37 / 59
36 マーシェの確信
しおりを挟む
子供を保護したマーシェ達。
さてこれからどうしようかと皆で門前で考え込む。
一応ちゃんと話せるかはわからなかったけど、リリアンが男の子に名前を聞いてみた。
「れーおー」
「レオくんね!」
名を呼ぶリリアンに、男の子は必死でブルブル頭を振る。
どうやら違うようだとマーシェは感じたけれど、でもどう聞いても何度聞いても“れーおー”としか聞こえない。
もうレオでいいのでは?
その場の大人達は皆そう思ったけれど、そこはこだわるのか、男の子はずっと頭を振り続けていた。
「ぼっちゃま!」
ふと思いついてマーシェが言ってみる。
「あい!」
なんと男の子は返事をしてくれた。
兄が子供の頃『おぼっちゃま』と呼ばれていたから、ひょっとしたらコート伯爵家でもそう呼ぶ人がいるのではないかと、試してみたら当たりだった。
名を呼ぶだけで相当な時間を費やした大人達は既に疲れ始めていた。
それでその場を解散することにした。
というのも、アルマンに少しでも早く文句を言いたかったマーシェが、帰ろうとしたのが原因だ。
近頃、孫(マーシェ兄の子)の相手で幼い子に慣れているポリント辺境伯が、ぼっちゃまと一緒にホテルに泊まることになり、リリアンの兄、ブッセ伯爵子息が、騎士団に子供をこちらで保護したことを伝えに行った。
マーロウ公爵家の馬車で、リリアンと兄嫁様をブッセ伯爵家におろして、そのまま父とぼっちゃまをホテルに送る。
慌ただしい一日が終わり、マーロウ公爵家に辿り着いたマーシェは、馬車を降りた勢いのままにアルマンの執務室に向かい、大きな扉を連打した。
あまりにも煩かったのか、執事のハーセムが扉をそっと開けた後ろには、アルマンが一緒にこちらを覗いていた。
どちらが部屋の中かわからない状態に、マーシェはつり上がった眉を一旦引っ込めて破顔してしまった。
「なんだ?」
開けた途端、上がった眉が下がり不気味な笑顔のマーシェを目に入れたアルマンは訝しげに尋ねた。
聞かれたマーシェは二人を押しのけるように扉をグイッと押して中に押し入った。
「貴方のお仕事の中途半端さに呆れて物が言えないので、文句を言いに来たのですわ!」
「は?」
扉が閉まったのを確認してマーシェは中のソファに座った。
そんなマーシェを見て、あぁまた何か言われるなと半ば諦めたようにノロノロと対面にアルマンが座った。
「本日、私ブッセ伯爵家に行ってまいりましたの」
「何?!何を勝手な!」
「は?どうしてブッセ家を訪ねるのに旦那様の許可が入りますの?」
「それは、それは私が夫だからだ!」
「⋯⋯⋯⋯⋯ふうん。まぁそういうことにしておきましょう。本題はそこではありませんから」
「何お!」
「貴方、国のご立派なお仕事に携わっていらっしゃいますわよね。ようやく実を結んだようですけれど、どう報告を受けていらっしゃいますか?貴方が前には出られないことは承知していますから。でも報告は受けてるでしょう?」
「それが君に関係あるのか?」
「あるから話しております。というか何を偉そうに!」
「な!」
「いいからほら言ってください、どんな報告受けてます?」
ここ最近すっかり豹変してしまったマーシェにタジタジになりながら、アルマンはぽつりぽつりと報告を始めた。
後ろで控えるハーセムは、これではどちらが当主かわからないなと苦笑いした。
「然るべくコート伯爵代理と使用人数名、それから数件の貴族家の夫人達、それと「コート伯爵家のみの報告でよろしいですわ」」
マーシェに報告の途中で遮られアルマンはブスっと不貞腐れた。
「それで?」
「それでとはなんだ?代理はしっかりと捕縛して今は取調べ中だぞ」
「使用人は元々多いのですか?乳母は?」
「あの家は秘密が多かったのだろう、だから中の使用人はあまり雇ってなかった。私が入り込めたのは万が一罪を擦り付けるための使用人候補で雇われたんだ」
なんとコート伯爵代理のマリエルは、もし罪が発覚した場合、執事が勝手にやりました!と罪を擦り付けるつもりだったようだ。
マーシェは使用人が少ない、そこまでアルマンは把握しておきながら、どうしてぼっちゃまの事を考えなかったのか、呆れてしまった。
「では次期伯爵はどうされたのですか?」
「次期伯爵?あぁレイオニーの事か」
レイオニー!名前が分かったマーシェは心の中で歓喜した。だが(レイオニーがどうして“れーおー”になるのか、子供って不思議)と明後日の方向に考え始めて、しばしアルマンを責めていることを忘れてしまっていた。
傍と我に返り大きく深呼吸をして怒りを戻した。
「そのレイオニー様はどうされたんですか?」
「どうもこうも、乳母が何とかするだろう⋯あ!いやまて、乳母は⋯いたかな?いや当然いるだろう、いるに決まってる。使用人は確かに少ないがそれでも、まるっきりいなくなったわけでもないし」
「おそらくいなくなっております」
「えっ?どういう事だ?」
そこでマーシェはようやく今日あった出来事をアルマンに話した。
「リリアンがどうしてコート伯爵家に?」
そこ?!
子供の心配をするでなく、始めに引っかかるのがそこ?
マーシェは、こんな男ではリリアンは復縁しようとは思わないだろうなと確信した。
さてこれからどうしようかと皆で門前で考え込む。
一応ちゃんと話せるかはわからなかったけど、リリアンが男の子に名前を聞いてみた。
「れーおー」
「レオくんね!」
名を呼ぶリリアンに、男の子は必死でブルブル頭を振る。
どうやら違うようだとマーシェは感じたけれど、でもどう聞いても何度聞いても“れーおー”としか聞こえない。
もうレオでいいのでは?
その場の大人達は皆そう思ったけれど、そこはこだわるのか、男の子はずっと頭を振り続けていた。
「ぼっちゃま!」
ふと思いついてマーシェが言ってみる。
「あい!」
なんと男の子は返事をしてくれた。
兄が子供の頃『おぼっちゃま』と呼ばれていたから、ひょっとしたらコート伯爵家でもそう呼ぶ人がいるのではないかと、試してみたら当たりだった。
名を呼ぶだけで相当な時間を費やした大人達は既に疲れ始めていた。
それでその場を解散することにした。
というのも、アルマンに少しでも早く文句を言いたかったマーシェが、帰ろうとしたのが原因だ。
近頃、孫(マーシェ兄の子)の相手で幼い子に慣れているポリント辺境伯が、ぼっちゃまと一緒にホテルに泊まることになり、リリアンの兄、ブッセ伯爵子息が、騎士団に子供をこちらで保護したことを伝えに行った。
マーロウ公爵家の馬車で、リリアンと兄嫁様をブッセ伯爵家におろして、そのまま父とぼっちゃまをホテルに送る。
慌ただしい一日が終わり、マーロウ公爵家に辿り着いたマーシェは、馬車を降りた勢いのままにアルマンの執務室に向かい、大きな扉を連打した。
あまりにも煩かったのか、執事のハーセムが扉をそっと開けた後ろには、アルマンが一緒にこちらを覗いていた。
どちらが部屋の中かわからない状態に、マーシェはつり上がった眉を一旦引っ込めて破顔してしまった。
「なんだ?」
開けた途端、上がった眉が下がり不気味な笑顔のマーシェを目に入れたアルマンは訝しげに尋ねた。
聞かれたマーシェは二人を押しのけるように扉をグイッと押して中に押し入った。
「貴方のお仕事の中途半端さに呆れて物が言えないので、文句を言いに来たのですわ!」
「は?」
扉が閉まったのを確認してマーシェは中のソファに座った。
そんなマーシェを見て、あぁまた何か言われるなと半ば諦めたようにノロノロと対面にアルマンが座った。
「本日、私ブッセ伯爵家に行ってまいりましたの」
「何?!何を勝手な!」
「は?どうしてブッセ家を訪ねるのに旦那様の許可が入りますの?」
「それは、それは私が夫だからだ!」
「⋯⋯⋯⋯⋯ふうん。まぁそういうことにしておきましょう。本題はそこではありませんから」
「何お!」
「貴方、国のご立派なお仕事に携わっていらっしゃいますわよね。ようやく実を結んだようですけれど、どう報告を受けていらっしゃいますか?貴方が前には出られないことは承知していますから。でも報告は受けてるでしょう?」
「それが君に関係あるのか?」
「あるから話しております。というか何を偉そうに!」
「な!」
「いいからほら言ってください、どんな報告受けてます?」
ここ最近すっかり豹変してしまったマーシェにタジタジになりながら、アルマンはぽつりぽつりと報告を始めた。
後ろで控えるハーセムは、これではどちらが当主かわからないなと苦笑いした。
「然るべくコート伯爵代理と使用人数名、それから数件の貴族家の夫人達、それと「コート伯爵家のみの報告でよろしいですわ」」
マーシェに報告の途中で遮られアルマンはブスっと不貞腐れた。
「それで?」
「それでとはなんだ?代理はしっかりと捕縛して今は取調べ中だぞ」
「使用人は元々多いのですか?乳母は?」
「あの家は秘密が多かったのだろう、だから中の使用人はあまり雇ってなかった。私が入り込めたのは万が一罪を擦り付けるための使用人候補で雇われたんだ」
なんとコート伯爵代理のマリエルは、もし罪が発覚した場合、執事が勝手にやりました!と罪を擦り付けるつもりだったようだ。
マーシェは使用人が少ない、そこまでアルマンは把握しておきながら、どうしてぼっちゃまの事を考えなかったのか、呆れてしまった。
「では次期伯爵はどうされたのですか?」
「次期伯爵?あぁレイオニーの事か」
レイオニー!名前が分かったマーシェは心の中で歓喜した。だが(レイオニーがどうして“れーおー”になるのか、子供って不思議)と明後日の方向に考え始めて、しばしアルマンを責めていることを忘れてしまっていた。
傍と我に返り大きく深呼吸をして怒りを戻した。
「そのレイオニー様はどうされたんですか?」
「どうもこうも、乳母が何とかするだろう⋯あ!いやまて、乳母は⋯いたかな?いや当然いるだろう、いるに決まってる。使用人は確かに少ないがそれでも、まるっきりいなくなったわけでもないし」
「おそらくいなくなっております」
「えっ?どういう事だ?」
そこでマーシェはようやく今日あった出来事をアルマンに話した。
「リリアンがどうしてコート伯爵家に?」
そこ?!
子供の心配をするでなく、始めに引っかかるのがそこ?
マーシェは、こんな男ではリリアンは復縁しようとは思わないだろうなと確信した。
202
あなたにおすすめの小説
【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました
よどら文鳥
恋愛
ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。
ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。
ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。
更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。
再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。
ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。
後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。
ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。
【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
冷たい王妃の生活
柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。
三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。
王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。
孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。
「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。
自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。
やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。
嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。
彼女の離縁とその波紋
豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
あなたの愛が正しいわ
来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~
夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。
一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。
「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる