5 / 27
5
「はっ?」
「ですから、そちらのご令嬢のご尊父?様の画策により、私達の婚姻届は“落し物”として、シュール家に届けられておりましたの。それを貴方のお母様は、出すに及ばずと放って置いたそうですわ」
「な!」
そうなのだ。
マルシェとサミュエルの婚姻証明書は、結婚式の時に教会の司教様より証明されて渡された。それを国の機関に届けて承認されれば、晴れてご結婚おめでとう!となるのだが、出したあと落し物として家に戻ってきたというわけだ。
そしてどうやら宰相の娘との婚姻に乗り気だったシュール家の女主人、サミュエルの母は、その“落し物”を誰にも言わずに握り潰していた。
新婚3ヶ月で夫サミュエルとサミュエルの父は、国の命により魔物討伐の部隊に緊急に配属された。
親子は別々の部隊にいる為、サミュエルの父親はこの事を知らない。
残されたマルシェは、この一ヶ月の間、シュール家で義母と一時的に出戻った義姉に、散々いびられた。部屋すら屋根裏部屋に移動もさせられ、ほぼ軟禁状態だった。
手紙すら送らない新妻を怪訝に思わないのか、一度も帰ってこないサミュエルに、そろそろ愛想が尽きかけてもいたが、それでも一生を添い遂げると誓った相手だからと、なけなしのちょっぴり残った愛情を縁に耐えていた。
だが、追い出された日。
その出されなかった書類を目の前に突きつけられ、マルシェの心は折れたのだ。
シュール伯爵家からは馬車なんて出してもらえない。
マルシェの父が用意してくれた花嫁道具は、部屋に戻ってみたけれど、何一つ残っていなかった。
屋根裏に移動させていた、少ない服をかき集め鞄に詰めて、トボトボと伯爵家を後にした。
やっとの思いで、王都の辻馬車乗り場まで辿り着いたときに、目の前が真っ暗になって意識が遠のいた。
そして目覚めた時、妊娠の事実を告げられ、序に前世を思いだしたのだ。
心は折れたけど、子供の事もあったから、なんとか奮い立たせて、サミュエルと相談しようと思い訪ねてきたのに、彼は浮気の真っ最中。
前世の記憶は曖昧なのだけど、私何か罰が当たるような事をしていたのかしら?と、マルシェは心の中で独り言ちた。
マルシェの話を聞いたサミュエルは、突然椅子から立ち上がり土下座を始めた。
そしてマルシェに涙ながらに詫び始める。
それを一瞥するマルシェ。
困惑しているのはミルフィだった。
「サミュ何やってるの?謝る必要ないじゃない!だって私達の間にこの女が割り込んだのよ!」
「そんな事実はない!なんだよ!私達の間って。お前と俺はただの幼馴染だ。婚約の打診もずっと父上が断ってくれてたのに。それで察しろよ!俺はお前を何とも思っていなかったって!」
「そんな!酷い!うっ!」
涙を溢しながら酷い酷いと嘆くミルフィだが、その点だけはサミュエルに同情するマルシェだ。
彼女は幼い頃に見目麗しいサミュエルに一目惚れしてから、ずっと「好き好き」口撃を繰り返していた。
幼馴染と言っても、サミュエルはミルフィに何の気持ちも持てなかったし、世間で言うところの妹みたいなんて気持ちすら、思わなかったそうだ。
それなのに野心満々のシュール伯爵夫人(サミュエルの母)によって、幾度となく会わされていたそうだ。
これは学園生の時、マルシェがサミュエルの友人から聞かされた彼の黒歴史らしい。だがそれも今更だ。既に彼らは合体している。
学園生時代、サミュエルはマルシェに一目惚れしたと言って告白してきた。
あまり異性に耐性もないマルシェだったが、結婚はサイゼット王国以外の人とするのが、いいと思っていたから前向きに検討していた。
何度も何度も執拗くアタックされて、マルシェはとうとう絆された。
そして結婚に至ったのだが、マルシェの出自を正確に知っているのは、シュール伯爵とサミュエルだけだ。
表向きマルシェは、父が最初に引き取った時のまま、ラグレイド公爵家の養女となっている。それは、王妃陛下とも話をして、過去の醜聞にマルシェを巻き込まない為の処置だった。
それでもサイゼット王国内であれば、元王太子のラグレイド公爵と同じ髪色を持つマルシェが、ひとたび社交界に出たら何を言われるか分かったものじゃなかった。
それでも父は、シュール伯爵家でマルシェが侮られないようにと、本当の出自を伯爵とサミュエルには告げてくれたのだ。
二人がいればマルシェは大事にされただろう。
過去の醜聞など何もなければ、マルシェはサイゼット王国の王女なのだ。
それは秘密裏にサイゼットの王妃陛下は認めてくれている。国王に秘密にしているのは、彼が知れば必ずお披露目されてしまうからだ。
それを避けたい為、秘されている。
ひょっとしたら国王は気づいているかもしれないが、自身の子であるラグレイド公爵が、言わない事をいい事に、知らぬふりを通してくれているのかもしれない。
何故ならマルシェに国王からこっそり誕プレが届いていたからだ。
そんなマルシェに無礼な事を仕出かした、この国の宰相とシュール伯爵家。
この先どうなるのだと、サミュエルが慄いたのはしょうがないだろう。
現に土下座のサミュエルの肩はかなり小刻みに震えていた。
「ですから、そちらのご令嬢のご尊父?様の画策により、私達の婚姻届は“落し物”として、シュール家に届けられておりましたの。それを貴方のお母様は、出すに及ばずと放って置いたそうですわ」
「な!」
そうなのだ。
マルシェとサミュエルの婚姻証明書は、結婚式の時に教会の司教様より証明されて渡された。それを国の機関に届けて承認されれば、晴れてご結婚おめでとう!となるのだが、出したあと落し物として家に戻ってきたというわけだ。
そしてどうやら宰相の娘との婚姻に乗り気だったシュール家の女主人、サミュエルの母は、その“落し物”を誰にも言わずに握り潰していた。
新婚3ヶ月で夫サミュエルとサミュエルの父は、国の命により魔物討伐の部隊に緊急に配属された。
親子は別々の部隊にいる為、サミュエルの父親はこの事を知らない。
残されたマルシェは、この一ヶ月の間、シュール家で義母と一時的に出戻った義姉に、散々いびられた。部屋すら屋根裏部屋に移動もさせられ、ほぼ軟禁状態だった。
手紙すら送らない新妻を怪訝に思わないのか、一度も帰ってこないサミュエルに、そろそろ愛想が尽きかけてもいたが、それでも一生を添い遂げると誓った相手だからと、なけなしのちょっぴり残った愛情を縁に耐えていた。
だが、追い出された日。
その出されなかった書類を目の前に突きつけられ、マルシェの心は折れたのだ。
シュール伯爵家からは馬車なんて出してもらえない。
マルシェの父が用意してくれた花嫁道具は、部屋に戻ってみたけれど、何一つ残っていなかった。
屋根裏に移動させていた、少ない服をかき集め鞄に詰めて、トボトボと伯爵家を後にした。
やっとの思いで、王都の辻馬車乗り場まで辿り着いたときに、目の前が真っ暗になって意識が遠のいた。
そして目覚めた時、妊娠の事実を告げられ、序に前世を思いだしたのだ。
心は折れたけど、子供の事もあったから、なんとか奮い立たせて、サミュエルと相談しようと思い訪ねてきたのに、彼は浮気の真っ最中。
前世の記憶は曖昧なのだけど、私何か罰が当たるような事をしていたのかしら?と、マルシェは心の中で独り言ちた。
マルシェの話を聞いたサミュエルは、突然椅子から立ち上がり土下座を始めた。
そしてマルシェに涙ながらに詫び始める。
それを一瞥するマルシェ。
困惑しているのはミルフィだった。
「サミュ何やってるの?謝る必要ないじゃない!だって私達の間にこの女が割り込んだのよ!」
「そんな事実はない!なんだよ!私達の間って。お前と俺はただの幼馴染だ。婚約の打診もずっと父上が断ってくれてたのに。それで察しろよ!俺はお前を何とも思っていなかったって!」
「そんな!酷い!うっ!」
涙を溢しながら酷い酷いと嘆くミルフィだが、その点だけはサミュエルに同情するマルシェだ。
彼女は幼い頃に見目麗しいサミュエルに一目惚れしてから、ずっと「好き好き」口撃を繰り返していた。
幼馴染と言っても、サミュエルはミルフィに何の気持ちも持てなかったし、世間で言うところの妹みたいなんて気持ちすら、思わなかったそうだ。
それなのに野心満々のシュール伯爵夫人(サミュエルの母)によって、幾度となく会わされていたそうだ。
これは学園生の時、マルシェがサミュエルの友人から聞かされた彼の黒歴史らしい。だがそれも今更だ。既に彼らは合体している。
学園生時代、サミュエルはマルシェに一目惚れしたと言って告白してきた。
あまり異性に耐性もないマルシェだったが、結婚はサイゼット王国以外の人とするのが、いいと思っていたから前向きに検討していた。
何度も何度も執拗くアタックされて、マルシェはとうとう絆された。
そして結婚に至ったのだが、マルシェの出自を正確に知っているのは、シュール伯爵とサミュエルだけだ。
表向きマルシェは、父が最初に引き取った時のまま、ラグレイド公爵家の養女となっている。それは、王妃陛下とも話をして、過去の醜聞にマルシェを巻き込まない為の処置だった。
それでもサイゼット王国内であれば、元王太子のラグレイド公爵と同じ髪色を持つマルシェが、ひとたび社交界に出たら何を言われるか分かったものじゃなかった。
それでも父は、シュール伯爵家でマルシェが侮られないようにと、本当の出自を伯爵とサミュエルには告げてくれたのだ。
二人がいればマルシェは大事にされただろう。
過去の醜聞など何もなければ、マルシェはサイゼット王国の王女なのだ。
それは秘密裏にサイゼットの王妃陛下は認めてくれている。国王に秘密にしているのは、彼が知れば必ずお披露目されてしまうからだ。
それを避けたい為、秘されている。
ひょっとしたら国王は気づいているかもしれないが、自身の子であるラグレイド公爵が、言わない事をいい事に、知らぬふりを通してくれているのかもしれない。
何故ならマルシェに国王からこっそり誕プレが届いていたからだ。
そんなマルシェに無礼な事を仕出かした、この国の宰相とシュール伯爵家。
この先どうなるのだと、サミュエルが慄いたのはしょうがないだろう。
現に土下座のサミュエルの肩はかなり小刻みに震えていた。
あなたにおすすめの小説
彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました
Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。
どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も…
これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない…
そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが…
5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。
よろしくお願いしますm(__)m
一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・
【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
〖完結〗旦那様は私よりも愛人を選ぶそうです。
藍川みいな
恋愛
愛していると言った旦那様は、結婚して3年が経ったある日、愛人を連れて来ました。
旦那様が愛していたのは、私ではなく、聖女の力だったようです。3年間平和だった事から、私の力など必要ないと勘違いされたようで…
「もうお前は必要ない。出て行け。」と、言われたので出ていきます。
私がいなくなったら結界は消滅してしまいますけど、大丈夫なのですよね? それならば、二度と私を頼らないでください!
シャーロットの力のおかげで、子爵から伯爵になれたのに、あっけなく捨てるルーク。
結界が消滅しそうになり、街が魔物に囲まれた事でルークはシャーロットを連れ戻そうとするが…
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全15話で完結になります。
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
元婚約者は戻らない
基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。
人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。
カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。
そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。
見目は良いが気の強いナユリーナ。
彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。
二話完結+余談