三度目の正直

maruko

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 宿で食事を堪能してお腹が満たされるとアリーシャは眠気に勝てずそのままベッドにダイブした。
 アリーシャが寝てしまったのを確かめてからマックスは部屋を出てしっかりと施錠して、隣に用意された自分の部屋へと入った。

「はぁ~~~」

 ベッドの縁に腰掛けて大きく深い溜息を吐くと今日もお嬢様アリーシャは無事だったと心から安堵する。

 食事は屋敷を出て以降は、アリーシャに懇願されて常に同席しているから今はマックスの腹も満たされている。
 昼間にかなり無茶をして歩いたので彼の膝から下は疲労困憊で今は生まれたての子鹿のようにしか動かせない。
 そもそもが、マックスは嗜み程度に剣を習った程度で、色白の見た目通りの弱っちい肉体だ。
 だけど仮にも自分は男なんだという、なけなしのプライドからアリーシャの前でひ弱な醜態を晒すわけにも行かず昼間は必死で強がった。
 その反動から悲鳴をあげるもやし体型は、もう風呂に入るのも辛いので朝湯を浴びる事にしてアリーシャ同様マックスもそのままベッドにダイブした。


 ◇◇◇


 8年前、当時10歳だったマックスは公爵直々にアリーシャの従者になる事を望まれた。
 初めて会った時からアリーシャの所作はマックスの目から見ても洗練された公爵令嬢で、とても貴族に引き取られたばかりの元平民だとは思えなかった。
 公爵はきっと二人が兄妹のように共に遊び学ぶ事を求めていたのだろうが、アリーシャは何故か何でも知っていて情けない事に2つ上のマックスに勉強を教えてくれたりもするほど優秀だった。
 アリーシャよりも一足早く入学した学園の宿題までも教わるという体たらくで、本来ならアリーシャを支える立場のマックスが逆に彼女にお世話されていた。
 公爵の期待はずれも良い所だ。
 そのうち任を解かれると思っていたのだが、そのマックスの予想は当たらなかった。
 当の本人であるアリーシャがマックスを離さなかったからだった。
 マックスのお世話をする事をアリーシャは楽しんでいるように感じた。

 マックスの家は国内では割と大きい商会を営んでいた。
 何故公爵が自分の娘の従者を、平民であり異性でもあるマックスを選んだのか、マックスも商会頭であるマックスの父も分からなかった、そしてその謎は未だに解けていない。
 だが側に侍るうちに公爵家の内部事情を少しずつ知ってマックスはアリーシャに甚く同情した。
 アリーシャの背景が分かってからは、許される限りお側で守ろうと、そう誓った筈なのに自分の不甲斐なさにマックスは日々落ち込んでいた。
 だけどそんなマックスをアリーシャは常に側に置き続けた。
 茶会でも学園でも行動を共にすれば、揶揄われたり陰口を叩かれたりもした。
 それでもアリーシャはマックスを手放さない。

 そこに“恋心”は存在しない事を、一番近くにいるマックスは理解していたが、周りはそう思わないらしい。
 まぁ勘違いされてもしょうがないのだが、アリーシャには婚約者がいないのだから、変に曲解したような下世話な噂は正直大きなお世話であった。

 今回のアリーシャの出奔は彼女なりによくよく考えた結論だとマックスは理解している。
 事前に相談がなかったのも優しいアリーシャがマックスの家への影響を懸念したからだと分かっている。

 だからこそ放っとけないと思った。

 アリーシャは公爵家に引き取られるまで市井で生活していたと聞いている。
 だがそれ以降は、まごう事無き令嬢だった。
 幼い時の事なんてしっかりとは覚えているはずがない、喩え覚えていたとしても8年も貴族として生活したならば庶民の生活をするのは難しいと思った。

 いくらアリーシャが何でも知っているとはいえ、それは頭の中だけだ。
 実際に生活が始まれば苦労するのは目に見えている。
 マックスはアリーシャに付いて行こうと決めた。

 本当は馬が良かったけれどマックスが持っているのはまだ若い馬で、アリーシャが密かに用意した荷車を引くのは難しいと思えた。
 公爵家の庭師として働く爺やに相談したら“牛”を用意してくれた。
「荷車にはこれが一番!」
 そう太鼓判を押されて牛のマックス(アリーシャ命名)とも一緒に旅をする事になった。

 今は学園の夏の長期休暇。

 休暇中だからこそ、このまま市井に紛れることも、何食わぬ顔で公爵家に戻る事も可能なのだ。

「アリーシャ様の最善を導くんだぞ」

 商会頭である父の言葉でマックスは家から送り出された。




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