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第11話 風の朝
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2月13日
午前
夜明け前の町は、白く霞んでいた。
吐く息がすぐに凍りそうな冷気の中、庁舎は重く凍っているようだった。
議会当日。
町の空気が、いつもより少しだけ静かだった。
田嶋広海は、誰もいない議会棟の廊下を歩いていた。
靴音が響くたび、胸の鼓動まで聞こえてくるようだった。
手には原稿の束。何度も書き直し、夜通し推敲を重ねたものだ。
……「いい風を吹かせろ。お前の言葉でな。」
町長・大迫の言葉が何度も頭をよぎった。
議場の扉を開けると、薄暗い室内に朝の光が差し込んでいく。
静かな空間。
誰もいない椅子の列を見渡し、
ここに町中の視線と想いが集まるのだと思うと、背筋が自然と伸びた。
「早いですね。」
声のする方を見ると、水野が立っていた。
手には湯気の立つ紙コップ。
「眠れなかったでしょう?」
「ええ、ほとんど。」
「ですよね。……でも、大丈夫。全部、伝わります。」
広海は微笑み、扉を閉め、コーヒーを受け取った。
「みんながいたから、ここまで来られました。」
「違います。ここまで『風を吹かせてくれた』のは田嶋さんですよ。」
水野の声が静かに響く。
言葉の奥に、確かな信頼があった。
*
午前9時。
町長室のドアが開き、町長・大迫が姿を現した。
分厚いコートを脱ぎ、議場へと向かう足取りは重くも堂々としている。
「おう、田嶋。」
「はい。」
「準備はできたか。」
「はい。」
「……なら、あとは風任せだ。」
「風任せですか?」
「そうだ。風はな、無理に押すと止まる。
お前が信じてるなら、ちゃんと通る。」
そう言うと、町長は短く笑った。
その顔には、もう『昭和の豪腕』とは違う柔らかさがあった。
*
控室の窓際では、橋爪と高瀬が議案資料を確認していた。
「福祉関係の申請書、整合とれてる。」
「建設側も、受け入れ先の空き家候補を3軒まで絞りました。
改修方針とセキュリティー計画、あと設備管理の基準案も固めています。」
「さすがだな。」橋爪が頷く。
「最初の拠点は、もう『施設』として見えてきた。」
高瀬は図面を指で叩いた。
「人を預かる以上、安全性と安心感を最優先にします。
町のモデルになるように。」
「……いい風が吹いてるな。」
「ほんとにな。」
ドアが開く音。
入ってきたのは、白いコートの女性……林 明里だった。
「間に合いましたか。」
「林さん!」
水野が立ち上がる。
「今日は傍聴で?」
「はい。あの『風』がどう通るのか、見届けたくて。」
彼女の声は静かだったが、どこか凛としていた。
「言葉は届きますよ。きっと。」
そう言って、広海の肩を軽く叩いた。
「私たちは外から風を送ります。あなたは中で通してください。」
広海は深く頷いた。
胸の奥で、何かが温かく灯る。
*
午前10時。
開会のチャイムが鳴る。
議長が正面を見据える。
……風は、もうそこにあった。
午前
夜明け前の町は、白く霞んでいた。
吐く息がすぐに凍りそうな冷気の中、庁舎は重く凍っているようだった。
議会当日。
町の空気が、いつもより少しだけ静かだった。
田嶋広海は、誰もいない議会棟の廊下を歩いていた。
靴音が響くたび、胸の鼓動まで聞こえてくるようだった。
手には原稿の束。何度も書き直し、夜通し推敲を重ねたものだ。
……「いい風を吹かせろ。お前の言葉でな。」
町長・大迫の言葉が何度も頭をよぎった。
議場の扉を開けると、薄暗い室内に朝の光が差し込んでいく。
静かな空間。
誰もいない椅子の列を見渡し、
ここに町中の視線と想いが集まるのだと思うと、背筋が自然と伸びた。
「早いですね。」
声のする方を見ると、水野が立っていた。
手には湯気の立つ紙コップ。
「眠れなかったでしょう?」
「ええ、ほとんど。」
「ですよね。……でも、大丈夫。全部、伝わります。」
広海は微笑み、扉を閉め、コーヒーを受け取った。
「みんながいたから、ここまで来られました。」
「違います。ここまで『風を吹かせてくれた』のは田嶋さんですよ。」
水野の声が静かに響く。
言葉の奥に、確かな信頼があった。
*
午前9時。
町長室のドアが開き、町長・大迫が姿を現した。
分厚いコートを脱ぎ、議場へと向かう足取りは重くも堂々としている。
「おう、田嶋。」
「はい。」
「準備はできたか。」
「はい。」
「……なら、あとは風任せだ。」
「風任せですか?」
「そうだ。風はな、無理に押すと止まる。
お前が信じてるなら、ちゃんと通る。」
そう言うと、町長は短く笑った。
その顔には、もう『昭和の豪腕』とは違う柔らかさがあった。
*
控室の窓際では、橋爪と高瀬が議案資料を確認していた。
「福祉関係の申請書、整合とれてる。」
「建設側も、受け入れ先の空き家候補を3軒まで絞りました。
改修方針とセキュリティー計画、あと設備管理の基準案も固めています。」
「さすがだな。」橋爪が頷く。
「最初の拠点は、もう『施設』として見えてきた。」
高瀬は図面を指で叩いた。
「人を預かる以上、安全性と安心感を最優先にします。
町のモデルになるように。」
「……いい風が吹いてるな。」
「ほんとにな。」
ドアが開く音。
入ってきたのは、白いコートの女性……林 明里だった。
「間に合いましたか。」
「林さん!」
水野が立ち上がる。
「今日は傍聴で?」
「はい。あの『風』がどう通るのか、見届けたくて。」
彼女の声は静かだったが、どこか凛としていた。
「言葉は届きますよ。きっと。」
そう言って、広海の肩を軽く叩いた。
「私たちは外から風を送ります。あなたは中で通してください。」
広海は深く頷いた。
胸の奥で、何かが温かく灯る。
*
午前10時。
開会のチャイムが鳴る。
議長が正面を見据える。
……風は、もうそこにあった。
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