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しおりを挟む王都を訪れ、早数日。
我は現在…
「アリスちゃん!次!6番テーブルにお願いっ!」
「うむ!」
「アリスちゃぁん!注文お願い~」
「今行くぞ~!」
絶賛、アルバイト中である。
何故って。そこに求人広告があったからに決まっておろうが。
王都に来たあの日、スイーツを求めていた我は路地裏のカフェ?バー?に辿り着き、そこで極上のアイスを味わった。
それはもう、至福の時であった。
『ご主人の齧り付き具合、酷かったワよね…』
「失敬な。我はただ、店にあった在庫分全て平らげただけだぞ」
大変美味であった。
と、いう訳で、我はそれを作った料理人からレシピを得る為に、偶々目についた求人広告を手段として、アルバイトを始めたのだ。
ついでに…いや、ついで以上に良き収穫があった。
何故ならばこの店、昼間のカフェの時間帯は、
「いらっしゃいませ~!」
可愛いウェイトレスがいる。しかも制服がかわいい。我の好みドストライク。なんと!ミディ丈!我、生きてて良かった!!
という訳で、我も制服を着てバイトしている。初めて腕を通したのが昨日の事で、とりあえず、着てから暫く全身姿見の前でくるくる回った。我、可愛い!
超テンションの上がった我は、上機嫌を余す事なく表に出して、心からの笑顔で接客をした。
結果、此処連日この店は売り上げは倍増。うむうむ。我、満足。
…しかし、ひとつ誤算があったとするのなら、それは我の舌を唸らせたあのアイスの考案者が、此処の店の料理人では無かった事だろう。
「…うーむ」
「…やっぱり、緩いよね……」
「うむ…」
アレはどうやら我と同じく臨時バイト的に入った料理人が作り、一応レシピは置いていってくれた代物らしい。
他にも何個かレシピを残してくれたらしいが、今いる料理人では味の再現が難しいものがあり、アイスもそのうちの一つらしい。
食感と味がイマイチな筈だ。
知ってたら、ストックして大切なおやつにしたのに……!
「冷たさが足りないというのは、まあ我が出す直前で魔法をかければ解決だが、それは恒久的な問題解決にならぬしな…」
バイトを終えて今日もリィと共に街の散策だ。今は肉の気分。
『凍結機を新しくすれば?』
「うむ、それも考えたが、あの店に今より優れた凍結機を導入できる資金力は無い。それにその問題を解決できたとしてもな…」
『…何か、他にもマズイ事があるのかしラ?』
「んー、いや、…大したことはまあ、無いのだが」
どうしよっかな。我、レシピは覚えたし、この制服もくれるっていうから満足だし、正直あの店の食べ物で気に入ってたのあのアイスだけだし、用済みといえば用済みなのだが。
なんだかなー、まあ、まずくは無いのだが、全体的にな、味が薄めというか…こう、ガツンとした旨味が足りないというか、汗水流した後に食べるには物足りないのだ。あの店の料理。
『…重労働してる人呼べない店ッテ、結構な問題じゃナイかしら?』
「うむう…」
あの店のウェイトレス達はいい子達だし、制服も可愛いので出来ればもっと繁盛し、季節に合わせて制服の衣替え出来るくらい稼いで欲しくもあるのだが、味付けがあのままでは、我が居なくなった後衰退するのは目に見えている。
「料理長も、財布を握るには胃袋からと言っていたしな…」
『…ご主人の場合、接客で客の庇護欲くすぐりまくってるから、問題ナイみたいだケドね……』
「うむ。りぴぃたぁは強力な資金源だからな」
料理が多少イマイチでも、我にチップを払うために来てる客は多い。だからこその売り上げ倍増なのだ。
「む!串焼き!」
今日も今日とて露店の肉焼きに手を伸ばす。此処数日で我の顔を覚えてくれた店主は、我が来ると既に出来上がった串焼きが山のように入った包みをすぐに渡してくれるのだ。
「アリスちゃん、今日もありがとうねぇ」
「なんのなんの。ここの串焼きは美味だからな!」
また明日来ると言って、我は串焼きに早速齧り付き、絶妙な肉の食感と、油の甘みを際立たせる塩気を楽しむことにした。良い子のみんなは串物の食べ歩きはするなよ?我はいいの。どうせ串喉に刺さらないから。刺さる前に溶けて消えるもん。
他の露店も順に周り、どこも我用に大抵多く包んでくれていたりオマケをくれたりする。顔見知りの上客になると待遇が違うというのはどこの世界でも共通なのだな。
先程の店では、お世辞でも嬉しいと言いつつオマケと塩をくれた。足りなかったらかけてくれだそうだ。………塩?
「これか!」
『キャッ。…どうしたのご主人』
「リィ、そろそろエディンに戻るぞ」
とりあえず、バイト先の料理人兼店主をシメてから。
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