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しおりを挟むどっこいどうやら、ルシアは我と偶に遊んでた下位精霊だったらしい。とんでもない成長だな。特に身長と胸のあたり。どこぞのツルペタ商人にも見習って欲しい。
『深潭の君の魔力のお陰で無事成長致しました。ありがとうございます、主人様』
…うん、別に与えたつもりはなかったのだが。
我の魔力を飲み込んだ程度で上位精霊になれるものなのだろうか。全くもって謎である。だが…
「…とにかくだ、我の居ぬ間になにやら色々あったようなのだが、その我も記憶が不鮮明なところが多い。
その辺りについては一先ず保留とし、目下の問題だ」
『ご心配には及びません。アリス様が不都合と思われる事については皆間で話すつもりは一切ございませんもの』
曰く、我の魔力を取り込んで成長した為、我との感覚的な繋がりを得たらしい。その繋がりから、自分の問おうとしている内容が、適切か不適切か判断可能だという。それは凄いな。
『で、ですので、その…。あ、アリス様の考えたような美味しいことは、あの、ご、ございませんでしたので…!』
「うむ。わざとか?」
いや、今は目撃者も何も居らんからいいけど。そんな、両頬に手を当てて頬染めて言わんでくれ。考えていることがバレるなど、ただの罰ゲームではないのか?時止まってて本当によかった。我の威厳的な問題で。
まったく、こいつはある意味爆弾だな。
『そのような事はございません!アリス様のお側にいられるなら、私、口を滑らせるなんて事はありえませんもの!!』
それはつまり、放置したら有る事無い事ばら撒くと?
ルシアは圧倒的な笑顔を浮かべるだけだった。
「…分かった。分かった。それでいい。我は自由の制限が嫌いだからな。ルシアの好きにするがいい」
リィ達には、我の魔力を取り込んだおかげで無事眠りから覚め、まだまだ木の中で眠っている仲間達を目覚めさせて欲しいらしく、我に着いて回る事にしたそうだと伝えようと思う。
…まったく、元配下達といい、我の魔力を分け与えた者たちってなんでこう…。……まあいいか!(諦めた)
そして我は魔法を解く。リィも料理長も、我が魔法を使ったことにすら気付いていない。
「…アリス様、そちらの精霊とのご関係は」
『私はルシアと申しますわ。アリス様のお力により、目覚めることができましたの。ですから、私は誠心誠意、アリス様にお仕えいたしますのよ』
言いつつルシアは我を抱き込むようにして更に密着してきた。うむ。リィ達からの視線は痛いが、どこにとは言わぬが埋まってる我の顔は幸福なり。
というか…リィの言葉は分からんらしいが、どうやら上位精霊の言葉は聞こえるらしい料理長は、とりあえず事情を飲み込んだらしい。
「…そう、ですか。アリス様はいいんですね?」
「ん?…うん。精霊樹にはまだ眠ってる精霊がいて、そっちも何とかしてほしいみたいだし」
「では、私から異論を唱える事はありません」
え。
「アリス様に仕えているのが私、魔獣だけでは侮られるでしょう。そちらの…ルシア殿は上位精霊。それが仕えているならば格が上がりましょう」
そういうものか?と疑問に思ったが、そういうものですと押し切られた。
リィは言いたいことがありそうなのだが、後でたっぷり問い詰めようという腹らしい。
それならばそれでよし。
「さて、料理長。今後のことなのだけれど…」
「はい。ご安心ください。今から土地を確保しアリス様にふさわしき邸宅をつくらせますので」
いやなんで?
「え?こんな宿では、アリス様に相応しき環境とは呼べませんし、何よりアリス様に召し上がっていただく料理も満足に調理できません」
「…料理長が、私のご飯全部作るの?」
「当然です。……もしや、私の料理は口に合わなかったのですか?だから私を置いて伯爵家を出て行ったのですか!?私が居ぬ間にあの毒婦からの飲み物も飲んでしまったのは、そのせい…?!
アリス様は家を出てから今日まで、何処の馬の骨とも分からない野郎が作った食べ物をたべていたのに、これからも料理人以外の料理を主食にするおつもりなのですか…!?私が居るのに…!!?」
「り、料理長、落ち着いて…?!」
料理長が乱心した。どうしよう。
『はーい。失礼致しますね、つまり料理長様はアリス様に今まで同様お仕えしたいというこですよね?』
「当然だ」
『アリス様は、最早令嬢でもないのに、料理長様に仕えてもらう…というか、料理長様がアリス様を養う気しかない様子なのが気がかりという事ですよね?』
「う、うん」
成る程成る程、と仲介を割って出たルシアがでは、と切り出した。
『アリス様と料理長様、お二人で家設備及び敷地、また基本的な生活に関わる経費を折半、食費に関しては料理長様に一任する事になる以上お任せし、経費が嵩むと判断される場合はアリス様に報告というのはいかがでしょうか?』
「いやしかし…」
「それなら少しは前向きに考えてもいい」
恐らく料理長は大人のプライドとして今すぐに必要経費は自分持ちでと主張する気だ。どうしても家を構えて共同生活するというのなら、我とて中身は元魔王。養われるだけの生活というのは些か気が引けすぎて脱走しまくりそうだ。
そこで料理長が口を挟む前に妥協してもいいと明言した。
「私も冒険者になったし、ちゃんと稼げる。家を作るなら、私もそこは譲れない」
料理長は悩みに悩み、搾り出すように了承した。そんなに我に自分以外の飯を食われるのが嫌なのか…。とはいえ、我、普通に露店の串焼きを食べるのはやめないけどな。
「それから、居心地のいい土地みつけるまでは、保留」
勝手に家買ったら、脱走するから。と言えば料理長は明らかに落ち込んだ。やはり。買ってしまえばこっちのものと思っていたようだ。油断も隙もない。
ともあれ、この日、我は驚きの再会を経たのだった。
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