になっていて瞼も少し腫れていた。
きっと一晩中悩んで泣いていたのだろう。
彼女の苦悩を慮れずアルシェリーナは自分の愚かさを後悔した。

「ごめんセリナ。配慮にかけてたわ」

「⋯⋯シェリーが遠慮なんかしたら気持ち悪いんだけど⋯」

こんな時でも親友は優しい。
アルシェリーナが気にしないように軽口で答えてくれる。

「昨日の相談の件で来てくれたんでしょう?何かわかったかしら」

「⋯う~んまだはっきりしないけれど、もう私達の手は離れたから。解決するまで学園には行くなと言われたの、セリナにもそれを伝えに来たのよ」

「私は元々謹慎を言い渡されていたから⋯」

「そんなもの無効よ!セリナを平民になどさせないから、その辺は安心して。いざとなったらルーカス様がどうにかしてくれるわ」

「⋯⋯ふふっ」

「?何が可笑しいの?」

憤って拳を握るアルシェリーナの言葉に、不意にセリナが笑うから、夜通し泣いてたセリナが笑う事が出来て嬉しい反面、その対象が自分というのが解せないアルシェリーナは口を尖らせながら聞いた。

「だって、あんなに、ハズレとか言ってたじゃない?それが⋯こうも変わるのかと思ったら、ふふっつい笑いが⋯こみ上げて来て⋯ふふっ」

セリナは可笑しくて堪らないといった風にお腹と口を押さえながら話す。
確かに王命で婚約した時はこの世の終わりかと思うほど、絶望していたけれど⋯。
そう思ったらアルシェリーナも可笑しくなってきてセリナと一緒に顔を見合わせて笑った。

「セリナ⋯そろそろルーカス様の秘密を教えるわ」

「えっ?トゥール様から教えて貰えるのかと思っていたのだけど。やっと教えてくれるのね」

「えぇ、貴方ならきっと大丈夫だと思っていたから、初めから話したかったのだけどラガン夫人から婚約してからと言われていたの。今ルーカス様とトゥール様は色々と忙しいしね。私から話すわ」

アルシェリーナは妖精の愛子めでごの事をセリナに話した。

婚約を結んでからなどと騙し討のような事をしてしまって正直アルシェリーナは気不味く思いながらも話した。
ここまで巻き込んでしまっては、もうセリナもしっかりとこちら側に入ってもらうしかない。
妖精の粉などセリナに使いたくはないのだ。
そう思いながら決死の覚悟だったアルシェリーナが少し俯き加減で話していたのだが、頭を上げた途端笑ってしまった。

流石『可愛いは正義』のセリナだ、目が輝いていた。

「ねぇ、殿下には何時お会いできるのかしら?シェリーが態度や考えを変えるくらい可愛らしいのでしょう?⋯⋯楽しみだわ!」

セリナの輝く目が何かを想像しているように遠くを見つめているのだった。


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