屑の婚約者が嫌で家出したら幸せになりました

maruko

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5 居心地の良かったきみは何処へ

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 ルイス・マーモンは殴られた。
 自慢の顔を父親のマーモン侯爵に力いっぱい容赦なく殴られた。たった一発だったのは単に侯爵の手が痛かったからで、彼が騎士でもあったならルイスは原型を留めない程に殴られていただろう。

 子供の頃からルイスは知っていた。
 自分の容姿が周りよりも美しいことに。それは事ある毎に言われ続け褒められ続けたからだ。
 ルイスの容姿が大好きな母はヨチヨチ歩きの頃からルイスを皆にお披露目した。5歳になる頃にはアチコチの茶会に母親と出席してチヤホヤされ続けた。

 そこで悟る。
 世の中ちょろい。

 褒められてお礼代わりにちょっと微笑むだけで、意味もなくプレゼントが届く。子供の頃は王都の有名店のお菓子だったり、希少な花で作られた花束だったりが年々グレードアップしていった。

 ルイスは女を舐めていた。
 限りなく宇宙よりも広く深く舐めていた。

 そんなルイスに両親がそろそろ婚約者をと言い出した。が出来たら不自由になるじゃないか!ルイスは憤るが父なら兎も角母にはそんな事を考えてるのをバレたくない。

「そうですね、そろそろ必要でしょう」

 そう言って選んだのは格下だが、そこそこの家柄であるハッシュ・グランバスだった。

 何故彼女を選んだのか、理由は特別なものはない。
 強いてあげるなら彼女の父親が伯爵で日和見主義だと言うことだ。侯爵家からの理不尽にも笑って堪えるだろうという打算からだった。
 それは大当たりだった。
 正直ルイスの遥か上を行くほどにハッシュはルイスに従順だった、何を言っても何をやっても文句の一つも全く言わない。
 婚約者のお茶会でもルイスの自慢話にただ微笑んで「左様にございますか」と言うだけ。
 ある意味ハッシュの前だけはルイスは素を出せたのは、侮っていただけではないのかもしれないが、そんな事を天狗のルイスに思い当たるわけもなく。
 そのまま彼等は学園に入学する。

 それからはルイスは女漁りHUNTERに磨きがかかる。面白い様に女は引っかかってくれる。今までは偶然知り合った下位貴族の令嬢だったが、学園にはそんな人物がゴロゴロいる。
 毎日が薔薇色だったし、相手が面倒くさくなったら金で黙らせた。金で黙らなかったら爵位で黙らせた。この2つを出せば大概泣き寝入りする。うわさになったところでへっちゃらでもあった。
 だってそんな噂があっても女達は引っ掛かってくれるのだ。
 完全な屑に成り下がったルイスにキューピットが矢を刺したのは、学年の2年の時だった。
 婚約者のハッシュが世話係を引き受けた侯爵令嬢をひと目見た時に射抜かれた。
 今まで自分の家の爵位よりも上の令嬢には絶対に手を出さなかったルイスだったが、アルディオーレには焦がれて焦がれて身を滅ぼしてもいいほどのめり込んだ。
 ハッシュには贈ったこともないプレゼントも贈りまくった。
 自分に堕ちた女達には直ぐ飽きたが、アルディオーレと密かに付き合うようになってもルイスは一向に飽きなかった。
 そして将来をともにするのはアルディオーレしかいないと確信した。その時点でアルディオーレはアチコチ手を出しまくっていたが、恋は盲目なのでルイスはちっとも気付いていなかったし、他の令息と腕を組んでいても少しのヤキモチは焼くが、何故か自分には直ぐ股を開いたアルディオーレが浮気なんかするはずかないと信じていた。ルイスの愚かさは留まることを知らない。

 そして卒業式、壇上からハッシュに婚約破棄を宣言した。
 するとハッシュは縋るどころか「承知いたしました」と一礼をしてすたこらさっさと講堂から走り去った。その途端ルイスのアルディオーレの恋心が何故か霧散した。
 どうして自分は彼女アルディオーレに夢中になったのか、さっぱり分からなくなった。
 壇上からルイスを下ろそうと教師や同級生が腕を掴んだが大人しく言うことを聞いた。というか霧散した恋心に打ちのめされて、自分が何をやってるのか分からずに呆然としていたのだ。

 そしてその夜父に殴られることになる。


 殴られて目が覚めた。
 殴られた途端にルイスは自分が本当は誰を好きだったのか、自分が一番居心地の良い場所は誰の側だったのかに気づいた。
 父の殴るという行動荒療治は正解でもあったが、ちょっとばかし遅すぎた。
 翌日グランバス家に謝罪に行ったがルイスはハッシュには会わせてもらえなかった。
 本当のところはグランバス伯爵がハッシュをルイスに合わせたら、ハッシュの方から婚約をブチ壊しそうだと考えたからだ。
 二人が謝罪に来た時点でハッシュが侍女に復縁NOと言っていたのを聞いていたからだった。

 そんな事は知らないルイス、その3日後グランバス伯爵と夫人がマーモン侯爵家に訪ってくれて、婚約内容の取り決めの再考をし直しに来てくれた。
 卒業式にルイスが宣言をしてハッシュが了承したが、正式に婚約が破棄されたわけではなかった。

 そういう背景もあってルイスは楽観視していた。

 だがあの卒業式が分岐点。
 ルイスは永遠にハッシュと結ばれる事はなかった。
 ハッシュはルイスの前から居なくなってしまったからだった。





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