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51 高笑うマーシェ
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猫なで声を出すフォスティーヌを、白けた顔でマーシェは見つめた。
そそくさとマーシェの対面に座り、後ろから付いてきていたあの時の侍女⋯あらっ?マーシェは名を忘れてしまって、声を掛けづらくなった。だがフォスティーヌは、マーシェの分もお茶を頼んでくれたので事なきを得た。
「今日来てもらったのはね、貴方にお礼を言いたいと思って、うふっ」
「はぁ」
以前マーシェは目の前の御仁に、文句を言われた事を思い出し、その変わり身の早さに、フォスティーヌは本当に本当にほんとーに王族なのかと疑いたくなった。
所作は流石に王族だと思えるけれど、性格と思考は下位貴族のご令嬢だ。
下位貴族のご令嬢を貶すつもりはないけれど、往々にして彼女達は夢見がちであった。
少なくともマーシェの知るご令嬢という、但し書きは付くが、少しでも高位貴族のご令息に声をかけられると、見初められたと燥ぎ、夢を見る。そんな彼女たちと目の前の王女が重なる。
王女の器ではなかったのだと、早く陛下が現実を見つめていたら、彼女はもっと早くに息ができたのではないかと思う。リリアンを貶めることなくアルマンを諦められたかもしれないと思えた。
器ではない無駄な王女のプライドが、リリアンを陥れたのだ。それはそれで絶対に許すことはできない。彼女の二人の子に後々も影響があるからだ。
「あなたのおかげで私アルマンと結ばれますのよ、本来の形に戻せましたわ」
「本来の形ですか?」
「えぇそうよ、だって私とアルマンは運命なのですもの」
やっぱり頭噴いてるわ
マーシェはフォスティーヌに一言、いやふた言、いやいやもっともっと文句を言いたかった。
「王女殿下、貴方様が今幸せなご様子、誠に喜ばしい限りではございますが、その為に少なくとも二人、未来が潰えてしまっております事を、貴方様はどう思われますか?」
「えぇっ二人?そんなの私とアルマンの仲を違えさせたのだから潰えてもしょうがないじゃない。でも前妻も貴方も実家がちゃんと引き取るんだからいいのではないの?身の丈のあった方と再婚したらよろしいでしょう?」
「私とリリアン様の事ではございませんが?」
「は?まだアルマンに言い寄る女がいるの?」
「まさか!あんなヘタレに狂っているのは貴方様くらいのものですわ」
「何ですって!!」
フォスティーヌの白塗りが、目尻から眉にかけて少し崩れてきている。そんな事はお構いなしにマーシェは彼女に言い放った。
「その貴方様の最愛の、血を分けたお子達のことですわ」
「子供?」
「えぇ、そうです」
「私、あの子達に手なんか出してないわ」
やはり何も考えず行動していたのだと、マーシェは目の前の考えなし女に、鉄槌を食らわしたくなってくる。
「そうでしょうか?少なくとも今のままでは、あの子達は社交界にも出られませんわ。貴方とマーロウ公爵のせいで」
「どうしてよ!なんにもしてないって言ってるじゃない!それにアルマンも離婚しただけでしょう。あの女と伯爵家で普通に暮らしてるわよ」
「貴方はなぁんにもわかってないわ!貴方だけじゃないわね、アルマンもわかってないわ!」
マーシェの顔が無表情のまま、地の底から湧くような声でフォスティーヌを責め立てていた。
その様子に、ビビってしまったフォスティーヌは、ブルリと体を震わせ自分の体を寒そうに抱きしめて、ソファに沈みこんだ。
「なっ何よ!そんな顔しないでよ!」
フォスティーヌは泣きたくなった。
身分的には自分のほうが上だと思っているが、如何せんどうしてかこの女には勝てない気がする。
以前第二夫人宣言をしたときには全く感じなかったが、今フォスティーヌはマーシェに畏怖を感じていた。
「貴方がリリアン様に着せた罪は托卵ですわ」
「そ、そんな事してないわ。浮気したのは「していませんわよね」っ!」
マーシェの有無を言わさない遮りに、先程まで上機嫌に猫なで声だったフォスティーヌは、もはや借りてきた猫のように大人しくなった。
「邸内で浮気を疑われてしまった後、リリアン様は離縁されています。謂れのない罪を着せられたリリアン様の潔白を本来であるならば、夫のマーロウ公爵がするべきでした。それなのにあの男は何を考えたか、なんの手立てもフォローもなしに離縁したのです。それも貴方が背後にいた事を知って逃がすためでしたのよ」
「アルマンは私だと知っていて?」
「あんな稚拙な企み誰でもわかりますわ。貴方が王女であるから守られただけですのよ」
「じゃあやっぱりアルマンは私の事を「何言ってるんですか?貴方の想像の真逆ですわ」えっ?」
「貴方にあれ以上リリアン様を貶められたくなかったのです。子供共々です。ですが世間はそう思わないことをあの方は想像できませんでしたの。アホですわ」
「なっ!貴方不敬よ!」
「残念でした、私この件に関しての不敬は問わないという玉璽付きの書簡を受け取っておりますの、ホホホ」
マーシェは口元に手の甲を当てて高らかに笑った。
リリアンの子どもたちの名誉回復のために、力いっぱい戦う所存のマーシェだった。
そそくさとマーシェの対面に座り、後ろから付いてきていたあの時の侍女⋯あらっ?マーシェは名を忘れてしまって、声を掛けづらくなった。だがフォスティーヌは、マーシェの分もお茶を頼んでくれたので事なきを得た。
「今日来てもらったのはね、貴方にお礼を言いたいと思って、うふっ」
「はぁ」
以前マーシェは目の前の御仁に、文句を言われた事を思い出し、その変わり身の早さに、フォスティーヌは本当に本当にほんとーに王族なのかと疑いたくなった。
所作は流石に王族だと思えるけれど、性格と思考は下位貴族のご令嬢だ。
下位貴族のご令嬢を貶すつもりはないけれど、往々にして彼女達は夢見がちであった。
少なくともマーシェの知るご令嬢という、但し書きは付くが、少しでも高位貴族のご令息に声をかけられると、見初められたと燥ぎ、夢を見る。そんな彼女たちと目の前の王女が重なる。
王女の器ではなかったのだと、早く陛下が現実を見つめていたら、彼女はもっと早くに息ができたのではないかと思う。リリアンを貶めることなくアルマンを諦められたかもしれないと思えた。
器ではない無駄な王女のプライドが、リリアンを陥れたのだ。それはそれで絶対に許すことはできない。彼女の二人の子に後々も影響があるからだ。
「あなたのおかげで私アルマンと結ばれますのよ、本来の形に戻せましたわ」
「本来の形ですか?」
「えぇそうよ、だって私とアルマンは運命なのですもの」
やっぱり頭噴いてるわ
マーシェはフォスティーヌに一言、いやふた言、いやいやもっともっと文句を言いたかった。
「王女殿下、貴方様が今幸せなご様子、誠に喜ばしい限りではございますが、その為に少なくとも二人、未来が潰えてしまっております事を、貴方様はどう思われますか?」
「えぇっ二人?そんなの私とアルマンの仲を違えさせたのだから潰えてもしょうがないじゃない。でも前妻も貴方も実家がちゃんと引き取るんだからいいのではないの?身の丈のあった方と再婚したらよろしいでしょう?」
「私とリリアン様の事ではございませんが?」
「は?まだアルマンに言い寄る女がいるの?」
「まさか!あんなヘタレに狂っているのは貴方様くらいのものですわ」
「何ですって!!」
フォスティーヌの白塗りが、目尻から眉にかけて少し崩れてきている。そんな事はお構いなしにマーシェは彼女に言い放った。
「その貴方様の最愛の、血を分けたお子達のことですわ」
「子供?」
「えぇ、そうです」
「私、あの子達に手なんか出してないわ」
やはり何も考えず行動していたのだと、マーシェは目の前の考えなし女に、鉄槌を食らわしたくなってくる。
「そうでしょうか?少なくとも今のままでは、あの子達は社交界にも出られませんわ。貴方とマーロウ公爵のせいで」
「どうしてよ!なんにもしてないって言ってるじゃない!それにアルマンも離婚しただけでしょう。あの女と伯爵家で普通に暮らしてるわよ」
「貴方はなぁんにもわかってないわ!貴方だけじゃないわね、アルマンもわかってないわ!」
マーシェの顔が無表情のまま、地の底から湧くような声でフォスティーヌを責め立てていた。
その様子に、ビビってしまったフォスティーヌは、ブルリと体を震わせ自分の体を寒そうに抱きしめて、ソファに沈みこんだ。
「なっ何よ!そんな顔しないでよ!」
フォスティーヌは泣きたくなった。
身分的には自分のほうが上だと思っているが、如何せんどうしてかこの女には勝てない気がする。
以前第二夫人宣言をしたときには全く感じなかったが、今フォスティーヌはマーシェに畏怖を感じていた。
「貴方がリリアン様に着せた罪は托卵ですわ」
「そ、そんな事してないわ。浮気したのは「していませんわよね」っ!」
マーシェの有無を言わさない遮りに、先程まで上機嫌に猫なで声だったフォスティーヌは、もはや借りてきた猫のように大人しくなった。
「邸内で浮気を疑われてしまった後、リリアン様は離縁されています。謂れのない罪を着せられたリリアン様の潔白を本来であるならば、夫のマーロウ公爵がするべきでした。それなのにあの男は何を考えたか、なんの手立てもフォローもなしに離縁したのです。それも貴方が背後にいた事を知って逃がすためでしたのよ」
「アルマンは私だと知っていて?」
「あんな稚拙な企み誰でもわかりますわ。貴方が王女であるから守られただけですのよ」
「じゃあやっぱりアルマンは私の事を「何言ってるんですか?貴方の想像の真逆ですわ」えっ?」
「貴方にあれ以上リリアン様を貶められたくなかったのです。子供共々です。ですが世間はそう思わないことをあの方は想像できませんでしたの。アホですわ」
「なっ!貴方不敬よ!」
「残念でした、私この件に関しての不敬は問わないという玉璽付きの書簡を受け取っておりますの、ホホホ」
マーシェは口元に手の甲を当てて高らかに笑った。
リリアンの子どもたちの名誉回復のために、力いっぱい戦う所存のマーシェだった。
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