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少し窓を開けた。
白いレースのカーテンが微風に揺れる。
スタンピン伯爵家の客室で私達は専属医師を待っていた。
未だ目の覚めないサッセルン侯爵の顔をマジマジと見ながら母が憐憫の声を上げた。
「一番多感な時期にご両親を亡くされたのね。精神的な虐待と言うけれど如何程だったのかしら?」
私はその辺は全く分からないのでケトナー卿を見ると、彼も首を左右に振った。
「極端に痩せてはいましたが体に傷などは無かったそうです。本人も自分で好き嫌いが多いと答えたそうなので、それ以上は踏み込めなかったと学園の医師の証言は取れています」
ケトナー卿はあのメモを見つけてから過去に遡って調べたようだった。
精神的な虐待というのは彼の疲弊した様子から皆が想像したものらしい。
子爵夫妻の罪は殺人未遂で充分立証出来ていたから、それ以上の事は調べなかったのだろうと伺える。
そしてまたケトナー卿は唇を噛む。
彼の後悔が如何程か私には想像することしか出来ないけれど、救えなかった事を未だに引き摺っているのは確かだ。
私はサッセルン侯爵の枕元で、一番近くに座ってるケトナー卿の肩をポンポンと叩いて慰めた。
「それにしても相変わらずうちの娘はドライね。如何して貴方が一番近くに居ないの?婚約者なら側に寄り添うものよ」
母の言い分はご尤もだが、真っ先にその場所に陣取ったのはケトナー卿だ、私を責めるのはお門違いというものだわ。
その時ノックの音がして我が家の専属医師が入ってきた。
診察結果は“過労”そして“睡眠不足”“栄養失調”などと診断したのだが、ちょっと待って!
過労と睡眠不足は分かるけど栄養失調って何だろう?
「食事をまともに召し上がっていないようですな」
鼻の下に白髭を蓄えた医師はそう言って注射を始めた。
側に付いてきていた侍従からカバンを受け取ると、サラサラと紙に処方箋を書き始めた。
それを持って立ち上がったのだけど、一瞬誰に渡していいのか分からなかったのだろう、ぐるりと私達を見渡した。
そして無難と思った母にその紙を渡して「後ほど」と言って帰っていった。
「栄養剤みたいよ、処方箋」
その紙を見ながら母は私を見た。
「誰か走らせるわ」
「俺が行きます!」
ケトナー卿が立ち上がったけれどそれを私は制した。
「サッセルン侯爵が目覚めた時、貴方が居ないと困るのよ、話が進められないから。だから動かないで!遣いはこちらで。人手が足りないわけではないのだから」
「マリーヌもなかなか難しい案件振ってくるのね、でも救えるならその方が宜しいわ」
マリーヌとは王妃の名だ。
母は気安く言ったけれどおそらくケトナー卿はピンと来ていないのだろうと思った。
「で、ホーリー留学は如何するの?」
「行くわよ!その為に何年も準備してたのよ。少しでも1ヶ月でも2ヶ月でも可能なら行くわ」
私は鼻息も荒く母に宣言した。
その時、寝ているサッセルン侯爵の声が「⋯ん」と聞こえた。
そして彼は目覚めた。
少しずつ開き始めたサファイアブルーの瞳が、最初に捉えたのは何故か私の母だった。
「⋯⋯女神様迎えに来てくれたのですね」
(あぁこの人はずっと死にたかったのだ)と、私は胸が締め付けられ苦しくて、思わずスカートをギュッと握りしめた。
白いレースのカーテンが微風に揺れる。
スタンピン伯爵家の客室で私達は専属医師を待っていた。
未だ目の覚めないサッセルン侯爵の顔をマジマジと見ながら母が憐憫の声を上げた。
「一番多感な時期にご両親を亡くされたのね。精神的な虐待と言うけれど如何程だったのかしら?」
私はその辺は全く分からないのでケトナー卿を見ると、彼も首を左右に振った。
「極端に痩せてはいましたが体に傷などは無かったそうです。本人も自分で好き嫌いが多いと答えたそうなので、それ以上は踏み込めなかったと学園の医師の証言は取れています」
ケトナー卿はあのメモを見つけてから過去に遡って調べたようだった。
精神的な虐待というのは彼の疲弊した様子から皆が想像したものらしい。
子爵夫妻の罪は殺人未遂で充分立証出来ていたから、それ以上の事は調べなかったのだろうと伺える。
そしてまたケトナー卿は唇を噛む。
彼の後悔が如何程か私には想像することしか出来ないけれど、救えなかった事を未だに引き摺っているのは確かだ。
私はサッセルン侯爵の枕元で、一番近くに座ってるケトナー卿の肩をポンポンと叩いて慰めた。
「それにしても相変わらずうちの娘はドライね。如何して貴方が一番近くに居ないの?婚約者なら側に寄り添うものよ」
母の言い分はご尤もだが、真っ先にその場所に陣取ったのはケトナー卿だ、私を責めるのはお門違いというものだわ。
その時ノックの音がして我が家の専属医師が入ってきた。
診察結果は“過労”そして“睡眠不足”“栄養失調”などと診断したのだが、ちょっと待って!
過労と睡眠不足は分かるけど栄養失調って何だろう?
「食事をまともに召し上がっていないようですな」
鼻の下に白髭を蓄えた医師はそう言って注射を始めた。
側に付いてきていた侍従からカバンを受け取ると、サラサラと紙に処方箋を書き始めた。
それを持って立ち上がったのだけど、一瞬誰に渡していいのか分からなかったのだろう、ぐるりと私達を見渡した。
そして無難と思った母にその紙を渡して「後ほど」と言って帰っていった。
「栄養剤みたいよ、処方箋」
その紙を見ながら母は私を見た。
「誰か走らせるわ」
「俺が行きます!」
ケトナー卿が立ち上がったけれどそれを私は制した。
「サッセルン侯爵が目覚めた時、貴方が居ないと困るのよ、話が進められないから。だから動かないで!遣いはこちらで。人手が足りないわけではないのだから」
「マリーヌもなかなか難しい案件振ってくるのね、でも救えるならその方が宜しいわ」
マリーヌとは王妃の名だ。
母は気安く言ったけれどおそらくケトナー卿はピンと来ていないのだろうと思った。
「で、ホーリー留学は如何するの?」
「行くわよ!その為に何年も準備してたのよ。少しでも1ヶ月でも2ヶ月でも可能なら行くわ」
私は鼻息も荒く母に宣言した。
その時、寝ているサッセルン侯爵の声が「⋯ん」と聞こえた。
そして彼は目覚めた。
少しずつ開き始めたサファイアブルーの瞳が、最初に捉えたのは何故か私の母だった。
「⋯⋯女神様迎えに来てくれたのですね」
(あぁこの人はずっと死にたかったのだ)と、私は胸が締め付けられ苦しくて、思わずスカートをギュッと握りしめた。
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