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辻馬車乗り場に行くと王城付近に行く馬車はミリナの家の近くを通る事が分かった。
もし父がミリナが家を出たことを知ったらどうするか?愛していない娘が居なくなったところで知らんふりをするのか、それとも⋯。
色々考えてミリナは別ルートで行く事にした。
一旦別の街に行きそこから王都に行く辻馬車に乗るのだ。
王城付近なんてミリナは近づいたことも無い、一番近くに行ったのが昨日の噴水広場だ。
歩いて行ったりしたら迷う自信しかミリナは無い。家から噴水広場まで歩いたのは一本道だとアンナに聞いたからだ。そうじゃなければあの日も辻馬車に乗っていた。
今ミリナはラクスという町にいる、ミリナが住んでいたのはシャオルという町だ。
王都と呼ばれる所は城下町になり、王領であるから等しく王都と呼ばれている。町名が付いているのはその名を姓に持つ貴族の領地なのだが、貴族の事や地理に疎いミリナは歩ける距離という事もあって、住んでいたシャオルも王都だと勘違いしていた。
ミリナは辻馬車乗り場の控室で壁に貼られた地図を見ていた。
真ん中に王都と書いていてその周りにシャオル、ラクス、ミオール、セントリーと囲むように書かれていた。
何も知らないミリナは取り敢えずその地図を覚えようと食い入るように見つめた。
そしてラクスからミオールに行ってそこから王都に行くルートにしようと決めた。
お金は少し多めにかかるが仕方ない。
次のミオール行きの時間を確かめてから控室で馬車の出発を待った。
控室には色んな人がいた。
その中に赤い髪の女性がいて思わずミリナは身構えた。昨日父と一緒にいた人は遠くて顔がよく見えなかった。
恐る恐る彼女を見ていたら、ミリナの隣に誰かが座った気配がした。
「知り合いなのか?」
隣から声をかけられた、自分に言われたとは思わなかったが至近距離から声がしたので横を見る。
黒、いや紺色の珍しい髪色の男の人がミリナを見ていた。
「さっきからずっとチラ見してるだろ、不審者に思われるぞ」
その言葉にハッとして周りを見ると前の席に座る老婦人がミリナを非難めいた顔で見ていた。
「そんなんじゃないんです、知ってる人に似ている気がして⋯」
思わず言い訳をすると老婦人は興味を失ったように手に持っていた本を読み始めた。
隣の男性はまだミリナを見ている。
「⋯⋯⋯⋯何か?」
「いや、あぁごめん、君も俺の知り合いに似ているかも」
何か取ってつけたような言葉にミリナの心の警戒アラートが鳴った。
「真似しないで」
そう言ってミリナは席を立ちあからさまに嫌嫌アピールをするように、老婦人の横に移動した。
それを見て彼が肩を竦めたのが見えたが、それ以降は赤髪の女性も紺色の髪の男性も、視界に入れないように努めた。
暫くすると控室に御者の声が響く。
「ミオール行きあと10分で出発ですよー」
ミリナは立ち上がり控室を出たがミオール行きに乗るのはミリナだけだったようだ。思わずホッと胸を撫で下ろした。
辻馬車はゆっくりとミオールへと向かった。
◇◇◇
「ミリナがあそこにいたのか!」
ミリナの父、セルヴィは夕食の時アンナに聞いて思わず大きな声を出した。
「お父さん、そんなに大きな声出さないで!吃驚したわよ」
「あぁすまん、だが本当に?」
「うん、だからちゃんと教えてあげたの。姉妹とか成人したら一人で住むんだよって。説明するの面倒くさいと思ったけどすっごく聞いてくるからさ」
「⋯っ!まさかお前、姉妹って言ったのか?」
アンナの言葉にセルヴィは慌ててミリナと住んでいた方の家に走って行った。
「ミリナ!ミリナ!」
ミリナの部屋に入ると壊れたクローゼットの中を確かめる。数着の服が無くなっていてミリナの姿が何処にもなかった。
自分の部屋に行くと遠征用の大きめのカバンが無くなっていた。
ミリナが出て行ったことをセルヴィは知った。
「どうしよう」
頭を抱えたが、ミリナが泊まるところなど教会くらいしか無いはずだ。
家出が出来ないようにとミリナの貯めていたお金はちょこちょこ抜き取っていた。それに行動範囲も制限していた、それなのに噴水広場にいたなんて⋯。
「アンナ、余計な事を!だがまぁ明日の朝教会に行ってみればいいか。今日はもう遅いしな」
セルヴィは呑気に構え、再び外に出て家族の待つ家へと戻って行った。
だが翌朝教会に行きミリナが来ていない事を知ったセルヴィは絶望する。
「ヤバイヤバイヤバイ」
教会から戻ってきた父の異変にアンナとアンナの母であるメアリーは驚く。
「貴方如何したの?」
「ミリナがどこにもいないんだ、あっ!アンナ行き先に心当たりはないか?」
「教会なんじゃないの?」
口をとがらせ乍らアンナは言った。
アンナは父に言われてミリナと仲良くしていたが、本当の目的は彼女の監視だった。
だけどミリナの行動範囲は至って狭い、何処かに行くにしても大体アンナと一緒だから行ってもせいぜい町のマルシェか雑貨屋位だ。
ミリナが泊まりで行くところなんて教会以外アンナは知らなかった。
「教会にはいなかった、他にはないのか?お前何の為にミリナに付けたと思ってるんだ!」
訊ねるセルヴィにアンナは首を振るばかりでセルヴィは段々と腹が立ってきて、再びアンナを怒鳴っていた。
そこにメアリーが口を挟む。
「でも18になったら独り立ちして貰うつもりだったんだから、今居なくなってもいいんじゃない?」
「独り立ちって⋯。お前らそう取っていたのか!はぁ駄目なんだ、成人まで面倒見ないと俺は、俺は殺されるかもしれない」
「「はぁ!?」」
セルヴィの告白にメアリーとアンナは驚きすぎて思わず声が揃ってしまった。
もし父がミリナが家を出たことを知ったらどうするか?愛していない娘が居なくなったところで知らんふりをするのか、それとも⋯。
色々考えてミリナは別ルートで行く事にした。
一旦別の街に行きそこから王都に行く辻馬車に乗るのだ。
王城付近なんてミリナは近づいたことも無い、一番近くに行ったのが昨日の噴水広場だ。
歩いて行ったりしたら迷う自信しかミリナは無い。家から噴水広場まで歩いたのは一本道だとアンナに聞いたからだ。そうじゃなければあの日も辻馬車に乗っていた。
今ミリナはラクスという町にいる、ミリナが住んでいたのはシャオルという町だ。
王都と呼ばれる所は城下町になり、王領であるから等しく王都と呼ばれている。町名が付いているのはその名を姓に持つ貴族の領地なのだが、貴族の事や地理に疎いミリナは歩ける距離という事もあって、住んでいたシャオルも王都だと勘違いしていた。
ミリナは辻馬車乗り場の控室で壁に貼られた地図を見ていた。
真ん中に王都と書いていてその周りにシャオル、ラクス、ミオール、セントリーと囲むように書かれていた。
何も知らないミリナは取り敢えずその地図を覚えようと食い入るように見つめた。
そしてラクスからミオールに行ってそこから王都に行くルートにしようと決めた。
お金は少し多めにかかるが仕方ない。
次のミオール行きの時間を確かめてから控室で馬車の出発を待った。
控室には色んな人がいた。
その中に赤い髪の女性がいて思わずミリナは身構えた。昨日父と一緒にいた人は遠くて顔がよく見えなかった。
恐る恐る彼女を見ていたら、ミリナの隣に誰かが座った気配がした。
「知り合いなのか?」
隣から声をかけられた、自分に言われたとは思わなかったが至近距離から声がしたので横を見る。
黒、いや紺色の珍しい髪色の男の人がミリナを見ていた。
「さっきからずっとチラ見してるだろ、不審者に思われるぞ」
その言葉にハッとして周りを見ると前の席に座る老婦人がミリナを非難めいた顔で見ていた。
「そんなんじゃないんです、知ってる人に似ている気がして⋯」
思わず言い訳をすると老婦人は興味を失ったように手に持っていた本を読み始めた。
隣の男性はまだミリナを見ている。
「⋯⋯⋯⋯何か?」
「いや、あぁごめん、君も俺の知り合いに似ているかも」
何か取ってつけたような言葉にミリナの心の警戒アラートが鳴った。
「真似しないで」
そう言ってミリナは席を立ちあからさまに嫌嫌アピールをするように、老婦人の横に移動した。
それを見て彼が肩を竦めたのが見えたが、それ以降は赤髪の女性も紺色の髪の男性も、視界に入れないように努めた。
暫くすると控室に御者の声が響く。
「ミオール行きあと10分で出発ですよー」
ミリナは立ち上がり控室を出たがミオール行きに乗るのはミリナだけだったようだ。思わずホッと胸を撫で下ろした。
辻馬車はゆっくりとミオールへと向かった。
◇◇◇
「ミリナがあそこにいたのか!」
ミリナの父、セルヴィは夕食の時アンナに聞いて思わず大きな声を出した。
「お父さん、そんなに大きな声出さないで!吃驚したわよ」
「あぁすまん、だが本当に?」
「うん、だからちゃんと教えてあげたの。姉妹とか成人したら一人で住むんだよって。説明するの面倒くさいと思ったけどすっごく聞いてくるからさ」
「⋯っ!まさかお前、姉妹って言ったのか?」
アンナの言葉にセルヴィは慌ててミリナと住んでいた方の家に走って行った。
「ミリナ!ミリナ!」
ミリナの部屋に入ると壊れたクローゼットの中を確かめる。数着の服が無くなっていてミリナの姿が何処にもなかった。
自分の部屋に行くと遠征用の大きめのカバンが無くなっていた。
ミリナが出て行ったことをセルヴィは知った。
「どうしよう」
頭を抱えたが、ミリナが泊まるところなど教会くらいしか無いはずだ。
家出が出来ないようにとミリナの貯めていたお金はちょこちょこ抜き取っていた。それに行動範囲も制限していた、それなのに噴水広場にいたなんて⋯。
「アンナ、余計な事を!だがまぁ明日の朝教会に行ってみればいいか。今日はもう遅いしな」
セルヴィは呑気に構え、再び外に出て家族の待つ家へと戻って行った。
だが翌朝教会に行きミリナが来ていない事を知ったセルヴィは絶望する。
「ヤバイヤバイヤバイ」
教会から戻ってきた父の異変にアンナとアンナの母であるメアリーは驚く。
「貴方如何したの?」
「ミリナがどこにもいないんだ、あっ!アンナ行き先に心当たりはないか?」
「教会なんじゃないの?」
口をとがらせ乍らアンナは言った。
アンナは父に言われてミリナと仲良くしていたが、本当の目的は彼女の監視だった。
だけどミリナの行動範囲は至って狭い、何処かに行くにしても大体アンナと一緒だから行ってもせいぜい町のマルシェか雑貨屋位だ。
ミリナが泊まりで行くところなんて教会以外アンナは知らなかった。
「教会にはいなかった、他にはないのか?お前何の為にミリナに付けたと思ってるんだ!」
訊ねるセルヴィにアンナは首を振るばかりでセルヴィは段々と腹が立ってきて、再びアンナを怒鳴っていた。
そこにメアリーが口を挟む。
「でも18になったら独り立ちして貰うつもりだったんだから、今居なくなってもいいんじゃない?」
「独り立ちって⋯。お前らそう取っていたのか!はぁ駄目なんだ、成人まで面倒見ないと俺は、俺は殺されるかもしれない」
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セルヴィの告白にメアリーとアンナは驚きすぎて思わず声が揃ってしまった。
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