前世魔王の伯爵令嬢はお暇させていただきました。

猫側縁

文字の大きさ
44 / 136

44.

しおりを挟む


「…と、言うわけで凍らせてみた。
反省も後悔もしていない」

というか、我が反省なんてする必要無いと思う。

エディンの冒険者ギルドにて、我は今事情聴取をされている。
……何故だ!!

『森一つ凍らせたらそうなるわよネ』
「ちゃんと溶かしたのに!」
「そりゃあ森どころかあの辺一帯が急に氷漬けになって、その後一瞬で炎に巻かれて消えるところが見えればそうなるだろ」
「森には一切被害を出していないのに!?」

それもだが、そこじゃねえよとゾドムが言う。リィも呆れた顔をするが、何が違うと言うのだろうか。

「アレだけの魔物を取りこぼしなく、時間をかけずかつ被害を出さずに駆除するには、動物の習性を利用するのが1番確実だろう?」

そうだとも。我はあくまでも、ドムチョがなる早って言ったからそうしただけだもの。そこを強く主張したところ、エルサ殿が(我の常識知らずに気付いていながら)規模のコントロールを忘れるような注文をしたドムチョにも責任があると認めたので同罪と判断した。連帯責任というやつだな!我はドムチョが9割悪いと思う!

早くしろって言われたからやったんだもんという更なる主張は華麗に無視された。しょぼん。

「極寒の中で動きを止められてしまえば、動物は眠りにつくことしか出来ない。内臓まで凍りつき、動かなくなってしまえば手を下すこともなく息絶える」

生物なんてそんなものだろう。

「たった数度の体温上昇・下降で呆気なく死ぬ。人間も含めてな。全くもって儚すぎるものだな」
「……。ちょっと待て。つまり間一髪巻き込まれかけた俺は、危うく死ぬところだったってことか?」
「…………料理長のレシピ集どこだっけな~」
「おいコラ」

現場に着いて我は迷わず魔法をぶっ放すことに決めた。というか、決めた瞬間に発動させた。

マズイと思ったリィがマッチョを連れて逃げたために、凍らなかったんだからいいじゃないか。もし息の根止まっても蘇生してやる予定だったし、怒らなくても良いではないか。3秒ルール、3秒ルール!

……我のすぐ近くにいれば凍ることは無かったという事実は言わないでおこう。

「まあともあれ、1番良い方法だと思い、実行した。何か異論はあるか」

ギルマスは頭を抱えて悩んでいる。
…まあ、それもそうだろうな。

『森にも被害はなく、大量の魔物だけを駆逐、怪我人も実害も無し、まあご主人を責められる訳ないワよね』
「だろうな」

問題があるとすれば、

「アリスちゃんが大規模すぎる魔法の使い手だって事を大々的に宣言するような状況になってしまったことはマズイかもしれないわ。森に一切被害を出さず、魔物だけを綺麗に殲滅して元に戻す。それはかなりの魔力量と魔法コントロールがなければ出来ない。
アレは遠目からも見られていたし、今日は王都が拠点の冒険者達も多かったから、もう噂になってるもの」
「また呼び出しがかかったしな……」

アレだけの事を出来る冒険者がほぼ野放しという状況が知れ渡った事だろうな。そもそも我はこの時代の魔法の使い手がアレを出来ないなんて事を知らなかったのだが。

我が魔物を掃討し、護衛に戻り(こちらでも物凄く心配された。特に商隊長の父から熱烈に。ちょっと暑苦しかった)、その後エディンに到着してすぐに依頼の荷物と一緒に道中駆除した魔物を提出した為、状態から我がアレをやった本人と断定され、ギルマス達に呼び出されたのだ。
で、説明を求められ冒頭につながり今に至る訳だ。

「…まあ、アレだ。お前の登録の時から色々と間が悪かった結果が積み重なった今だからな…。とりあえずあの大規模魔法については俺らの方できっちり報告しておく。近々推薦状の件も含めて王都に呼び出しがあるだろうから、それまでは大人しくしててくれ。依頼も極力受けなくて良い」
「いやしかし、それでは稼ぎが…」
「…そんなにギリギリなのか?」

いや、我も知らんのだけど。
いつも報酬を貰う際に、職員が我の稼ぎの残高を見て物凄く顔を顰めるかドン引きするから、そんなにギリギリで我はやりくりしてるのかと思って。

……わかってる。分かっているのだ。
たしかに、少しだけ…そう、ほんの少しだけ、最近は収納しとけば腐らないから買い食いの際には多めに買い込んだり、商家の令嬢マチルダ嬢から珍しい食材をちょっと値が張るけど買ったり、仕立て屋のシル嬢からちょっといい布を購入してたからな…。出費が多かったというところは否めない。必要経費と我は思ってはいるのだが。

しかし、それを埋める為に我は働く事に精を出したとも!それこそ、ゾドムに聞かれて答えた完了件数を5日でこなす程に。残念ながらそれでも残高が目に入った職員の反応は変わらなかった。

「…そんな訳で、我、自分の財産規模しらんのだ」

その内その日暮らしのアリスちゃんになってしまうだろうか。少し散財は我慢して、依頼こなしまくって資金貯めて早く一軒家とかに移り住んで、骨を埋める場所を見つけるべきなのだろうか。

エルサ殿とギルマスが苦笑。ゾドムとリィは呆れている。…リィ、言っておくが、散財の一部にリィの野菜代も含まれてるんだからな?

「今回の素材の買取金の確認ついでに見てくるわ。アリスちゃん、これからはきちんとお金の管理はしなきゃダメよ?」
「うむ!」

…これでエルサ殿始め何人かのギルド関係者には、我が金の管理についてちょい不安なところがあるという知識がつくから、基本的に残高を把握していなくとも、使い過ぎていたりすれば向こうから余計なお節介で声をかけてくれるだろう。

何せ、我はこのエディンでは不遇の環境のせいで冒険者にならざるを得なかった可哀想な元ご令嬢の少女という認識だからな!!
…まあ、そこまで間違っていないが。

それはさて置き。

「ギルマス、あのガトーショコラ「グトーな。グトー・ガルボデラグ」…とやらはどうなった?モヒカン達の登録含め、だいぶ迷惑をかけたようだが」
「お前は何も悪くねえから気にすんな。新人が脅されて手続きしちまったが、ウチに実害は無えよ。むしろ悪かっな。ウチのが手続きしたばかりに、余計な足手纏いをつけちまって。
だがもう安心してくれ。アイツらエディンからも実質追放されたからな。もう二度とあのバカにここらの敷居は跨がせねえ」
「追放?よく出来たな。あのグトーが素直に追放されたのか?!」
「ああ。"クズはクズ箱に投げ入れて蹴り飛ばせ"って言ってな。"将軍"が直々に街の外まで蹴り飛ばしたんだ。人間ってあんなに吹っ飛ぶのな?その後は塩蒔きまでする念入りさだったな!」

脅されたギルド職員は大丈夫だろうか。心身ともに疲れていないだろうか。どれ女性ならば我が慰める名目でお近づきに……なろうと計画を練っていたのだが、覚えのありすぎるクズの処分方法にそれを考えるのは後回しになった。


しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

処理中です...