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しおりを挟むあの後すぐに迷宮に入った。モヒカン達が来る前は宿に戻って明日にしようと何度も言っていたゾドムも黙った。
逆にモヒカン達が今から入るのは危険だ何だと騒ぎ立てた。どうやらここに来るまでに仕入れた情報で我が尻込みするかと思ったのか、ベラベラとよく回る口で迷宮に化け物が出たとかなんとか言った。
成る程、宝石が不足したのはそのせいか。
ゾドムは欲しかった情報も手に入ったし、このまま迷宮に潜れば明日にしたがっているこのモヒカン達へのいい嫌がらせになると思って黙ったのだろうな。いい趣味だ。……褒めて遣わしたのに、何でそんなに嫌そうにするのだ?
モヒカン達は渋りまくったが、我が笑顔で悪意無く、こわいの?と子供らしく煽ったらそんな訳ない!と高らかに返事をした。言質取ったり。
そして我々は早々に迷宮へと入り、宝石が多く採れるという奥の方へ向かって進んでいる。
「いやぁー、ほんっとーに、迷宮入る前に俺らが追いついて良かったなあ?」
「Bランク冒険者パーティーも逃げ出した化け物相手にゾドム1人じゃどう考えても勝てねえもんなぁ?」
「テメエらは居ても居なくても同じだろうが…」
ゾドムは我とモヒカンたちの間に立つようにして進んでいる。意外や意外。まあ、我も秘技、人見知りのフリを発動し、ゾドムを盾(物理)にしている訳だが。
途中出てきた魔物はゾドムが慣れた手つきで掃討し、更に途中途中にある小部屋をモヒカン達が大喜びで物色しにいき魔物が出てきて驚いて逃げてゾドムが掃討…を、繰り返した。
「テメエら、…も…、暫く…!おとなしく…してろ……!」
流石に疲れたらしい。だらしのない男どもめ。リィは寝に入ってしまったし我もヒマだし、そろそろ動くとするとしよう。…一応不慮の事故で"やっちゃった"時のために確認しておかなくてはな。
「ゾドム。あの2人は古い付き合いなのか?」
「ん?…ああ、…エディンに着くまで一緒に行動しててな。その後は俺は冒険者に、あいつらはグトーの手下になることにした。…それだけだ」
その様相からその時にも何やら一悶着あったようだが我には関係ないので突っ込まなくてもいいな。
「一応確認だが、アイツらが勝手に魔物に突っ込んで行って食われたとして、何か不都合はあるか?」
「不都合は無えが助けられるなら食われる前に助けてやってくれ」
………チィッ!
更に進んで行けば、鉱石がちらほら見え始めた。足元も土だけだったのが少し石が混じり始めている。
真っ直ぐな一本道を進んだ先には、2つの別れ道が。どちらに行くか相談する前にモヒカン達が勝手に右の方に走っていった。……何かあるな。
「どうする?」
「放っておく訳にもいかねえだろ…!」
あいつら、絶対、後で殴るとゾドムの顔がいっている。我も便乗してよいかな。腹パン3連打で手を打ってやるから。
奴らを追って進んでいくと少し開けた場所に出た。
「…何だよ、アレは…!?」
呆然と立つゾドムの視線の先には、仄白く発光する大樹があった。そしてその手前には大樹を守るようにそれが横たわっていた。
長い長い胴体は、幾重にも重なってとぐろを巻いていた。皮膚を守るように滑る表面はてらりとしている。下手に物音を立てれば、今は隠れた口元から覗く牙が剥き出しになり、襲いかかってくる事だろう。
「ヘビだな。………肉厚な」
「…いやそれは見れば分か…何て?」
「なんでもない」
料理長のレシピ本にヘビのステーキとか載ってるといいな。
「あいつらどこに行きやがった…!!」
今は寝ているが起こしてはまずいとゾドムが声を顰めた。モヒカン達の場所?
「あそこの岩の影に先程から隠れておるだろう?」
この洞窟の暗がりに紛れて我の影を紛れ込ませておいたから、間違いない。
我が居場所を把握しているなどとは露にも思っていないらしく、先程から驚くゾドムをあの2人は嘲笑っている。
「オイ、ウスノロ!!」
突然モヒカンの1人が大声をあげて、足元の石を思いきり蛇へと放ってぶつけた。
「ッ!?」
「おお…いい肩しとるな」
まああんなにデカい的に当たらない方がおかしいが。しかしヘビに対してウスノロとは。お前達のその鈍足では我らを囮にでもせん限り逃げきれんくせに。
ヘビが素早く頭を持ち上げ、大きく口を開けて威嚇姿勢に入った。ゾドムも即座に剣を抜いて戦闘態勢へ。モヒカン達はあのムカつくニヤついた顔で即座に逃げていった。
「アイツらッ…!」
ゾドムはもう、怒りと呆れで声も出ないらしいな。あの部類の者たちに怒るだけ体力の無駄だろう。料理長なら即座に生ゴミとして肥料がわりに畑に蒔いて埋めるくらいに腐ってるのだろうから。
「おい。俺がコイツを引きつける、その間にお前はあのバカ共連れて外「わかった。貴様が引きつけている間にこのヘビぶつ切りにしてしまえという事だな」…は?」
お休み中のリィだけ結界で囲ってその場に置いて、ゾドムよりも前に出る。ヘビの注意が我へと向く。
「やれやれ、これだから脳筋は嫌なのだ。体力配分を考えないからいざという時戦えぬ。挙げ句の果てには自分が囮になるから逃げろなどと言い出す始末。あーあー、やだやだ」
「あ、のなぁ?!俺はお前の護衛として…!」
「そういうセリフは、護衛対象である我より強くなってから宣う冗談だ」
まあ、もし我より強くなったなどと宣ったら、それこそ何の冗談だと思うが。
邪魔されてはたまったものではないので、影を操ってゾドムの動きを止め、我は前へとん、と跳ねる。ごく普通に跳ねた我へとヘビの頭が狙いを定めて口を開き迫ってきた。
…が、まあそれだけだ。
我はヘビの頭をすり抜けて、蛇が守っていた木のそばへと着地した。…ああ、正確に言えば、頭の部分だけ胴体から吹っ飛ばして、元々は頭があった場所を通って着地した。
魔法かって?そんなもの、首を跳ねる程度には不要だ不要。料理長は包丁使ってやっていたのを、我は魔力をただ刃物のように鋭く放っただけだし。
振り返ってみれば見える断面。…やはり刃物よりは荒いな。そして転がっている頭部と、動けない為剣を構えたままヘビの頭、我、断面と目線を動かすゾドム。
「…レシピ本のヘビ料理の項目をもう少し良く読んでおくべきだったな…」
我の切り口が鮮やかすぎたのか、切り飛ばした頭部だけ俊敏に動いて、最期の晩餐としてゾドムを食らおうとしている。
料理長、すまん。こういう時の対処法、書いてあったのだろうが読んでいなかった。と、言うわけで。
「《静止》」
ヘビの頭部周辺の影を操り、動きを止めた。迷宮内はどうも薄暗くていかん。この部屋においては我の後ろの木のお陰で影ができたがな。ある程度の光が有れば、それに対応するだけの影ができる。
それでもまあ影が薄いため、強制力はいつもよりも低いが、死にかけだし問題ないな。
それにしても、世の中の料理人やマダム達はヘビ料理の際にこんなに苦労しているのか…。トドメの刺し方について知らなかった我と違い、この巨体では無いにしろ我程度の大きさのヘビを一撃で仕留め捌いていた料理長にはもう尊敬しかないな。
料理長への畏敬の念を飛ばしていると、ヘビ周辺の影が我の魔法から抜けた。うむ。掃討完了。ゾドムの拘束も解除してやった。先程から離せだのなんだの煩くて話聞いてなかった。
もしかして、ヘビの仕留め方知ってたのかもしれないと聞いてみたが、そんな特殊なもの知るかボケと言われた。……けっ!
↓
↓
↓
後日レシピ集珍味編にいきついた。
「!あった!あったぞリィ!流石料理長だ!」
『どうしてヘビ項目なんてレシピ集にあるのヨ』
「昔、我用の食料に何度か毒ヘビが仕込まれていたからだと思う」
黙り込んだリィをよそに、我は上機嫌で皮剥がしに取り掛かった。
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