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ウォルトの事件②
チェルミーの脳内が整理できずにいるけれど、ハインツの説明はそのまま続けられていた。
男子寮で、ウォルトを自分の従弟だと言った生徒は、元は王都に住む平民だった。
だが、父が騎士をしており、今は父の赴任先の領地に住んでいて、奨学金を貰って王都の学園に入学したのだという。
彼は幼い頃に、父の妹が子供を連れて家に遊びに来た事を覚えていた。
その子は眠っていて、一緒に遊べなくてつまらないと彼は思った。その後、洗濯をする為に家の外に出ていた母が帰ってきて、何か言い争う声がしたあと、彼は部屋を出された。隣人に預けられて家に戻ると、子供は居なくなっていて、叔母が子供が行方不明だと騒いでいたから、とても印象に残っているとウォルトに言ったそうだ。
だが、彼はその話を何故か小出しにしていた為、そこまで聞くのにウォルトは、かなり時間を要した。上手く誘導しようとしても、吃音症のウォルトの言葉を、彼はあしらうからあまり進まなかったのだという。
その事もウォルトの心を疲弊させた。
だがやっと全てを聞きだして、ウォルトは自分を誘拐したのは、彼の叔母ではないかと思った。
それをハインツに相談しようとした矢先、何故か彼がウォルトの持つ懐中時計を、自分の家から叔母が持ち出したものだと言い出した。
ウォルトが否定しても、聞き入れず、騎士団に言えば男爵家にも罰を与えられる、没落するのではないかと、寮の皆に嘯き始めた。
我慢がならなかったウォルトはあの日の朝、彼に自分は幼い頃に誘拐された事がある。それはお前の叔母が犯人なのではないかと、直接彼を問いただしてしまった。
あの時のメモは、その事を話したいと彼からのメッセージだったのだ。
そして廊下に出たウォルトを襲って懐中時計を盗んだ。
何故それを盗んだのかというと、彼は逃亡資金にするつもりだったのだと、言っているそうだ。
まだ、その叔母の居場所なども分かっていないし、誘拐事件の時、王都の騎士団には届けているが、世間には公表しなかった。
犯人が捕まるまでは、悪評が周り醜聞になる可能性があったからだ。
実際にウォルトは、誘拐されてから、騎士団の近くにあるゴミ集積場の木箱の中で眠っているのを発見された。
その木箱は、その日必ず誰かが開ける事が分かっていた箱だった為、犯人の意図が全くわからないまま、今に至ったのだという。
今回トイレに閉じこめられたウォルトが、閉所恐怖症だった事も、家族は初めて知った。
それまで、狭い場所に閉じ込められる機会など、ウォルトにはなかったからだ。
馬車が、平気だったから、そんな事も思わなかったのだろうと思う。
おそらく、狭いだけでは発症せず、そこに暗さが伴わなかったから、男爵達もチェルミーもウォルト本人も気付かなかったのだと思う。
ここまで聞かされたチェルミーは、ハインツにウォルトの様子を聞いた。
「実は、ウォルトの吃音の症状がかなり悪化していて、正直何を言ってるか分からなくて、何とか筆談で聞き出したんだけど、今はそれも難しい状態なんだ。。精神的にかなり参っている。医師の話によると、おそらく誘拐時の恐怖を今まで忘れていて、あの日閉じ込められた事で思い出したんじゃないかと思うって言うんだけど、領地に帰るまではそんな事なかったんだよ」
「そうなんですか?」
チェルミーの問には、ルースもハインツに同意した。
「僕が見送る時も普通だったように見えたよ」
「じゃあ、どうして?」
「それが分からない、もし、このまま症状が変わらなければ、学園は休学させるかもしれない」
「そんな!」
チェルミーはウォルトの身に起きた数々の出来事が、不憫でならなかった。どうしてウォルトばかりが、辛い目にあわなければならないのか。
もしかしたら、吃音症も誘拐が原因かもしれないと思えた。そして、ふと気付いた。
「ウォルトの懐中時計は?」
「今は騎士団に保管されてるんだけど、証拠品としてね。ただウォルトの症状が酷くなってから、その平民の彼を捕縛したから、ウォルトの
物という証拠がないんだ。ウォルトに聞いても、そのときはすでに筆談も出来る状態ではなくなっていたから」
「あります!証拠!」
「えっ?」
驚くハインツに、チェルミーは内ポケットからお揃いの懐中時計を取り出した。
「これ、入学前にウォルトがお揃いでプレゼントしてくれたんです。買ったのは子爵領の宝飾店です」
「チェルミー!助かった!」
男爵達は、ウォルトの懐中時計に見覚えがなくて、ウォルトの物だという証拠を見つけられずにいたのだ。どこで買ったのかもわからずに、途方にくれていたという。
運悪く、偶然だったが、ウォルトの侍従が、ウォルトが学園に入学するまでの契約だった事も関係していた。彼にはまだ聞き取りできていなかったようだ。
「ウォルト、自分のお金で買ってくれたのね。ハインツ兄様、時計の中を開けてみてください。中にウォルトの名が刻印してあります。外にしなかったのはデザインが損ねると言ってウォルトが嫌がったの」
「そうなのか!分かった、明日すぐに騎士団に言いに行ってくるよ」
入学してウォルトの身に起こったこの事が原因で、結局ウォルトはニ年の休学を余儀なくされた。
そしてこの事が、後にチェルミーが呪いにかかるきっかけになるなんて、彼女は夢にも思わなかった。
やさしい悪魔は、チェルミーの側でその機会を常に狙っていたのに。
男子寮で、ウォルトを自分の従弟だと言った生徒は、元は王都に住む平民だった。
だが、父が騎士をしており、今は父の赴任先の領地に住んでいて、奨学金を貰って王都の学園に入学したのだという。
彼は幼い頃に、父の妹が子供を連れて家に遊びに来た事を覚えていた。
その子は眠っていて、一緒に遊べなくてつまらないと彼は思った。その後、洗濯をする為に家の外に出ていた母が帰ってきて、何か言い争う声がしたあと、彼は部屋を出された。隣人に預けられて家に戻ると、子供は居なくなっていて、叔母が子供が行方不明だと騒いでいたから、とても印象に残っているとウォルトに言ったそうだ。
だが、彼はその話を何故か小出しにしていた為、そこまで聞くのにウォルトは、かなり時間を要した。上手く誘導しようとしても、吃音症のウォルトの言葉を、彼はあしらうからあまり進まなかったのだという。
その事もウォルトの心を疲弊させた。
だがやっと全てを聞きだして、ウォルトは自分を誘拐したのは、彼の叔母ではないかと思った。
それをハインツに相談しようとした矢先、何故か彼がウォルトの持つ懐中時計を、自分の家から叔母が持ち出したものだと言い出した。
ウォルトが否定しても、聞き入れず、騎士団に言えば男爵家にも罰を与えられる、没落するのではないかと、寮の皆に嘯き始めた。
我慢がならなかったウォルトはあの日の朝、彼に自分は幼い頃に誘拐された事がある。それはお前の叔母が犯人なのではないかと、直接彼を問いただしてしまった。
あの時のメモは、その事を話したいと彼からのメッセージだったのだ。
そして廊下に出たウォルトを襲って懐中時計を盗んだ。
何故それを盗んだのかというと、彼は逃亡資金にするつもりだったのだと、言っているそうだ。
まだ、その叔母の居場所なども分かっていないし、誘拐事件の時、王都の騎士団には届けているが、世間には公表しなかった。
犯人が捕まるまでは、悪評が周り醜聞になる可能性があったからだ。
実際にウォルトは、誘拐されてから、騎士団の近くにあるゴミ集積場の木箱の中で眠っているのを発見された。
その木箱は、その日必ず誰かが開ける事が分かっていた箱だった為、犯人の意図が全くわからないまま、今に至ったのだという。
今回トイレに閉じこめられたウォルトが、閉所恐怖症だった事も、家族は初めて知った。
それまで、狭い場所に閉じ込められる機会など、ウォルトにはなかったからだ。
馬車が、平気だったから、そんな事も思わなかったのだろうと思う。
おそらく、狭いだけでは発症せず、そこに暗さが伴わなかったから、男爵達もチェルミーもウォルト本人も気付かなかったのだと思う。
ここまで聞かされたチェルミーは、ハインツにウォルトの様子を聞いた。
「実は、ウォルトの吃音の症状がかなり悪化していて、正直何を言ってるか分からなくて、何とか筆談で聞き出したんだけど、今はそれも難しい状態なんだ。。精神的にかなり参っている。医師の話によると、おそらく誘拐時の恐怖を今まで忘れていて、あの日閉じ込められた事で思い出したんじゃないかと思うって言うんだけど、領地に帰るまではそんな事なかったんだよ」
「そうなんですか?」
チェルミーの問には、ルースもハインツに同意した。
「僕が見送る時も普通だったように見えたよ」
「じゃあ、どうして?」
「それが分からない、もし、このまま症状が変わらなければ、学園は休学させるかもしれない」
「そんな!」
チェルミーはウォルトの身に起きた数々の出来事が、不憫でならなかった。どうしてウォルトばかりが、辛い目にあわなければならないのか。
もしかしたら、吃音症も誘拐が原因かもしれないと思えた。そして、ふと気付いた。
「ウォルトの懐中時計は?」
「今は騎士団に保管されてるんだけど、証拠品としてね。ただウォルトの症状が酷くなってから、その平民の彼を捕縛したから、ウォルトの
物という証拠がないんだ。ウォルトに聞いても、そのときはすでに筆談も出来る状態ではなくなっていたから」
「あります!証拠!」
「えっ?」
驚くハインツに、チェルミーは内ポケットからお揃いの懐中時計を取り出した。
「これ、入学前にウォルトがお揃いでプレゼントしてくれたんです。買ったのは子爵領の宝飾店です」
「チェルミー!助かった!」
男爵達は、ウォルトの懐中時計に見覚えがなくて、ウォルトの物だという証拠を見つけられずにいたのだ。どこで買ったのかもわからずに、途方にくれていたという。
運悪く、偶然だったが、ウォルトの侍従が、ウォルトが学園に入学するまでの契約だった事も関係していた。彼にはまだ聞き取りできていなかったようだ。
「ウォルト、自分のお金で買ってくれたのね。ハインツ兄様、時計の中を開けてみてください。中にウォルトの名が刻印してあります。外にしなかったのはデザインが損ねると言ってウォルトが嫌がったの」
「そうなのか!分かった、明日すぐに騎士団に言いに行ってくるよ」
入学してウォルトの身に起こったこの事が原因で、結局ウォルトはニ年の休学を余儀なくされた。
そしてこの事が、後にチェルミーが呪いにかかるきっかけになるなんて、彼女は夢にも思わなかった。
やさしい悪魔は、チェルミーの側でその機会を常に狙っていたのに。
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