【完結】長い眠りのその後で

maruko

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第一章 公爵夫人になりました

執務を頑張ります

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公爵家当主の執務室は何故か邸の一番奥。
普段から使用人しか通らないような奥の廊下に面した場所にあり、少し面食らいました。

意外にも中は広く、入った正面に重厚な机が配置されており、その周りを囲むように小振りな机が3卓。
左の方にはソファとテーブルセット。
右の方には書棚が一つ。隣の部屋が右隣にはあり少し暗いけど図書室の様に見えます。

邸を建てる時に態とこの場所にここを作ったとわかる造りになっています。
何故このような場所にあるのかしら?

「奥様、ここが執務室になります。
昨日ご紹介させて頂いたので紹介は省いても?」

「いいわよ。でも挨拶はさせてもらうわ。
改めてアディルです。よろしくお願いするわね」

3人の文官達が少し緊張の面持ちで、それぞれ挨拶をしてくれました。
私だって心臓バックバクですわ。
なんといってもまだ16歳なのです、それに家の仕事などしたことなど無いのです。

「では奥様、こちらの机をお使いください」

「当主の机だけどいいのかしら?」

「今奥様以外座る事は許されておりません」

それからドーランがテキパキと仕事内容を説明してくれる。
私の教育は全て母が手配した家庭教師でした。
学園などにも通っておらず、狭い世界で学習してきていたのでドーランが説明してくれている様子も家で勉強している時のようで、少し楽しくなってきました。
やっぱり知らない事を知るのは楽しいですね。

ドーランの言っていたように主な仕事はお義父様が引き受けてくれているのでしょうね。
それでもかなりの報告書の量でした。
執務室には常時3名の文官を置き(一人休み)彼らは嘆願書などを纏めて報告書に上げているそうです。
それを読み決裁するのが当主の仕事で、決裁前に皆で熟考する事もあるとか。

聞くだけだと大変そうでしたが意外にも私は読むことが好きでした。
報告書は色々な視点で書かれております。
文官たちが優秀なのでしょうね。
とてもわかり易くて楽しくなってしまいました。

暫くするとドーランが休憩を挟みましょうとソファに案内してくれたので移動すると、既にテーブルにはお菓子が並べられていました。
私が掛けるとすっと紅茶が置かれます。
手際の良さ⋯⋯以外でした。

「奥様は伯爵家でも執務をされていたのですか?」

「いいえ、初めてです。とても興味深いですね。
私は世間知らずですので、このように他の方と一緒の部屋で学習する事もなくて⋯⋯。
これは毎日できるのですか?」

「⋯⋯えぇ。そうです、毎日目を通して頂ければこちらも滞りなく進められます」

「そうなのね。きっとまだ難しい書類などは私には回ってないのね。ドーラン気を使ってくれたのでしょう」

思ったよりも考えさせられる書類がなく、私が16歳ということで考慮してくれたのだと思ったわ。
でも難しい物がないに越したことはないから今のまま位がいいのだけど⋯⋯。

「奥様は執務に適した方ですね」

「え?」

「申し訳ありません、私は奥様を侮っていたようです。
本日の書類には何ヶ所か間違いを仕込みました。
奥様を試すような真似をして申し訳ありませんでした。
試す事に至ってはウィルハイム様には許可を頂いておりましたが、たった一度の説明で完璧になされるとは思っておりませんでした」

書類を読んで何ヶ所か間違いじゃないかと指摘した箇所はドーランの仕込みだったようです。
お義父様の許可って事は、なるほど、昨日ドーランが私の噂を信じてるからって言ってたのはこういう事ね。
では誤解が溶けたのかしら?

「侮っていたのは私の噂のことかしら?」

「その通りにございます。公爵家の執事の任にあるにも関わらず噂に踊らされておりました、ウィルハイム様の仰った通りでした」

「お義父様に何を言われたの?」

「頭の中に想像力を持て、その噂で誰が得をするのかと言われておりました。でも噂の中に真実もあると思ってもいましたので⋯⋯。」

少しお義父様の考え方を知る事になりました。
私も参考にしましょう。

「奥様、実は本日の報告書は以上なのです」

「えっこれだけ?」

「はい、あとはまだこちらが纏めておりませんので決裁していただく物がありません。奥様には失礼ですがとても優秀な方なのですね」

褒められちゃった嬉しい。
家庭教師に褒められたことがなかったので私はダメダメと思ってたけど良かった。
うちの家庭教師は厳しすぎる人だったのかしら?

「奥様は噂の出処は知っておられますか?」

「お義父様に聞いたわ」

「実は私どもに噂を撒いているのはまた違った者なのです、内容はほぼ一緒ですが」

「社交界以外でも出回ってるという事?」

「左様にございます、使用人達の間に出回ってる噂は奥様の所の家庭教師からです」

今まさに家庭教師の事を考えていたのでお茶を吹き出しそうでした。
私を身近で教えた者から聞いたならそれは信じるかも。

「あの方はどういった経緯で?」

「母が手配してくれた教師です」

「チェリーナ様がですか?」

前々から思っていたけど母って人望があるのね。
知らなかったわ、私には母は母だもの。

「それにしてはおかしいですね。チェリーナ様が手配したのにも関わらず嘘を撒いているのは」

「そうね、ジャクソン夫人は厳しい方だったけど悪劣な方とは思ってなかったわ」

「奥様の家庭教師は女性ですか?」

「そうよ」

「はぁ~。なるほど其処から騙されていたのですね、私どもに奥様の家庭教師と言っていたのはセドリックという男性です。主に貴族子女の家庭教師をしている評判の方です、てっきり奥様も彼が担当していたと思っておりました」

噂の出処や企みがちょっとわかりましたわ。
セドリックというのは祖母がメリルとキャンベラに手配した家庭教師です。
今回はキャンベラ主導の噂と思ってたけどメリルも噛んでいるかしら?

「ドーランは魔法が使えるわね」

「はい」

「では、そのセドリックという男性を鑑定してもらえるかしら?微弱な精神魔法をかけられていないか調べてほしいの」

「微弱ですか」

「そうよ、よく調べないと弱すぎて気づかない程なの」

「畏まりました、奥様本日はこれからどうされますか?」

「庭造りをしたかったけどテモシーに家政のことを聞いてみるわ、執務が楽しかったから。ドーラン私の可能性を広げてくれてありがとう」

キョトンとしているドーランを置いてローリーと執務室をあとにしました。
私にも魔法以外で出来ることがあったのね。
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