屑の婚約者が嫌で家出したら幸せになりました

maruko

文字の大きさ
7 / 12

7 私から贈る言葉

しおりを挟む
 私は1つ年上の元婚約者の姉が大好きだ。

 私は隣国との国境に領地を構える辺境伯の次女として生まれた。
 我がモルト領はこの国では南側に位置している。
 領地も広く海にも近い、王国の避暑地や観光にも利用されている、偶に隣国からも旅行で訪れる人々もいて本当に恵まれた領地だ。

 この国の貴族は15歳になると学園に通うのだが、どの学園に通うのかは当主に拠って考え方が異なる。
 通える学園は王都に2ヶ所、このモルト領の真逆の北の位置にある学園の3ヶ所だけが王家に認められた学園だった。
 このモルト領から選ぶなら王都の2択になる。
 私の兄姉も王都の学園に通っていた。主に、兄は領地運営の為に姉は嫁ぎ先を決める為。姉の時王都のタウンハウスで生活している貴族達は子供の頃から婚約を結ぶのが主で、婚約者の決まっていない姉は相手を探すのにとても苦労したのだとか、結局姉が嫁いだのは学園に留学生で来ていた隣国の公爵家だった。
 喩え公爵家だったとしても隣国は遠い、何かあっても直ぐには駆けつけられないし、今の平和な世の中ではないと思いたいが、隣国と戦争が始まったりする可能性もゼロではない。

 そんな不安要素を払拭したい父は、姉の事を教訓に早々と王都に出向き私の婚約を決めてきた。
 私が、10歳の時だった。

 婚約者とは早めに交流を持つことが望ましいと父は婚約が決まってすぐ10歳の私を一人王都に送り出す事を決定した。
 顔合わせはまだ1ヶ月も先の予定だったけど、早めに王都に慣れるために私一人で先に出立することになる。

「メイラ来月には顔合わせだ、私達も行くからな」

 辺境伯という爵位の立場上、国境を守らないといけない父、それを支えなければならない母は長く領地を離れられない。そんな事情もあって早く一人に慣れさせる為という考えもあったのかもしれない。
 一人で王都に出てきた私は寂しくて寂しくて毎日泣いていた。一緒に付いてきてくれた侍女のミアも、婚約者が辺境騎士団にいるので結婚したら帰ってしまう。その心細さもあって王都に着いて1週間、私は屋敷に引き篭もった。

 すると1週間目にグランバス伯爵家から婚約者とその姉が訪いたいと先触れが来た。
 ミアに泣きはらした目の周りと衣服を整えてもらい初めて会うことになった。

 寂しさに引き篭もっていると聞いた二人は私を心配して両家の顔合わせを前倒しにしてくれたのだ。

「君がメイラ嬢?僕はサッシュ、君より一つ年上だよ。これからよろしくね」

 サッシュは王都に多い金髪で目は琥珀色アンバーの男の子、とても優しそうな可愛らしい男の子だった。

「私はハッシュ!メイラって呼ぶわね!私達もう姉妹よ。仲良くしようね」

 手を差し出して握手をするとそのまま抱きしめてくれた。ハッシュとサッシュは髪と瞳の色は同じだが顔つきが違っていた。ハッシュはどちらかというとキレイ系だった。

「寂しくないよメイラ、今日から私とサッシュが貴方を守るから。それでも寂しかったらうちに泊まりにおいで」

 ハッシュは抱きしめたままそう言ってくれた。抱き合う私とハッシュ二人を纏めて抱きしめようと腕の長さが足らないと「うーんうーん」と手を伸ばすサッシュ。

 私はその日から二人が大好きだった。

 その婚約に影が差したのは学園に入学してからだった。私は王都に来てからずっと勉強していたから二人と一緒に居たくて飛び級制度を利用した。
 本当なら新入生の私だったが二人と同じ学年の2年に編入できた、でも編入者は私の他にもいたのだ。それがアルディオーレだった。
 編入生は1年のブランクがある為、3ヶ月はお世話係が必要になる、本当は私のお世話係をハッシュがするはずでお願いしていたのに、何故か分からないけれどアルディオーレが突然ハッシュを指名してきた。
 その指名の仕方も「ルイス・マーモン様の婚約者でお願いします」という失礼千万な申し込み。
 だが私のお世話係を巡ってサッシュとハッシュで勝負をした二人、結局サッシュが負けていたのだが、そのアルディオーレの言葉を聞いて、サッシュが「じゃあメイラは僕が」と言って決まった。
 あとでハッシュにこてんぱんにやられたと苦笑していたサッシュの笑顔が今では懐かしい。
 何故なら3ヶ月のお世話係が終わった途端サッシュはアルディオーレに傾倒していったから。

 何を置いてもアルディオーレ
 二人のお茶会でもアルディオーレ

 今まで一度も蔑ろになどされた事のなかった私は愕然としてしまった。その時ずっと慰めてくれたのはハッシュだった。
 私は、こんな辛い思いをハッシュはずっとしていたのかと思うと、改めてルイス・マーモンに腹が立ったし、それと同じことをしているサッシュにも愛想が尽きた。

 そんな時、ハッシュから告白された。
 卒業したら家を出て貴族を捨てるのだと。

 私はサッシュとの婚約解消の件と合わせて父にハッシュの事も相談した。
 最初は婚約解消を渋っていた父も独自で調べたのだろう、分かってくれてハッシュの件も引き受けてくれた。

 ハッシュの父親のグランバス伯爵も分かってくれたらいいのにと祈っていたのだけど、駄目だった。

 あの日ハッシュがハアハア言いながら家へやってきた。

「メイラもう説得は諦めた、ルイスも家も捨てるわ」

 晴れ晴れとした顔でハッシュは言い切ったけど、頬には涙の跡が残っていた。
 きっとここに来るまでに走りながら歩きながら泣いたのだろう。

「大丈夫、これからは私が貴方を守るわ」

 初めて会ったあの時と同じ言葉を私はハッシュを抱きしめながら贈った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

これで、私も自由になれます

たくわん
恋愛
社交界で「地味で会話がつまらない」と評判のエリザベート・フォン・リヒテンシュタイン。婚約者である公爵家の長男アレクサンダーから、舞踏会の場で突然婚約破棄を告げられる。理由は「華やかで魅力的な」子爵令嬢ソフィアとの恋。エリザベートは静かに受け入れ、社交界の噂話の的になる。

『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします

卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。 ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。 泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。 「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」 グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。 敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。 二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。 これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。 (ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中) もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!

婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~

ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。 絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。 アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。 **氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。 婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。

あなたの幸せを、心からお祈りしています【宮廷音楽家の娘の逆転劇】

たくわん
恋愛
「平民の娘ごときが、騎士の妻になれると思ったのか」 宮廷音楽家の娘リディアは、愛を誓い合った騎士エドゥアルトから、一方的に婚約破棄を告げられる。理由は「身分違い」。彼が選んだのは、爵位と持参金を持つ貴族令嬢だった。 傷ついた心を抱えながらも、リディアは決意する。 「音楽の道で、誰にも見下されない存在になってみせる」 革新的な合奏曲の創作、宮廷初の「音楽会」の開催、そして若き隣国王子との出会い——。 才能と努力だけを武器に、リディアは宮廷音楽界の頂点へと駆け上がっていく。 一方、妻の浪費と実家の圧力に苦しむエドゥアルトは、次第に転落の道を辿り始める。そして彼は気づくのだ。自分が何を失ったのかを。

完 さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。

水鳥楓椛
恋愛
 わたくし、エリザベート・ラ・ツェリーナは今日愛しの婚約者である王太子レオンハルト・フォン・アイゼンハーツに婚約破棄をされる。  なんでそんなことが分かるかって?  それはわたくしに前世の記憶があるから。  婚約破棄されるって分かっているならば逃げればいいって思うでしょう?  でも、わたくしは愛しの婚約者さまの役に立ちたい。  だから、どんなに惨めなめに遭うとしても、わたくしは彼の前に立つ。  さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。

不謹慎なブス令嬢を演じてきましたが、もうその必要はありません。今日ばっかりはクズ王子にはっきりと言ってやります!

幌あきら
恋愛
【恋愛ファンタジー・クズ王子系・ざまぁ】 この王子との婚約ばっかりは拒否する理由がある――! アレリア・カッチェス侯爵令嬢は、美麗クズ王子からの婚約打診が嫌で『不謹慎なブス令嬢』を装っている。 しかしそんな苦労も残念ながら王子はアレリアを諦める気配はない。 アレリアは王子が煩わしく領内の神殿に逃げるが、あきらめきれない王子はアレリアを探して神殿まで押しかける……! 王子がなぜアレリアに執着するのか、なぜアレリアはこんなに頑なに王子を拒否するのか? その秘密はアレリアの弟の結婚にあった――? クズ王子を書きたくて、こんな話になりました(笑) いろいろゆるゆるかとは思いますが、よろしくお願いいたします! 他サイト様にも投稿しています。

婚約者と従妹に裏切られましたが、私の『呪われた耳』は全ての嘘をお見通しです

法華
恋愛
 『音色の魔女』と蔑まれる伯爵令嬢リディア。婚約者であるアラン王子は、可憐でか弱い従妹のセリーナばかりを寵愛し、リディアを心無い言葉で傷つける日々を送っていた。  そんなある夜、リディアは信じていた婚約者と従妹が、自分を貶めるために共謀している事実を知ってしまう。彼らにとって自分は、家の利益のための道具でしかなかったのだ。  全てを失い絶望の淵に立たされた彼女だったが、その裏切りこそが、彼女を新たな出会いと覚醒へと導く序曲となる。  忌み嫌われた呪いの力で、嘘で塗り固められた偽りの旋律に終止符を打つ時、自分を裏切った者たちが耳にするのは、破滅へのレクイエム。  これは、不遇の令嬢が真実の音色を見つけ、本当の幸せを掴むまでの逆転の物語。

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

処理中です...