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6 恋はパンから始まった
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モルト辺境伯の領地は温暖な気候で作物もよく実り、港も近いから海の幸も豊富だった。食に関しては全くと言っていいほど困らなかった。
ハッシュは始めモルト辺境伯から自身の弟の養女にならないかと打診された。
辺境伯の弟はモルト辺境騎士団の副団長をしているのだが、残念ながら夫婦に子供は授かれなかった。
跡を継ぐ爵位も与えていなかったが騎士爵は持っているから、一代でも貴族には変わりはない。生まれた時から18年貴族として生活してきたハッシュに救済の意味も込めて提案してくれた。
だが養子縁組するとなると実家にバレてしまう、その辺は辺境伯が任せろと言ってくれたが、手を煩わせたくはなかった。
それにメイラはサッシュと婚約を続けるつもりが無いことをハッシュは知っていたから、これ以上グランバス伯爵家には関わらないほうがいいとハッシュは判断した。
だが形だけでも娘になるのは厭わなかった。
籍は入れないがハッシュは辺境伯の弟夫婦と共に生活する事になった。
二人をお義父様、お義母様と呼ぶのにも抵抗はなく、三人で仲良く暮らして行くことができた。
そんなハッシュにモルト辺境伯は新たに戸籍を作ってくれた。
それはこちらに来て2年経った頃、国の法律改変で実現することになったのだ。
領主権限で戸籍を作るのが可能になった。
その時にハッシュは呼ばれ慣れた名前はそのままで辺境伯領の戸籍を手に入れ改めて辺境伯の弟夫婦の娘として戸籍に入った。
20歳になったハッシュは辺境伯領内の平民向けの学校で教師をする事になり、主に10歳前後の担任を任される事になる。
毎日が充実していた。
ルイスと婚約していた頃は、週に2回の婚約者の茶会、換算すると月に8回はある。そのうちの6回はほぼドタキャンされていた。しかも会っても自分のモテ自慢で、毎回同じような話に眠くて堪らないから、眠気覚ましに太腿を抓って足に青あざができて非常に難儀したものだ。
学園に入ってからは、ルイスは居ない者として考えていたから、然程は気にならなかったが、婚約解消できそう案件の時は、父親に解消を必死で強請った。
ある意味王都でのグランバス伯爵家時代の思い出は不本意ではあるが、ルイスと共にあると言っても過言ではない。
でもメイラの協力で逃げられた、自由になれたハッシュは辺境の地でのびのびと暮らしている。
最近は隣のクラスの担任のマイク先生といい感じだ。
見目が良く線の細い男はルイスで懲り懲りだったから、ハッシュの好みは割と独特だ。
彼女は兎に角ゴツい男が好きだった。
マイクは子供の頃から我体が良すぎて女子からは敬遠されていた。でも元来の性格が優しいので困ってる人は見過ごせない。嫌がるかもとは思いながらも、高い所に手の届かない子を見たり、捜し物が見つからなくて泣きそうな子を見かけたり、道端で疲れて座り込むお婆ちゃんを見たりすると放って置けなかった。
高い所のものを取ってあげたり、捜し物を一緒に探してあげたり、お婆ちゃんをおぶって家に送ったりした。お婆ちゃん以外は嫌がられたけれど、それでも気づいたら手助けするのは止められなかった。自分が傷付くのと助けるのは別の問題だとマイクは思っていた。
ハッシュと話すキッカケになったのもそんな親切心からだった。
その日ハッシュは昼食を家に忘れて来ていた。騎士爵は一応貴族とも数えられるが、殆ど名誉爵位と言っても過言ではない。
新しい父は辺境伯の弟でもあるから元々の財産もあるが、なるべく俸禄内で生活しようとするスタンスだった。だから家にはメイドは2人しか居ないし、料理人も二人だった。人数が足らなければ母やハッシュが手伝う事になっている。
そういう生活だったからハッシュは自分のお昼は自分で毎朝作っていた。
「あ~しまったぁ」
昼食を取り出そうと鞄の中を見ながら呟いたら、クラスも隣なら教員部屋の机も隣のマイクが「どうした」と声をかけてくれた。
「お昼忘れちゃった」
「ありゃりゃ」
ハッシュは仕方がない外に食べに行こうと財布を片手に立ち上がる。因みに学校に食堂はあるが予約制なのだ。無駄を嫌うモルト辺境伯の意向で、材料費を無駄にしないように3日前から予約をしないといけない。偶々欠席者がいればその分余るので食べる事は出来るがそんな事は滅多にない。
生徒は皆平民なので、学校では充実したランチを無償で出してくれるのだから多少具合が悪くても欠席はしない。
だからこんな時は外に出るしかない。
だがこの学校の場所はちょっとばかし小高い場所にあって、一番近い店でも歩いて20分はかかる。往復だと40分。お昼休みは90分だから食べる時間は30分。その中に注文と調理、会計の時間も含めればお腹に食べ物を慌ててかき込むしかないのだ。
だからこそサッシュはあまり外に出たくはなかった。だが仕方がない、自分が忘れたのだから。
するとマイクが声をかけてくれた。
「俺食堂のランチ足らなくて家からも持ってきてるんだ、良かったらこれ食べて」
と、ロールパンを6個出してきた。
我体が良い人は食欲も半端ないのね、とサッシュは思った。
「でもそんなことしたらマイクが足らなくなるじゃない」
「食べないわけじゃないからさ、6個で足りる?」
「ううん、そんなに大きなロールパンなら3個で充分よ、ごめんねいいの?」
「あぁどうぞ」
マイクは足らなかったらいけないからとロールパンを4個置いて、教員室を出て行った。
だが、あとで分かったのだがマイクの昼食はロールパンだけだったのだ。食堂の予約をその週はマイクも取っていなかった。
8個持ってきていたロールパンのうち6個をサッシュに渡そうとしていたのだ。
実際は半分ずつになったが、マイクは絶対に足らなかったはず。
サッシュは生徒からマイクが食堂に行かなかったことを聞いてマイクに平身低頭謝った。
「気にしないで困った時はお互い様だよ」
サッシュはロールパン4個で恋に落ちた。
ハッシュは始めモルト辺境伯から自身の弟の養女にならないかと打診された。
辺境伯の弟はモルト辺境騎士団の副団長をしているのだが、残念ながら夫婦に子供は授かれなかった。
跡を継ぐ爵位も与えていなかったが騎士爵は持っているから、一代でも貴族には変わりはない。生まれた時から18年貴族として生活してきたハッシュに救済の意味も込めて提案してくれた。
だが養子縁組するとなると実家にバレてしまう、その辺は辺境伯が任せろと言ってくれたが、手を煩わせたくはなかった。
それにメイラはサッシュと婚約を続けるつもりが無いことをハッシュは知っていたから、これ以上グランバス伯爵家には関わらないほうがいいとハッシュは判断した。
だが形だけでも娘になるのは厭わなかった。
籍は入れないがハッシュは辺境伯の弟夫婦と共に生活する事になった。
二人をお義父様、お義母様と呼ぶのにも抵抗はなく、三人で仲良く暮らして行くことができた。
そんなハッシュにモルト辺境伯は新たに戸籍を作ってくれた。
それはこちらに来て2年経った頃、国の法律改変で実現することになったのだ。
領主権限で戸籍を作るのが可能になった。
その時にハッシュは呼ばれ慣れた名前はそのままで辺境伯領の戸籍を手に入れ改めて辺境伯の弟夫婦の娘として戸籍に入った。
20歳になったハッシュは辺境伯領内の平民向けの学校で教師をする事になり、主に10歳前後の担任を任される事になる。
毎日が充実していた。
ルイスと婚約していた頃は、週に2回の婚約者の茶会、換算すると月に8回はある。そのうちの6回はほぼドタキャンされていた。しかも会っても自分のモテ自慢で、毎回同じような話に眠くて堪らないから、眠気覚ましに太腿を抓って足に青あざができて非常に難儀したものだ。
学園に入ってからは、ルイスは居ない者として考えていたから、然程は気にならなかったが、婚約解消できそう案件の時は、父親に解消を必死で強請った。
ある意味王都でのグランバス伯爵家時代の思い出は不本意ではあるが、ルイスと共にあると言っても過言ではない。
でもメイラの協力で逃げられた、自由になれたハッシュは辺境の地でのびのびと暮らしている。
最近は隣のクラスの担任のマイク先生といい感じだ。
見目が良く線の細い男はルイスで懲り懲りだったから、ハッシュの好みは割と独特だ。
彼女は兎に角ゴツい男が好きだった。
マイクは子供の頃から我体が良すぎて女子からは敬遠されていた。でも元来の性格が優しいので困ってる人は見過ごせない。嫌がるかもとは思いながらも、高い所に手の届かない子を見たり、捜し物が見つからなくて泣きそうな子を見かけたり、道端で疲れて座り込むお婆ちゃんを見たりすると放って置けなかった。
高い所のものを取ってあげたり、捜し物を一緒に探してあげたり、お婆ちゃんをおぶって家に送ったりした。お婆ちゃん以外は嫌がられたけれど、それでも気づいたら手助けするのは止められなかった。自分が傷付くのと助けるのは別の問題だとマイクは思っていた。
ハッシュと話すキッカケになったのもそんな親切心からだった。
その日ハッシュは昼食を家に忘れて来ていた。騎士爵は一応貴族とも数えられるが、殆ど名誉爵位と言っても過言ではない。
新しい父は辺境伯の弟でもあるから元々の財産もあるが、なるべく俸禄内で生活しようとするスタンスだった。だから家にはメイドは2人しか居ないし、料理人も二人だった。人数が足らなければ母やハッシュが手伝う事になっている。
そういう生活だったからハッシュは自分のお昼は自分で毎朝作っていた。
「あ~しまったぁ」
昼食を取り出そうと鞄の中を見ながら呟いたら、クラスも隣なら教員部屋の机も隣のマイクが「どうした」と声をかけてくれた。
「お昼忘れちゃった」
「ありゃりゃ」
ハッシュは仕方がない外に食べに行こうと財布を片手に立ち上がる。因みに学校に食堂はあるが予約制なのだ。無駄を嫌うモルト辺境伯の意向で、材料費を無駄にしないように3日前から予約をしないといけない。偶々欠席者がいればその分余るので食べる事は出来るがそんな事は滅多にない。
生徒は皆平民なので、学校では充実したランチを無償で出してくれるのだから多少具合が悪くても欠席はしない。
だからこんな時は外に出るしかない。
だがこの学校の場所はちょっとばかし小高い場所にあって、一番近い店でも歩いて20分はかかる。往復だと40分。お昼休みは90分だから食べる時間は30分。その中に注文と調理、会計の時間も含めればお腹に食べ物を慌ててかき込むしかないのだ。
だからこそサッシュはあまり外に出たくはなかった。だが仕方がない、自分が忘れたのだから。
するとマイクが声をかけてくれた。
「俺食堂のランチ足らなくて家からも持ってきてるんだ、良かったらこれ食べて」
と、ロールパンを6個出してきた。
我体が良い人は食欲も半端ないのね、とサッシュは思った。
「でもそんなことしたらマイクが足らなくなるじゃない」
「食べないわけじゃないからさ、6個で足りる?」
「ううん、そんなに大きなロールパンなら3個で充分よ、ごめんねいいの?」
「あぁどうぞ」
マイクは足らなかったらいけないからとロールパンを4個置いて、教員室を出て行った。
だが、あとで分かったのだがマイクの昼食はロールパンだけだったのだ。食堂の予約をその週はマイクも取っていなかった。
8個持ってきていたロールパンのうち6個をサッシュに渡そうとしていたのだ。
実際は半分ずつになったが、マイクは絶対に足らなかったはず。
サッシュは生徒からマイクが食堂に行かなかったことを聞いてマイクに平身低頭謝った。
「気にしないで困った時はお互い様だよ」
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