公爵夫人マーシェのお悩み

maruko

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36 マーシェの確信

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 子供を保護したマーシェ達。
 さてこれからどうしようかと皆で門前で考え込む。
 一応ちゃんと話せるかはわからなかったけど、リリアンが男の子に名前を聞いてみた。

「れーおー」

「レオくんね!」

 名を呼ぶリリアンに、男の子は必死でブルブル頭を振る。
 どうやら違うようだとマーシェは感じたけれど、でもどう聞いても何度聞いても“れーおー”としか聞こえない。
 もうレオでいいのでは?
 その場の大人達は皆そう思ったけれど、そこはこだわるのか、男の子はずっと頭を振り続けていた。

「ぼっちゃま!」

 ふと思いついてマーシェが言ってみる。

「あい!」

 なんと男の子は返事をしてくれた。
 兄が子供の頃『おぼっちゃま』と呼ばれていたから、ひょっとしたらコート伯爵家でもそう呼ぶ人がいるのではないかと、試してみたら当たりだった。

 名を呼ぶだけで相当な時間を費やした大人達は既に疲れ始めていた。

 それでその場を解散することにした。
 というのも、アルマンに少しでも早く文句を言いたかったマーシェが、帰ろうとしたのが原因だ。

 近頃、孫(マーシェ兄の子)の相手で幼い子に慣れているポリント辺境伯が、ぼっちゃまと一緒にホテルに泊まることになり、リリアンの兄、ブッセ伯爵子息が、騎士団に子供をこちらで保護したことを伝えに行った。

 マーロウ公爵家の馬車で、リリアンと兄嫁様をブッセ伯爵家におろして、そのまま父とぼっちゃまをホテルに送る。

 慌ただしい一日が終わり、マーロウ公爵家に辿り着いたマーシェは、馬車を降りた勢いのままにアルマンの執務室に向かい、大きな扉を連打した。

 あまりにも煩かったのか、執事のハーセムが扉をそっと開けた後ろには、アルマンが一緒にこちらを覗いていた。
 どちらが部屋の中かわからない状態に、マーシェはつり上がった眉を一旦引っ込めて破顔してしまった。

「なんだ?」

 開けた途端、上がった眉が下がり不気味な笑顔のマーシェを目に入れたアルマンは訝しげに尋ねた。

 聞かれたマーシェは二人を押しのけるように扉をグイッと押して中に押し入った。

「貴方のお仕事の中途半端さに呆れて物が言えないので、文句を言いに来たのですわ!」

「は?」

 扉が閉まったのを確認してマーシェは中のソファに座った。
 そんなマーシェを見て、あぁまた何か言われるなと半ば諦めたようにノロノロと対面にアルマンが座った。

「本日、私ブッセ伯爵家に行ってまいりましたの」

「何?!何を勝手な!」

「は?どうしてブッセ家を訪ねるのに旦那様の許可が入りますの?」

「それは、それは私が夫だからだ!」

「⋯⋯⋯⋯⋯ふうん。まぁそういうことにしておきましょう。本題はそこではありませんから」

「何お!」

「貴方、国のご立派なお仕事に携わっていらっしゃいますわよね。ようやく実を結んだようですけれど、どう報告を受けていらっしゃいますか?貴方が前には出られないことは承知していますから。でも報告は受けてるでしょう?」

「それが君に関係あるのか?」

「あるから話しております。というか何を偉そうに!」

「な!」

「いいからほら言ってください、どんな報告受けてます?」

 ここ最近すっかり豹変してしまったマーシェにタジタジになりながら、アルマンはぽつりぽつりとを始めた。
 後ろで控えるハーセムは、これではどちらが当主かわからないなと苦笑いした。

「然るべくコート伯爵代理と使用人数名、それから数件の貴族家の夫人達、それと「コート伯爵家のみの報告でよろしいですわ」」

 マーシェに報告の途中で遮られアルマンはブスっと不貞腐れた。

「それで?」

「それでとはなんだ?代理はしっかりと捕縛して今は取調べ中だぞ」

「使用人は元々多いのですか?乳母は?」

「あの家は秘密が多かったのだろう、だから中の使用人はあまり雇ってなかった。私が入り込めたのは万が一罪を擦り付けるための使用人候補で雇われたんだ」

 なんとコート伯爵代理のマリエルは、もし罪が発覚した場合、執事が勝手にやりました!と罪を擦り付けるつもりだったようだ。
 マーシェは使用人が少ない、そこまでアルマンは把握しておきながら、どうしてぼっちゃまの事を考えなかったのか、呆れてしまった。

「では次期伯爵はどうされたのですか?」

「次期伯爵?あぁレイオニーの事か」

 レイオニー!名前が分かったマーシェは心の中で歓喜した。だが(レイオニーがどうして“れーおー”になるのか、子供って不思議)と明後日の方向に考え始めて、しばしアルマンを責めていることを忘れてしまっていた。

 傍と我に返り大きく深呼吸をして怒りを

「そのレイオニー様はどうされたんですか?」

「どうもこうも、乳母が何とかするだろう⋯あ!いやまて、乳母は⋯いたかな?いや当然いるだろう、いるに決まってる。使用人は確かに少ないがそれでも、まるっきりいなくなったわけでもないし」

「おそらくいなくなっております」

「えっ?どういう事だ?」

 そこでマーシェはようやく今日あった出来事をアルマンに話した。

「リリアンがどうしてコート伯爵家に?」

 そこ?!
 子供の心配をするでなく、始めに引っかかるのがそこ?

 マーシェは、こんな男ではリリアンは復縁しようとは思わないだろうなと確信した。




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