三度目の正直

maruko

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 天晴な侍女の用意したお茶はアリーシャの乾いた喉にスススーッと入って、その日の疲れが吹き飛んだ。
 その日の疲れは主にマックスの説教と不敬の告白だが、あれは本当に来た精神的に、そんな事を考えながらアリーシャはトーマスを待った。

 暫くお茶を堪能していたらノックの音がして天晴侍女が扉の外を確認する。

「お嬢様執事さんです」

 声がかかり頷くとトーマスが中に入って直ぐに一礼してからアリーシャの前にやって来た。

「おかえりなさいませお嬢様、少々長めのお話がございます」

 すると後ろからマックスも付いてきたようだった。
 頷いて二人にソファを薦めた。
 天晴侍女はここで退場のようだ、仕事のできる侍女って本当にこちらの気持ちが落ち着くのだとアリーシャは感じた。

 トーマスの話しはマックスも初見のようだ。
 彼の話しはルチアーナの母メリジェーンが“何か”を画策しているようだという事と、父の意向を伝える事だった。

「ルルーラにルチアーナ様の侍女が耳打ちしてきたそうです、ですので本日と明日ルルーラにはその話の件で休むように伝えております。それと旦那様の今後の意向をお伝えしに参りました」

「お父様の意向?」

 アリーシャが首を傾げながらトーマスに訊ねると彼はニコリと頷いた。

「旦那様はご自分でお伝えするつもりだったようですが陛下との謁見がありましたので、私が代わりにお話しさせて頂きます。お嬢様はクラウベル公爵家を継承して頂くことになります、その方向で旦那様は今後動かれます、ですので心積もりをして欲しいと、ただお嬢様の意に反するのであれば教えてほしいとも仰っておりました」

「私が公爵家をと云うことですね」

「そうです」

 アリーシャは父の思いがとても嬉しかった。ただ今までのアリーシャは過去も含めてクラウベル公爵家を継ぐなんて、考えた事もなかったから正直重荷でもあった。少し睫毛を伏せて考えているとトーマスが声をかけてくれる。

「お嬢様、覚悟などその時にならなければ本格的には湧いてこないものです。その件に関しましてはゆっくりお考えになられて良いのです。ただ継ぐにしろ継がないにしろ一朝一夕には準備もできません、選択肢を増やせる為にも後継者教育が必要になってきます。それで私が参りました」

「あぁそういう事ですね、教育は何時から?」

「来週から。ただ外から来るのは今一度の確認の為マナー教師のみです。教育は執務室にて私が行います。それとマックス」

「はい!」

 二人のやりとりを黙って聞いていたマックスは突然話を振られて返事が大きくなった。

「お嬢様が後継になられた場合は君の役割が変わってくる。今は従者だがお嬢様が後継になるなら執事だと思ってほしい。来週からの執務室の教育は君も一緒にする事になる。良いな」

「はい、わかりました」

「お嬢様、それと2学年からは学園の専攻を変更してもらいます、一般科から領地経営科になります」

「わっかり⋯⋯ました」

 どんどんとトーマスの口から告げられる言葉はアリーシャの今後のレールを決めるものだった。
 期待に応えられるだろうか?そんな事を思いながらも期待される事が嬉しくて自然に笑みが溢れる。
 マックスはというと目がギラギラとえっ?いっちゃってる?アリーシャはマックスのヤル気に圧倒されてしまった。

「お父様は王宮に行かれているのね」

「はい、お嬢様の戸籍変更の件で出向かれております」

「私のですか?」

「お嬢様には庶子という汚名を着せてしまって旦那様は長年悔やんでおりました。それは私もです。本当に申し訳ありませんでした」

「トーマスが謝ることじゃないわ」

「いえ、あの頃あやつがルクト侯爵の手の者と気づかなかった私の落ち度です」

 トーマスは項垂れながら前の執事と侍女長がクラウベル公爵家に来た経緯を教えてくれた。
 だがそれを聞いたら益々気づくのは難しのではないかと思った。彼等は働いている途中でルクト侯爵に寝返ったのではなくて最初から送り込まれていたのだから。
 しかもそれはアリステアとメリジェーンの婚約が調う少し前だった。

「そんな昔からこの家に居たのですか?」

 驚きのあまり思わずマックスが口を挟んだ。トーマスが少しだけ目で注意をしながらも頷いた。

「執事は執事見習いで入りましたが、侍女長は大奥様のメイドからスタートですので。まぁ二人とも懐に入り込んで順当に出世していました。まんまとしてやられたのですよ我々は」

「そんなにしてまで。このクラウベル公爵家を乗っ取るつもりで?」

「いえそんな大それた考えではないでしょう。ルクト侯爵はただ娘の為にこの屋敷に味方を作って上げたかっただけでしょう。ただこの家が途中で没落寸前まで落ち込む事など誰にも分からなかったのですから」

 それはトーマスの言うとおりだろう。公爵家に起きた竜巻は自然発生の物だ。ルクト侯爵にとってもそれは想定外だったのだと思う。ただ婚約解消しても二人をそのまま置いたのはひょっとしたらメリジェーンの考えかもしれない。
 アリーシャが自分の考えを口にすると、トーマスは頷いて答えた。

「おそらくお嬢様の仰るとおりだと思います。あの方は旦那様に執着されていましたから。ですがそれならば一緒に苦労する道を選べばよかったのです。それをせずにアリス様を恨むなどお門違いも良い所です」

「私、陛下にお父様の正式な子だと認めて貰えるのでしょうか?」

「大丈夫です。実は私あ奴等に命を狙われていまして、それで逃げ回っていました。アリス様の死の報せの直前の旦那様の対応に私が不審を抱かなければここまでお手を煩わせることもなかったのに。それもあ奴等の作戦の内で完全に私は踊らされてしまったのです。私が命を狙われた理由は旦那様とアリス様の婚姻証明の受領書の控えを持っていたからなのです」

「受領書の控えですか?」

 この国では役所に婚姻届けを提出すると受領書を2部貰えるそうだ。それを一部は公爵家の金庫に一部は念の為トーマスが保管していた。
 婚姻届は役所で処理したあと王宮管理になり王家の記録に残るのだが、前の執事はその移動時に何らかの方法でそれを抜き取った。公爵家に残された受領書は前公爵夫人を使って金庫を開けさせたらしい。何も考えない彼女なら簡単だっただろうと思える。

「まさか婚姻届の紛失を企んでるなど思いもよらなくて後手に回ってしまって、アリス様をお守りできずアリーシャ様にも要らぬ苦労をさせてしまいました」

 トーマスはソファから立ち上がり再度アリーシャに深々と頭を下げた。





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